恐竜の進化と復元
総合博物館・大学院理学院 准教授
小林
こ ば や し
快次
よ し つ ぐ
(理学部地球惑星科学科)
専門分野 : 古脊椎動物学
研究のキーワード : 自然選択,生物多様性,化石,恐竜,爬虫類
HP アドレス : http://www.museum.hokudai.ac.jp/outline/member.html
何を目指し、どのような研究をしているのですか?
私が行っている研究は、「古脊椎動物学」と呼ばれ、脊椎動物がこの地球上に誕生してか ら、時間の経過によってどのように進化してきたかということをテーマにしています。調 査や発掘によって、化石を中心にした情報を手に入れ、脊椎動物の進化と環境の相互作用 といったメカニズムを追求するものです。進化や絶滅といったプロセスやメカニズムの解 明、地球温暖化などの環境問題を考える上で、最も重要な研究分野の一つなのです。私は、 特に恐竜を中心に数多くの研究を行っています。ここでは、5つの研究内容を紹介します。
①生態復元からみた、恐竜類から鳥類への進 化:「鳥は恐竜である」ということが最近になっ てようやく世間になじんできました。現在、私 たちの研究では、鳥類が中生代の恐竜類からど のようにして“鳥類化”したかが、現在の議論 の的になっています。内温性は、どこまでさか のぼれるのか?脳の作りはいつから“鳥類タイ プ”になっていたのか?食性がどのように変化 し、原始的な鳥類は生態系においてどの位置に
立たされていたのか?鳥類の翼はどうやって進化してきたのか?など、化石から復元でき る生態から、恐竜の“鳥類化”のプロセスを探っています。
②アジア(モンゴルと中国)と北米(カナダ)における恐竜類の多様性:世界に恐竜王 国と呼ばれる国は6つあります(中国、モンゴ
ル、アメリカ、カナダ、アルゼンチン、イギリ ス)。中国とモンゴルは、これまでも多くの化石 を産出していますが、現在も未開拓の地が多く、 恐竜時代において恐竜の多様性がどの程度だっ たのかは不明な部分が多いのです。比較的研究 が進んでいて、同時代で同じ古緯度のカナダ・ アルバータ州の恐竜と比較することで、大陸間 で恐竜の多様性の相違を追求し、環境によって 恐竜たちがどのように適応しているかを研究し ています。
出身高校:福井県立高志高校 最終学歴:米国サザンメソジスト大学
地球科学科
生命進化
モンゴルのティラノサウルス類、タルボサウルス
モンゴルでの恐竜化石発掘
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③北極圏での恐竜の多様性と適応能力:恐竜は、全大陸を支配した大型陸棲動物です。 その分布域は、極圏にまで及びます。私は、アラスカ州
の恐竜研究を行い、当時の環境や生態系の復元、アジア
-北米間においての恐竜の移動の時期と種類を解明、恐 竜やその他の動物の内温性の有無といったことを追求し ています。現在のところ、私たちの研究では、恐竜たち は極圏で冬を越したと考えています。恐竜たちは、どの ような生理的な戦略をとって越冬ができたのか?これが 現在私たちの頭を悩ませている問題です。
④爬虫類における子育ての進化:爬虫類は一般的に卵 生ですが、何度も胎生を収斂進化させています。進化型 の主竜類(ワニ類、鳥類を含む恐竜類)は比較的複雑な 卵の構造を持っていて、胎生を行った形跡はないですが、 原始的なものには胎生のものもいました。また、鳥類に 近い恐竜類は、雄が子育てをすることが知られています が、その特徴が爬虫類の進化の中でどこまでさかのぼれ るのかは、未だ議論があります。原始的な主竜類を研究 対象とすることで、卵生・胎生や雌・雄の子育ての進化 が、いつどのように起こったのかを追求しています。
次に何を目指しますか?
脊椎動物とは、私たち人間と陸上という環境を共有している仲間です。化石から窺える 脊椎動物の過去の記録は、環境の変化によって動物たちがどのように適応し、また絶滅し ていったのかを語ってくれます。恐竜という地球上を約1億7千万年間も支配した動物が、 どのようにして大繁栄を起こし、そして地球からこつ然と姿を消したのか、またどうして 恐竜は鳥に進化しなければいけなかったのか。私は、先に紹介した研究を継続することに よって、これらのようなダイナミックな疑問に答えられるように研究を続けていきたいと 思います。そのためには、まだ未開拓の地に足を踏み入れ、地中に隠されたヒントを探し 続けたいと思っています。
参考書
(1) 小林快次,『恐竜時代Ⅰ-起源から巨大化へ』,岩波ジュニア新書(2011)
(2) 小林快次・江口太郎,『巨大絶滅動物マチカネワニ化石-恐竜時代を生き延びた日本の ワニたち』,大阪大学総合学術博物館叢書5(2010)
(3)NHK恐竜プロジェクト(著)・小林快次(監修),『恐竜絶滅-ほ乳類の戦い』,ダイヤ モンド社(2010)
(4) NHK恐竜プロジェクト(著)・小林快次(監修),『恐竜vsほ乳類-1億5千万年の戦 い』,ダイヤモンド社(2006)
アラスカで発見した恐竜の足跡化石
絶滅爬虫類の親子の化石
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