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③技術標準をめぐる特許問題の概観 ―移動通信方式標準化に係わる特許紛争・パテントプール・ホールドアップ問題を題材として―

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(1)

抄 録

る訳ではない。Apple と Samsung の特許紛争は,旧勢力と 新興勢力とが激突した戦いであると言える。このため,特 許権をライセンスする時のロイヤルティ(実施料)の料率 に対する考え方が大きく異なっており,両社だけでなく, Microsoft,Google,Motorola 等のメーカ,裁判所および 法曹界も巻き込んだ展開となっている。

 移動通信分野での最初の大きな特許紛争は,InterDigital Communications Corporation(以下,「IDC」)が米国の標 準 化 機 関 で あ る TIA(Telecommunications industry Association)が 制 定 し た 標 準 規 格 書 IS-95(Interim Standard-95)に基づいて自動車電話機や無線基地局を製 造販売した場合,IDC の特許権を侵害するとして 1993 年 3 月に TIA に警告状を送付したことに始まる。IDC は, TDMA(Time Division Multiple Access,時分割多元接続)

株式会社サイバー創研

  鶴原 稔也

 近年AppleとSamsungとが世界各国で特許権侵害の裁判を提起し,世間の注目を集めている。移動 通信の分野では1990年代初頭から大きな特許紛争が勃発し,現在でもグローバル企業だけでなく,研 究開発型ベンチャー企業も巻きこんで世界各地で裁判が続いている。本稿では,第2世代移動通信方式 および第3世代移動通信方式の標準化過程における特許紛争の経緯について紹介する。標準化に係わる 必須特許の取り扱いとして,パテントプールによる一括ライセンスが有効と言われているが,MPEG-2,DVD,第3世代移動通信方式でのパテントプールについて紹介する。更に,標準化がなされサービ スが普及した後に特許権侵害で提訴する「ホールドアップ問題」の解決が急務となっているが,この問 題を3つのカテゴリに分けて紹介し,その一部について取り組みを提案している。

寄稿3

技術標準をめぐる特許問題の概観

−移動通信方式標準化に係わる特許紛争・

 パテントプール・ホールドアップ問題を題材として−

1. 移動通信方式標準化と特許紛争

1.1 第2世代移動通信方式に関する特許紛争

 近年 Apple と Samsung とが世界各国で特許権侵害の裁判 を提起し,世間の注目を集めている。移動通信の分野では これまでにもグローバルな特許紛争はあったが,過去の特 許紛争と最近の Apple と Samsung との特許紛争は異なって いる。以前の特許紛争はいずれの当事者も研究開発型か製 造販売型かの違いはあるが,どちらも特許権を数多く所有 す る メ ー カ で あ っ た。 一 方,Apple と Samsung で は Samsung は旧来型の特許権を数多く所有するメーカであ る が,Apple は 端 末 メ ー カ と し て は 新 興 勢 力 で あ り, Apple 自身は自らが生み出した特許権をそれ程所有してい

図1 IDCと各社との特許紛争の経緯

95.3.29

Motorola IDCに

93.4.23 Qualcomm IDC 提

93.10.8 Motorola IDC 提

94.11.2 QualcommとIDC 和解

93 94 95 96

93.3 IDC TIA

告 送付

93.4.16 ・IDC TIA   式 告 ・IDC Qualcomm  提

・IDC 沖電気  提

93.9.10 Ericsson IDC 提

93.9.10 IDC Ericsson 提

93.10.12 IDC Motorola 提

94.7.20 沖電気とIDC 和解

(2)

稿

1.2 第3世代移動通信方式標準化の経緯

 移動通信方式の標準化は,国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)にて行い,その 後各国・地域の標準化機関で標準規格書を制定することと なる。自動車電話・携帯電話・スマートフォンの標準化は 図 2 に示すように,約 10 年で世代が交替している。日本 における自動車電話方式のサービスは 1979 年 12 月 3 日に 当時の日本電信電話公社により開始された。その後,デジ タル方式の第 2 世代,IMT-20001)の第 3 世代,そして現在 3.9 世代と言われる LTE(Long Term Evolution)方式が導 入されている。現在,ITU 等の標準化機関では,第 4 世代 (LTE-Advanced)の標準化が進められている。

方式や CDMA(Code Division Multiple Access,符号分割 多重接続)方式の研究開発を行い,特許権のライセンスを 行うことにより研究開発費用を回収する研究開発型ベン チャー企業である。

 4月16日にIDCがTIAに正式な警告状を送付すると共に, 同日付けで IDC は Qualcomm と沖電気を米国において特許 権侵害で提訴した。これに対抗する形で Qualcomm は IDC を 4 月 23 日に特許権侵害で提訴した。9 月 10 日には,IDC が Ericsson を特許権侵害で提訴し,同日に Ericsson が IDC を提訴している。更に,10 月 8 日には Motorola が IDC を特許権侵害で提訴し,IDC と他メーカとの特許紛 争へと発展していった。これらの時系列的な流れを図 1 に 示す。Motorola と Ericsson 以外の各社は IDC と和解し, 表 1 の金額を IDC に支払っている。

図2 移動通信方式発展の経緯 表1 IDCと各社との和解・使用許諾の内容

1) 第 3 世 代 移 動 通 信 方 式 の 標 準 化 の 検 討 に 着 手 し た 当 初 は,FPLMTS(将 来 公 衆 陸 上 移 動 通 信 シ ス テ ム,Future Public Land Mobile Telecommunication System)と称されていた。その後標準化が進展し,将来ではなく数年後に実用化するという段階になった 1997 年 1 月に “FPLMTS”という呼称を IMT-2000(International Mobile Telecommunication-2000)とすることとなった。“2000”の数字は無線周波数として

2,000MHz(2GHz)帯を使用すること,および 2000 年頃にサービスを開始する予定であることに由来する。

会社名 契約日等 内容 和解金等

AT&T 1994.4.27 ・ランニング ロイヤルティ先払い・対象特許はTDMA1件と、CDMA1件の合計2件 (2.8億円)240万ドル

沖電気 1994.7.20 ・ランニング ロイヤルティ先払い・対象はTIA IS-95のみ (0.65億円)65万ドル

Qualcomm 1994.11.2 ・全額一時金にて支払い・サブライセンス付許諾 ・対象はTIA IS-95のみ

550万ドル (5.5億円)

松下 1995.1.5 ・ランニング ロイヤルティ先払い・対象はTIA IS-95、 GSM及びESMR 2000万ドル(20億円)

三洋 1995.2.5 ・ランニング ロイヤルティ先払い(15ドル/台)・対象は、TDMA関連( PHS含む) (2.75億円)275万ドル

日立 1995.3.30 ・ランニング ロイヤルティ先払い・対象は、 TDMA関連 (3.15億円)350万ドル

方式

4

1

1 1 2

成 的 (パー ナル化) 的

1 2 3 4

2 W-CDMA(FOMA cdma2000 ル方式

PDC(mova GSM, IS-136, IS-95, PHS

1

アナログ 送

/FDMA デジタル 送/TDMA 標準化 中

3.

1

ル ート

デジタル 送 /CDMA

2 1 2 2

(3)

 図3に第3 世代移動通信方式の標準 化に関して,基本コンセプトと周波数の 検討から標準規格書が制定されサービ ス導入されるまでの流れを記載する2)  図 3 を見て分かる通り移動通信方式 の標準化には 15 年程度要している。 図 3 の「無線伝送方式の検討」に際し て,ITU は各国・地域に最適な方式を 提案するよう通知した。その結果,多 くの提案がなされた。主な国・地域の 提案方式を図 4 に示す。

  提 案 方 式 は 大 き く CDMA 方 式 と TDMA 方式に分かれたが,CDMA 方 式が有力と思われていた。CDMA 方 式にもいろいろな方式があり,図 4 に 示すように多くの方式が提案された が,これらは「W-CDMA(Wide-band Code Division Multiple Access,広帯 域符号分割多元接続)方式」「cdma2000 (Code Division Multiple Access

2000) 方 式 」「TD-CDMA(Time Division- Code Division Multiple Access)方式」の 3 つに集約された。 各国・地域提案の CDMA 方式と集約 したものを図 5 に示す。

 「W-CDMA 方式」は NTT ドコモ・ Ericsson・Nokia 等の日欧の会社が推 進していた。「cdma2000 方式」は米国 の 開 発 型 ベ ン チ ャ ー 企 業 で あ る Qualcomm を中心とする国際的な業界 団体 CDG が開発した通信方式である。 W-CDMA 方式と cdma2000 方式とが ITU での標準化を目指して激突した。 その先兵となったのが,W-CDMA 方 式は Ericsson であり,cdma2000 方式 は Qualcomm であった。

1.3 EricssonとQualcommとの特許 紛争

 EricssonとQualcommは第3世代方 式の 1 つ前の方式である第 2 世代移動 通信方式に関して米国で裁判を続けて いた。第2世代移動通信方式は,NTT が中心となり日本の標準化機関である

2)佐々木 秋穂著,「IMT-2000 の国際標準化状況」,pp.3,電気通信大学共同研究センター第 33 回研究開発セミナー講演集,1999 年 図3 移動通信方式標準化の流れ

3 R E

1 5 1 1 5 2

ンセプトと の

2 3 の

の 方式の

11 RSP

5 R E RSP 4

R E キーパラ ー R P イン ー ースの

1 3

ド F MA

サー ス

図4 第3世代移動通信方式に関する主な国・地域の提案方式 orea

Global CDMA I TTA

Global CDMA IITTA

U.S.A cdma2000TIA

UWC-136TIA

W-CDMA/NAT1P1

WIMS/W-CDMATIA

apan W-CDMAARIB

d

C ina

TD-SCDMACATT UTRA/FDD, TDDETSI

DECTEP

Europe

ITU-R CDMA RTT Submissions as o une 30, 1998

orea 1 DS-FDD

orea 2 DS-FDD

C ina

apan TDD & DS-FDD

Europe ETSI TDD & DS-FDD

USA-T1P1 TDD & DS-FDD

USA-WIMS DS-FDD

USA-cdma2000 TDD, DS-FDD& MC-FDD

DS-FDD W-CDMA

MC-FDD cdma2000

TDD TD-CDMA Uni ed CDMA Radio Access Speci cation in ITU

3 i erent mo es

TDD Time Division Duplex FDD Fre uency Division Duplex DS Direct Se uence

MC Multi-Carrier TDD

(4)

稿

た。1989年に同社はCDMA移動通信方式のデモンストレー ションを行い,CDMA 方式が移動通信に適用できること を実証した。研究開発型ベンチャー企業である Qualcomm は実際にサービスとして提供するだけのノウハウを所有し ていなかったため,当初は Ericsson や Motorola 等と実用 化に関して共同開発を行っており,上記の守秘義務違反は 当時の共同開発契約違反を指すものと思われる。

 上記の Ericsson と Qualcomm の特許紛争は第 2 世代に関 してのものであったが,両社の紛争は長引き,第 3 世代移 動通信方式の標準化に係わる特許紛争に引き継がれること となった。

1.4 標準化機関における特許の取扱い

 ITU 等の標準化機関が策定する標準規格書に従い製造販 売等を行った場合,標準規格書に係わる特許を実施する場 合が多々ある。このような場合に,必ず実施しなければな らない特許を「必須特許」という。日本の公正取引委員会は, 必須特許について次のように定義している3)

 『ここで、規格で規定される機能及び効用を実現するた めに必須な特許とは、規格を採用するためには当該特許権 を侵害することが回避できない、又は技術的には回避可能 であってもそのための選択肢は費用・性能等の観点から実 質的には選択できないことが明らかなものを指す。』  標準化機関でも必須特許の問題を避けることができなく なったことから,必須特許の取り扱いについて規定した 「IPR ポリシー」を制定するようになった。現在では ITU/ ISO/IEC が共同で策定した「ITU/ISO/IEC 共通 IPR ポリ シー」が雛形的なものとなっており,他の多くの標準化機 関も上記 IPR ポリシーを参考として各々の IPR ポリシー を策定している。ITU/ISO/IEC 共通 IPR ポリシーの概要 は次のとおりである4)

① 国際標準の目的は、システムや技術の互換性を世界的に 確保するものであり、標準はだれもが利用可能でなけれ ばならない。したがって、標準に特許権等が含まれる場 合であっても、標準はだれもが過度な制約を受けること なく利用できなければならない。

② ISO 及び IEC 並びに ITU は、特許権等の証拠、有効性 又は適用範囲について権威付け又は理解の情報を与え る立場にはない。

③ 入手できる特許権等の情報は、最大限に開示されること が望ましい。

ARIB(Association of Radio Industries and Businesses, 一般社団法人電波産業会)が標準規格として制定した PDC(Personal Digital Cellular Telecommunication System)方式,欧州の標準化機関であるETSI(European Telecommunications Standards Institute,欧州電気通信標 準化機構)が標準規格として制定したGSM(Global System for Mobile Communications)方式,米国の標準化機関であ るTIAが標準規格として制定したcdmaOne(Code Division

Multiple Access One)方式の3方式が導入されていた。こ れらの内,PDC方式は日本のみであり,cdmaOne方式は米 国および韓国や日本等一部の国に導入されていたのに対し,

GSM方式は欧州だけでなく全世界に導入され全世界のシェ アの7割程度となったこともあった。GSM 方式の標準化を 推進し,全世界で GSM 方式の携帯端末や基地局等を販売 し て い た の が Ericsson で あ っ た。cdmaOne 方 式 は,

Qualcommが独自に開発したCDMA方式であり,米国にお いてそれ以前に第 2 世代移動通信方式として標準化され サービス導入されていたTDMA方式に代わり米国で急速に 普及しつつあった。これに危機感を募らせたのがGSM方式 製品を製造販売していたEricssonであった。Ericssonは, QualcommのcdmaOne方式がGSM方式を凌駕するのではな いかと恐れ,Qualcommに先制攻撃をかけた。

 1996年9月23日にEricssonはQualcommを特許権侵害で 米国のテキサス州東部地区連邦地方裁判所(EDTX)マー シャル支部に提訴した。この裁判所は当時特許訴訟におい て特許権者の勝訴率が高いことで有名であった。更に12月 17日にはQualcommとソニーの合弁会社であるQualcomm Personal Electronics(QPE)を同様に特許権侵害でダラス にあるテキサス州北部地区連邦地方裁判所に提訴した。こ れに対し,Qualcommは12月5日に同社の本社があるサンディ エ ゴ の カリフォ ル ニ ア 州 南 部 地 区 連 邦 地 方 裁 判 所 に

Ericssonを,

① Ericsson 特許権の無効 ② Ericsson 特許権非侵害 ③不公正競争

④守秘義務違反で提訴した。

 更に,翌年の 1997 年 3 月 21 日に Qualcomm は Ericsson を特許権侵害でサンディエゴのカリフォルニア州南部地区 連邦地方裁判所に提訴した。

 Qualcomm は,1985 年に Irwin Jacobs 氏らが設立した会 社であり,当初は双方向通信が可能な衛星通信システムで ある「オムニトラックス(Omni TRACKS)」を提供してい

3) 公正取引委員会,「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」『2 パテントプールの形成に関する独占禁止法上の考え 方(1)パテントプールに含まれる特許の性質 ア規格で規定される機能及び効用の実現に必須な特許に限られる場合』,平成 17 年 6 月 29 日,改正: 平成 19 年 9 月 28 日

  http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/patent.htm

(5)

宣言書を提出するようにメンバーへ要請する。必須特許を 所有しているメンバーから IPR 宣言書が提出され,当該 宣言書の内容が Option1 または Option2 であれば,標準規 格の原案を審議するという次のステップに進む。仮に,当 該宣言書の内容が Option3 であれば当該特許の技術内容を 回避するように標準規格書を修正するか,標準化自体を断 念するかの決定を標準化機関で実施することとなる。  これまで Option3 を選択したことはあまり例がないが, ITU では光増幅器関連インタフェース規格 G.691 の標準化 において英国の British Telecom(BT)が実質的に Option3 を選択したこと,米国の Pirelli が光増幅器関連インタ フェース規格 G.691 および G.692 の標準化において実質的 に Option3 を選択したことがある。G.691 は標準化が一時 凍結となり,G.692 は特許に抵触する恐れのある標準規格 の数値を修正して解決した。詳細は,参考(104 頁)を参 照されたい。

1.5 第3世代移動通信方式に関する特許紛争

  以 前 に は 選 択 す る こ と は 殆 ど な か っ た Option3 を Qualcomm が選択して大問題になったのが,第 3 世代移動 通信方式の標準化であった。1998年4月15日にQualcomm は日本の ARIB に対して『W-CDMA 方式には自社が所有 する特許は許諾しない』との所謂 Option3 の IPR 宣言書を 送付した。4 月 21 日に Qualcomm は欧州の標準化機関であ る ETSI に同様の IPR 宣言書を送付した。更に,同社は 11 月 9 日に ITU に対して同様の IPR 宣言書を送付した。  Qualcomm の主張は,以下の条件を満足しない限り許諾 しない,であった。

①チップレートを 3.68Mcps とすること。 ②基地局同期方式を採用すること。 ③ ANSI-41 をサポートすること。

 上記①および②は既にサービスしている cdmaOne 方式 との親和性を図ることであった。上記③の「ANSI-41」とは, 米国の TIA が仕様を作成し,ANSI(American National Standard Institute,米国規格協会)が承認した携帯電話 / PCS システム向けコアネットワーク規格であり「IS-41 ④ 標準の開発に参加する者は、標準に含まれる自社及び他

社の特許権等(申請中のものを含む)について、標準開 発の当初から注意を喚起すべきである。

⑤ 標準が開発され、その標準に含まれる特許権等が開示さ れたとき、次の三つのいずれかが特許権等の権利者より 開示され得る

 (a) 無償で特許権等の実施許諾等を行う交渉をする用意 がある。

 (b) 非差別的かつ合理的条件での特許権等の実施許諾等 を行う交渉をする用意がある。

 (c)上記 a)又は b)、何れの意思もない。

⑥ 上記⑤の開示を行うに当たって特許権等の権利者は、定 型様式の特許声明書を用いて ISO 又は IEC 若しくは ITU の事務局へ提出しなければならないが、定型様式 に記載されている選択肢以外の条項や条件や例外事項を 特許声明書に追記してはならない。

⑦ 上記⑤の開示において c)が選択された場合、標準は、 その開示された特許権等に依存する規定を含んではなら ない。

⑧ 特許権等の実施許諾等の交渉に関して、ISO 及び IEC 並 びに ITU は関与しない。

 上記の内,最も重要なことは必須特許を所有している特 許権者が自ら必須特許を所有していると宣言し,当該必須 特許の取扱いについて次の 3 つの選択肢から選んで宣言す ることである。

(a) 無償で特許権等の実施許諾等を行う交渉をする用意が ある。

(b) 非差別的かつ合理的条件での特許権等の実施許諾等を 行う交渉をする用意がある。

(c)上記 a)又は b)、何れの意思もない。

 通常,(a)を Option1,(b)を Option2,(c)を Option3 と呼称している。かなり以前は,標準化は公共的な面が強 く広く世の中に普及させるべきであり,そのために特許権 は 無 償 で 使 え る よ う に し た 方 が 良 い, と す る と い う Option1 の考えが大勢を占めていた。その後,研究開発投 資を行い標準化活動に貢献した企業と,殆ど研究開発活動 は行わないが標準化会議に出席し情報を入手して標準規格 書に沿った製品を標準化に貢献した企業とほぼ同時期に製 造販売する企業との不公平感や特許に対する各社の意識の 高まりもあり Option2 へ移行した。Option2 は,FRAND (Fair, Reasonable And Non-Discriminatory,公平で合理

的かつ非差別的)条件とも言われている。

 図 6 に典型的な標準規格策定プロセスを示す。標準化機 関の事務局は,標準化機関の WG 等で検討された標準規格 の原案を標準化機関参加メンバーへ開示し,当該標準規格 に係わる特許(必須特許)を所有しているか調査し,もし 所有している場合には当該特許の取り扱いに関する IPR

図6 典型的な標準規格策定プロセス 標準規格の 案 策定

標準化 関 ン ー 特許 要

特許 ン ー 標準化 関 特許 書提

Option 1 Option 2 Option 3

標準規格の 案 審

標準規格 定 標準化 中

(6)

稿

2 つの考え方があった。日本および欧州の方式である W-CDMA は,第 3 世代方式は技術的に優れた最新の方式 にすべきであり,そのためにはバックワード・コンパチビ リティはとれなくても良い,との設計思想であった。一方, 米国は標準化を進める際にはバックワード・コンパチビリ ティを重視しており,第3世代方式も第2世代方式が使える, 即ちバックワード・コンパチビリティを確保すべきだとの 考えで cdma2000 を設計していた。バックワード・コンパ チビリティを確保するか否かはどちらが良いとは言えず, それぞれに一長一短ある。前者の日欧の考えでは,新しい 方式を導入すれば技術的にその時点で最も優れたものが導 入できるというメリットがある。また,短期間で新しい方 式に移行でき,新しい方式の方が低コストで小型化できる ので長期的に見ればコスト的には安くなるというメリット もある。しかしながら,オペレータやユーザは従来のもの が使えないため新しいものを購入する必要があり,一時的 に経費がかかるというデメリットがある。一方,米国の考 えでは新しい方式を導入しても以前の方式の端末を所有し ているユーザはそのまま使え,オペレータも従前の方式を 使いつつ新しい方式の設備を導入すれば良いので初期投資 が少なく済むというメリットがある。しかしながら,新し い方式に移行するまでの時間が長くかかり,長期的にはコ スト的に高くつくというデメリットがある。上記のⅨ-2は, バックワード・コンパチビリティがない W-CDMA でなく, バックワード・コンパチビリティのある cdma2000 を採用 すべきだとの米国政府の日本政府に対する圧力であった。 これに対し,日本政府は 1999 年 9 月 27 日の電気通信技術 審議会5)答申において,W-CDMA と cdma2000 の両方式を 日本方式として採用することを決定した。

 更に米国政府は ETSI の上部機関である欧州委員会に対 して,1998 年 12 月 19 日に『ETSI の標準化が米国企業を 排除した形で進められている』との標準選択方式への懸念 を表明した。これに対し欧州委員会は米国政府に対して翌 年の 1 月 18 日に,『ETSI での標準化においては米国企業 も参加し,透明性をもって進めている。』との返書を送付し, 米国政府は 2 日後の 20 日に『欧州委員会の 1 月 18 日付の返 書を歓迎する。』旨の表明を行っている。

 これら政府間,標準化機関間および企業間の第 3 世代移 動通信方式標準化に係わる特許紛争相関図を図 7 に示す。  W-CDMA を代表する Ericsson と cdma-2000 を代表する

Qualcomm とは,各国政府・標準化機関および各社からの プレッシャーを受けて解決の道を模索していた。その結果, 先に表 1 で述べた第 2 世代移動通信方式を巡る米国での裁 判を第 3 世代移動通信方式の標準化にも絡ませ,裁判を和 解させることにより解決を図ろうとした。1999 年 3 月 25 日に両社は和解し,その内容は次のとおりであった。 (Interim Standard-41)」ともいう。第 2 世代移動通信方式

である cdmaOne 方式は IS-41 を使用しており,第 3 世代移 動通信方式でも IS-41 を採用すれば cdmaOne 方式を採用し ているオペレータは移行が容易であるというメリットがあ る。ちなみに,欧州の ETSI が第 2 世代移動通信方式とし て制定した GSM 方式では「GSM-MAP」を使用しており, W-CDMA では「GSM-MAP」を使用することを前提とし て標準化がなされたという経緯がある。

 これに対し,Ericssonは9月28日にITUに対して,『基本 的には無差別に有償で許諾するが,同一条件でなければ許 諾しない(差別的なIPRの取扱いを行う者にはIPRを許諾し ない)。』とのIPR宣言書を送付した。これにより,W-CDMA はQualcommにより,cdma2000はEricssonにより特許ブロッ キングされることとなり,標準化が暗礁に乗り上げた。  先に第 3 世代移動通信方式の提案では CDMA 方式と TDMA 方式の提案があったと述べた。暗礁に乗り上げた 標準化を何とか推進しようと考えた ITU 事務局長は,12 月 7 日に Qualcomm と Ericsson の両社に対して,“このま までは TDMA 方式を採用せざるを得ない。”との書簡を送 付し,両社にプレッシャーをかけた。

 米国においてロビー活動を盛んに行っていた Qualcomm は米国政府を動かし,1998 年 10 月 7 日に米国の USTR (Office of the United States Trade Representative,アメ リカ合衆国通商代表部)は「対日規制緩和要望リスト」の 「Ⅸ . 次世代携帯電話基準」の項目で,日本政府に対して次

のような要望を行った。

 『次世代携帯電話基準の採用は,携帯電話のサービス・ 製品市場の競争の発展に多大な影響を及ぼす。米国が 1998 年 9 月 30 日,郵政省に正式に提出したコメントに謳 われている通り,米国は日本に対して,以下の措置を取る ことを求める。

Ⅸ -1. ITU 基準評価プロセスに先んじて,世界的なニーズ を十分検討することなく,単一の基準を時期尚早に 選択しない。

Ⅸ -2. 次世代基準または採用された基準が,第 2 世代から 第 3 世代へのシステムの進化あるいは移行を妨げる ことによって,第 2 世代システムに悪影響を及ぼさ ないことを保証する。』

 上記のⅨ -1 は,日本が ITU への第 3 世代移動通信方式 の提案に際して W-CDMA に一本化したことに対するク レ ー ム で あ る が,ITU へ の 提 案 の た め に ARIB が W-CDMA に一本化したものであり,要望としては筋違い である。これは日本が cdma2000 を採用するようにとの圧 力であった。上記のⅨ -2 は,所謂バックワード・コンパ チビリティ(backward compatibility,後位互換)のことで ある。第2世代方式から第3世代方式への移行に際しては,

(7)

いくように考え出されたのがパテントプールである。パテ ントプールの定義はいろいろあるが,公正取引委員会は次 のように定義している7)

 『パテントプールとは、ある技術に権利を有する複数の 者が、それぞれの所有する特許等又は特許等のライセンス をする権限を一定の企業体や組織体(その組織の形態には 様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合 や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、 当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が 必要なライセンスを受けるものをいう。』

 パテントプールとは,複数の企業が標準規格に必須となる 特許を一定の団体に預け,当該団体を通じて一括して特許ラ イセンスを受けられる仕組みであり,その概念図を図8に示す。 ① ITU 等への IPR ブロッキングを両社ともに取り下げる。

②相互の特許をクロスライセンス許諾する。

③ Qualcommの地上系CDMAワイヤレスインフラストラク チャ事業を Ericsson に売却する。

 これにより特許ブロッキング問題は解決し,標準化を円 滑に進める道が開けた。但し,これは従来でのスタートラ インに立ったというだけで,必須特許に関する取り扱いに ついて何らの解決が図られたものではなく,この問題は現 在でも続くことになる。

2. パテントプール

6)

 標準化に係わる必須特許のライセンス処理がスムーズに

6) 株式会社三菱総合研究所,「平成 24 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 パテントプールを巡る諸課題に関する調査研究報告書」,平成 25 年 2 月

  http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2012_07.pdf

7) 公正取引委員会,「「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」の公表について」,別紙 1,pp.1-2,平成 17 年 6 月 29 日  改定平成 19 年 9 月 28 日

  http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/patent.html

図7 第3世代移動通信方式標準化に係わる特許紛争相関図

図8 パテントプールによる特許ライセンスの概念図

委 会 USTR/FCC/ /国 省

総 省( 省) ETSI

ARIB/TTC

ANSI(TIA、T1P1

GSM発展型 IS-41発展型

W-CDMA (DS

E社 Q社

cdma2000 MC

標準化

方式

ット ー

Q社に対 てIPR の 許諾通

(書 の )

cdma2000

MC W-CDMA(DS

IS-41 発展型 GSM発展型

2 の標準化 綜 ループの 絶 A 3GPP( ・日本型、 98.12.4 立)

B 3GPP2(米国・日本型、 99.1.27 立)

cdma2000 W-CDMA

IS-41発展型 GSM発展型

ETSI,ARIB/TTC,T1P1,TTA 国)

TIA,ARIB/TTA 国)

3GPP:3rd-Generation Partners ip Pro ect

ライセンシー A パテントプール

ライセンサー A

ライセンサー B

ライセンサー C

ライセンサー D

特許

特許 紜

ライセンシー B

(8)

稿

できるように開発された DVD(Digital Versatile Disc, デ ジタル多目的ディスク)にも多くの必須特許があることが 当初から認識されていた。このため,MPEG-2 と同様の パテントプールを形成すべく関係者で検討されたが,CD の特許を多く所有するソニーや Philips 陣営と,それ程所 有していない東芝やパナソニック陣営とで基本的な考え方 が異なり合意に至らなかった。このため,各陣営がそれぞ れ窓口を一元化する方式をとることとなった。これを DVD パテントプールと称する例もある11)が,本稿では『代 理人方式』と称することとする。DVD 代理人方式の概念 図を図 10 に示す。東芝らのグループを「6C」,ソニーらの グループを「3C」と読んでいる。これは当初,前者が6社で, 後者が 3 社で発足したことにより命名されたものである。

2.1 MPEG-2のパテントプール

 デジタル動画圧縮の基本技術である MPEG-28)について は多くの必須特許があり,その権利処理が問題となった。 1993年7月にMPEG IPRワーキンググループが召集され, 第 1 回会合が開催された。1996 年 7 月に必須特許権者 8 社 の共同出資により,ライセンス会社である MPEG LA LLC が米国法人として設立された9)10)。MPEG-2 のパテ ントプールの仕組みを図 9 に示す。

2.3 DVDのライセンス方式

 CD(コンパクトディスク)より長時間の映像等の記録が

8) 1995 年 7 月に ISO/IEC JTC 1 の Moving Picture Experts Group によって策定された標準規格。正式名称は Generic coding of moving pictures and associated audio information。

9)加藤 恒著,「パテントプール概説 改定版」,pp.118-119,2009 年,発明協会

10) 公正取引委員会競争政策研究センター,「技術標準と競争政策―コンソーシアム型技術標準に焦点を当てて―」,平成 17 年度共同研究報告書 , CR 04-05, pp.177-186, 2005 年 10 月 , http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.html

11) 公正取引委員会競争政策研究センター,「技術標準と競争政策―コンソーシアム型技術標準に焦点を当てて―」,平成 17 年度共同研究報告書 , CR 04-05, pp.155-167, 2005 年 10 月 , http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.html

図10 DVD代理人方式の概念図 P ilips

SON パイオニア

LG 日立,パナ ニッ

VC,三菱,東芝 Warner Home Video 三洋,シ ープ,Samsung

東芝・パナ ニッ ・日立 P ilips

トム ン DVA の

ン ー

4 か4ドル/ ード

( での 8ドル/台)

0.0375ドル/dis

5ドル/ ード 5セント/dis

:代理人の は

  東芝:日本, ,アフリカ   日立:アジア, (日本 )

  パナ ニッ :ア リカ ttp // .dvd6cla.com/o er 111220 Ne . tml2 13 24 図9 MPEG-2のパテントプールの仕組み

パテントプール会社(MPEG LA LLC にて、 ン ーの する  MPEG-2/MPEG-4技術に関する特許 て り い

  主な 業 の 定、 ライセンス 件の策定、 ライセンスの実 ン ー

141 社

成 : 特許

    ライセンス会社の

管理会社

ライセンス

特許のプール

ロイヤルティ

特許

Alcatel Lucent, Britis Telecommunications, Canon, CIF Licensing, Cisco Tec nology, France T l com, Fu itsu, GE Tec nology Development, General Instrument, He lett-Pac ard, Hitac i, VC ENWOOD, DDI , onin li e P ilips, LG Electronics, Mitsubis i Electric, Multimedia Patent Trust, NTT, Panasonic, Robert Bosc , Samsung, SAN O, S arp, Sony,

T e Trustees o Columbia University in t e City o Ne or , T omson Licensing, Tos iba

(26社 1 )

ライセンス 件 の調

ライセンス 件 ン ーダorデ ーダ 2ドル/台ンシ ー 2.5ドル/台 ディス 0.01ドル/

2 13 24

ttp // .mpegla.com/main/ programs/M2/Pages/Agreement.aspx

(9)

 上記のように,MPEG-2 のクロスライセンスを使えな いデメリット,ライセンス交渉先が多いという DVD 代理 人方式のデメリットを抑え,それぞれのメリットを取り入 れようとしたのが,第 3 世代移動通信方式のライセンスス キームである「3G パテントプラットフォーム」であった12) 13)14)15)。図 11 に 3G パテントプラットフォームの概念図を 示す。

 第 3 世代移動通信方式の標準規格には 5 つのモードがあ り,それぞれのモード毎に特許評価・ライセンス管理会社 を設立することとなっている。これは 3G パテントプラッ トフォーム設立に際して米国司法省に事前レビューを申請 したことへの回答として指示されたものである。

2.5 他のパテントプール

 上記以外にも多くのパテントプールが形成されている。 表 3 に主要なパテントプールを示す16)

2.4 第3世代移動通信方式のライセンススキーム

 MPEG-2 パテントプール方式では,MPEG-2 に関する 特許のライセンスは必ずライセンス会社であるMPEG LA を 経 由 し な け れ ば な ら な か っ た。 多 く の 特 許 権 者 は MPEG-2 を製造販売する会社であり,ライセンシーでも あった。殆どの会社が相互に特許を使用許諾するクロスラ イセンス契約を締結しているが,MPEG-2 に関する特許 についてはクロスライセンス契約が適用できず,MPEG LA からライセンスを受け,MPEG LA へロイヤルティを 支払う必要があった。クロスライセンス契約を締結してい る会社間では事後的に各々が支払ったロイヤルティ額を提 示し,差分を精算している会社もあったと言われている。  DVD代理人方式では,6Cグループ,3Cグループと分かれ, 更にこれらのグループに属さないThomson等の会社もあり, DVD 装置やDVDメディアを製造販売したい会社は多くの 会社とライセンス交渉しなければならなかった。

12)木島 誠,武田 壮司著,「3G パテントプラットフォームの現状」,NTT DoCoMo テクニカルジャーナル,vol.11,No.1,pp.95-100

13) 中村 修,カー クリストファー著,「PlatformWCDMAの現状とジョイント特許ライセンス」,NTT DoCoMoテクニカルジャーナル,vol.16,No.3,pp.59-63 14)加藤 恒著,「パテントプール概説 改定版」,pp.129-144,2009 年,発明協会

15) 公正取引委員会競争政策研究センター,「技術標準と競争政策―コンソーシアム型技術標準に焦点を当てて―」,平成 17 年度共同研究報告書 ,   CR 04-05, pp.197-213, 2005 年 10 月 , http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.html

16) 平成 20 年度経済産業省委託事業,「先端技術分野における技術開発と標準化の関係・問題に関する調査報告書」,委託先:株式会社三菱総合研究 所,pp.s-13,2009 年 3 月に追記

図11 3Gパテントプラットフォームの概念図

PL W-CDMA)

ライセンサー 1 ライセンサー 2 ライセンサー n

ライセンシー a ライセンシー b ライセンサー ライセンシー ン ) 認 ン

ロイヤルティの通 ( 5 )

ライセンス

通 れ ロイヤルティにて 各社と ( も )

特許 PL

cdma2000 TD-SCDMAPL EDGEPL DECTPL

3 3 緳 3 3 緳内

ン とは

特許 ン 管理会社

2012年9月から管理会社 , 3G Patents Ltd. から Sipro Lab Telecom,

とな

表3 主要なパテントプール

管理会社 管理しているパテントプール

MPEG LA(米) MPEG-2, MPEG-2 System, MPEG-4 Visual, IEEE1394, DVB-T AVC/H.264, VC-1, ATSC

株式会社 東芝 DVD(6C)

フィリップス(オランダ) DVD(3C)

Via Licensing

(米, Dolby Laboratories子会社)Digital Radio Mondiale, IEEE802.11, DVB-MHP, MPEG-2 AAC, MPEG-4 Audio, NFC, OCAP,TV-Anytime, UHF RFID

3G Licensing Ltd. W-CDMA(2011年9月まで)

Sysvel S.p.A(シズベル)(イタリア) MPEG AUDIO, TOP teletext, DVD-T(MPEG LAより移管), WSS, ATSS, (DVB-H, CDMA-2000も準備中)

Sipro Lab Telecom(カナダ) G.729, G.723.1, 2nd Generation Wireless, W-CDMA(2011年9月から)

アルタージ株式会社(日本) デジタル放送に関するARIB規格

(10)

稿

③ 公的標準に係わる必須特許の「差し止め請求の制限」と FRAND 条件でのライセンス強制。

 上記は携帯電話等の公共性が高く,かつ ITU 等が制定 する公的標準に係わるものに限定すべきと考える。

3.2 スピンアウト問題

 ホールドアップ問題の 2 番目は,「スピンアウト問題」と 称することとする。標準化機関における IPR ポリシーが 整備されていない時期には,このスピンアウト問題が多く 生じた。それらのいくつかの事例を以下に示す。

①Dell事件20)

1991 年 7 月:Dell が米国特許第 5,036,481 号を出願(後の VL-bus 必須特許)。

1992年2月:Dellが,VESA(Video Electronics Standards Association)に加盟。

1992年2月:VESA は,VL-bus(VESA Local-Bus)の標 準化を開始。

1992年6月:VESA が VL-bus の標準規格を採択。 1992年8月:Dell を含む各メンバーは,VL-bus 標準規格 書を最終承認すると共に,関連する IPR を所有していな いことを文書で保証。

 その後,Dell は複数の VESA メンバーに対して,同社 が VL-bus に関する必須特許を所有しており,権利行使す ることを通告した。

 FTC が調査を開始し,1996 年に同意審決により決着し た。その内容は次の通りである。

(a)FTCの事実認定

・ Dell が事前に自社の特許権を開示していれば,VESA は同社の特許権の内容を回避した標準規格を採用した ことは明白である。

・ VL-bus規格に係る特許問題の解決を引き延ばし,標準規 格をコンピュータメーカ等が採用することを躊躇させた。 ・ VL-bus 規格の導入費及び競合する規格の開発費を引き

上げ,技術標準策定作業に参加する意欲を阻害した。 (b)FTCの結論

・ Dell の行為は消費者に不当な負担を課し競争者の費用 を引き上げるものであり不公正な競争方法に該当する。 (c)同意審決の内容

・ コンピュータ機器の製造において,VL-bus を用いるも のに対し,Dell が特許権侵害を主張して権利行使を行 う行為について,既に行ったものについては取り止め

3. ホールドアップ問題

 必須特許に関する大きな問題として,ホールドアップ(規 格の必須特許技術が普及した後に必須特許の権利行使によ りその技術の普及が妨げられること)問題がある17)18)  必須特許によりホールドアップが生じるおそれがある, ということである。

 標準規格技術を利用する場合,何らかの開発投資,設備 投資を利用者側が行いながら事業化を進めるが,この投資 が大きいほど,利用者側が当該標準にロックイン(固定化) される。

 ロックインされた状態で特許権者にホールドアップを起 こされると,利用者側が他の技術に移行できず多額のライ センス料を支払わねばならない状況に追い詰められてしま うのである19)

 ホールドアップ問題は,次の 3 種類に分けられる。 ① 必須特許を所有しているが,標準化作業に一切参加して

いない会社等が,標準規格書が策定され,製品やシステ ムが販売された後に,必須特許のライセンスを拒否したり, 法外なライセンス料を要求する場合(アウトサイダー問題) ② 標準化作業に途中まで参加していたが,必須特許を報告

せず,脱退後に必須特許があるとして法外なロイヤル ティを要求する場合(スピンアウト問題)

③ 標準化作業に参加し,FRAND 条件での許諾を宣言して いる企業等が,パテントプールに参加せず,個別に(相 対的に)高いロイヤルティを要求する場合(FRAND問題)

3.1 アウトサイダー問題

 1 番目のアウトサイダー問題であるが,現状ではこの問 題へ対処する方法はない。標準化機関における IPR ポリ シーは,当然のことながら標準化機関に加盟しているメン バーにしか適用できない。このため,標準化に全く関与し ていない必須特許の特許権者は IPR 宣言書を提出する義 務もないし,そもそも策定しようとしている標準規格書は 最終的に標準化機関で承認されるまではメンバー以外に公 開されることはないので,所有している特許が必須特許か 否かの評価もできない。しかしながら,携帯電話等のよう に公共性の高いサービスが 1 つの特許で提供できなくなる というのは影響が甚大であり,何らかの対処を行う必要が あると考える。筆者は,次のような取り組みを提案する。 ①公的標準の公益性を重視した取り扱いの確立。

②策定中標準規格書の一般への早期公開と意見徴収。

17) 公正取引委員会競争政策研究センター,「標準化活動におけるホールドアップ問題への対応と競争法」,平成 24 年度共同研究報告書,CR 03-12, 2012 年 10 月 26 日,http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/index.html

18)藤野仁三著,「ホールドアップ問題に関する米国判例の展開」,知財管理 2009 年 3 月号 19)永野志保著,「知的財産と国際標準化」,特技懇,pp.55, 2013.1.28,no.268

(11)

Potter は,GCR 標準化に係わる ANSI の小委員会に積極 的に参加していたが,意図的に 685 特許についての自社の 権限を宣言しなかった。そして,その後に権利主張した。 これは,ANSI の IPR ポリシーに反することである。

④Stambler事件

 Stambler は,1968 年に特許出願(銀行の ATM 向けのカー ド に 関 す る 技 術 )し,1974 年 に 特 許 権 登 録 さ れ た。 Stamblerは,特許権取得後10年間ANSIのメンバーであり, 自分の所有している特許権が採択予定標準規格の必須特許 であることを認識していた。1984 年に Stambler は自らが 保有する特許権とその侵害性を委員会に知らせずに同委員 会を退会した。

 その後,Stambler は 1985 年に特許権侵害で Diebold を 裁判所に提訴した。

 裁判所の判決は,『特許権の権利行使はできない。』とい うものであった。その理由は,次の通りである。

 Stambler は,特許権を所有していたので本来ならば開 示する義務があるにもかかわらず,それを怠り沈黙してい たので,特許権の主張を行うことはできない。その根拠は, 製造者(Diebold 社)はオープンで利用可能な標準であると 信じていたからである。仮に特許権の権利者が,沈黙した 場合,その沈黙は合理的に自己の特許権の主張を放棄した と解釈される。

⑤SEEQ事件

 SEEQは,1981年から1983年にかけてSilicon Signature というメモリーチップについて,標準化団体であるJEDEC において活動していた。その際に,「標準として採用された ならば IPR(知的財産権)は行使しない」という条件を提示 して標準化活動を行った。最終的にはSEEQの提案は標準 として採用されなかった。

 SEEQ は,1984 年に Silicon Signature に関する特許権 を取得した。1994 年に,当該特許権は SEEQ から Amtel に譲渡された。Amtel は,Winbond,Macronics,Sanyo を SEEQ から譲り受けた特許権の侵害で,1997 年に ITC(ア メリカ国際貿易委員会,International Trade Commission) に申し立てた。

 ITC の結論は,『SEEQ は権利放棄していないので,特 許権侵害と認定した。』その理由は,次の通りである。  Winbond の抗弁は,『SEEQ が IPR 行使をしない』と宣 言しているので SEEQ は“権利放棄”しているというもの であった。しかしながら,SEEQ の提案した技術は標準と して採用されなかったので,SEEQ の表明(権利放棄)に 拘束力はない。

⑥Rambus事件

1990年4月:Rambus が最初の特許出願(US 510898)。 ると共に,今後はそのような行為を行うことを禁じる。

・ 同意審決の確定後 10 年間は,技術標準の策定に際して 当該技術標準の実施によって権利侵害となり得る特許 権について,VESA から Dell に書面で問い合わせがな されたにもかかわらず,意図的に開示しなかった場合, 当該技術標準の実施に対して,当該特許権の権利行使 を行うことはできない。

②Wang事件

 Wang は,1983 年 に SIMM(Single Inline Memory Module)に 関 す る 2 件 の 特 許 を 申 請 し た。 申 請 前 に JEDEC(Joint Electronic Device Engineering Council)会 議において,SIMM がメモリモジュール産業の標準になる ように同社は活動した。その際に,同社は自ら SIMM を製 造する意図はないと表明し,SIMM 技術に関する特許権も 行使しないと宣言した。

 1986 年に JEDEC において SIMM 技術を標準規格として 採用することが決定された。

 一方,Wang と Mitsubishi America は,SIMM 技術の製 品 化 に つ い て 共 同 検 討 を 実 施 し た。 そ の 間 Wang は, JEDEC や Mitsubishi に対し,出願中の特許の存在や,そ の特許のライセンス行使について一切言及しなかった。  Wang は,1989 年に警告書を Mitsubishi に対して送付し, 1992 年に同社を特許権侵害で裁判所に提訴した。

  裁 判 所 の 判 決 は,『 黙 示 の ラ イ セ ン ス が 存 在 し, Mitsubishi は特許権侵害していない。』というものであっ た。その判決理由は,次の通りである。

 当時,JEDEC では特許の開示をメンバーに対して義務 付けていなかった。しかしながら,Wang は,標準決定時 にライセンスについて明示せず,かつ Wang と Mitsubishi は SIMM 技術の製品化について打ち合わせを行っていた。 このため,Mitsubishi が特許利用に関し Wang の黙示の許 諾があったと判断するだけの合理的理由が存在した。

③Potter事件

 Potter Instrument corp.(Potter)が,ANSI により標準 規格として採用された GCR(Group Coded Recording)に かかわる 2 つの特許権(894 特許,685 特許)について, Storage Technology Corp.(Storage)を特許権侵害で裁判 所に提訴した事件である。当該技術は,Potter が 1965 年 に出願し,1971 年に IBM とライセンス契約を締結した。 IBM は,ANSI に 685 特許の技術を標準規格として提案し, 1976 年に標準規格として策定された。Potter は,1973 年 に行われた ANSI の小委員会に積極的に参画していたにも かかわらず,関連特許を保有していることを小委員会に報 告しなかった。

(12)

稿

害と同様に扱うべき事例である。Rambus は,FTC 以外に も多くの企業と訴訟を行っているが,殆どの場合最終的に Rambus が勝っている。これは,当時の JEDEC の IPR ポ リシーが整備されておらず,曖昧な規程が多かったためと 思われ,先に述べたように ITU/ISO/IEC 共通特許ガイド ラインのように IPR ポリシーが整備されてきた現在では このような問題は生じないと思われる。Rambus 事件は, 過度的で特異な事件と言えよう。

 結論として,今後は,スピンアウト問題は IPR ポリシー が整備された標準化機関では殆ど問題にならないと思わ れる。

3.3 FRAND問題

 ホールドアップ問題の3 番目は,「FRAND問題」と称す ることとする。このFRAND問題は従来から懸案事項であっ たが,何がFRAND条件か,即ち,Fair(公平)とは何か?,

Reasonable(合理的)とは何か?,Non-Discriminatory(非 差別的)とは何か?,を誰も定義できないためにこれまで避 けてきた問題であった。結果として,携帯電話等を製造販 売しているセットメーカが個別にライセンス交渉を行い, 解決してきた。以前は,一部の研究開発型ベンチャー企業 を除いて,必須特許を所有しているのは殆どがセットメー カであり,相互にクロスライセンス契約を締結して解決し てきた。しかしながら,最近は必須特許を所有している者 がNPE(特許不実施主体,Non Practicing Entity)まで拡 大し,大きな問題となっている。

 FRAND 問題解決へのアプローチとして,大きく 2 つの 道がある。その 1 つは独占禁止法によるもの,もう 1 つは 裁判所による FRAND 条件の定義づけである。

 前者については,欧州委員会の例がある。2005 年に独 占禁止法の施行機関である欧州委員会へ Ericsson、Nokia、

Broadcom、パナソニック、NEC、Texas Instruments が, 『Qualcomm が第 3 世代移動通信方式に係わる特許により, 不当に高額な特許使用料を請求することで市場における地 位を乱用している』と主張した。欧州委員会は、2007 年 10月にQualcommに対する調査を開始した。しかしながら, 2009年11月24日に上記企業からの訴えが取り下げられた ことを受け,Qualcomm に対する独占禁止法違反の調査を 打ち切り,結論は出なかった。尚,FRAND 条件そのもの ではなく,差し止め請求権に関するものであるが,欧州委 員会が,2012 年 12 月 21 日 Samsung に EU 反トラスト規則 が禁じている支配的な地位の濫用に該当するとの予備的見 解を通知したとプレスリリースした。欧州委員会の見解は 次の通りである21)

1991年4月:RambusがPCT出願(1991年10月31日に公開)。 1991年1月:東芝の招きで Rambus が JEDEC 会合に初め て参加。

1992年5月:Rambus が正式に JEDEC に加入。 1995年12月:Rambus が JEDEC 会合に最後の参加。 1996年6月:Rambus が JEDEC 脱退。

1999年:Rambus が,DDR SDRAM と SDRAM に関して 特許権を所有していることを宣言し,各社にライセンス料 を請求。

2002年6月:FTC(Federal Trade Commission,米連邦 取引委員会)が Rambus を反トラスト法違反で提訴。FTC の 主 張 は,『SDRAM 規 格 策 定 時 に,Rambus が 他 の JEDEC 参加メンバーに,申請中の特許などに関する必要 な情報を公開することなく,規格に盛り込んだという点』。 FTC では,Rambus がこれらの特許を理由に訴訟を起こし, メモリメーカから多くのロイヤルティを徴収したことを問 題視した。Rambus は,1 億ドル以上のロイヤルティをメ モリ業界から余分に徴収していると FTC は主張した。 2004年2月:FTC の訴えを行政法判事が却下。

2006 年 8 月:FTC が委員会を構成する 5 人の委員全員一 致により,Rambus の反トラスト法違反を認定(行政法判 事の判断を翻す)。その理由は,『Rambus は,JEDEC にお ける標準策定に大きな影響を及ぼすはずだった情報を公表 しなかった。JEDEC は,そのメンバーがどのテクノロジ を採用するかについて幅広い知識を得た上で判断を下すこ とができるように,情報の提供を明確に求めていた。また, メンバーは,特許上の問題となる可能性のあることについ て早期に情報を得ることが,特許権を利用して不当に利益 を確保する企業の出現を防ぐために重要だと考えていた。』 というものであった。

2007 年 6 月:FTC が Rambus に,ライセンス供与の際に 相手側に求めるロイヤルティに上限を設定すると共に,業 界の標準化団体へ同社の技術情報を公開するよう要求。 (DDR SDRAM の特許 4 件は,FTC 発令以降 3 年間は 0.5%,

以降はゼロ。SDRAM の特許 2 件は同じ期間で 0.25%)。 2008年4月:コロンビア地区巡回上訴裁判所が,FTC の 主張を退ける判決。

2009年2月:最高裁が,FTC の上告を却下(Rambus 勝訴)。 2009 年 5 月:FTC が Rambus への独禁法違反訴訟を取り 下げる。

 いずれも米国における事例であるが,SEEQ 事件と Rambus 事件以外はいずれも特許権の権利行使を認めてい ない。SEEQ 事件は,提案した技術が標準規格に採用され なかった事例であり,必須特許ではなく,通常の特許権侵

参照

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