簡略化されたエル・ニーニョ模
型の示す非正規性
長崎大学水産学部
万田敦昌
内容
1. 背景
2. 目的
3. 手法
• 数値模型
• 実験内容
4. 結果
5. 議論
6. まとめ
7. 今後の展開
1. 背景
予報の不確定性
• 大気・海洋における諸現象の予報には
不確定性が伴う
– 初期値の不正確さ
– 模型の不完全さ
– 外部パラメータ(外力)の不確定性
Palmer and Hagedorn, 2006
数値予報の確率過程的な解釈
1
1
k kk
f x F
x
x
k1 k
F
f
: 時間発展演算子: 状態ベクトル
: 外部パラメータ f, x0: 不正確
Fk-1: ノイズを含 む
e.g., Cohn (1997) 数値模型による予報
→ 確率過程と解釈できる
Evensen (JGR, 1994) pk
xk
pk+1 xk+1
確率密度関数
予報の確からしさ(もしくは不確定性)
は、確率密度関数によって与えられる
→ 確率密度関数がどのように変化するか
調べることは、予報を行う上で重要
統計量の扱い
数値予報では、
– アンサンブル平均
– 分散
のみを評価する場合が多い
→ 高次のモーメントの変動特性が良く分
かっていない系が多い
高次モーメントの影響
二峰性の分布 裾野が長く、歪のある分布
平均 0, 分散 1, 高次モーメント≠ 0 の確率密度関数
Neuringer, 2002 Azzalini, 1985
破線:正規分布
非線形性の影響
非線形の系では時間の経過とともに、確
率密度関数の形状は大きく変形していく
(e.g., Palmer and Hagedorn, 2006)
→初期値の確率密度関数が正規分布で表
せたとしても、時間の経過とともに確率
密度関数は変形し、正規分布から外れた
分布となる可能性がある。
2. 目的
非線形のエルニーニョ模型を、大気・海
洋における非線形系の 1 つの例としてと
りあげ、確率密度関数の時間発展につい
て調べる。
エル・ニーニョ
NOAA/PMEL/TAO
• 太平洋赤道域の中央部から南米のペルー沿岸にかけて 海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が1年程 度続く現象
• イベント間隔と振幅が不規則に変化する
3. 手法
• 数値模型
• 実験内容
数値模型
( 広義の ) 遅延振動子 (Galanti and Tziperman, JAS, 2000)
代表的なエル・ニーニョ模型である Zebiak and Cane
(MWR, 1987) の模型を簡略化した模型
独立変数 (1 個 )
• 時間 (t)
従属変数( 2 個)
東部熱帯太平洋における
• 海面水温偏差 (T)
• 水温躍層深度偏差 (h)
海洋力学
1. 強制ケルビン波 2. 強制ロスビー波 + 反射ケルビン
波
3. 自由ロスビー波 + 反射ケルビ
ン波
) (
) (
K R t h E r W r e
K R m
2 /
0
) 2 / ( ) 2 / ( *
1
R m e t T b t dt A r K m e
R K K R R W
2 /
0
0
) 2 / ( ) 2 / (
1
K m e t T b t dt
K K K C
)
(t
h
水温躍層深度偏差 (h) は大規模海洋波動によって変動する
1
2 3
大規模海洋波動
見延 ケルビン波
ロスビー波
赤道域の大規模海洋波動の水平構造
西向きに伝播 東向きに伝播
海洋混合層における熱収支
( )
1
h
T
H T
T w
T
T subt
鉛直拡散 エントレインメント 海面
混合層下部
海面水温偏差 (T) は海洋混合層における熱収支によって決定 される
水温の鉛直分布の 非線形性を反映
水温躍層深度偏差 h と 混合層下部水温 Tsub の関係
海洋混合層
• 海面~水深数十 m の水温がほぼ一定の
層
→大気・海洋の熱交換に重要
赤道上の水温の鉛直断面図
水深
経度
大気海洋相互作用
)
,
( x T
ex
A
T
b
L
T
A ( , / 2 )
0)
cos(
1
w
at
海洋波動を駆動する大気
循環は、海面水温偏差に
依存する
大気海洋相互作用の強さは季節
変動する ( 熱帯収束帯の変動を考
慮 )
Geerts and Linacre
赤道域の大気循環の模式図
実験内容
• アンサンブル実験 ( モンテカルロ法 )
→ 確率密度関数を近似的に評価
– 標本数 =2000
– 初期擾乱 ( ノイズ ): 正規分布
• SD(T)= 1.8×10-3 oC
• SD(h)= 1.3×10-2 m
• 時間積分
– スピンアップ: 1000 年間 – アンサンブル実験 :150 年間
Evensen (JGR, 1994)
4. 結果
各標本の時間発展
(海面水温偏差)
10 個だけ表示
T の周辺確率密度関数の時間変動
海面水温偏差(規格化) 時間
(年
)
相対度数(%)
ほとんどの期間で
H0: pk は正規分布 は棄却
(Anderson-Darling Test; =0.01)
各モーメントの時系列
(海面水温偏差)
平均 標準偏差
超過尖度 歪度
リアプノフ指数 =0.22yr-1
歪度・超過尖度の大きな変動
歪度・超過尖度の変動
超アンサンブル (Haven 2005) を用いた検討 標本数 2000×16 個
推定誤差の可能性小
結合確率密度関数の時間発展
10 年 20 年 30 年
40 年 50 年
5. 議論
以下の要因について議論する
・正規分布から大きく外れた分布
・確率密度関数の不規則な変動
周波数特性
アンサンブル平均 変動係数
標本毎に周波数特性は変化していない
イベント間隔の遷移( 1/2 )
イベント間隔の定義 ローレンツ写像
1 標本を 10,000 年時間積分
イベント間隔の遷移 (2/2)
• p(i) が同じであっても p(i+1) は大きく変化しうる
• p(i+1) は正規分布から大きくはずれた分布となる ケースがある
イベント間隔の変化の影響
仮に波形が同一の関数形だったとしても
、イベント間隔が不規則に変化すること
によって、
• 各時刻の海面水温偏差の値は標本毎に
不規則に変化する
• 確率密度関数は非正規性を示す
準周期運動を経たカオス化
(e.g., Tziperman et al., Science, 1994)
非線形性強
モード・ロック解 カオス 準周期解
時系列
ポアンカレ写像
スペクトル
Unstable Periodic Orbit
遅延座標系 :
X(t)={T(t-2), T(t-), T()} UPO の定義 :
|X(t)- X(t-p)| <
Eccles and Tziperman (JAS, 2004)
異なる軌道間の不規則なジャン プ→ イベント間隔の不規則な変 動
6. まとめ
• 遅延振動子模型の確率密度関数は、アンサンブ
ル実験のほとんどの期間で正規分布とはならな
い
• 確率密度関数は非常に不規則に変化する
• 確率密度関数の不規則な変化は、エル・ニー
ニョのイベント間隔の不規則な変化に起因する
7. 今後の展開
• 相対エントロピーを使った解析
(e.g., Haven et al. 2005)
– 正規分布で確率密度関数を近似することに
よって欠落する情報量の定量化
– 二峰性の検出
• より現実的な模型の解析
(e.g., Zebiak and Cane, 1987)
概念的エルニーニョ模型の示
すカオス的性質
1 自由度模型( Tziperman et al., 1994)
時系列
ポアンカレ写像 スペクトル
非線形性強
8. その他の話題
今後取り組んでみたい課題
→ 他の物理系の解析
• 海洋前線周辺の渦運動 ( 準地衡模型 )
• 数十年スケールの気候変動(箱模型)
水温の頻度分布
北緯 40 度、東経 143 度における頻度 分布
Oguma et al.2003
長期間(約 90 年 ) のデータセットより作成
1 度格子における領域平均値
歪度・超過尖度の水平分 布
海洋前線周辺の水温・塩分の分布特
性
• 長期間のデータセットから、水温・塩分の頻度分布を求めると、黒潮続流 や湾流において、分布は正規分布から大きく外れる (Oguma et al., 2003)
→ 活発な渦運動のため ?