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修士論文(最終ver.)(石井) Komei Ishii toyolab

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Academic year: 2018

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(1)

着陸待ち行列

早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 数学応用数理専攻

石井 宏明

(2)

目次

第1 序章 3

1.1 研究概要 . . . 3 1.2 はじめに . . . 3

第2 着陸待ち行列 6

2.1 着陸待ち行列の定義 . . . 6 2.2 着陸順序の変更 . . . 8

第3 現行モデルとAQ及びPQの比較 11

3.1 待ち時間 . . . 11 3.2 燃費 . . . 12

第4章 研究成果・今後の課題 15

(3)

1

序章

1.1

研究概要

航空機の着陸時における「着陸待ち行列」に関する考察を行う.この待ち行列は,カフェなどのレジと は異なり、そもそも存在自体が明らかになっていないため、解析することが難しい.しかし,飛行中の民 間航空機の現在位置をリアルタイム表示するアプリケーションを用い,各便における最短飛行時間を抽出 することで,着陸待ち行列の構成・解析することに成功した.また,優先権付き待ち行列理論を使用する ことで,現在管制官が指示する着陸順序よりも,1機あたりの待ち時間,燃費の面でより良い方法を提案

する.

1.2

はじめに

私たちの身の回りに、待ち行列は非常に多く存在する.例えば,カフェのレジを待つ列,テーマパーク の人気アトラクションの行列,エスカレーターに乗る人々の行列,交差点における信号待ちの車の列な ど,様々なものが挙げられる[1].これら待ち行列に共通する性質は,待ち行列が「目に見える」という

ことである.

 夕暮れ時や夜間に空港の展望デッキに行くと,着陸に向けて降下する航空機の光を見たことがある方は 多いと思われる.しかし,その行列全体を目視することは不可能である.離陸を待つ航空機は地上でタ キシングをするため,待ち行列の存在を確認することができるが,着陸時に関しては,存在するのかと いうことすら明らかになっていない.航空機は渋滞状態で飛行間隔の調整を行っていることも,待ち行 列を見えにくくしている原因の一つである.そこで本研究では,航空機の運航情報データベースである 「Flightradar24」というアプリケーション(図1.1)[2]と,国土交通省が公開している航空機の大規模な 飛行軌跡データ「CARATS Open Data」[3]を用い,成田国際空港に向けて飛行する航空機のデータを抽 出し,シミュレーションをすることで,「着陸待ち行列」の存在を定義する(図1.2).

 増加の一途を辿るインバウンド需要に伴い,発着枠を拡大していくための議論は,すでに多く交わされ ている[4]が,そもそもの着陸方法に関する議論はあまりなされていない.今日の航空管制では,管制官

(4)

空機を使用した場合でも,1km飛行するのに要する燃料の量は長距離便と中・短距離便で異なるのである

[5].この理由として,一般的に長距離便は座席数が多く,貨物重量や搭載燃料も多いため,短距離便より

も総重量が重くなる,よって単位時間あたりに使用する燃料が多くなる,ということが挙げられる.この 事実より,本研究では「長距離便を優先的に着陸する方が,燃費の面でFIFOよりも効率が良いのではな

いか」という仮説を立てる.

 待ち行列において客をいくつかのパターンに分類して考える際に有効なモデルとして,Accumulating Queueモデル(以下AQ)がある.このモデルは病院で用いると良いとされており、患者を「救急患者」 と「一般患者」に分け,前者を優先的に診察するというものである[6].本研究では,2017年9月30日

の成田国際空港における全着陸便(貨物便を除く)236便を,飛行時間が8時間以上の「長距離便(計64

便)」,8時間未満の「短距離便(計172便)」の2種類に分け,前者を優先的に着陸させるモデルを分析

する.また,FIFOモデル,AQモデル,長距離便が飛来した場合は最優先で着陸させる長距離最優先モ デル (Priority Queue,以下PQ)の3種類のモデルを,待ち時間及び燃費の点で比較し,検討する.

(5)
(6)

2

着陸待ち行列

2.1

着陸待ち行列の定義

「Flightradar24」を用いることで,各航空機の着陸時刻L,離陸時刻Dを取得することができるが,待

ち時間Wや,待ち行列に到着する時刻T は分からない.そこで,過去60日間のうち最も早い飛行時間

F で飛来したものを,着陸待ち時間が0であると定義することにより,T 及びWを明らかにすることに 成功した(図2.1)[1].

 実際の成田国際空港には滑走路は2本あり,どちらも着陸便及び離陸便を扱っている.しかし本研究で

は,単純化のために着陸専用,離陸専用の滑走路に分け,着陸時には1本の滑走路のみ使用すると仮定し

た.また,着陸待ち行列への到着時刻を推定するために,全機が最速飛行時間で滑走路に飛来した場合を 考え,シミュレーションを行った.着陸に要する時間S は,⃝1滑走路進入端から1マイルの地点(着陸ま

たは着陸復行を行うかの決断点)までの所要時間⃝2滑走路進入端を通過し,滑走路縁を通過するまでの所

要時間⃝3滑走路を完全に出るまでに要する時間の合計で求められる(図2.2).着陸直前の航空機の速度を 200km/hとすると,⃝1は約30秒となる.⃝2を1分,⃝3を30秒とし,着陸復行の確率を極力0にするため

に1分間を加えると,S は約3分となる.よって本研究では,着陸に要する時間を一律で3分とする.

 次に,過去60回の飛行データより,各々の離陸時刻Di,離陸から着陸終了までの飛行時間Aiを抽出 し,待ちのない飛行時間Fを次のように推定する.

F=min

i {Ai| |Ai−E[A]| < 1時間}. (2.1) 航空機の離陸時刻及び飛行時間は,その日の空港や天気の状況により毎回異なるため,各便における平均 離陸時刻E[D]及び平均飛行時間E[A]を求め.過去60日間における飛行時間のうち,最も短い飛行時 間で成田国際空港に着陸したものをF とした (図2.3).しかし,E[A]とFの差が1時間以上のものも あったため,これらは天候やその他何らかの要因により記録された異常値だとみなし,差が1時間以内の

もののうち最も早い飛行時間をFとした(式(2.1)).このようにFを定義することで,待ち行列到着時

刻T,待ち時間Wは,Flightradar24から得られる値D,Xを用いて,

(7)

で表せる.つまり,時刻Dに出発,時刻T にシステムに到着,行列にW時間並び,サービス開始時刻X

からS 時間サービスを受け,Lで待ち行列を出るとすることで,M/D/1モデルと同じような「仮想待ち行

列」(図2.1)を考えることができる,実際の運航便にこの待ち行列を適用すると,図2.4のようになる.

こうして,一般的には存在すら確認されていない着陸待ち行列を定義することに成功した.

図2.1 仮想待ち行列

(8)

図2.3 待ち時間なし飛行時間F及び待ち時間Wの抽出

図2.4 AA153の最速ラップと待ち時間(2017年9月20日の高度データ)

2.2

着陸順序の変更

(9)

異なる重みを付けてサービス順序をコントロールするAccumulating Queue[6]の適用を考える.

 図2.5において、横軸を時間t,縦軸を優先度Vとし,待ち行列に到着した順番にAnとする.優先度と は,自分が到着してからサービス開始を待っている時間(経過滞在時間と呼ぶ)を表している.また,赤 い線が「優先される客」,青い線が「後回しにされる客」であり,前者の傾き(優先レート)bを1,後者

の傾きを0.5とする.このモデルは,前の客がサービスを終えた時点で,最も優先度Vが大きい客がサー ビスを受けるというものである.すなわち,サービスを受ける順序は,A1→A2→A4→A3となる.  このモデルを着陸待ち行列(図1.2)に適用したものが図2.6である.本モデルでは長距離便を優先的 に着陸させるので,優先レートをそれぞれ

bn=

{

1 (Fn≥8 : 00)

0.5 (Fn<8 : 00), (2.4) とする.このとき優先度は,

Vn(t)=bn(t−Tn), (2.5) に従う.いま.3番目に待ち行列に到着した短距離便A3が滑走路を使い終わった瞬間t=10における他 機の優先度を考える.FIFOモデルであれば,4番目に到着した短距離便A4がそのまま着陸するが,AQ

モデルにおいては,V5(10)=10−7=3>V4(10)=0.5(10−6)=2となるため,5番目に飛来した長距離

便A5が着陸する.よって,A4が着陸できる順番は5番目となる.このように考えると,AQモデルの

着陸順序は,図3.2 (2)のようになる.

 また,FIFOモデルは,AQにおいて長距離便の優先度bnを全て1としたもの,PQモデルは∞にした ものと同じである.このとき図3.2より,PQモデルにおいては,短距離便が圧倒的に待たされてしまう

場合があることが分かる.

(10)

図2.6 Accumulating Queueの着陸待ち行列への適用

(11)

3

現行モデルと

AQ

及び

PQ

の比較

3.1

待ち時間

 全着陸便における合計待ち時間は,保存則が成立するためFIFOモデルと変わらないが,短距離便と長

距離便の平均値をそれぞれ見ると,AQモデルでの短距離便は5分19秒余計に遅れてしまう一方,長距 離便は14分18秒早く着陸できる.またTPLDモデルでは,短距離便は11分17秒遅れ,長距離便は30

分20秒早く着陸できることが明らかになった(表3.1.しかし,PQモデルにおける短距離便では,最大 で1時間余計に待たなければならない便が生じてしまう一方で,AQモデルでは最大でも30分の待ち時

間となった(表3.2).

表3.1 各モデルにおける待ち時間Wnの比較(括弧内はFIFOとの差)

サービス順 全体 短距離 長距離

FIFO 0:31:44 0:30:18 0:35:36

AQ 0:31:44 0:35:37 (+0:05:19)

0:21:18 (-0:14:18)

PQ 0:31:44 0:41:35 (+0:11:17)

0:05:16 (-0:30:20)

表3.2 各モデルにおける最大待ち時間とFIFOモデルとの差分

AQ PQ

短距離 +0:30:00 +1:00:00

(12)

図3.1 各モデルにおける待ち時間(短距離便)

図3.2 各モデルにおける待ち時間(長距離便)

3.2

燃費

 着陸便kの燃費をαk (km/h),平均燃費をβk(kg/km)とする.待ち行列に並び,着陸開始を待っている 時間Wkに消費する全236機の総燃料は,

236 ∑

k=1

(13)

によって求められるが,この値は,巡航速度,燃費の各平均値より算出することも可能なので,

(全短距離便の消費燃費)+(全長距離便の消費燃料)=W¯k×αs×βs×172+W¯k×αl×βl×64 (3.2) となる.ここで,全236機を機材ごとに分類すると,表3.3のようになった[8][9].このデータより短距

離便の平均燃費αs,長距離便の平均燃費αlを求めると,それぞれ4.91kg/km,7.93kg/kmとなり,巡航 速度は861km/h,892km/hとなった(表3.4).これらを式(3.2)に代入し,全消費燃料を計算すると, 表3.5の結果が得られた(図3.3).すなわち,AQ,PQを用いることによって,現行モデルのFIFOより も,43402kg,92070kgもの燃料を削減できることが明らかになった.これらは,それぞれ年間で約15億 7000万円、32億8500万円に相当する.

表3.3 全便の機体数,巡航速度,燃費

短距離便 長距離便 機種 巡航速度(km/h) 機体数 燃費(kg/km) 機体数 燃費(kg/km) A320neo 833 2 2.79 0 no data

A320 829 24 3.12 0 no data

A321 829 13 3.61 0 no data

A332 871 4 6.00 3 6.40

A333 877 19 6.25 6 6.25 A343 871 1 6.81 3 7.32

A359 903 0 no data 1 7.07

A388 903 1 13.8 1 13.8

B738 838 31 3.17 0 no data

B739 838 2 3.42 0 no data

B744 933 2 10.8 1 11.1

B748 933 2 9.90 0 10.5 B752 854 3 4.60 0 no data

B763 850 27 5.38 3 5.51

B772 892 5 6.83 6 7.44

B773 892 3 7.88 0 8.49

B77L 892 0 no data 2 7.57

B77W 829 4 8.49 13 8.58 B788 903 21 5.26 12 5.38

(14)

表3.4 平均燃費α¯及び平均巡航速度β¯

短距離便 長距離便 燃費(kg/km) 4.91 7.93

巡航速度(km/h) 861 892

積(kg/h) 4227.51 7073.56

表3.5 待ち時間に消費する総燃料(kg)

FIFO AQ PQ

短距離 367229.70 431699.23 503989.65

長距離 268559.50 160687.70 39729.83

全体 635789.20 592386.93 543719.48

(15)

4

研究成果・今後の課題

 最短飛行時間を抽出することで,存在すら明らかになっていない着陸待ち行列を新たに定義することに 成功した.これによりAccumulating Queueを適用でき,現行のFirst In First Outモデルとは異なった2

つのモデルを構築することができた.

 これら3つのモデルを比較すると,FIFOモデルよりもAQ,PQ両モデルを用いた場合の方が,全体の

燃費という点で利点があることが明らかになった.しかし待ち時間という面では,長距離便が立て続けに 飛来した場合,短距離便の待ち時間は最大で1時間も伸びてしまう(表3.2)ため,PQモデルは良いもの とは言えない.従って,燃費も一定の割合で削減でき,短距離便にもそれほどの余分な待ち時間を与えな いAQモデルが,最も良いモデルと考えられる.

 今後の課題としては,

(1)到着便を2つのパターンだけでなく,飛行距離に応じて細かく分類し,それらに応じて優先レートを 設定する.

(2)滑走路を2本にし,離陸便も含める.

(3)着陸便に関して分類を行うのではなく,「離陸便」と「着陸便」という2種類に大別し,それぞれに関

して優先レートbを設ける.

(4)待ち時間,消費燃料の面で最も最適な優先レートbを算出する.

といったことが挙げられる.

謝辞

(16)

参考文献

[1] 塩田 茂雄,河西 憲一,豊泉 洋,会田 雅樹,待ち行列理論の基礎と応用,共立出版,(2014). [2] Flightradar24.com - Live flight tracker! (2017, September 30). Retrieved from

https://www.flightradar24.com/

[3] 国土交通省,CARATS Open Data 2014,(2014)

[4] 二見康友,離着陸順序の実態からみた滑走路容量算定手法に関する研究 成田国際空港を対象とし て, (2014).

[5] Antonio Filippone:Advanced Aircraft Flight Performance, Cambridge University Press, (2012), p.454. [6] David A. Stanford, Peter Taylor, Ilze Ziedins: Waiting time distributions in the accumulating

priori-tyqueue,Queueing Syst,77(2014), p. 297–330.

[7] 平松健志,平田輝満,屋井鉄雄,空港容量算定シミュレーションの開発と 容量拡大効果に関する研 究, 運輸政策研究, (2006), 26–37.

[8] Boeing.com (2017, September 30). Retrieved from http://www.boeing.com

図 1.2 成田国際空港に向け降下をする航空機とその待ち行列 ( 赤字:長距離便,黒字:短距離便 )
図 2.3 待ち時間なし飛行時間 F 及び待ち時間 W の抽出 図 2.4 AA153 の最速ラップと待ち時間 (2017 年 9 月 20 日の高度データ ) 2.2 着陸順序の変更  現在の世界の航空管制は,着陸機が管制官にコンタクトを開始した順番に着陸をさせるという方法を採 用している(管制官談).しかし,単位距離当たりに使用する燃料は長距離便の方が短距離便よりも多い ため,長距離便を優先的に着陸させる方が燃料の面でより効率的である.だが、長距離便を優先し続ける と,短距離便の待ち時間が伸び過ぎる可能
図 2.6 Accumulating Queue の着陸待ち行列への適用
図 3.1 各モデルにおける待ち時間(短距離便) 図 3.2 各モデルにおける待ち時間(長距離便) 3.2 燃費  着陸便 k の燃費を α k (km/h) ,平均燃費を β k (kg/km) とする.待ち行列に並び,着陸開始を待っている 時間 W k に消費する全 236 機の総燃料は, 236 ∑ k=1 W k × α k × β k (3.1)
+2

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