≪フォトマルの構造と動作≫
フォトマルとは光信号を増幅し、電気信号として取り出す装置である。通常はシンチレー タ―と組み合わせて用いられる。
下図はフォトマルの概略図である。
フォトマルは上流から順に、光に敏感な材料で物質で作られたカソード(陰極)、電子を収集 する部分、複数のダイノード(電子増倍部)、最終的に信号を取り出すアノード(陽極)と分 かれている。これらの部分は通常は全て真空に引いたガラスの中に収蔵される。また動作時は カソード、ダイノード、アノードに高電圧が印加される。
増幅原理
1、シンチレーターから出た光子が作られる。 2、 光子がアノードに到達すると光電効果によって電子が放出される。 3、 放出された電子は印加電圧によってダイノードへ向けて加速される。 4、加 速された電子が一段目のダイノードに衝突すると二次電子を生み出す。この時生み出される二 次電子数は衝突前より多い。 5、4 の過程が繰り返され電子雪崩が引き起こされた後、最終的に電子はアノードへと到達し元の電 気信号は検出可能な大きさまで増幅される。
注意として、もしカソードとダイノードの系が線形と仮定するなら、最終的の取り出される電 気信号は入射した光子数に比例することになる。
以下でフォトマルを構成する各部分の詳細を見ていくことにする。
カソード
カソードは入射光を、光電効果によって電子へと変換するパートである。
光の通過が容易になるように、光に敏感な素材はフォトマルの窓の内側に薄く配置されて いる。
アインシュタインの光電効果の式によると、
Ε=hν− ϕ
E;運動エネルギー ν;入射光の振動数 Φ;仕事関数
光電効果が引き起こされるにはある閾値以上の振動数が要求されるが、しかし、その閾値 以上であっても光電効果が起こる確率は一貫性があるとは言えない。実際、光電効果の変 換効率は入射光の振動数とカソードに使われる物質の構造で大きく変動する。
全体のスペクトルの反応は、以下の量子収率 η
(
λ)
で表される。η ( λ) = N
rN
iN
r;
カソードから放出された光電子の数N
i ;カソードに入射した光子の数 また,同等の量として陰極放射感度S ( λ)= I
kP ( λ)
Ik ;光電子放出によるカソードからの電流 P
(
λ)
;入射放射強度ここで、 Ik=e Nr =
e η ( λ ) N
i 、P ( λ)=hν N
i より、S ( λ)= eλη ( λ)
hc =
λη ( λ)
1240 [ W A ]
となる。
図8.2は今日フォトマルによく用いられる物質の光の振動数に対する変換効率を表したもの である。一般に振動数に対する応答はある一定の帯域においてのみ良いものとなっている。 従って、フォトマルを選定するときは入射光の波長を考慮する必要がある。
殆どのカソードにはアンチモンやアルカリ金属が添加された半導体が使用されている。金属の 量子収率は 0.1%を超えないのに対して、半導体のそれは 10~30%にも達する。この違いは、金 属と半導体の構造の本質的な違いに求めることが出来る。金属では自由電子が多く、このため に光子を吸収した電子は表面へと到達する前に衝突によって多くのエネルギーを失ってしまう。 表面に到達したときエネルギーの低い電子は金属の持つポテンシャル障壁を乗り越えることが 出来ないので金属外へと飛び出すことが出来ない。つまり、電子がポテンシャル壁を乗り越え るほど高いエネルギーをもって表面へと到達するには、金属表面近くで電子が光子を吸収しな ければならない。よって、極めて表面に近く、薄い層にある電子しか表面に到達できない。 一方、半導体は少数の電子が属する伝導帯と価電子帯というバンド構造を有している。ここに 属する電子はおおよそ自由に動き回れる。残りの電子は原子に強く束縛されている。光子を吸 収して価電子帯または伝導帯から追い出された電子は、自由な電子とはあまり衝突しない。自 由ではない電子との衝突も考えられるが、原子に束縛されているために有効質量が多く、この 衝突ではエネルギーをあまり失うことはない。従って金属の場合よりも多くの電子が表面へと 到達可能になり、変換効率が高くなる。
昨今では多量の亜鉛と少量のセシウムを添加したリン化ガリウムが開発された。この材料は表 面近くのバンド構造が曲がっていて伝導帯最低エネルギーが真空中よりも高くなっている。 従って、仕事関数は負となり電子が飛び出すには材料表面に到達するだけのエネルギーを有し ていればよい。このために効率は 80%にも達する。しかし、いくつかの問題があるので使用 は限定的になっている。
電子光学系
カソードから放出された電子は次に増倍するための装置へと導かねばならない。 このために電子を収束させる役割を電子光学系が担う。
収束は適切に電場を作り出すことによって行われる。磁場や、電磁場を組み合わせたものでも 原理的には収束が可能であるが殆ど用いられることはない。
形状に拘らず、以下の二点が電子光学系には要求される。
1、カソードのどこから電子が放出されたとしても、一段目の電極に向かう。
2、電子が一段目の電極に達するのにかかる時間は、カソードのどこから放出されても同じ。 二つ目の要求は特に検出器の時間分解能に関わり、早いイベントの検出には重要である。
電子増倍部
カソードからの光電流はこのままでは余りにも微弱なため検出可能ではない。二次電子放出を 利用して検出可能な大きさまで増幅するのがここの役割である。
二次電子放出物質としては、金属、絶縁体、半導体を用いることが出来るが、一定の電場をか け続けなければならないので、二次電子放出物質はで伝導性の物質の上へと配置されねばなら ない。今日よく使われている手法はアルカリ金属、またはアルカリ土類金属と貴金属で、合金 を作る方法である。二つの金属を混ぜ合わせるとアルカリ金属だけ酸化し、表面に薄い絶縁層 を作る。Ag-Mg、Cu-Be、Cs-Sb 合金などがよく使われ、それぞれに違う利点がある。
いづれにせよ、良いダイノードは以下の三点を満たす。
1、増倍部を構成する各電極で光電流がどれだけ増倍されるかを表す因子を二次電子放出因子 δ といい、これが高いこと。
2、高電流下で安定して二次電子放出が起こること。 3、熱イオン放出が少ないこと。
殆どのフォトマルは 10~14 段で構成されているが、リン化ガリウムをダイノードに用いれば 個々のゲインが大幅に増加し、トータルのゲインは同じのまま段数を少なくすることが出来る。 こうすることで時間における揺らぎを抑えることが出来る。
電極配置
電極の配置は応答時間やフォトマルの線形性能の範囲に影響を与える。今日用いられる配置は 5通りあり、
1、ベネチアンブラインド 2、ボックスアンドグリッド 3、線形収束
4、円形収束
5、ミクロチャンネルプレート
である。
1のタイプは幅広の材料を電子が流れる方向に対して 45°傾けて配置したものである。利点と して、このことによって初めに生み出された電子が入射可能な面積を広くとれる。電極は列を なして配置される、ただし大きさは余り重要では無い。欠点としては、最初に生み出された電 子の一部がまっすぐに通過してしまい、結果としてゲインが少なくなり通過時間にばらつきが 生まれることである。
この欠点は2、3、4のタイプの配置では避けることが出来る。また、後者の配置のほかの利 点としてはスペースを有効に使えること、陽極と陰極が充分に離れているのでフィードバック の恐れがないことである。
図 8.5 にはそれぞれのタイプの応答の線形性を表しているものである。最も線形性能が良いの は3のタイプであるが、あまり高電流にならないのならコストの低い1のタイプで十分に間に 合う。
近年では小さな穴がたくさん開いたプレートを用いたものが開発された。
このプレートには直径 10~100nm の穴が互いに平行になるように開けられており、穴の内部は 半導体物質で処理されていて二次電放出の役割を担っている。プレート表面は合金でコーテイ ングされていて、穴に沿ったポテンシャル差が生み出せるようにしてある。穴に入った電子は 何度も内壁に衝突し二次電子放出を起こしながら反対側のへと出ていく。一枚のプレートで得 られるゲインは 10^3~10^4 程度である。通常は 2、3 枚並べて用いる。こうすることによって 従来のものと同じぐらいのゲインを得ることが出来る。
以前のものに比して優れている点は、サイズが小さくて済むので電子が通過するのにかかる時 間が短縮でき時間分解能が改善したことと、強磁場に対しても安定性があることである。 これらの利点があるがコストはかさむ。
フォトマルの応答
理想的にはフォトマルは電子のエネルギーが一定なら一定のゲインを出力して欲しいが、二次 電子放出は本質的に確率的な事象なので一定というのはあり得ない。つまり、エネルギーが同 じだとしても電極は毎回同じ数の二次電子を放出するとは限らない、そして、このばらつきは 各電極部の二次電子放出因子や電子の通過時間などの要因で増幅されてしまう、結果として全 体のゲインは入射電子のエネルギーが一定だとしても時間的に変動することになる。
この変動の程度を測るには電子が一つだけ入射したときのスペクトルを観測することである。 このスペクトルは電子が一つずつだけ放出されるような極めて弱い光源でフォトマルを光らせ ることによって計測出来、フォトマルの応答に関する重要な情報を与えてくれる。
先に述べた確率的な要因の為に電子一つが作るゲインのパルスの形状もそのたびごとに異なっ てくる、しかしながら、そのパルス電流を積分することによって得られる新しいパルスは全電 荷に比例し、それぞれのイベントに対するゲインを表したものになっている。
オペレーティングパラメータ
二次電子放出因子
δ
は入射電子のエネルギーの関数である。図 8.9 には様々な電極に対する 二次電子放出因子の電圧依存性を与えている。今簡単のため K を比例定数として、
δ=K V
dとする。
各電極間にかかっている電圧は一定とすればフォトマルのトータルゲイン G は、
G=δ
n= ( K V
d)
nトータルゲイン G と各電極間にかける電圧 Vd を一定にしたままで、トータルの電圧を最小、 つまり、n が最小になるのはどのようなときか考えてみる。
V
b= nV
d= n
K G
1 n
nで微分すると、
d V
bdn =
1
K G
1
n
− n
K
G
1 n
n
2lnG
よって、 n=lnG の時最小となる。
印加する電圧が小さいということはノイズを抑えられるということであるが、電圧を小さくす ると電子の通過時間のばらつきが大きくなってしまったり、そのほかの問題を引き起こすので 多くの場合は高電圧下で作動させる。
また、
dG
G =n
d V
dV
d= n d V
bV
bなる関係式から、例えば n=10 とすると Vb が 1%変動すると、G は 10%も変動することにな る。今日では、電圧の変動を 0.05%未満に抑えるようにしてある
。
電圧分圧器
各電極部に望ましい電圧をかけるために抵抗を連ねた電圧分圧器が用いられる。設計するにあ たっては管内で電圧が変動することによって電極間のポテンシャルが大きく変化することが起 きないようにしなければならない。なぜならば、フォトマルのトータルゲインや線形性能に影 響を及ぼすからである。一連の抵抗の方を流れる電流をブリーダー電流 Ibl と呼トータルゲ イン G と以下の関係にある。
∆ G G =
Ian Ibl
n
(
1−δ)
+1(
n+1)(
1−δ)
ここで
I
an は陽極に流れる平均電流である。従って、もし、1%の線形性能を維持したかったらブリーダー電流は陽極に流れる電流よりも 百倍大きくしなければならない。
パルモードで動作させる場合は最後の 2、3 段でピークの電流が大きくなってしまい、この間 はポテンシャルが一時的に落ち込んでしまう。これを避けるために、でカップリングコンデン サというものを取り付けたり、ツェナーダイオードを用いて電圧を一定に保つ。しかし、極め て高電流で動作させる時は、もう一つ別に外部電源を用意する必要がある。
線形性能
電流をどれだけ収束させられるかは各電極間にかけられている電圧差に依存する。図 8.11 に は様々な光の強度に対して、印加電圧を変えたときの陰極と陽極の電流値がグラフにしてある。 これを見ると電流値は印加電圧が増すと増加していき、電圧がある程度大きくなるとサチるこ とが分かる。
電圧が低いときの振る舞いは電極の周りに電荷分布が出来、この電子群は電場を打ち消し、そ の後に放出される電子の加速を妨げる傾向にあるためである。ある程度電圧が大きくなるとこ の電荷分布はなくなり、放出されたすべての電子が集められることになる。
パルス整形
回路素子としてはフォトマルは電流発生器と、抵抗、そしてコンデンサーを並列につないだも のとみなせる。
フォトマルに入射する光は指数的函数的な崩壊現象によるものと仮定すれば、陽極から出る電 流は以下で与えられる。
I (t )= GNe
τ
sexp (
−t
τ
s)
N ;陰極から放出される光電子
τ
s ;シンチレーターの崩壊定数 ここで、回路方程式は以下のよう。I (t )= V
R +C
dV
dt
これを解くと、
V (t)= −GNeR
τ−τ
s[ exp (
−t
τ
s) − (
−t
τ
s) ] τ ≠ τ
s¿ ( GNeR τ
s
2
) texp (
−t
τ
s) τ ¿ τ
sここで τ =RC である。
今、 τ≪ τs とすると、信号は小さくなるが、最初の信号の崩壊時間を忠実に再現する。立 ち上がり時間は速く、この時間は τ で与えられる。このモードは
V (t)
が抵抗に流れる電 流で与えられるので電流モードと呼ばれる。反対に
τ ≫ τ
s とすると、信号の振幅は大きくなるが減衰時間も大きくなってしまう。しか し代わりに立ち上がり時間は大よそ τs で与えられる。このモードはV (t)
がコンデンサー にかかる電圧によって決まるので電圧モードと呼ばれる。一般則として電圧モードは信号が大きく、変動が少ないのでよく用いられる。しかし、減衰時 間も長くなってしまうため、計数率は
1
τ
に制限される。電流モードで動作させれば、計数 率は上がるが、その代わり一つ一つの信号は弱くなり、小さなノイズにも大きく影響されるよ うになってしまう。従って、実験に合わせて出力回路の設計を変える必要がある。応答時間と時間分解能
フォトマルの時間分解能には大きく以下の二つの要因が影響を与える。 1、フォトマルを通過する電子の通過時間のばらつき
2、統計的なノイズ
図 8.14 を見ると、軸近くの電子が初めの増倍部に達したとき、縁近くの電子はそれに比べて まだ
1
3
くらいまでしか進んでいない。さらに、図のフォトマルは非対称であるので上の縁 からの増倍部までの距離と下の縁からの距離では異なる。このような通過時間差をなくすため には、球形の陰極を用いたり、縁に行くに従って電場を強くしたりされる。また通過時間差は幾何学的な要因だけでなく、放出電子の速さや放出される方向も影響を与え る。後者による通過時間差のばらつき ∆t は
∆ t=−
√
2 meW e2E2 で与えられる。W ;電子の持つエネルギーの軸方向成分
E
;電場の強さ典型的な値を入れると、
∆ t
=0.5ns であり、今日のフォトマルの通過時間は 0.2~0.5ns 程度 なのでこの効果はかなり重要である。2番目の効果は次で議論する。
ノイズ
フォトマルが光らなくても常に暗電流と呼ばれる微弱な電流が流れている。 暗電流のいくつかの原因は以下である。
1、増倍部または陰極からの熱イオン放出 2、漏電流
3、放射性物質の混入 4、イオン化
5、光
それとも最も主要な熱雑音である。
熱雑音による効果はリチャードソンの式と呼ばれる以下で与えられる。
I=A T
2exp ( −eϕ
kT )
電極支持台や等からの漏電流は暗電流の大部分を占める。この漏電流を絶縁体等で減少させる のは難しい。しかし、減圧下でフォトマルを動作させることで漏電流を少なくすることが出来 る。
フォトマルの中に残った気体原子も検出可能な電流を生み出しうる。これらの原子は電子に よってイオン化される。これらはプラスの電荷をもつので、電子と反対方向に加速され、陽極 または陰極に衝突し、二次電子を放出させる。このような仕組みで、真のパルスに続いてしば しばもう一つのパルスが観測される。高電流下では最後の 2、3 の電極から放出された光が偽 のパルスを作ることもある。
一般的に言って、暗電流はとても小さく 2、3nA 程度である。
統計的なノイズ
光電子放出や二次電子放出は本質的に確率的な現象なのでたとえ入射光の強度が一定でも時間 的にこれらの減少で放出される電子数は揺らいでしまう。
従って陽極の電流はある平均値の周りで図 8.16 のように揺らいでしまい、これをショットノ イズやショットキー効果と呼んだりする。この効果の大きさは平均からの分散で測られる。 フォトマルにおける統計的な揺らぎはフォトカソードと増倍系由来の二つがある。
前者は光電効果が要因で計測に物理的限界をもたらす。フォトマルが一定の発光の下で動作し ているなら、この揺らぎはフォトカソードに時間 τ の間に入射する光子の数がポアソンに従い、 放出される光電子の数の分布が二項分布でに従うと仮定すると計算することが出来る。
この時電流の分散は、
⟨ Δ I
2⟩ = Ie
τ
これらのノイズに加えて、増倍系由来のノイズが入る。この場合は統計的な要因以外に通過時 間差、二次電子放出因子の違い等々がある。
これらの揺らぎの程度は一電子のスペクトルを計測することにより判断できる。 一般的に言ってこれらのノイズは全体の 10%を占めるに過ぎない。
外部環境要因
フォトマルは極めて光に敏感なため動作時は外部光にさらしてはいけない。なぜならば、光電 中が流れてしまいフォトマルの機能を低下させたり、最悪の場合壊してしまうからである。 また、動作時以外でも極力光にさらすのを避けるべきである。
磁場
磁場はフォトマルの動作に最も影響を与える要因の一つで、たとえ小さな磁場でも電子の軌道 を最適なものからずらしてしまい、特に電子を収束させる機能に影響を与える。
フォトマルの軸に対する幾何学的な対称性と同様に、管が磁場に対してどうやって配置してい るかも重要な要素である。
実験結果から一般的に以下のことが分かっている。 1、陽極の電流は磁場が強まると減少する
2、磁場がフォトマルと同じ向きにかかっている時に最も影響が小さい
磁場影響を減らすためによく遮蔽が行われる。一般的に透磁率の高い金属でフォトマルの管の 部分だけを覆えばよいのであるが、管の部分だけでなく余分に覆っておく方が高い遮蔽効果を 得られる。
ゲイン安定性
フォトマルのゲインは主に増倍系由来の要因で変化し、その変化には二つの種類がある。 1、ドリフト;一定の強度の光においても時間的に変動すること
2、シフト;電流が変化した後に、急激にゲインが変化すること
フォトマルの安定性を計測するには、 137❑
Cs
のパルスの波高分布を計測する方法が用いられ る。ドリフトを計測するには具体的に、
1、カウントレートが 1000/s となるように線源との距離を調節し 2、フォトマルを三時間動作させる
3、その後、一時間に一回ピークの計測をし、これを 20 時間続ける。 この時ドリフトは以下の式で与えられる。
DRIFT =
∑
i|
P−P
i|
Pi ;i 回目のピークnP
P
;計測の平均使用に耐えるにはこの値が 1%以下であるべきである。 シフトの計測
1、ドリフトの計測をした直後に、線源と検出器の距離を短くしてカウントレートが 10000/s になるようにする
2、ピークの位置を 10 分おきに計測するのを 4、5 回繰り返す この時シフトは以下で与えられる。
SHIFT =
∑
i|
P
i− P
n|
mP
Pn ;最後に 1000/s で測った時の値
P
i ;i 回目のシフトの計測この値も 1%以下であるべきである。
集光
シンチレーターで光が失われてしまう要因は主に二つある。その要因は光がシンチレーター外 に漏れてしまうことと、シンチレーターの物質に光が吸収されてしまうことである。
小さいシンチでは後者の影響は無視できる。光子がシンチ内を進む距離が減衰長と同じくらい になる大きさの検出器ではこの効果は無視できない。
この減衰長は光に強度が
e
−1 になる大きさとして定義される。 従って光の強度は、L( x )=L
0exp ( − x
l )
典型的な減衰長は大体 1m かそれ以上である。
シンチ内で作られた光はあらゆる方向へ伝わり、ほんの一部分しか直にフォトマルに入らず、 残りはシンチ外へと向かってしまう。境界へと到達した光はその入射角の大きさによって、二 つの現象が起こりうる。
入射角がブリュースター角
θ
B と呼ばれるものよりも大きいと全反射が起こる。 ここで θB 以下で与えられる。θ
B=sin
−1( n
outn
scint)
n
out ;シンチを覆っている物質の屈折率nscint :シンチの屈折率
一方で入射角が
θ
B よりも小さいと、一部は反射され残りは外へと逃げてしまう。この損失は検出効率やエネルギー分解能を低下させるだけでなく、検出器のパルス波高応答の 非一様性をもたらす。最後の効果は実験室で使うような小さい検出器においては無視できるが、 シンチの大きさや形状によっては無視できないものになりうる。
これの対策として最も単純で広く使われているのは、逃げる光を内側へと戻してやることであ る。この方法では、内側へと反射された光は何度か反射を繰り返してフォトマルへと向かう。 ただしこの方法は、光は反射のたびに減衰するので、反射の回数が多くなるような状況では満 足なものではない。
反射面には鏡面性と散乱性の二種類がある。
前者における反射波は入射角と反射角が等しくなり、後者においては反射角は本質的に入射角 に依存し以下のランベルト則を満たす。
dI
dθ ∝ cosθ
鏡面性の反射材として最もよく使われているのはアルミホイルであり、散乱性の反射材として は
MgO やTiO
2 が使われる。重要な点はこれらの物質は光の波長によって反射率が変化す ることである。外側を覆う物質の屈折率は
θ
B を小さくするために可能な限り小さい方がよい。この要請を 満たす便利な物資ルは空気であるので、反射材とシンチの間には薄い空気の層を残すのがよい。 プラシンでは表面を磨いておくことによってさらに反射率を上げることが出来る。例えばプラシンを用いる場合の手順は、アルミホイルで覆った後に黒いテープを上から緩めに 巻く。そのほかの種類のシンチを用いるときシンチの物理的特性によって適切に設定を変える 必要がある。
接続
シンチからフォトマルへと光を送るには二つを接続しなければならないが、間に空気が残って いると光の一部がシンチにとらわれてしまう。従って、接続時はシンチの屈折率とフォトマル の窓の屈折率になるべく近い物質で媒介するのがよい。よく使われているのはシリコングリー スや油である。有機系のシンチならグリースの屈折率は二つと殆ど同じなので大変よく適合す るが、無機系のシンチにおいてはあまりよろしくない。
ライトガイド
多くの実験においては、例えばスペースの問題や磁場の存在等により、しばしばシンチにフォ トマルを直接つなぐことが出来ない。このような状況においては二つの間にライトガイドを挟 む。材質は透明なガラス状プラスチックやルーサイト等で出来ている。また、形状は様々なも のがあってフォトマルやシンチに適した形のものが作れる。
では、最も効率の良いライトガイドの形はどのようなものであろうか?
理論によると光子密度流は“圧縮できない”ことが示されている。つまり、光子の流束を考え とき、入り口では断面積が
A
i 、出口では断面積がA
o とすると、どんなに良くてもAo Ai
の光しか運ばれないことが知られている。(但し、 Ao<Ai ) 最も効率の良い場合は断熱的と呼ばれている。
シンチの場合とほとんど同じでライトガイドも反射材でゆるく包むと効率が増加する。
蛍光放射線変換器
ライトガイドを用いる方法は汎用性が広いものであるが高エネルギー物理における検出器に応 用するのには向かない。従って先述の光の性質の為に沢山のフォトマルを用意しなければなら ないがこの方法ではスペースがかさみ、コストもかかる。しかしながら、フォトマルの数を減 らすわけにもいかない。このジレンマの解決に蛍光放射線変換器を用いる。
これは、シンチに光の波長をシフトさせる物質を添加したものである。 この変換器を用いるときはシンチと空気を挟んで繋ぐか、油層を挟んで繋ぐ。
変換器はシンチから放出された周波数帯の光を吸収してフォトマルの感度に適した波長に変え て放出する。
単位面積当たりの効率はライトガイドを用いたときよりも減少してしまうが、変換器を用いる と光が圧縮可能になり検出器全体から光を集めることが出来る。
検出器のセットアップ
1、シンチとフォトマルの窓をきれいにする。この時汚れはもちろん、古いオイルやグリース もふき取る。アルコールはフォトマルには使えるがシンチに使ってはならない。
フォトマルの窓の表面に少量付け、シンチを押し当てる。決して指で広げてはいけない。 2、アルミホイルでシンチとフォトマルを少し緩めに包む。また検出する粒子のエネルギーに よってはシンチを包むことによる粒子のエネルギー損失や吸収を考慮に入れなければならない。
3、フォトマルとシンチを黒いテープで光少し緩くだが、光が漏れることのないように巻く。 やはりここでも必要によってはエネルギー損失や吸収を考慮する。
4、フォトマルを磁場遮蔽器、外殻と共に土台にセットする。 これでセットは完了である。
カウンターのテスト
適切な電圧をフォトマルに印加すると、良く整形された信号が得られる。図 9.16 にはシンチ にそれぞれプラスチック、NaI を用いたときの信号を示している。プラスチックの方にはリン ギング呼ばれる、信号の尾の後に第二の小さな信号が現れる現象が起きている。この現象は ディスクリの閾値よりも信号の振幅が小さい限り起こり続ける。
それに対して NaI の方の信号はきれいに指数関数敵に減衰している。
線源を取り除くとノイズがみられるはずである。このノイズは通常信号よりも極めて小さい。 良い管ではこの雑音の振幅は 50mV を超えない。
シンチレーションカウンタープラトー
計数するにあたってフォトマルの信号がディスクリで解析されるなら、動作電圧を見つける方 法がありプラトー測定と呼ばれている。
これはカウンターのカウントレートを印加電圧の関数として測定することによって行う。 低電圧から開始して徐々に電圧を上げていく。レートは電圧の上昇と共に急激に増加し、しば らくすると増加が緩やかとなり、さらに電圧を上げると再びレートは急激な上昇を見せる。後 者の上昇はリジェネレーション効果が現れることの目印で、これはつまり放電やアフターパル シングのことである。グラフの平らな部分はプラトーと呼ばれていて、印加電圧の変化に対し て最もカウントレートが変化を受け難い領域である。
このプラトーはガイガーカウンターのプラトーと似ているが、その起源と重要性は全く異なる。 ガイガーカウンターの方は、ガイガーカウンターの内的要因(信号がサチる)のため起こるが、 シンチの方は内的要因、外的要因の両方で起こる。
主な原因としては、
1、入射放射線のスペクトルやカウンターの応答のため 2、フォトマルとその印加電圧との関係性のため 3、ディスクリの閾値のため
ここで、プラトー曲線を数学的に導いてみよう。
I ( p
0) = ∫
p0
❑
Sp ( x ) dx
p
0 ;閾値の値Sp
(
x)
;図 9.19 のスペクトル計算結果は図 9.21 で、積分の下限がそれぞれの山を越え、谷に入るにつれ二つのプラトーが 顔を出すのが分かる。
では、スペクトルの閾値に積分の下限を持ってくるにはどのくらいの電圧を印加したらよいで あろうか?
明らかに、 K ∙ gain∙ p0=thershold (K は定数)が成り立つので、従って印加すべき電圧 は、
gain=const P 1
0
このような解析から以下のことが分かる。
図 9.22 からプラトーは積分曲線のとても小さな端に対応している。 プラトーの平坦さはこの領域に対応する積分曲線の傾斜に依存する。