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第3 回 解糖系
日紫喜 光良
基礎生化学講義 2010.4.20
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目標
• 代謝パスウェ イ の理解
の第一歩と し て、 解糖
系を理解する
– 解糖系ではたら く 酵素を
理解する。
– 解糖系の中間代謝物を
理解する
– 解糖系の調節を理解す
る
3
代謝パスウェ イ をたと えると ( 1 )
butt://www.saitama-
shintoshin.org/access.htm
さいたま新都心インフォメーション
大阪(伊丹)空港へのアクセス http://www.osaka-
airport.co.jp/access/for_mono.html
4
代謝パスウェ イ : 酵素と 中間代謝物
投入化合物
生産物
中間代謝物
中間代謝物
酵素
酵素
酵素
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代謝パスウェ イ をたと えると ( 2 )
http://www.jpca.or.jp/junior/index.htm 石油化学工業協会
http://f.hatena.ne.jp/wami/20051112195347 Hatenafotofile 萌える工場達
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解糖系のはたら き
炭素数6 ( グルコ ースなど)
炭素数3 の中間代謝物
× 2分子(以下略)
炭素数2 の中間代謝物
CO
2炭素数4 の
中間代謝物
炭素数6 の
中間代謝物
炭素数5 の
中間代謝物 CO
2CO
2イラストレーテッド生化学 図8.2
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解糖系でのエネルギー発生
2 分子のA T P を使う ( エネル
ギー投資段階)
4 分子のA T P 、 2 分子の
N A D H を生成する( エネ
ルギー生成段階)
2 分子のピルビン酸
グルコ ース
グルコ ース→2 ピルビン酸
2 A D P → 2 A T P
2 N A D + → 2 N A D H
収支 イラストレーテッド生化学 図8.11
8
A T P ( アデノ シン三リ ン酸)
イラストレーテッド生化学 図6.5
高エネルギーリ ン酸
結合を有する物質の
ひと つ
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N A D +
( ニコ チンアミ ド アデニンジヌ ク レオチド )
N A D
+と N A D P
+(イラストレーテッド生化学 図28.13)
電子の運び屋のひと つ
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N A D + の還元
イラストレーテッド生化学 図28.14
ヒ ド リ ド イ オン
( 水素原子+電子)
N A D
+N A D H
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生体でのエネルギー発生
イラストレーテッド生化学 図6.6
炭水化物、 脂肪酸、 アミ ノ 酸
酸化
C O
2
、 H
2O
還元
電子運搬物質
還元さ れた電子
運搬物質 +H
+酸素
H
2O
還元さ れた電子
運搬物質
電子運搬物質
酸化
電子の
授受
ADP+Pi
ATP
H
+の
流れ
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ミ ト コ ンド リ アのはたら き
H
+H
+の濃度勾配がA T P 生成の駆動力
H
+の濃度勾配
燃料電池
ポンプを回し てH
+をく み出し ている
水車を回し て
A T P を作っ て
いる
( 比喩)
A T P を使っ て
化学反応をお
こ なっ ている。
汲み出す
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解糖系: 中間代謝物
グルコース6−リン酸
グルコース フルクトース6−リン酸
フルクトース1,6−ビスリン酸 グリセルアルデヒド
3−リン酸
デヒドロキシアセトン リン酸
1,3−ビスフォスフォグリセリン酸 3−フォスフォグリセリン酸
2−フォスフォグリセリン酸 フォスフォエノールピルビン酸
乳酸
ピルビン酸
炭素数:6
炭素数:3 イラストレーテッド生化学 図8.1
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解糖系: 酵素から みて( 1 )
グルコ ースト ラ ン
スポータ ー
細胞外グルコース
細胞内グルコース
グルコ キナーゼ
・ ヘキソ キナーゼ
フ ォ スフ ォ グルコ ース
イ ソ メ ラ ーゼ
グルコース6−リン酸
フ ォ スフ ォ フ ルク
ト キナーゼ−1
フルクトース6−リン酸
フルクトース1,6−ビスリン酸
アルド ラ ーゼ
グリセルアルデヒド 3−リン酸
ジヒドロキシア セトンリン酸 フルクトース1,6−ビスリン酸
グリ セルアルデヒ ド
3 −リ ン酸デヒ ド ロゲ
ナーゼ
1,3ビスホスホ グリセリン酸
ホスホグリ セリ ン酸
キナーゼ
3-ホスホグリセリン酸
2-ホスホグリセリン酸
ホスホグリ セリ ン
酸ムタ ーゼ
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解糖系: 酵素から みて( 2 )
2-ホスホグリセリン酸
ホスホエノールピルビン酸
エノ ラ ーゼ
ピルビン酸
グルコ キナーゼ
・ ヘキソ キナーゼ
反応が「 一方通行」 の酵素は?
フ ォ スフ ォ フ ルク
ト キナーゼ−1
ピルビン酸
キナーゼ
ピルビン酸
キナーゼ
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チェ ッ ク 項目
• 細胞に、 グルコ ースはどのよう にし て取り 込ま
れるか?
– 肝臓と 他の細胞と の違い
• どの中間代謝物までが炭素数6 で、 どこ から
どこ までが炭素数3 か?
• どの中間代謝物どう し の間で、 エネルギーの
出し 入れが起こ るか?
• 解糖系はどのよう にし てコ ント ロールさ れる
か?
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細胞へのグルコ ースの取り 込み
グルコ ースト ラ ンスポータ ー
GLUT-1: 赤血球と脳
GLUT-2: 肝臓、腎臓、膵臓 GLUT-3: 神経細胞
GLUT-4: 筋肉
GLUT-5: グルコースでな くフルクトースを輸送
イラストレーテッド生化学図8.10
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グルコ ースのリ ン酸化
ヘキソ キナーゼ (HK) または
グルコ キナーゼ (GK)
ATP を消費
グルコ ース
グルコ ース6 リ ン酸
リン酸化によって、(1)グルコース が反応しやすい(高エネルギー)に なる。また、(2)細胞膜を通過でき なくなり、取り込んだグルコースをと どめておける
イラストレーテッド生化学図8.12
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アルド ースから ケト ースへ
フ ルク ト ース6 - リ ン酸( ケト ース)
グルコ ース6 - リ ン酸( アルド ース)
フ ォ スフ ォ グルコ ースイ ソ メ ラ ーゼ
イラストレーテッド生化学図8.15
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フ ルク ト ース6 - リ ン酸から 2 分子のト リ オース
( 炭素3 つの糖) リ ン酸への分裂
フルクトース6リン酸
フルクトース1,6ビスリン酸
グリセルアルデヒド3リン酸
ジヒドロキシアセトンリン酸 フォスフォフルクト
キナーゼー1
抑制:ATP, クエン酸 亢進:AMP
亢進:フルクトース2,6ビス リン酸
ATP
ADP
ATPを消費
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ピルビン酸の生成( 1 )
グルセルアルデヒド3リン酸
グルセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ
1,3ビスホスホグリセリン酸
2,3ビスホスホ グリセリン酸
3-ホスホグリセリン酸 NADH + H+
ATP NAD Pi
ADP
ホスホグリセリン酸 キナーゼ
(イラストレーテッド生化学 図8.18)
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ピルビン酸の生成( 2 )
3-ホスホグリセリン酸
2-ホスホグリセリン酸
ホスホエノールピルビン酸
ピルビン酸
ピルビン酸 キナーゼ
促進 フルクトース1,6ビス リン酸
H2O
ATP ADP
(イラストレーテッド生化学 図8.18)
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ピルビン酸の処理
ピルビン酸
アセチルCoA オキサロ酢酸
CO2
乳酸 アセトアルデヒド
エタノール
TCAサイクルまたは脂肪酸合成 TCAサイクルまたは糖新生
(酵母、一部の細 菌など)
CO2
NAD+
NADH + H+
イラストレーテッド生化学 図8.24も参照
無気的解糖
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無気的解糖の終点: 乳酸の生成
ピルビン酸
乳酸
乳酸デヒドロゲナーゼ
血管に乏しい、あるいはミトコン ドリアを欠く組織では、ピルビン 酸の多くは最終的に乳酸になる。 たとえば、眼のレンズと角膜、腎 臓の髄質、精巣、白血球、赤血 球など。
運動時の筋肉では、解糖によ るNADHの産生が酸化的リン 酸化による処理よりも早いので、 反応の平衡が乳酸生成のほう に偏る。→細胞内環境が酸性 化→けいれん
上の反応の平衡は、NADH/NAD+比で決まる
肝臓と心臓ではNADH/NAD+比は運動時の筋肉よりも低い イラストレーテッド生化学 図8.21
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質問
• 静止状態と 比較すると 、 激し く 収縮し ている筋
肉では何が起こ っ ているか
– A. ピルビン酸から 乳酸への変換が増加し ている
– B. ピルビン酸の CO2 と 水への酸化は減少し て
いる
– C. NADH/NAD+ 比は減少し ている
– D. AMP 濃度は減少し ている
– E. フ ルク ト ース2 , 6 −ビスリ ン酸濃度は減少し
ている
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乳酸アシド ーシス
• 血漿中の乳酸濃度が上昇し た状態
– 心筋梗塞、 肺塞栓、 大量の出血、 ショ ッ ク 状態な
どで循環系が虚脱し た場合におこ る。
• 酸素不足→酸化的リ ン酸化障害→ ATP 合成
の減少→嫌気的解糖の利用→乳酸の生成
• 酸素負債: 酸素の利用可能性が不十分な
時期から 回復するために必要な余分の酸素
– 血中乳酸濃度でモニタ ーする。
– ショ ッ ク の有無・ 重症度
– 患者の回復度
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無気的解糖のまと め (1)
ATPを消費 グルコース
グルコース6リン酸 フルクトース6リン酸
フルクトース1,6ビスリン酸
ATPを消費
グリセルアルデヒド3リン酸
2分子の1,3ビスホスホグリセリン酸
2分子のNADHを生成
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無気的解糖のまと め (2)
2分子のATPを生成 2分子の1,3-ビスホスホグリセリン酸
2分子の3-ホスホグリセリン酸 2分子の2-ホスホグリセリン酸
2分子のホスホエノールピルビン酸
2分子のATPを生成 2分子の乳酸 2分子のピルビン酸
2分子のNADHを消費
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解糖系の調節機構
• グルコ キナーゼ( 肝臓)
• フ ォ スフ ォ フ ルク ト キナーゼ1
• ピルビン酸キナーゼ
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ヘキソ キナーゼと グルコ キナーゼ:
活性の濃度依存性
ヘキソキナーゼ(HK) グルコキナーゼ(GK)
血糖濃度(mmol/L) 空腹時の血糖値
ヘキソキナーゼのVmax グルコキナーゼのVmax
肝臓
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肝臓でのグルコ キナーゼ (GK) の活性調節
GLUT-2: グルコ ー
スト ラ ンスポータ ー
細胞質
細胞膜
核
グルコース
グルコース 6リン酸
フルクトース 6リン酸
ピルビン酸
グルコキナーゼ調節 タンパク(GKRP)
F6P は GK の核への
移転( 非活性化) を
促進する
グルコ ースは核の
GKRP が GK を細胞
質に放出する( 活性
化) のを促進する
図8.14
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ホスホフ ルク ト キナーゼ−1 (PFK-1)
• 不可逆的リ ン酸化反応
• 解糖系でも っ と も 重要な調節ポイ ント であり 、
一方向性の律速段階である。
• 基質( ATP, フ ルク ト ース6 −リ ン酸) の濃度に
よる調節
• 調節物質による調節
– 細胞内エネルギーレベル( ATP,AMP, ク エン酸 )
– フ ルク ト ース2 , 6 −ビスリ ン酸
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エネルギーレベルによる調節
• 高エネルギー時: ATP 、 ク エン酸が高濃度
• 低エネルギー時: AMP が高濃度
• ホスホフ ルク ト キナーゼ−1 は ATP と ク エン酸
によっ てアロステリ ッ ク に阻害さ れ、
• AMP によっ てアロステリ ッ ク に活性化さ れる
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フ ルク ト ース2 , 6 ービスリ ン酸
• フ ルク ト ース6 −リ ン酸から できる( ホスホフ ル
ク ト キナーゼ−2 ( PFK-2 ) によっ て) 。
– フ ルク ト ースビスフ ォ スフ ァ タ ーゼ−2 ( FBP-2 ) に
よっ て分解さ れる。
• PFK-1 を活性化する。
– フ ルク ト ース1 , 6 −ビスホスフ ァ タ ーゼ( FBP-1 )
を阻害する。
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イ ンスリ ンによる調節
アデニリル シクラーゼ
グルカゴン インスリン
プロテインキナーゼA
イラストレーテッド生化学 図8.17
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血中のイ ンスリ ン濃度が高まると
肝細胞内フ ルク ト ース 2,6 ビスリ ン酸濃度が高まる
• 1. 細胞内 cAMP 濃度の低下→活性化さ れた
プロテイ ンキナーゼ A の濃度の低下
• 2. PFK-2/FBP-2 複合体のリ ン酸化反応は脱
リ ン酸化さ れるほう に平衡が移動する
• 3. 脱リ ン酸化さ れた PFK-2 は活性化さ れるが、
FBP-2 は不活性化さ れる。 それで、 フ ルク ト ー
ス 2,6 ビスリ ン酸が生成さ れる
• 4 . フ ルク ト ース 2,6 ビスリ ン酸は PFK-1 を活性
化するので、 解糖が促進さ れる。
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質問( 1 )
• ホスホフ ルク ト キナーゼ−1 によっ て触媒さ れ
る反応に関する以下の記述のう ち正し いも の
はどれか
– A. 高濃度の ATP と ク エン酸によっ て活性化さ れ
る
– B. フ ルク ト ース1 −リ ン酸を基質と する
– C. 解糖系の律速反応である。
– D. ほと んどの組織において平衡に近い
– E. フ ルク ト ース2 , 6 ービスリ ン酸によっ て阻害さ
れる
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質問( 2 )
• 解糖系における以下の記述のう ち正し いも のはど
れか
– A. グルコ ースの乳酸への変換には酵素が必要である
– B. ヘキソ キナーゼは肝臓におけるグルコ ース代謝にお
いて、 糖質を含む食餌をと っ たあと の吸収期において重
要な役割をはたす
– C. フ ルク ト ース2 , 6 −ビスリ ン酸はホスホフ ルク ト キ
ナーゼ−1 の強力な阻害因子である。
– D. 調節を受けている反応は不可逆反応である。
– E. グルコ ースから 乳酸への変換により 2 分子の ATP と 2
分子の NADH が産生さ れる。
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ピルビン酸キナーゼの調節( 1 )
ホスホエノールピルビン酸
ピルビン酸
ピルビン酸 キナーゼ
促進 フルクトース1,6ビス リン酸
ATP ADP
フルクトース6リン酸
“Feed forward” 調節
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ピルビン酸キナーゼの調節( 2 )
グルカゴン
アデニリルシクラーゼ
ATP cAMP + PPi
プロテインキナーゼ Aを活性化
ピルビン酸
キナーゼ
( 活性型)
ピルビン酸
キナーゼ
( 非活性
型)
ホスホエノール ピルビン酸
ピルビン酸
リン酸化
リ ン酸化
血糖値低→グルカ ゴンが分泌さ れる
「糖新生」
産生低下 こちらに まわさ れる 血液中にグルコース を放出する
結果的に 肝細胞
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イ ンスリ ンと グルカ ゴンが
解糖系の酵素の量をどのよう に変えるか
グルコキナーゼ
インスリンで増大 グルカゴンで減少
ホスホフルクトキナーゼ
インスリンで増大 グルカゴンで減少
ピルビン酸キナーゼ
インスリンで増大 グルカゴンで減少 イラストレーテッド生化学 図8.23
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ピルビン酸キナーゼの欠損症
• 赤血球においてピルビン酸産生低下
– 赤血球において、 ATP 産生低下、 乳酸産生低下
• 赤血球が壊れやすく なる: 溶血
– 赤血球はミ ト コ ンド リ アがないので、 解糖だけがエ
ネルギー( ATP) 源
– ATP 不足→形の維持に必要な膜のポンプが機能
し ない→赤血球の形が変化→マク ロフ ァ ージに
貪食さ れる。
• 溶血性貧血: 赤血球の未熟な段階での細
胞死と 溶解により おこ る
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