「子どものうつ」って何だろう?
大学院保健科学研究院・大学院保健科学院 教授
傳
で ん
田
だ
健三
け ん ぞ う
(医学部保健学科)
専門分野 : 児童・青年精神医学
研究のキーワード : 児童・青年期,うつ病,神経科学,発達障害,精神科リハビリテーション HP アドレス : http://www.hs.hokudai.ac.jp/denda/
現在の研究を始めたきっかけは何ですか?
20年ほど前までは、うつ病は大人の病気であり、子どもはうつ病にはならないと考えら れてきました。ところが近年、児童・青年期の気分障害(うつ病、躁うつ病)が一般に考 えられているよりもずっと多く存在するということが明らかになってきました。しかも、 従来考えられてきたほど楽観はできず、適切な治療が行われなければ、青年あるいは成人 になって再発したり、他の様々な障害を合併したり、対人関係や社会生活における障害が 持ち越されてしまう場合も多いのです。今や、子どものうつ病を正確に診断し、適切な治 療と予防を行うことが急務となっているのです。
「子どものうつ」はどんな症状があらわれるのですか?
眠れない、食欲がない、疲れやすいといった「からだの不調」や、ゆううつな気分、イ ライラするなどの「気分の不調」は、誰でも日常生活でよく経験することです。多くの場 合は、しばらくすると、このような不調
は自然に改善していきます。
ところが、からだの不調や気分の不調 のいくつかの症状が同時に強くあらわれ たり、長く続いたり、繰り返し起こった りする場合は、単なる不調ではなく、そ の背景にうつ病がかくれているかもしれ ません。
「子どものうつ病」とは、図1に示し た①抑うつ気分またはイライラ感、②興 味・喜びの減退、③食欲の障害、④睡眠 障害、⑤精神運動性の焦燥または制止、
⑥易疲労感、気力減退、⑦無価値感、過 剰な罪責感、⑧思考力・集中力減退、決 断困難、⑨自殺念慮、自殺企図の9つの 症状のうち5つ以上が、2週間以上持続 し、それらの症状のうち少なくともひと つは①または②である状態をいいます。
出身高校:静岡県立沼津東高校 最終学歴:北海道大学医学部
こころ
図 1 子どものうつ病の症状
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どんな研究をしていますか?
1.「子どものうつ病」をきちんと診 断するために、CDRS-Rという小児う つ病評価尺度日本語版を作成しました。2.「子どものうつ病」が一般にどの くらい存在するかを知るために、児 童・青年期の気分障害の疫学調査を 行っています。私たちは、わが国で初 め て 一 般 の 小 ・ 中 学 生 に 対 し 、 MINI-KID という構造化面接法を用 いて気分障害の疫学調査を行いました。 その結果を図2に示します。
3.「子どものうつ病」の治療法とし て、精神療法、薬物療法、および精神 科リハビリテーションの研究および 開発を行っています。
次に何を目指しますか?
1.児童・青年期の気分障害は、 広汎性発達障害(自閉症、アスペル ガー障害)や注意欠如・多動性障害(ADHD)と合併することが少なく ないことが明らかになってきました。 それらの相互の関係がどのように なっているのかを臨床的に解明して いきたいと考えています。
2.気分障害と他の精神疾患の関 連を探求するために、認知機能検査
などの神経科学的研究やMRIおよびfMRIなどの脳画像研究を行っていきたいと思いま す。その結果、気分障害と他の精神疾患との内的関連性が解明されることにより、治療方 針を立てる上でも、治療転帰を考える上でも大きな貢献がもたらされると考えられます。 3.「子どものうつ病」に有効な認知行動療法および認知リハビリテーションを開発した いと考えています。
参考書
(1) 傳田健三,『若者の「うつ」-新型うつ病とは何か-』,筑摩新書(2009) (2) 傳田健三,『大人も知らない「プチうつ気分」とのつきあい方』,講談社(2006) (3) 傳田健三,『子どものうつ 心の叫び』, 講談社(2004)
図1 子どものうつ病の症状
図2 児童・青年期の気分障害の有病率
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