山内昌之教官 「世界史論」シケプリ
*・シケプリ中の「p~」は、「歴史の作法」のページを表します ・太字は特に重要だと思われる部分です
1、「歴史の作法」概略
第四章
・吉田松陰の悲壮な決意
神の国と思われていた日本よりも、建国間もないアメリカが強いことに対する吉田松 陰の驚き(自国よりも強大な力との接触により、世界を認識)
・ケンペルが見た、おぞましいまでの黄金感
オランダは、日本と貿易をするために幕府に対し低姿勢(半服従的)で臨んだ(幕府 の西洋人軽視、世界に対する目を閉ざすことにつながった?)
・松浦静山が描く西洋の足音
西洋資本主義とその文化は確かにすばらしいが、矛盾を内包していることを認識して おかねばならない。また、東洋文明は必ずしも西洋文明に対し劣っているとは言えない
・マコーリ、阿片戦争を支持す
近代資本主義の二面性(西洋では個人の自由と進歩、アジア・アフリカでは革新・開 化を名分に不平等や圧迫を強制)
「西洋の衝撃」の二面性(自由・民主主義と、帝国・植民地主義)
・駐日公使となったアラビスト、ある自由主義者のイスラーム観
トクヴィル・・・イスラーム世界の後進性のみを主張(統治哲学の上から、イスラー ムやオリエント世界の植民地化に賛成した自由主義思想家)
ロッシュ・・・イスラーム世界の文化に深くふれることで、理解を深めようとした
(ナポレオン3世の植民地政策を成功させるため。後に駐日公使になったときも、日本 に対して同様に接した)
当時のヨーロッパや江戸の知識人の多くは、トクヴィルに近い考えを持っていた
・マグレブの歴史家と反フランス論
近代国家は独立達成や国民国家形成のために、歴史を利用した(自国の正当性をアピー ルするために、歴史を都合よく解釈?)
第五章
・『甲子夜話』、阿片戦争を伝える
中国から伝わったアヘン戦争の衝撃は、日本全体に危機感をもたらした(西洋諸国は、 アジア・アフリカに対し非道徳的行為を行った)
・海舟・松陰・晋作、危機に思う
鎖国体制から脱し実際に海外に行くことによって、「世界」という存在を強く実感(西洋 資本主義の二面性:高度な文明と、他国を属地化する凶暴性)
・日本とエジプトで読まれた西欧偉人伝
西欧による植民地化の危機への対処と近代化達成のため、アジア・アフリカ諸国では 他国(おもにヨーロッパ)の歴史書が参考にされた(「世界」という概念が定着しは じめた兆候、どの国どの時代でも人間の考え方の根本は変わらない)
・陸奥宗光の漢詩二篇
国内外の歴史書を読むことにより、国際政治のパワー・ポリティクスや国内政治の党派 闘争を考察し、外交リアリズムを身に付けた(リアリズム:現実政治に則した眼目をも つためには、歴史を回顧することが大切)
・徂徠学とイギリス功利主義
荻生徂徠とベンサムのイギリス功利主義に共通する実利性:人々の生活水準を安定させ れば、国に衰乱が訪れるのを防ぎ、治世を保てる(人情を理解し、法や政治権力によっ て自由を与えられる能力と魅力のある政治家が存在することが重要)
・「認識者」から「行為者」へ、陸奥における権力と理念
歴史的洞察力を持つ優れた政治家は、理念と権力の両方を考慮せねばならない(デモク ラシーを目指すという理念には意義と力があるが、権力を持っていなければ政治は行え ない)
・福沢諭吉の脱亜論再考
パワー・ポリティクスと勢力均衡の原理により、小国であっても特有の卓越したものを 持ち、道理を守って行動すれば独立繁栄を保てる(自国を過大評価して排他的になるの もまずいが、ただ西洋の真似をするだけでもいけない。大切なのは、自国特有の良い部 分を残しつつ、西洋の良い部分を取り入れるよう臨機応変に行動すること)
・『文明論之概略』の世界史
「半開の国」、「未開の国」はなぜ今の状態に至ったのかを歴史的に考察しなければなら ない。一方、「最上の文明国」の正義なき植民地化も批難されねばならない(資本主義の 二重性:進歩と、侵略)
・「支那帝国も正に欧人の田園たるに過ぎず」
日本は世界、そしてアジアの一部であるという認識を持たなければ、中国など他のアジ アの国と同様に西洋に侵略されてしまう。独立というのは、ただ土地を持つだけでなく、 国民が「権義と面目」をまっとうしなければならない(その国特有の技術や政治システ
ム、ナショナリズムを失ってはならない)
・久米邦武のスエズ運河観察
世界を実際に見ることで合理的・科学的な精神を持ち、自国を「世界の一部」として客観 的・多角的にみることができる(西欧資本主義の二重性:西欧の高度な事業・精神と、 労働力として使われる「未開」の国)
・「強国」「大国」対「弱国」「小国」
国際法体系における「国家平等」という理念の二面性(日本は強大な権力を持つ西欧列強 に対し、この理念を利用して独立を保った。一方、清や朝鮮に対しては、伝統的な秩序に対 抗する新たな概念としてこの理念を利用し、侵略を行った。だが、その後この理念は、朝鮮 の日本に対する自己防衛の概念として逆に利用された)
終章
・孔子とアリストテレスの歴史観、松陰いわく「史を観るの益あるに若ず」、知性の化学 が生んだ危険物
具体的な歴史上の出来事に則して考えることで、人間世界の構造と意味は理解しやすく なる。経学(哲学)にこだわり、抽象論に陥ってリアリズムを失ってはいけない。リアリ ズムと理想主義(哲学など)のバランスをとることが大切。
・トインビーが評価したエジプト人史家、王党史家から革命史家へ
ジャバルディ・・・イスラーム世界内の危機(巡礼が途絶え、イスラーム諸国の結束が 緩まる)が、西洋の侵略という世界的な動きにつながるとした(「イスラーム世界」とい う狭い世界での出来事を、世界的な視野でとらえた)
ジャバルディは歴史を学ぶことで、エジプトがイギリスの支配から脱却することを目指 したが、ムハンマド・アリーの改革を否定した
・道教研究者らのレジスタンスと死
ブローデル・・・歴史を短期的な「出来事」ではなく、長期的な「持続」として分析 国民の愛国心やナショナリズムは、国を維持発展させるために重要な要素
・歴史家の発憤・憂悶・鬱屈
権力やアカデミズムから一時的に離れ一般大衆の目線から社会を見ることで、社会の本 質をより深く理解することができる
2、歴史に対する大切な考え方・概念
・20世紀・・・憎悪の世紀(戦争と革命が頻発)、大きな経済成長(平均寿命の大幅 な
増加などが原因)
20世紀における戦争の原因・・・政治的対立や独立による民族間宥和の崩壊、経済 成長に伴う格差拡大による緊張の高まり、ヨーロッパの弱体化による国際関係の大き な変化、個人の社会に対する無責任化による公共善・共通善の喪失
・歴史学が学問として成り立つ大前提(p17) ・・・ある事件が起きた過去と、別 の事
象で特徴づけられる現在との間に、時間の流れだけではなく何らかの因果関係が成立
・『史記』から学ぶ四つの教訓(p68~70)・・・政治や経済の閉塞を打破するに は
権威や誘惑に負けず自己の信念に従って行動することが大切、対立の中から新たな統 合が成立する、現実主義の欠如と主観主義は安全保障に危機をもたらす(平和な現在 の日本の安全保障を問題視?)、官吏は消費者のことを考えて一般大衆と利益の奪い 合いをしてはならない(利益追求の官業民営化に警鐘)
・危機を打開する歴史書(p120~140)
『大鏡』(同じ人間が変わらぬ史観で歴史を眺めるという、初の歴史書と言える存在)
『愚管抄』(歴史上の全ての出来事や移り変わりには、社会や人間を支配している「道理」が 存在する)
『神皇正統記』(身分のある政治家が清廉潔白に奉仕を行えば、社会はある程度改革できる。 日本を「神国」とみなす:政治思想・宗教で日本より進んでいた中国・インドからの独立 の意識、元寇での勝利が一因か?)、
『読史世論』(政治勢力の交代に基づいて歴史を区分:政治家には、権力・人心・政局など の「機勢」の変転を理解することが必要)
『大勢三転考』(支配制度の変化に基づいて歴史を、世襲制「骨」・律令制「職」・武家支配
「名」の3つに区分。「骨」から「職」は上からの改革、「職」から「名」は下からの革命:政治 家は、変化の原因となる「時勢」の推移を洞察し、臨機応変に対処することが大切)
・自国と世界の考え方(p178~180)・・・自国の文明や文化を人間がつくった 歴史の一部として相対化し、世界と結び付けて考える(異国の偉大な文化や文明にふれ たとき、排除するのではなく、新しい文化を発展させるものとして積極的に摂取すること が大切)
・歴史における思考・・・人間は本来争いを避けるが、しばしば理性的判断ができずに争 いをおこす(指導者は平和を守るために、戦略的思考によって人々を理性的に導いてい くことが求められる:歴史の教養を身につけ、主観的な願望を排除して現実を直視する ことが必要)
・平和確立への考え方
ホッブズ(契約によって主権国家が成立し、自然状態では闘争状態にある万人が国家に 従うことで、平和が確立)
石原莞爾(日本を中心とする東洋とアメリカを中心とする西洋による決戦がおこり、世 界が壊滅的状態になることで、人々は戦争の愚を悟り、永久平和が確立)
トゥキディアス(当時における世界戦争といえるペロポネソス戦争を教訓とし、戦争が おこった背景などを研究すれば、いずれ戦争をなくし平和を確立できる:戦争が不可避 だと考えた時点で、実際に戦争がおこる)
・現代世界における平和の確立・・・柔軟な思考とリーダーシップを持った指導者が各
国に存在し、相互協力することが必要(世論の過度な高まりや過激化は、国に合理性を失 った政策をとらせ、国益を損なうことにつながりかねない)
・現代政治における戦略的思考・・・長期的ビジョンを国民に示し、政策を変更する場合 は妥当性のある理由をしっかりと国民に説明する
・戦略と政略・・・国家を動かすためには軍事的戦略だけではなく、大局観をもった政略 を身につけることが大切(国は指導者の美徳だけではうまく動かない。指導者は、冷徹な リアリズムを持つことも求められる)
3、19世紀の薩摩藩とエジプトの比較
正直大事なのかはわかりませんが、授業でそれなりに時間を割いていたので載せます
共通点
・政策(政治のリアリズムをふまえ、産業発展と軍事力強化による近代化を目指す)
・改革(薩摩の集成館事業と、エジプトのタンジマート:西洋の近代技術を取り入れ、開発 を行う)
・実力主義(出身・身分・地位にとらわれず、有能な者を起用)
・立場(幕藩体制における薩摩と、オスマン帝国におけるエジプトの性質や勢力は似てい る)
・民族問題(薩摩には琉球、エジプトにはレヴァント人といったように、異民族を内部に かかえていた)
相違点
・指導者の出自(薩摩の島津斉彬は鎌倉以来の名家出身だが、エジプトのムハンマド・ア リーはアラビア語が不得意なアルバニア人というマージナルな存在)
・文化(薩摩は日本の古典文化の教養と西洋文化の融合を図ったが、エジプトはフランス の文化を輸入するのみ:ムハンマド・アリーがトルコ語以外の外国語を知らなかったた め。これによりモダニズムとイスラーム復古主義が対立し、現代社会にも影響している)
・軍事(薩摩は均質性の高い武士集団だが、エジプトはフランス人軍事顧問と非アラブ人 の寄生者階級がアラブ人兵士を指導)
・結末(薩摩は討幕を成功させたが、独自の国家は作れずに天皇を元首とする明治政府が 成立した。エジプトはオスマン帝国から独立し、独自の国家を作った)
おわりに
・もし時間があれば、「歴史の作法」について授業でやっていない部分も読んでおくと、先生 の思考を理解するのに、もしかしたら役に立つかもしれません(一応全部読んでみまし たが、実際役立つかどうかは微妙・・・)
・先生はイスラーム史の権威らしいので、イスラーム史について一度復習しておくといい かもしれません(特に18世紀末~19世紀あたり)