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要旨集 最近の更新履歴 GCOEアジア保全生態学

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第一回

九大・東大合同シンポジウム

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2 -

目 次

基調講演

アジア保全生態学の展望………4

矢原徹一

生物多様性政策が求める保全生態学の研究課題………8

鷲谷いづみ

東アジアにおける鳥の渡りと生息地ネットワーク………11

樋口広芳

生態系動態とヒトの選択動態のカップリング-湖水の水質管理を例に………12

巌佐庸

トキ再生プロジェクトにおけるGIS の利活用………15

三谷泰浩

コアサイト交流会

伊都キャンパス・今津干潟………18

矢原徹一・西田 伸

屋久島………19

矢原徹一・田川哲・川口利奈・三村真紀子

カンボジア………22

加治佐剛

モンゴル 北東アジアの生態系再生とモンゴルコアサイトの役割………23

大黒俊哉

中国太湖 太湖流域研究、概要とチャオシー川での事例………24

鹿野雄一

三方湖 三方湖フィールド拠点………26

吉田丈人

大学院生交流

水田の農業活動が餌生物の時空間構造を通じてサギ類の採食行動・空間分布に与える影響

片山直樹………29

なぜツチガエルはシマヘビに食べられないのか?

吉村友里………30

若齢,高齢ヒノキ人工林間における林分蒸散量の比較

(3)

- 3 -

-

3 -

目 次

亜熱帯林島嶼の天然林施業における木材生産性と生態リスクの評価………33

藤井新次郎

A mathematical study of self-no self discrimination: regulatory T cells and energy.

佐伯晃一………34

広域的害虫防除に関する保全生態学的研究………35

吉岡明良

日本産カマバチ科(ハチ目:セイボウ上科)の分類学的再検討………36

三田敏治

ギンガショウジョウバエ属(双翅目,ショウジョウバエ科)の系統分類学的研究

近藤雅典………37

集団遺伝学的手法を用いたヴィクトリア湖産シクリッド種の遺伝的構造の解明

武田深幸………39

魚類の生息場としてのマングローブ水域の機能と重要性

南條楠土………41

奄美大島におけるリュウキュウアユの保全

大槻順朗………43

Diet and habitat reconstruction by carbon, nitrogen, and oxygen isotopic analysis for the sea otter from archaeological sites of Aleutian Archipelago

Ame Garong………44

ウナギの保全生態学的研究I:耳石微量元素分析を利用した生息水域の推定

横内一樹………45

ウナギの保全生態学的研究II:三方五湖における調査の現状と展望

海部健三………47

Assessment on protected area's effectiveness on conservation and Mapping and predicting conservation priority in protected area

(4)

- 4 -

-

4 -

アジア保全生態学の展望

矢原徹一 九州大学大学院理学研究院 生物科学部門

『保全生態学入門』(鷲谷・矢原 1996)出版以来、九州大学と東京大学は、日本の保全生態学をリードし

てきたといっても過言ではないと思います。また、九州大学と東京大学の間では、CREST「熱帯モンスーン

アジアにおける降水変動が熱帯林の水循環・生態系に与える影響」、環境省地球環境研究総合推進費「トキの

野生復帰のための持続的な自然再生計画の立案と社会的手続き」などいくつかの大型研究費を通じて、共同

研究を推進してきた実績もあります。

今回、グローバルCOEプログラムの助成を受けて、博士課程大学院を軸とする教育・研究において、九州

大学と東京大学の新たな連携がスタートしました。この連携事業では、保全生態学をローカルな科学からよ

りグローバルな科学へと発展させ、とくにアジア地域を対象として、生態系・生物多様性の保全と持続的利

用に関する社会的要請に応えるとともに、基礎科学としても新しい研究分野を切り開くことを目的としてい

ます。

私の基調講演では、まず「アジア保全生態学」が必要とされる背景について説明します。次に、「自然共生

社会を拓くアジア保全生態学」が計画している大学院教育カリキュラムや、コアサイトでの実習の構想につ

いて説明します。最後に、この事業を通じてどのような新たな研究分野を開拓するかについて、私の考えを

述べます。

アジア保全生態学の必要性

20世紀後半を通じて、地球温暖化、森林の減少、野生生物の大量絶滅など、地球環境の危機が顕在化しま

した。このような危機に対応するための国際的な枠組みとして、気候変動枠組み条約(FCCC)と生物多様性

条約(CBD)が1992年の国連地球サミットで締約されました。わが国はこの2つの条約を批准し、FCCC第3

回締約国会議(1997年)を京都で開催し、京都議定書の発効に貢献するとともに、CBD第10回締約国会議(2010

年)を開催する準備を進めています。2010年は国連が定めた国際生物多様性年であり、「2010年までに生物多

様性損失を有意に減少させる」という「2010 年目標」を評価する年にあたります。残念ながら、この目標の

達成は困難視されており、CBD第10回締約国会議ではこれにかわる「2020年目標」が設定される予定です。

地球規模の生物多様性損失のトレンドの中で、東南アジア地域はとくにその損失速度が大きいと考えられ

ています。熱帯林の消失速度に関しては、アマゾンを含むラテンアメリカで低下しているのに対して、東南

アジアでは増え続けており、最近では東南アジアの年間消失量がラテンアメリカをうわまわったと推定され

ています。このような熱帯林の減少は、二酸化炭素放出を通じて温暖化に寄与するとともに、さまざまな動

植物の絶滅リスクを高めています。しかし、東南アジアにおける動植物の絶滅リスクの評価は遅れており、

有効な対策もとられていません。

東南アジアにおける生物多様性損失は、私たち日本人の暮らしと密接に関わっています。熱帯林伐採を促

進している要因に、アブラヤシやパラゴムノキの農園開発があります。そして、日本はアブラヤシから作ら

れる食用油と、パラゴムノキから採取される天然ゴムの大手輸入国です。また、木材自給率20%という数字

(5)

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-

5 - 入しています。私たち日本人の物質的に豊かな暮らしは、東南アジアなど海外における生態系・生物多様性

損失の犠牲のうえに成り立っているという現実があります。日本の生物多様性を守るというローカルな保全

生態学の枠組みだけでは、このような現実に有効に対応することができません。ここに、「アジア保全生態学」

が必要とされる理由があります。

「自然共生社会を拓くアジア保全生態学」の大学院教育プログラム

履 修 目 標 提 案 力 討 論 力 英 語 力 先 端 力 学 際 力

D 3

リサー チプ ロポー ザ

ルIII

国際セミ ナー III ( 英

語) D 2

リサー チプ ロポー ザ

ルII

国際セミ ナー II ( 英

語) D 1

リサー チプ ロポー ザ

ルI

国際セミ ナー I ( 英 語)

保全生態 学特別講

義 保全生態 学研究法 演習

論文作成法(英語)

グロー バ ルフ ィー ル

ド実習 I, II 主専攻論文作成

研 究 力 実 践 力

トキ セミ ナー (大学

院生合同 セミナー ) 自然再生

フ ィー ルド 実習 I, II 副専攻論文作成

プ レゼンテ ー ショ ン法 (英語)

グローバルCOEプログラムは、新たな大学院教育の整備を通じて拠点形成をはかる事業と位置づけられて

います。このため、申請にあたって、博士課程のカリキュラム提示が求められました。上の図は、申請書で

提案したカリキュラムです。黄色は必修科目、青色は選択科目です。

「自然共生社会を拓くアジア保全生態学」には、理学・農学・工学系、および比較社会文化学府(旧教養

部)の教員が参加しています。このような学際的チームによる大学院教育を立案するうえで、以下の理念を

重視しました。

(1) 学際的人材を育てるには、主専攻分野でプロとして通用するように育てることが大前提である。

その基礎のうえに、副専攻分野での教育を行う。

(2) 副専攻分野の教育は、特任スタッフ・事業担当者による学際的チームで行う。コアサイトのフィ

ールドで、学際的チームが共同研究を行うことで、分野間の有機的連携が発展し、学際的人材も

育つ。

このような理念にもとづいて設定された上記のカリキュラムでは、副専攻論文をまとめるための「グロー

バルフィールド実習」「自然再生フィールド実習」がコア科目となっています。「グローバルフィールド実習」

「自然再生フィールド実習」はそれぞれ、国外・国内のコアサイトにおける「実習」です。ただし、通常の

実習とは異なり、そこで得たデータを副専攻論文にまとめることを最終目標としています。したがって、野

外調査経験を積むことや調査技術を習得することなど、通常の実習で想定されているレベルよりもはるかに

高い習得目標を設定しています。

主専攻論文をまとめることだけでも大変な状況の中で、博士課程大学院生が果たしてこの要請に応えきれ

るのか、という点が議論になりました。この問題を解決するために、特任スタッフ・事業担当者による学際

的チームによる実習・論文作成、という方針が採用されました。したがって、「副専攻論文」は、チーム共著

論文としてまとめることを基本に考えています。つまり、「副専攻論文」を第一著者として書くことは求めて

いません。第一著者でなくても、大学院生が主専攻分野とは異なるテーマについて実習で取り組み、そのデ

ータ解析に関わり、共著者として論文作成過程に関わることは、学際的人材として育つうえで大きなメリッ

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6 -

このような「副専攻論文」作成に向けての「グローバルフィールド実習」「自然再生フィールド実習」を実

施するフィールドとして、カンボジア、中国(太湖)、屋久島、九大伊都キャンパス+今津干潟、という4つ

のコアサイトを九大側で設定しました。これら4つのコアサイトのうちカンボジアに関しては、9月と1月に、

中国(太湖)に関しては7月と11月に私が現地を訪問して予備調査・調整に参加し、特任スタッフや事業担

当者と協力して「実習」の準備を進めました。屋久島に関しても、12月、1月に現地を訪問して予備調査・調

整を進め、2月中旬にも特任スタッフ・事業担当者による現地視察を実施し、森林、河川、サンゴ礁をつなぐ

学際的研究の進め方について相談します。九大伊都キャンパス+今津干潟については、豊富な調査結果の蓄

積があるので、いつでも実習が開始可能です。平成22年度には、これらのコアサイトを利用した「グローバ

ルフィールド実習」「自然再生フィールド実習」を開講し、「副専攻論文」作成に向けての教育をスタートさ

せます。

東大では、モンゴルと三方湖をコアサイトに設定しています。これらのサイトの「グローバルフィールド

実習」「自然再生フィールド実習」への活用、とくに東大と九大の連携による教育・研究の展開は、今後の課

題です。この課題については、今回の合同シンポジウム中に、九大と東大の教員による会議を開催し、具体

化を進めます。

「グローバルフィールド実習」「自然再生フィールド実習」はまず4つのコアサイトでスタートさせますが、

将来的には、他のサイトでも実施したいと考えています。カザフスタンでは、ハナバチに関する海外調査が

計画されており、この調査の予算が確保されれば、カザフスタンでの「グローバルフィールド実習」を企画

したいと考えています。また、九大では演習林スタッフが事業推進担当者に加わっており、演習林を活用す

ることも重要な課題です。5年間の事業期間中には、演習林を活用した教育・研究成果をあげたいと考えてい

ます。また、渡り鳥の衛星追跡という、特定のサイトにベースをおかないテーマについても、「グローバルフ

ィールド実習」を企画できればと考えています。すでに昨年 7 月に、クロツラヘラサギに発信機を装着する

ための調査を韓国で実施し、これに大学院生も参加しています。この調査で発信機を装着したクロツラヘラ

サギが現在、博多湾を訪れています。このテーマに関しても、研究としての成果に結びつけると同時に、「副

専攻論文」に結びつける教育に生かしたいと考えています。

新しい研究分野の展望

グローバルCOEプログラムでは、大学院教育を軸とする事業ですが、教育の成果を出すだけでなく、教育

を通じて新しい研究分野を展開することが期待されています。この点に関しては、拠点リーダーがリードし、

担当者がそれに従うというものではなく、多様なスキルを持つ事業推進担当者・特任スタッフがそれぞれに

ビジョンを考え、議論を通じてビジョンを共有していくことが重要だと思います。ここでは、このような議

論の素材として、私の考えを述べます。

4つのコアサイトに共通するテーマとして、種多様性の空間的パターン(分布パターン)をモデル化し、

気候変動や土地利用などの変化の下での将来を予測する、という課題があります。このような予測を行うう

えで、(1)一般化線形モデルなどによる分布のモデル化、(2)生物の形質と分布・絶滅リスクの関係のモ

デル化、(3)DNA 系統解析による種間比較統計、を組み合わせることが重要だと考えています。これら3

つのアプローチは独立に発展してきました。これらを統合して、種の絶滅リスク評価や、保全対策の効果を

見積もるための方法論を開拓することが、これからの課題です。この課題はすでに顕在化しているので、こ

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7 - 色を出すことも重要ですが、一方で国際協力も重要です。

GEO BONは、生態系・生物多様性のさまざまな情報をオープンリソースのデータベースに統合するととも

に、これらを解析して、生物多様性変動の国際評価を進めようという大きなプロジェクトです。2月下旬には、

カリフォルニア州アシロマでGEO BON Big Meetingが開催され、10年間の実施計画が議論されます。私は、

Genetics Working Groupの共同議長の一人として、遺伝的多様性国際観測計画を提案しています。この国際

計画には、種内の遺伝子多様性だけでなく、種間の系統的多様性や、生態系レベルでの形質多様性について

の国際観測も含めています。このような国際観測をリードし、共通の方法論による国際共同研究を推進する

ことがとても重要な課題だと考えます。

アジアでは、GEO BONに呼応するアジア太平洋地域のネットワークとして、AP-BONが組織されました。

3月21-23日に開催されるCOP10プレコンファレンスの3日目に、第3回ワークショップが開催され、実行計

画が議論されます。実行計画の中では、アジア太平洋地域におけるレッドデータブックの作成など、具体的

なアウトプットを定め、実行体制を決めていきます。カンボジアや中国のコアサイトでの教育研究の成果を、

アジアの他の地域で得られている結果、衛星画像による広域観測、土地利用の変化などに関する社会科学的

統計などと統合し、AP-BON における広域評価にむすびつけていくことは、非常に重要なチャレンジだと考

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8 -

生物多様性政策が求める保全生態学の研究課題

鷲谷いづみ 東京大学大学院農学生命科学研究科

指標を用いた現状の分析と評価

生物多様性/生態系の危機にかかわる問題の解決にとっては、科学的な現状の認識、分析・評価とそれに

もとづく将来予測が必要不可欠である。生物多様性/生態系の現状について広く情報を集めて科学的、客観

的な分析・評価を試みた例として、ミレニアム生態系評価(MA)と生物多様性条約事務局がまとめた「地球

規模生物多様性概況」(GBO2 2006 GBO3 2010 公表予定)がある。これらは、評価実施時点までの科学

的文献、報告書などを広くカバーしており、地球規模での生態系・生物多様性に関する総合的な知見を提供

するものとなっている。

生物多様性は、さまざまな要素を含む複雑な実体である。問題の解決につながる政策の立案やその効果の

検証には、対象とする生物多様性・生態系そのものだけでなく、それらにかかわる自然の要素やシステムと

人間社会との複雑で動的な関係を把握する必要がある。評価には、多くの適切な指標が必要である。指標と

しては、生物多様性の状態を示すもののみならず、状態を変化させる直接的な要因、その要因をもたらす社

会的な駆動因、影響として捉えられる生物多様性の変化、それに対する対策を含む社会の応答など、生物多

様性の喪失・劣化と人間社会の関係全体を視野に入れた多様な指標群が求められる。生物多様性条約の戦略

目標の達成度の評価には領域別にいくつかの指標が提案されている。利用できるデータに制約があり有効な

指標が十分に利用できないという現状がある。なお、名古屋市で開催されるCOP10では、「2010年までに生物

多様性の減少速度を顕著に低下させる」という目標の達成状況に関する評価をもとに、あらたな戦略目標が

設定されることになっている。新たな戦略目標が立てられる際には、その内容に応じて新たな指標が必要で

ある。なお、生物多様性の状態指標として地球規模で利用可能なものは、IUCN のレッドリストおよび LPI

(Living Planet Index)である。いずれにおいても、多くの種を対象とした評価がなされている分類群は脊椎

動物に限定されている。生態系の構造をつくり、食物連鎖と腐生連鎖の起点になる植物の状態を生物多様性

と生態系サービスの観点から把握するための適切な指標や広域的に状態を把握するための手法が十分に開発

されていないという問題がある。

そのため、リモセンや既存の土地利用データなどから植生の「状態(生物多様性と生態系サービスの観点

からの)」を把握するための手順や指標の検討は、現在、もっとも社会的ニーズの高い研究テーマであると思

われる。保全生態学研究室では、まだ小さなスケールではあるが湿地の植生や絶滅危惧種、侵略外来種など

の分布をハイパースペクトル画像から推定する研究を実施している。衛星データをもちいて、国土の植生を

適切な分類基準(生物多様性と生態系サービスの視点から十分に詳細な)でリアルタイムに近い時間スケー

ルで把握するための研究を加速させることが必要である。

協働モニタリング/参加型モニタリングプログラム

生物 多様性 保全 上重要 な生 物種や 外来 生物 の動 的な分 布を 広域に わた って把 握す るこ とは 、研究 者だけ

の 努力 では難 しい 。適切 なプ ログラ ムを 開発 する ことで 、市 民など 多様 な主体 の参 加に よっ てその ような

(9)

- 9 -

-

9 - と って は分析 や予 測に利 用で きる広 域的 で質 の高 いデー タを 得る機 会に なるよ うな 協働 モニ タリン グプロ

グ ラム を研究 する ことも 重要 な課題 であ る。 保全 生態学 研究 室では 、双 方向で の情 報の やり とりを どのよ

う にし て行う かに 関して 情報 科学分 野の 研究 者の 協力を 得な がら、 侵略 的外来 生物 セイ ヨウ オオマ ルハナ

バ チ( 在来マ ルハ ナバチ も含 む)お よび 首都 圏の 蝶の参 加型 調査を 実践 的に研 究し 、得 られ たデー タを動

的な分布予測などに用いている。

生物多様性を生かし活かす農業のための研究課題

欧州では、1990年代からEU指令にもとづき農業環境政策において、生物の生育場所の保全・再生を重視す

る方向性が強められてきた。各国の個別の事情や生態系の現状の違いによって政策は多様であるが、英国の

環境スチュワードシップ政策にみられるように、生物多様性の保全と持続可能な利用を強く意識した環境直

接支払いの制度が拡充されつつある。それに伴い、農業分野における生物多様性の指標と現状評価、保全計

画などに関する研究が活発化している。日本においては、これらについてもまだ萌芽的な研究成果しかなく、

今後強化すべき分野である。保全生態学研究室では、農業生態系のいくつかのハビタット(畦畔、ため池、

小流域の水系ネットワーク)の各要素の保全上の重要性を評価するための研究を実施するとともに、環境保

全型の稲作が行われている地域で、「保全生態学理論にもとづく総合的な害虫防除」に寄与する基礎研究を進

めている。

生物多様性の保全と気候変動対策のシナジー

気候変動が生態系と社会に今後ますます深刻な影響をもたらすことが予測されており、国際的にも国内で

もそれに対する対策が強化されようとしている。気候変動の緩和策としては、化石燃料由来の温室効果ガス

排出の大幅削減はもとより、有機炭素の貯蔵庫としての森林,湿地,土壌の保全と再生を重視する必要がある。

熱帯雨林のような生物多様性が高く同時に炭素の貯留機能も大きい生態系を保全すれば、気候変動の緩和に

寄与するだけでなく、生物多様性の喪失も緩和できる(IAP 2009)。一方で、気候変動の被害を軽減するため

の「適応策」の実施が生物多様性を損なうことのないよう十分な配慮が欠かせない。また、河畔や沿岸の自

然植生が、津波などの災害から地域社会を守る効果が高いことなどを考えれば、自然植生の保全は、効果の

高い気候変動への適応策とみなすことができるだろう。温暖化対策と生物多様性の保全は、相互に矛盾なく、

双方にのぞましい効果がもたらされるよう計画・実行される必要がある。そのためには科学的に解決しなけ

ればならない課題が多い。Tilmanなどアメリカ合衆国の研究者は、バイオ燃料に関する長期的な炭素負荷の

評価など、重要な貢献をしているが、日本ではこのような分野の研究は不活発である。世界的にも注目され

ている多年生草本のエネルギー植物のオギ、ススキ、ヨシ、ササなどは伝統的にも持続可能な利用がなされ

てきた植物資源であり、気候変動緩和策と生物多様性保全と持続可能な利用の両方に寄与するシステムがつ

くれる可能性がある。

なお、生物多様性の保全は、気候変動に対する人間社会の適応策として効果が大きいが、生物多様性を脅

かす要因は、気候変動、生息・生育場所の消失・分断孤立化、汚染、外来生物の影響など多様であり、それ

らが相互に複合しながら作用することで生物多様性と生態系サービスを失わせつつある。その全体を把握し、

取り除きやすく、それを除去することの効果が高い要因を取り除く対策を重視することが必要である。要因

ごとに、直接的操作による対策の難易度に大きな違いがあり、有効な取り組みの空間的スケールも大きく異

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-

10 - 多様性への影響要因としての重要性を増すことが予測されている気候変動に対しては地球規模での国際的な

連携のもとでの緩和策が欠かせないが、農薬や肥料による汚染に対しては流域規模での総合的な対策が有効

である。侵略的な外来生物の影響排除は、それらに比べればはるかに局所的な範囲の実践でも在来生物の絶

滅リスク低減などの効果をもたらすことができる。また、効果を比較的直接に確かめることができ、科学的

な現状評価や予測など、生態学が取り扱える課題が多いことから、保全生態学が地域との協働で取り組むテ

ーマとして適している。その場合、侵略的外来生物の効果的な排除のための実践的な研究を行うことになる。

また、今後重要になると思われるのは、環境影響評価法の改定に伴い、SEA「戦略的アセスメント」にお

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-

11 -

東アジアにおける鳥の渡りと生息地ネットワーク

樋口広芳 東京大学大学院農学生命科学研究科

鳥類の多くは、何千kmあるいは1万km以上にもおよぶ繁殖地と越冬地の間を、毎年、往復移動する。ま

た、高次消費者である渡り鳥は、各渡来地で生態系の構造と機能を保つ上で重要な役割を果たしている。こ

うした鳥たちが減少、あるいは絶滅することになれば、それらを介した生物間の相互作用が機能しなくなり、

渡る先々の生態系の健全性が損なわれる可能性がある。その意味で、渡り鳥の保全は、かれらによって連結

されている各渡来地の生態系保全に深くかかわっている。一方、渡り鳥は、その高い移動性により、さまざ

まなものを中~長距離運搬する可能性をもっている。広範囲に移動分散することがむずかしいと思われる湖

沼の水生植物や無脊椎動物が、カモ類などの水鳥によって運搬される可能性が指摘されている。また、近年

問題になっている高病原性鳥インフルエンザウイルスや西ナイル熱ウイルスの拡散にも、渡り鳥がかかわっ

ている可能性がある。そういう意味で、現在、渡り鳥の移動についての研究は、広域にわたる生態系の保全

や、人間の産業や健康にかかわる問題としてきわめて重要性の高いものとなってきている。

渡り鳥の研究を行うためには、当然のことながら、対象個体の移動を時空間的に追跡することが必要とな

る。繁殖地と越冬地を特定するという、ふたつの点情報だけでなく、途中の移動経路の詳細や、一時的に利

用される中継地をもふくめた位置に関する情報、そして、それらの場所に対象個体がいつ存在したかという、

時間に関する情報を、追跡個体が地球のどこにいようと正確に把握することが不可欠である。人工衛星を利

用した移動追跡(以下、衛星追跡)は、広範囲かつ長期間に及ぶ渡り鳥の移動の実態を明らかにできる画期

的な、そして、今のところ唯一の調査手法である。衛星追跡によって得られる鳥の位置および時間データを

解析することにより、鳥の移動様式や滞在地の位置といった情報を通じて、生息地間のネットワークともい

える状況を明らかにすることができる。

本講演では、まず衛星追跡手法の概要を述べたのち、東アジアを広範囲に移動するツル類、コウノトリ類、

カモ類、ハクチョウ類、タカ類などを対象に、渡りの実態と生息地間の結びつきを明らかにする。ここでは、

種やグループによって、渡り経路や生息地間の結びつきが大きく異なることが示される。次に、ロシアで繁

殖し中国南部で越冬するコウノトリ、日本と東南アジアの間を特異な移動経路で渡るハチクマ、ロシア北極

圏から日本に渡来するコハクチョウを対象に、広範囲に及ぶ環境変化が渡り経路や生息分布、個体数に及ぼ

す影響を紹介する。コウノトリでは、想定される環境破壊にもとづく渡り経路の分断過程を明らかにする。

具体的には、ネットワーク解析によって、中国東海岸の中継地が消失することで渡り経路が南北に分断され

る過程が示される。ハチクマについては、気象条件と渡り経路との関連についての解析結果を紹介する。と

くに、東シナ海の 700kmにおよぶ海域の利用と春秋の気象条件との関連が明らかにされる。コハクチョウに

ついては、繁殖地、中継地、越冬地の気候変化が個体数に及ぼす影響を明らかにする。この種では近年、個

体数が急増しており、それには、繁殖地や越冬地での気温上昇、それにもとづく降雪量の減少、採食域の拡

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- 12 -

-

12 -

生態系動態とヒトの選択動態のカップリング:湖水の水質管理を例に

巌佐庸 九州大学大学院理学研究院 生物科学部門

生物多様性保全、より一般に生態系の保全および管理において重要なことは、生態系が人間活動の影響を

強く受けるだけでなく、生態系の変遷によって人間活動も変化することである。また最近の実験社会科学の

進展により、人々の行動選択は旧来の経済学理論に仮定されてきた経済利得の最大化では説明できないこと

が明らかになってきた。ここでは湖水の水質管理に関する話題を例として取り上げ、生態的なダイナミック

スとヒトの選択によるダイナミックスを結合させた系の理論解析を紹介したい。

湖の富栄養化を抑制するには、リンなどの栄養塩類流入量をおさえることが重要で、しばしば地域住民、

事業所、農業従事者など多数の人々による協力が必要になる。しかしそれぞれのプレイヤーの協力への意欲

は他のプレイヤーの協力程度に依存し、またその社会における湖水環境への関心の程度に依存する。

モデルの仮定は以下の通りである:多数のプレイヤーがいてそれぞれに、リン流出量の少ない協力的なオ

プションとリン流出量が多い経済的なものいずれかをとる。この行動の選択は、経済的コストと環境改善へ

の協力の意欲を示す「社会的圧力」によ って決ま

る。後者は一定ではなく、水質汚染が進 むほど社

会的関心がたかまって強くなる、また集 団中の他

のメンバーが協力的なほど強まる、とい う2種類

の頻度依存性をもつ。後者の同調性

(conformity)のために人々の協力レベ ルは履歴

効果をもつ(社会的ヒステリシス)。

一方で、富栄養であるほどプランクト ン が 増 え 、

湖底が暗くなり、結果大型水生植物群落 が 消 失 し

て湖底からのリンの巻き上げが速まり、 そ れ が 植

物 プ ラ ン ク ト ン を 増 や す と い う フ ィ ー ド バ ッ ク

がある。このために湖沼生態系も履歴効果を示す(生態的ヒステリシス)。

これら2種類の履歴効果が絡み合う結果、多数(最 大9個)

の平衡状態が出現したり、大きな振幅と長い周期の振 動が生じ

たりする。これらは非線形力学が示す典型的な挙動で ある(右

図参照)。

このモデルを調べることによって以下の結果が得ら れた。

第1に、湖水の流入するリンの量を削減するとか湖 水からリ

ンを除去することによって、湖水中に含まれるリン量 が増えて

汚染が進むという意外な結果が得られる(栄養塩除去 のパラド

ックス)。これは人々の環境に対する関心が失われてし まうこと

によって生じる。つまり機械的に除去するだけでは湖 水管理は

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- 13 -

-

13 - あることを示す。

第2に、社会的なプロセスを政策的に変更することによって湖水の水質を改善する手段を比較した。具体

的には、(1)補助金を出して協力オプションのコストを下げる、(2)環境教育や宣伝によって人々が環境の汚

染に関心を向けるように喚起する、(3)人々が互いに出会う機会を設け共同体を強化する、の3つを比べた(そ

れぞれ異なるパラメータの変化に対応する)。いずれでも水質改善は可能であるが、共同体を強化することに

よって人々の間の同調性を高めることが、もっともロバストに水質改善を実現できるという結論が得られた。

第3に、人々が複数のグループに別れてそれぞれの間で環境に対する興味と協力のレベルに大きな違いが

現れるというコンフリクト状況を解析した。集団間でのパラメータに何らの差がない場合でも広い初期値か

ら片方が強く協力した方が協力しないというコンフリク ト平衡に

収束する。これを防ぐための手段を解析した結果、集団 間におけ

る同調性を高めることがコンフリクトを解消する上に最 も効果が

あることがわかった。

生態系動態と社会/経済動態のカップリングの別の例 として、

森林伐採に関するモデリングを簡単に紹介する。外部性 による波

状の伐採進行や情報不足による不安定などが示される。 森林伐採

のモデルでは、将来に受け取れる利得を割り引く率が重 要 に な る 。

森林モデルは土地が私的所有であるために湖水の管理の 場合とは

違って同調性を考慮せずとも環境を配慮した行動が説明 できる。

全体として、環境問題には、人々が短期的にはコスト がかかる

が長期的には利益を享受できるという「協力

(cooperation)」という側面がしばしば重要であることと、 人々は旧

来の経済学理論では無視してきた公益へ寄与への意欲が ある。自

然資源(環境)管理を成功させるためには、共同体の仲間への同調性、相互評価、相互監視などの要素を十

分に考慮することが必要である。

Paradox of nutrient removal in coupled socio-economic and ecological dynamics for lake water pollution. by Yoh Iwasa (Dept. Biology, Kyushu Univ., Fukuoka, Japan)

We study coupled socio-economical and ecological dynamics for lake water pollution. Players choose between cooperative (but costly) option and economical option, and their decision is affected by the fraction of cooperators in the community and by the importance of water pollution problem. When an opportunity for choice arrives, players take the option with the higher utility. This social dynamics is coupled with the dynamics of lake water pollution. First, oscillation of large amplitude is generated if social change occurs faster than ecosystem responses. Second, the model can show "paradox of nutrient removal". If phosphorus is removed more effectively either from the inflow or from the lake water, the pollution level may increase (rather than decrease) due to the decline in people's willingness to cooperate. Third, we compare the effectiveness of alternative methods in improving water quality: to reduce the cooperation cost by subsidy, to enhance people's concern to water pollution problem, and to promote the conformity among people. We also discuss how to reduce the conflict among people.

湖水:

[1] Iwasa, Y., T. Uchida, and H. Yokomizo. 2007. Nonlinear behavior of the socio-economic dynamics for lake water pollution control. Ecological Economics 63: 219-229.

[2] Suzuki, Y., and Y. Iwasa, 2009. Conflict between groups of players in coupled socio-economic and ecological dynamics. Ecological Economics 68,1106-1115.

(14)

- 14 -

-

14 - interaction of two sources of nonlinearity. Ecological Research 24:479-489.

[4] Iwasa, Y., Y. Suzuki-Ohno, and H. Yokomizo. 2010. Paradox of nutrient removal in coupled socio-economic and ecological dynamics for lake water pollusion Theoretical Ecology (in press)

[5] 巌佐 庸・大野ゆかり 2009.「生態系ダイナミックスと人の選択ダイナミックスのカップリング」『生態

系の再生の新しい視点−湖沼からの提案』(高村典子編)共立出版 p.179-218.

森林:

[6] Satake, S. and Y. Iwasa. 2006. Coupled ecological and social dynamics in a forested landscape: the deviation of the individual decisions from the social optimum. Ecological Research21:370-379.

[7] Satake, A., H.M. Leslie, Y. Iwasa, and S.A. Levin. 2007. Coupled ecological-social dynamics in a forested landscape: spatial interactions and information flow. Journal of Theoretical Biology246:695-707.

[8] Satake, A., M. Janssen, S.A. Levin, and Y. Iwasa. 2007. Synchronized deforestation induced by social learning under uncertainty of forest-use value Ecological Economics 63:452-467.

(15)

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-

15 -

トキ再生プロジェクトにおける GIS

の利活用

三谷泰浩 九州大学大

「トキ再生プロジェクト」では,トキ生息環境における営巣環境と採餌環境の側面から得られる水田,河

川,森林の環境情報と住民と連携して地域社会にトキを定着させるための社会的環境情報を適切に統合し,

自 然 的・社 会 的 環 境 に 適 合 し た 持 続 的 な 自 然 再 生 計 画 を 立 案 す る こ と を 目 的 と し て ,多方面にわたる研究

機関(8つの研究グループと,他の複数の研究機関,民間組織)が参画してプロジェクトが進行している。

しかしながら,このプロジェクトでは,各研究に用いる情報をいかに統合し研究者間で共有するか,これら

の情報を住民などにどのように流通させるかが大きな課題となっている。これを解決する1つの手段として,

各種情報を地理空間情報として管理する方法があり,情報の円滑な流通と共有を図るため,また,トキの生

息環境を評価するために非常に有効な方法となりうる。

そこで本研究では,まず,トキ野生復帰のための自然再生計画を支援することを目的として,様々な情報

(水田,河川,森林環境情報)を地理空間情報として整理し,GIS(地理情報システム)を中心にした情報基

盤の構築を行う。さらに構築した情報基盤を用いて集約された各種地理空間情報から GISを利活用し,トキ

の餌資源量,採餌環境,ねぐら環境を空間的に抽出した結果を示す。

(1)「トキGIS」の構築

構築する情報基盤では,組織間

で 情 報 を 流 通 す る た め に 各 々 が

有 す る 情 報 シ ス テ ム が ネ ッ ト ワ

ークを介して結合する。基本構造

は,特定の組織間でのみデータベ

ー ス を 公 開 す る こ と で 情 報 を 共

有する方式である「サーバ/クラ

イアント型」とする。さらに,管

理形式としては,情報を各組織が

各々で管理し,ネットワークを介

し て 相 互 に 互 換 性 が あ る 形 式 で

情報を共有する「半自律型」が望

ましいが,一般の情報とは構成が

異 な る 地 理 空 間 情 報 の 適 切 な 管

理が求められるため,まずは「完

全統合型」としての情報基盤を構

築し,段階的に「半自律型」へと

展開する。

構築した情報基盤は,情報を収

Collecting

Disclosing Management of information

Sharing

Data Sever

Web GIS Server

Portal Site Portal Site Government Local government Public User Manager data data Group A

data

Group B

data

Wikiによる「トキGIS」

Google Earthによる情報発信

WebGISによる情報発信

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16 - 集・管理・配信する機能と各種サーバへアクセスするためのポータルサイト,データを保存・蓄積するため

のデータベースサーバ,地理空間情報を配信するための Web GIS から構成される。システムの概略図を図 1

に示す。このシステムにおいて特に重要となるのが,情報流通の要となるポータルサイトである。今回構築

したシステムのポータルサイトには,①データを管理・保存するデータベースサーバや地理空間情報を配信

する WebGIS サーバへ容易にアクセスできる機能,②地理空間情報をデータファイルとして共有するための

Webサイトとしての機能の2つを持たせる。このポータルサイトは情報を統合するための情報基盤において中

心的な役割を果たすとともに,その役割はプロジェクトの進行に伴い,情報の収集から管理,発信へと多様

化していくため,必要に応じて更新が可能な柔軟性に富んだ構成にする必要がある。そこで,Webサイト構築

ソフトウェアであるWikiシステムを利用したポータルサイト「トキGIS」を構築した。

この結果,従来の一方向型の情報提供・流通ではなく双方向の情報流通が実現された。また,ポータルサ

イトを利用して研究者間での情報の収集・共有状況をリアルタイムに提示することで情報の収集・共有の効

率が格段に向上し,理想的な情報流通を行うことができた。

(2 )トキの餌 資源量,採 餌環境,ね ぐら環境 ,

集約された様々な情報をもとにGISを活用して

トキのねぐら環境と採餌環境として最適な位置を

評価することを試みる。

まず,現地調査などの結果から,水田,河川,

水路の餌資源量分布の予測が実施された。これは,

トキの餌と考えられるドジョウ,ヤマアカガエル,

モリアオガエル,コバネイナゴを対象とした生物

量の分布である。これらの餌資源量の分布図を図

2に示す。この結果は,餌となる生物の観点から

得られた結果である。

さらに放鳥されたトキにつけられたGPSによる

時空間データからトキの行動を分析し,トキが実

際に選好的に採餌を行っている環境要因をロジス

ティック回帰モデルを用いて分析を行った。なお,

使用した環境(地形)因子は全部で11個である。

現在,トキは,加茂湖周辺と羽茂周辺に存在して

おり,それぞれのトキ毎に分析を行った。その結

果,加茂湖周辺では,傾斜方向,林縁長さ,水田

面積,建物面積との相関が高く,羽茂周辺では,

林縁長さ,水田面積との相関性が高かった。その

結果図3に示すようなトキが好む採餌環境を評価

することができた。

(17)

- 17 -

-

17 - また,ねぐらとして利用している環境につ

いても同様の分析を行った。その結果,加茂

湖周辺のトキは,林縁長さ,森林面積,車道

総延長との相関 が高く,羽 茂周辺のト キは,

林縁長さ,森林面積,車道総延長,水田との

距離との相関が高く,図4に示すようなトキ

が好むねぐら環境を評価することができ た 。

以上のように,GIS を用いた分析を行うこ

とで餌資源量,採餌環境,ねぐら環境を定量

的に評価することができ,その結果を空間的

に取り扱うことが可能となった。

今後は,トキ再生プロジェクトの最終目的

で あ る ト キ が 野 生 復 帰 す る た め の 自 然 再 生

計画の立案のために,これらの情報を空間的

に統合・分析し ,自然再生 を行うべき 餌場,

採餌環境,ねぐら環境を特定し,得られた結

果 か ら 具 体 的 な 自 然 再 生 計 画 の 立 案 の た め

の意思決定支援を行う予定である。

a)加茂湖型 b)羽茂型

図4 ねぐら環境分布図

b)羽茂型

a)加茂湖型

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コアサイト紹介:伊都キャンパス-今津干潟

矢原徹一 九州大学大学院理学研究院 生物科学部門

西田伸 九州大学大学院比較社会文化研究院 GCOE特任助教

九州大学・伊都新キャンパスは福岡県福岡市

西区と糸島市(2010年12月に前原市、志摩町お

よび二丈町が合併)をまたぎ、糸島半島に位置す

る。キャンパスのすぐ東側には今津干潟-博多湾

を望む。2000 年 6 月に造成工事が着工され、

2005年 10月の工学部の移転により実際にキャ

ンパスが始動した。現在も整備・移転事業が進

行中である。本GCOEプログラムでは、この伊

都 キ ャン パ ス-今津 干 潟を 国 内コ アサ イ トの一

つとして選定した。糸島半島・今津干潟の豊か

な自然環境、そしてこれまでに蓄積されたキャ

ンパス移転以前、移転後のモニタリングデータ

を活用できる、まさに地の利を生かせるキャンパ

ス=フ ィ ー ル ド と い え る 。 新 キ ャ ン パ ス 用 地 (275ha)の 造 成 に あ た っ て は 、約 100ha の 保

全 緑 地 を 残 し 、 か つ 大 規 模 な 森 林 移 植 や 湿

地 移 植 が 行 わ れ る な ど 、「全生態系保全」-「種

を消失させない」・「森林面積を減らさない」とい

う目標のもと、生物多様性保全事業が推進されて

いる。2004-2006 年度には、学 内 予 算 (P&P)

に よ る プ ロ ジ ェ ク ト 「 生 物 多 様 性 の 保 全 と

進 化 に 関 す る 研 究 拠 点 形 成 」( 代 表 者:矢 原

徹 一 ) が 実 施 さ れ 、 本 GCOE の 教 育 ・ 研 究

プ ロ グ ラ ム の 基 礎 と な る 専 攻 群 間 の 連 携 体

制 が 整 え ら れ た 。 具 体 的 に こ れ ま で に 、 新 キ ャ ン パ ス で は 「 植 物 の 全 種 モ ニ タ リ ン グ 」、「 土 壌

中 種 子 の 年 齢 ・ 遺 伝 的 多 様 性 」、「 哺 乳 類 の 全 種 モ ニ タ リ ン グ(自 動 撮 影 カ メ ラ セ ン サ ス ・ ア ナ

グ マ の ラ ジ オ ト ラ ッ キ ン グ)」 な ど が 、 今 津 干 潟 で は 、「 魚 類 ・ 底 生 生 物 調 査-全 種 イ ン ベ ン ト

リ ー ・DNA デ ー タ ベ ー ス の 構 築 」、「 流 域 に お け る チ ョ ウ 類 モ ニ タ リ ン グ 」、「 炭 素 ・ 窒 素 安 定

同 位 体 分 析 に よ る 食 物 連 鎖 網 分 析 」、「 河 川 工 学 に 基 づ く 干 潟 環 境 調 査 、環 境 変 遷 と そ の 要 因 分

析 ・ 再 生 」 と 理-工-社 会 学 に 渡 る 多 様 な 研 究 お よ び 教 育 プ ロ グ ラ ム が 遂 行 さ れ て い る 。 本 発 表

で は 、 こ れ ら 成 果 の 概 要 と 、 筆 者 ら が 「 今 津 干 潟 」 プ ロ ジ ェ ク ト の 一 つ と し て 取 り 組 ん で い る

「 カ ブ ト ガ ニ の 系 統 地 理 学 的 解 析 」、 そ し て 本 GCOE プ ロ グ ラ ム に お い て 計 画 中 の 研 究 ・ 教 育

プ ロ グ ラ ム に つ い て 紹 介 す る 。

伊都キャンパス:生物多様性ゾーンと今津干潟 今津干潟

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コアサイト紹介:屋久島

矢原徹一 九州大学大学院理学研究院 生物科学部門

屋久島は、九州本島の南およそ60kmに位置する島である。周囲約100kmの小さな島だが、中央部には1936m

の宮之浦岳を筆頭に、1900m をこえるピークが連なる。その結果、亜熱帯域から冷温帯域までの植生の垂直

分布が見られ、しかも冷温帯域には樹齢千年をこえるスギ天然林が発達している。このような植生の独自性

は国際的にも評価を受け、ユネスコ世界自然遺産に選定されている。森林に関しては、多くの生態学者によ

って長期研究が行われており、ヤクザルの生態に関する長期研究が継続されている場所としても有名である。

また、植物には約80の固有種・亜種・変種や、多くの希少種・絶滅危惧種が見られ、系統分類学や進化生物

学の研究が活発に進められている。河川には独特の天然アユ集団が見られ、沿岸には良好なさんご礁が発達

している。これらの点で、生態学・系統分類学・進化生物学などの研究フィールドとして、国際的に見ても

第一級の価値を持つ島である。

この屋久島の生態系に、近年さまざまな異変が報告されている。第一に、ヤクシカが急増し、絶滅危惧種の

減少・林床植生の衰退が進んでいる。第二に、大陸からの越境大気汚染物質が高濃度で観測され、ヤクタネ

ゴヨウなどへの影響が生じている。第三に、さんご礁ではソフトコーラルの消失が見られる。第四に、世界

遺産指定後の訪問者増によるオーバーユース問題が顕在化し、登山路沿いの湿地の消失などが進んでいる。

このような異変に対して、島民による調査・保全活動が発展している。1999年に結成されたヤクタネゴヨ

ウ調査隊は研究者と協力して、急峻な地形に生育する絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの生存個体の地図作成を行

うとともに、越境大気汚染物質の観測を継続している。2004年に設立された屋久島まるごと保全協会は、人

を含む屋久島全体の生態系保全を目標に掲げ、ヤクシカの急増下での生態系管理という課題に取り組んでい

る。これら2団体と屋久島町・屋久島環境文化財団は、環境省の助成を受けて2008年に屋久島生物多様性保

全協議会を結成し、調査活動、対策立案、対策への合意形成に取り組み、いくつかの対策を実施に移してい

る。

一方で、環境省・林野庁は、2009 年に屋久島世界遺産地域科学委員会を設立し、世界遺産地域の生態系

の現状に関する科学的評価作業を開始した。また、ヤクシカ急増などの問題に対して、鹿児島県や屋久島町

と連絡調整をはかりながら、調査、対策立案を進めている。

以上のような島民・行政の取り組みが発展する中で、生態系の現状評価と管理対策立案に関して、科学者

への期待が高まっている。屋久島では九大・鹿児島大・京大・総合地球研究所・滋賀県立大・横浜国大・東

大・森林総合研究所・東北大・北大などの科学者による多数の研究プロジェクトが過去に実施され、現在で

も実施されている。しかし、研究プロジェクトどうしの連携は必ずしも十分ではない。

GCOE「アジア保全生態学」では、この屋久島をコアサイトのひとつに位置づけ、副専攻論文作成のため

の調査・実習を進める。世界遺産として評価を受けている自然景観が見られ、研究の蓄積が豊富であり、生

態系異変が顕在化しており、それに対する島民・行政の取り組みが活発に進められている点で、「自然再生フ

ァシリテータ養成コース」の教育研究の場として、格好の条件が整っている。具体的には以下のテーマに関

する研究プロジェクトを進め、これらのプロジェクトを通じて、副専攻論文作成のための調査・実習を行う。

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(2) 屋久島に特徴的な生物のナチュラルヒストリー

(3) 森林・河川・さんご礁の連結性とその保全

(4) 遺伝子・種・生態系機能の多様性の統合観測

(3)(4)に関しては、2月中旬に視察を実施し、プロジェクトの実施計画を現地で相談する。今回は(1)

に関するこれまでの研究成果について紹介し、2009 年度に研究がスタートしたばかりの(2)についても、

予備的知見を紹介する。

屋久島の植物多様性とシカ問題

田川哲 九州大学大学院理学府

屋久島は降水量が多くて起伏が激しく、亜熱帯から亜高山帯までの気候帯を有しており生物多様性が高く、

固有種が多い地域として知られている。屋久島内に生息するヤクシカの個体数が、林道の敷設にともなう移

動ルートと餌場の拡大によって個体数が増加しつつある。ヤクシカの個体数にともなって林床植生の衰退が

懸念されている。生息密度の増加にともなって林床植生に与えることは知られているが、ヤクシカの生息密

度から受ける影響に種ごとの違いはあるのかなどは分かっていない。そこで本研究では屋久島内の植物の分

布の現状を明らかにし、林床に生育する絶滅危惧植物に与えるシカの生息密度の影響を明らかにすることを

目的とした。屋久島内を踏査して絶滅危惧種が生育している地点で絶滅危惧植物の個体数を数える分布調査

を行った。絶滅危惧種の分布調査は1700地点で行った。トランセクト調査を行った場所と絶滅危惧植物の分

布調査を行った場所はGPSで記録した。絶滅危惧種137種を確認してその内訳は、CR:29種、EN:38種、VU:46

種とNT:24種であった。半数以上の分布地点が10地点以下であった。そのうち地上性の種で出現地点数が16

地点以上の27種について絶滅危惧植物に与えるシカの生息密度の影響を明らかにするために、解析を行った。

生育場所の環境要因として標高、降水量、傾斜角度、夏至と冬至の日照時間とシカの目撃密度を用いた。そ

れぞれの環境要因間の相関は低い。合計6つの環境変数と2軸の位置座標の値とそれぞれの2次の項を含め

た16の変数を説明変数、1700地点の在不在を目的変数としてGLM(logit、binominal)で関係を求めた。その

後、AICをもちいたStepwise法で変数選択を行った。選択されなかった変数は、植物の分布に影響を及ぼさ

ないものとした。解析を行った環境要因のなかで、標高がもっとも多くの種の分布を制限する要因であった。

6種がシカの目撃密度から負の影響を受けることが分かり、13種がシカの影響を受けないことが分かった。

ヤッコソウの繁殖生態

川口利奈 九州大学理学研究院 GCOE特任助教

ヤッコソウ(奴草、Mitrastema yamamotoi)はスダジイやツブラジイの根に寄生するヤッコソウ科の

植物で、日本では徳島県から琉球諸島にかけて分布する。自生地が国や県の天然記念物に指定されるな

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-

21 - 非常に高く、低標高の照葉樹林の林床にしばしば大集団が見られる。ヤッコソウの特徴は、開花期の特異的

な形態である(図1)。開花した花ははじめ雄性期で帯状の葯か

ら花粉を出すが、やがて筒状の雄ずいが抜け落ち、雌ずいが現れ

る。「奴」の腕に当たる鱗片葉の中には多量(数百μl)の蜜がた

まる。この独特の花の形態は、ヤッコソウの送粉と種子散布にど

のように役立っているのだろうか。しかし、ヤッコソウの送粉に

ついてはメジロなどの鳥類やスズメバチが花を訪れるという観察

例はあるものの、詳細な調査は行われておらず、誰が有効な送粉

者なのかが未だにわかっていない。また種子散布期のヤッコソウ

の生態については、記載さえほとんどない。そこで我々は、送粉

者と種子散布者を明らかにする目的で、2009年11月の開花期と

2009年12月〜1月の種子散布期にヤッコソウ集団のインターバル撮

影とビデオ撮影をおこなった。その結果、寄主から養分を得るこ

とのできる寄生植物ならでわの、多量の蜜分泌に支えられた送粉

および種子散布過程が明らかになりつつある。同時に、食物資源

が乏しくなる冬期の照葉樹林において、ヤッコソウの蜜がさまざ

まな動物にとっての重要な食物資源になっている可能性も示唆さ

れている。来シーズン以降も詳細な送粉および種子散布過程の調

査を継続し、ヤッコソウの繁殖生態の解明を目指す。豊かな森と

そこに住む動物たちに支えられたヤッコソウの生活史を明らかにすることで、市民にもわかりやすく屋久島

の自然の価値を印象づけられる素材を提供できると考えている。

キイチゴ属の浸透交雑

三村真紀子 九州大学理学研究院 GCOE特任助教

生物種とは、地球上で起こる様々な環境変動に呼応して、隔離・分化・接触し、遺伝的に非常に動的なユ

ニットである。屋久島では、標高勾配に適応分化しているRubus属の近縁種とその交雑帯を対象とし、人工

および自然環境変動下における形質と遺伝子浸透のダイナミクスを研究している。遺伝子浸透を経たニッチ

動態から、生物多様性の成立と維持機構の解明に取り組む。本日は、本研究の構想とその展望、および進捗

状況を紹介する。

図 1:開花期のヤッコソウ。中央に 写っているのが雌性期の花で、その

左右が雄性期の花。手前の地面に落

(22)

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海外コアサイト(森林生態系)

・カンボジア

加治佐 剛 九州大学大学院農学研究院 GCOE特任助教

カンボジアの国土面積は18万km

2

(日本の約半分)、人口は約1340万人である。国土全体の森林率は55.3%

で近隣 諸国 に比べ ると まだ豊 かな 自然 が残 ってい る。 降水量 は中 央低地 帯の 比較 的降 水量の 少な い地域で

1000~1500mm程度、山岳丘陵地帯ではそれよりも多くなり、いずれも明確な乾期が存在する。低地帯周辺に

は、乾期に落葉するフタバガキ科の植物が優占する落葉林が、山岳丘陵地帯のうち降水量の多いところには

常緑林が広がる。

カンボジアでは、主に 3 つの異なる森林管理形式があり、天然林択伐林業、コミュニティ林業、早生樹林

業である。天然林択伐林業とは、天然林内に存在する大径木(直径 60cm 以上)を選択的に伐採する方式で

ある。一斉皆伐に比べ大きな攪乱がなく、公益的機能の発揮の面でいろいろな利点を要する。コミュニティ

林業とは、1990年代以降に導入された商業伐採を主体とする政府主導のトップダウン型森林管理に代わる地

域住民の参加によるボトムアップ型の森林管理であり、環境保全と貧困対策を目的としている。早生樹林業

は、完全に人工的に造成された単一樹種の森林である。G-COEでは、早生樹林業のうちゴムプランテーショ

ンに注目する。ゴムプランテーションによる天然ゴム生産はカンボジアの経済発展だけでなく、天然ゴム製

品の長期利用を含めた炭素固定機能は気候変動防止に大きく寄与するものである。このように 3 つの管理方

式によって形成された森林生態系では異なる生態系サービスが提供される。

G-COEでは、まず、これら3つの管理方式の下での物質・水循環モデリングと生物多様性の変化を評価す

る。物質・水循環モデリングでは、ゴムプランテーションを中心に個葉レベルのガス交換特性の把握から単

木レベルの樹液流計測、さらには微気象観測タワーによる群落レベルの水・熱・炭素交換量の観測を行い、

これまでの水文観測点と連携して熱帯アジアの水循環機構を明らかにする。生物多様性については植物相と

昆虫相を対象に、基礎情報の整備や群集生態学的解析を行い、衛星画像を用いた森林変化解析と絡めながら

人間の利用下での生物多様性変動予測モデルを開発する。

G-COEで対象とする3つの森林は熱帯アジアを代表する森林である。ゴムプランテーションはカンボジア

だけでなく東南アジアの国々の経済にとって外貨獲得の鍵であり、拡大の一途をたどっている。一方、カン

ボジアの人口増加率は 1.54%と他の東南アジアの国々よりも高く、今後さらなる人口増加が予想されるため、

地域住民による森林に対する需要は高まると考えられる。このような状況下で、生物多様性を保全するため

には、生態側からの視点だけでなく、社会的要求を考慮しなければならない。G-COEでは、これらの生態的

条件と社会経済的要求を満たす生態・社会系カップリングモデルを開発する。

上記のような物質・水循環から生物多様性、遺伝子レベルからランドスケープレベルまで、さらには社会

科学的な要素を取り入れた研究をベースに森林の生態系機能・種・遺伝子多様性の保全と森林利用の両立を

(23)

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北東アジアの生態系再生とモンゴルコアサイトの役割

大黒俊哉 東京大学大学院農学生命科学研究科

全陸地の約4割を占める乾燥地は、草原・砂漠など陸域生態系の重要なバイオームを構成し、20億を超え

る人々の生活の場を提供している。乾燥地の生物多様性がもたらす生態系サービスは、乾燥地の人々の暮ら

しを支えるとともに、生物資源、観光・文化資源の提供や気候調整などを通じ、乾燥地以外の人々の暮らし

にも大きく貢献している。しかしながら、脆弱性の高い乾燥地の生態系においては、過剰な利用により植生

退行、土壌侵食や土地生産力の低下が進み、いわゆる「砂漠化」が各地で問題となっている。砂漠化はロー

カルな生物多様性と生態系サービスの提供に大きな影響を与えると同時に、地球温暖化等のグローバルな環

境問題とも深く関連していることから、近年では国際社会においても、砂漠化、生物多様性、気候変動とい

った環境関連条約間での連携強化が強く求められている。アジアに目を向けると、中国内蒙古からモンゴル

にかけて広大な草原と砂漠が分布し、多様な生物相が独特の生態系を形成するばかりでなく、ダストストー

ムの発生と黄砂の飛来にみられるように、日本を含む東アジアの環境と人々の暮らしにも大きな影響を及ぼ

す。そのため、アジアスケールでの生物多様性保全、すなわち「アジア保全生態学」を展開するうえでも乾

燥地生態系は重要な位置を占めるといえる。

北東アジアの草原地域では近年、市場経済化の進展や畜産物に対する需要増加にともない、伝統的な遊牧

をはじめとする従来の土地利用システムは大きく変容し、草原の荒廃化や生物多様性の減少が急速に進行し

ている。草原の荒廃防止と持続的な生産活動を両立させるためには、生態系サービスの安定的な供給が可能

となるような、生態系機能の再生と、それらの持続的管理が不可欠であり、乾燥地生態系の保全と持続的利

用に向けた科学的知見の集積と統合が求められている。東京大学大学院農学生命科学研究科は、2003年にモ

ンゴル国立農業大学と国際学術交流協定を締結し、21世紀COEプログラム「生物多様性・生態系再生研究拠

点(拠点リーダー:鷲谷いづみ)」における海外拠点として同大学に生態系研究センターを開設し、これまで

北東アジアの乾燥地生態系を対象としたさまざまな共同研究を実施してきた。環境省地球環境研究総合推進

費「北東アジアにおける砂漠化アセスメントおよび早期警戒体制構築(EWS)のためのパイロットスタディ」

(代表:武内和彦)では、統合モデルをプラットフォームとして、広域スケールと局地スケールにまたがる

砂漠化の基準・指標、砂漠化モニタリング・アセスメント、砂漠化EWSの統合化を行い、その成果を国連砂

漠化対処条約の締約国会議において提案した。また、同「北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態

系サービスの回復に関する研究」(代表:大黒俊哉)では、砂漠化した土地の生態系再生と持続的な生物資源

利用を両立させるための、地域スケールでの環境修復指針の提示を目指して研究を進めている。

気候的極相としての広大な草原・砂漠はまた、生態学研究の絶好のフィールドを提供してくれる場でもあ

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参照

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