.
... .
.
.
国際金融
unit 14為替介入の方法と効果
為替介入の目的
unit 7で述べたとおり、固定相場制度を採用する国では、通
貨当局は公定相場を維持するために、為替市場に介入する義 務をもつ。
たとえば、1973年以前の日本では、公定相場を1ドル=360 円とする固定相場制度が採用されていた。
これを図示したものが、図5-1である。
為替介入の目的
為替介入の目的
当初、需要曲線と供給曲線が点Aで交わっていたとする。 ここで、何らかの理由でドルに対する需要が増加し、需要曲 線が右側にシフトしたと想定する。
このとき1ドル=360円の公定相場のもとでは、ドルに対す る超過需要が発生するため、市場為替レートは点Bで決定さ れ、円安・ドル高が発生する。
このような場合、日本の通貨当局(日本銀行)は、円安・ド ル高を抑え、公定相場を維持するため、超過需要を相殺する ドルを為替市場に供給する円買い・ドル売り介入を行う必要 がある。
この際、供給曲線が右側にシフトし、点Cにおいて公定相場
為替介入の目的
一方、変動相場制度は、原則として、為替レートを為替市場 における外国通貨に対する需給関係に任せて決定する制度で ある。
しかし、変動相場制度下においても、通貨当局が、為替レー トの急激な変動を避け、為替レートを安定化させる目的ゃ、 為替レートをある水準に誘導する目的で、為替介入が行われ る場合がある。
為替介入の目的
為替レートを安定化させるためには、市場とは逆方向に介入 する必要がある。
たとえば、為替市場で円買い・ドル売りが行われ、急激な円 高・ドル安が進んでいるときに、これを避けようとするなら ば、通貨当局は市場の流れとは逆方向の円売り・ドル買い介 入を行う必要がある。
このような、市場の流れとは逆方向に介入する場合を、風向 きに逆らう介入 (leaning against the wind) または、抑制介 入と呼ぶ。
為替介入の目的
一方、為替レートをある目標水準に誘導しようとする場合に は、市場の流れと逆方向への介入と市場の流れに沿った介入 を使い分ける必要がある。
たとえば、為替市場で円買い・ドル売りが行われ、円高・ド ル安が進んでいるときに、目標為替レートが、現在の為替 レートよりも円安・ドル高の水準であれば、風向きに逆らう 介入をする必要があるが、目標為替レートがさらなる円高・ ドル安水準にあれば、市場の流れと同じ円買い・ドル売り介 入を行い、市場の流れを後押しする必要がある。
市場の流れに沿った介入を風向きに沿った介入(leaning behind the wind) または促進介入と呼ぶ。
為替介入の方法
為替介入の方法には、不胎化せざる介入と不胎化介入の2通 りがある。
為替介入の方法
不胎化せざる介入は、たとえば、為替レートで円高・ドル安 が進んでいるときに、過度な円高・ドル安をさけるため、円 売り・ドル買い介入が行われたとする。
この為替介入に伴う通貨当局のバランスシートの変化を示し たものが図5-2である。
通貨当局が、為替市場からドルを購入するならば、通貨当局 が保有する外貨準備が増大する。
また、これと同時に円をうる(円を供給する)ため、現金通 貨が増大しハイパワード・マネー(ベース・マネー)が増大 する。
為替介入の方法
為替介入の方法
ここで、ハイパワード・マネーが増大するならば、マネーサ プライが増大するため、国内の一般物価水準が上昇すること に注意が必要である。
通貨当局が、マネーサプライの変化により、国内の一般物価 水準が変化することを望まない場合、外貨準備の変化を相殺 するように国内信用残高を変化させればよい。
このような介入を不胎化介入と呼ぶ。
為替介入の方法
たとえば、先の礼において、通貨当局が円売り・ドル買い介 入を行う場合、これと同時に通貨当局が保有している国債 を、外貨準備の増加分に相当する額だけ売るというオペレー ションを行うならば、ハイパワード・マネーを一定に保つこ とができる。
この不胎化介入に伴う通貨当局のバランスシートの変化を表 したものが図5-4である。
為替介入の方法
為替介入の効果
不胎化せざる介入においては、ハイパワード・マネーの増大 を通じ、マネーサプライが増大する。
このとき、伸縮的マネタリー・モデルに基づけば、為替レー トがマネーサプライの増加率と同率減価する。
一方、硬直的マネタリー・モデルに基づけば、名目金利が低 下することを通じ、為替レートは、オーバーシューティング により、マネーサプライの増加率以上に減価する。
しかし、不胎化介入においては、マネーサプライは一定であ るため、上記のようにファンダメンタルズの変化を通じ、為 替レートに影響を与えることはできない。
為替介入の効果
それでは、不胎化介入が為替レートに影響を与える経路は 何か。
第1に、直接的な経路として、為替介入により、通貨当局に よる円売り・ドル買いが行われるため、為替市場の需給を通 じて、為替レートが円安・ドル高になる経路が考えられる。 しかし、現実的には、為替市場全体の取引額に対する通貨当 局の取引額は微々たるものでしかないから、この経路による 効果は小さいと考えられる。
為替介入の効果
第2の経路として、ポートフォリオ・バランス効果がある。 ポートフォリオ・バランス・モデルによって説明する。
it+ρ( etB
t∗
Bt
)
=i∗t +e
e t+1− et
et
通貨当局が、不胎化介入を行い、円売り・ドル買いと同時 に、国債売りオペレーションを行うならば、自国通貨建て債 券の供給量Btが増大するため、日本の投資家のポートフォ リオ・バランスが崩れる。
為替介入の効果
日本の投資家が増大した円建て債券を進んで保有するために は、ドル建て債券の収益率が低下する必要がある。
これは、円建て債券売り・ドル建て債券買い圧力を強める結 果、為替レートが円安・ドル高になる。
また、リスク・プレミアムρが低下することによっても達成 される。
為替介入の効果
第3の経路として、シグナリング効果(アナウンスメント効 果)がある。
通貨当局が、円売り・ドル買い介入を行うならば、民間部門 は、この事実を、将来に通貨当局が円安・ドル高誘導のため の金融緩和政策を行うというシグナルと受け取るであろう。 将来における為替レートの減価が予想されるならば、自己実 現的に現在時点において、円安・ドル高となる。
為替介入の効果
為替介入には、一国の通貨当局のみが行う単独介入と、複数 の国の通貨当局が同時に介入を行う協調介入とがある。 協調介入が行われる場合、民間部門は通貨当局間で目標とす る為替レートについて認識が一致しており、将来の金融政策 協調が行われる環境が整っているというシグナルを受け取る と考えられるため、シグナリング効果はより強くなるであ ろう。
為替介入の効果
一方で、多くの国の通貨当局は介入の有無や実行額を公表し ないことが多い。
このような介入は覆面介入と呼ばれている。
不胎化介入によるシグナリング効果は、民間部門が、通貨当 局の介入行動を観察し、この行動から通貨当局の将来の金融 政策の方向性を認識して初めて発揮される。
このことから、覆面介入には理解しにくい面があり、多くの 研究が行われている。