政治の存在理由を再確認する

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政治の存在理由を再確認する

大学院公共政策学連携研究部

大学院公共政策学教育部(公共政策大学院) 准教授 (法学部法学課程)

専門分野 : ヨーロッパ政治外交論,ヨーロッパ政治史 研究のキーワード : 政治,政党,選挙,民主主義,歴史 HP アドレス : http://www.juris.hokudai.ac.jp/~yoshidat/

政治、そして政治を分析する政治学とは何なのですか

一見政治は縁遠いようにみえますが、実際は身近な存在です。政治の定義は政治学者に

よっても違いますが、中でも「権力」をめぐる現象や関係のことであるというのは、多く の学者が同意する所です。権力とは、ある存在が他の存在に何らかの形で影響を及ぼすこ とを指します。そして人間がこの世を善くしようとする存在である限り、権力はなくなり

ません。例えば、民主主義において選挙は大事なプロセスですが、その際、有権者は政治

家に権力を及ぼし、当選した政治家は政党や官僚に権力を及ぼそうとするでしょう。これ

は政治の一般的なイメージですが、国家間の権力関係や家庭の中の男女間の権力関係も、 政治と捉えることができます。つまり、政治とは私たちの身の回りの至る所に見出すこと のできる、普遍的なものなのです。ややこしいことに、権力は物理的暴力のように、必ず 目に見えるとは限りません。格差や差別は社会から個人に振るわれる暴力といえますが、 その権力がどのようなもので、なぜ生じるのかを知るには、複雑な分析が必要になってき ます。こうみると、新聞やテレビで目にする「政治」は一部に過ぎないことが解ります。

政治学の分野には、こうした権力の在り処を突き止めようとする国際政治や政治社会学、

政治思想、比較政治など、沢山のものがあります。隣接分野の社会学や経済学、哲学など

との連携も不可欠です。また、こうした対象をどのようにして分析するのかといった歴史

研究やモデル研究など、その方法にも多様なものがあり、分析のためのまばゆいばかりの 理論が揃っています。ただ、政治学には、実験できないし、実験してはならない学問であ るという特徴があります。それは、政治が人々の生命や生活に直結するものである以上、 真実の追求という目的のために人々を利用してはならないからです。そう考えても、政治 学は人々の生活とともに存在する学問である、と言えるでしょう。

政治を学ぶことは何の役に立ちますか

私自身は、ヨーロッパの政治、中でもフランスを中心とした歴史や現代政治が専門です。

政治学が実験できない学問である以上、歴史や他国の経験から学ぶことは不可欠です。例

えば、日本は1990年代半ばから選挙制度を変えて、二大政党制を目指してきました。しか

し、二大政党制の本場とされるイギリス政治をみれば、二大政党制は選挙制度だけで機能 しているわけでもないし、そもそも世界をみれば二大政党制の国は少数派であることがわ かります。また、ポピュリズムが問題とされていますが、多くの先進国でポピュリズムが 生まれており、これを単なる大衆迎合主義と片づけるのではなく、そうした政治がなぜ多

出身高校:東京都立国際高校

最終学歴:東京大学大学院総合文化研究科 社会

吉田

よしだ

とおる

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くなっているのかを知ることも大事になってきます。

政治(ポリティックス)の語源は古代ギリシャ語の「ポリス」、当時の共同体のことを指

す言葉にあります。つまり、自分たちの住む国や生きる社会で何が、なぜ、どうして問題 とされ、この問題をどのように克服していったら良いのかという問いがあって、政治学は 初めて成り立つことになります。逆に言うと、そうした社会への感受性を持ち、人々の生 活を理解しようとすること、もっと言えば他者への想像力があるのであれば、政治学は自 分が生きていく上で欠かすことのできないツール=分析道具となるはずです。

今の政治の問題は何ですか

政治は今も昔も沢山の問題を抱えていますが、現代の政治でいえば、民主主義をめぐる

問題が真っ先に指摘できます。実際、日本だけではなく、多くの先進国では特に1990年代

以降になって、政治家や政党、議会などに対する不信や不満が蓄積するようになっていま

す。冷戦が終わって世界中に民主主義が生まれ、「アラブの春」といった民主化がみられる

ようになったと同時に、民主主義諸国で政治不信が蔓延しているのは皮肉なことです。例 えば、アメリカは民主主義の理想形のようにみられることもありますが、表の世論調査に みるように、政府が上手く機能していないとする意見が多くなっています。

アメリカ政府が優先していると思う利益は?(%)

19641974198419942004

少数の過大な利益 29 66 55 76 56

全員の利益 64 24 39 19 40

出典: Colin Hay, Why We Hate Politics (2007)p.38より。

政治不信の理由には様々なものが影響しているといわれています。1960年代以降に政治

に対する意識が人々の間で変わり、その後1970年代に入って経済は低成長時代に入り、

人々が政治に求めるものが容易に提供されないようになったのもその原因のひとつです。 また、グローバル化の時代にあって、国家と国際経済との間にある齟齬も大きな理由のひ とつになっています。しかし、政治不信が高まれば、社会にとって必要な様々な政策が打 ち出しにくくなり、政策の実効性が低まってしまうという意味でも大きな問題です。

政治とは、ある選択をすることで人々に影響を与える=権力を振るうことです。そして 民主主義とは、共同体の構成員を拘束する意思決定のプロセスのことです。つまり、民主 主義が上手く機能していないのであれば、それは私たちのことを私たち自身で決める能力 =権力が弱まっていることを意味します。このことは、私たちが運命や宿命のなすがまま になり、私たちが本来持っているはずの可能性を自ら捨ててしまうことになります。私た ちが他者と協働して、自分たちの運命を自分たちで切り拓くことのできる政治を作り上げ ていくことが、喫緊の課題であることは間違いありません。

参考書

(1) 辻康夫・松浦正孝・宮本太郎編,『政治学のエッセンシャルズ―視点と争点』,北海道

大学出版会(2008)

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参照

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