2017. 12. 8
線形代数
II
物理学専攻1年生向け
担当 増岡 彰
教科書 木村達雄ほか著「明解線形代数」(日本評論社)第5章–第7章に沿う.
授業の目的と要約 実数全体からなる集合 R と複素数全体からなる集合 C はともに,四
則演算が自由にできるシステムである.そのようなシステムは 体 (たい) と呼ばれるた め,R, C はそれぞれ実数体,複素数体と呼ばれる.この授業では,行列や数ベクトルの 成分,あるいはベクトル空間のスカラーとなる数が属す体 K (基礎体と呼ぶ) を選び固定 して議論を進める.多くの場面では,K として R,C (あるいは一般の体) のいずれを選 んでも同じ議論を展開できる.ここでは焦点を絞るためK =C とする.
さて,この授業の目的は,線形代数を通して,構造,公理化,同一視,分類といった,
現代数学の基本的アイデアを伝えることにある.
Cn を,複素数成分の n 次タテベクトル全体からなる集合とする.Cn には,和とスカ ラー倍という演算 (代数構造,なかでも線形構造) をもつ.それに加え内積という幾何構 造も伴う.(1) その線形構造のみを問題として Cn を見るとき,Cn を数ベクトル空間と 呼び,(2)内積まで込めて問題とするとき,Cn を計量数ベクトル空間と呼ぶ.
数学においては,もちろん他にもさまざまな構造が考えられるが,注意すべきは対象
X がもつどの構造を問題にするかをはっきりさせる点である.また,対象そのものより
しばしば重要になるのは,X から X 自身への,問題とする構造を保つような写像—射 (morphism) と呼ばれる—である.Cn に関しても射の方が重要であって,(1) の場合そ の射は Cn 上の線形変換と呼ばれる.実はそれは,ある n 次複素正方行列 A が左乗法に より与える写像 LA :Cn→Cn, LA(v) =Av と同義になる.(2) の場合の射は Cn 上の ユニタリ変換と呼ばれ,ユニタリ行列 A(随伴行列 A∗ =
(
aji)i,j を逆行列にもつ行列)
が与える線形変換LA と同義になる.
線形構造や内積をもつ対象は Cn の他にもさまざま存在する.Cn がもつ線形構造(お よび内積)の性質を抽出,公理として,それを満たす対象を広くベクトル空間(また計量
空間)と呼ぶ.この(これらの)構造だけから結果を導き出し,それをいまや広がった範
うにベクトルのイメージからかけ離れた対象にも,得られた結果を強引に適用するのが現
代数学のやりくちである.
Cn 上の線形変換およびユニタリ変換は公理化されて,ベクトル空間上の線形変換およ び計量空間上のユニタリ変換となる.
い ま V を 一 般 の ベ ク ト ル 空 間 と し よ う .仮 定 と し て V は 有 限 生 成 で あ る ,す な
わ ち あ る 有 限 個 の 元 v1, v2, . . . ,vn が 存 在 し て ,V の ど の 元 も 線 形 和 ∑n
i=1civi(= c1v1+c2v2+· · ·+cnvn; ci ∈C)として表せるとする.あらかじめ無駄を省いて,この 線形和としての各元の表し方が一意的であるように,換言すれば
Cn −→V,
c1 .. . cn
7→(v1, . . . ,vn ) c1 .. . cn (= n ∑ i=1 civi
)
(⋄)
が全単射であるように,v1, v2, . . . ,vn を選べる.この場合,v1, v2, . . . ,vn をV の基 底と呼ぶ.この全単射は線形構造を保つから,これを通して Cn と V は(線形構造だけ を問題にする限り)同一視できる.ここで f :V →V を線形変換とすると,これは
(
f(v1), f(v2), . . . , f(vn)) =(v1,v2, . . . ,vn)
a11 a12 . . . a1n a21 a22 . . . a2n
..
. ... . .. ...
an1 an2 . . . ann
によって決まる n 次正方行列 A = (
aij )
が与える線形変換 LA : Cn →Cn と同一視さ れる. この A を f の (基底 v1, v2, . . . , vn に関する) 表現行列と呼ぶ. 次の問題が考え られる.
問題0 f に対し, 基底 v1, v2, . . . , vn をうまく選んで, その表現行列 A をなるべく簡 単な形にする方法を与えよ.
対角行列は確かに簡単な形だが, f によっては A を対角行列にできない場合もある. 対 角行列に準じて簡単な形として Jordan 標準形があり,どの f に対してもA をJordan 標 準 形 に で き る こ と が 知 ら れ て い る .し か も そ れ ぞ れ の f に 対 し ,そ の 表 現 行 列 た る Jordan 行列は(本質的に)一意的に決まるから,それを「f の Jordan 標準形行列」と 呼んでよい.これにより問題0を,同じJordan 標準形行列をもつ線形変換どうしは同じ クラス(類)に属すと見て,V 上の線形変換すべてをクラス分け(分類)させる,分類問
題と捉えることができる.しかしこれは教科書第9章のトピックで,この授業ではそこま
問題1 線形変換 f に対し,基底 v1, v2, . . . , vn をうまく選んでそれに関する f の表現 行列が対角行列となるようにできるのは, f がどんな条件を満たすときか? またその条件 が満たされる場合,その対角行列はどのように求まるか?
上のような線形変換 f は半単純といわれるから,これは半単純線形変換の分類問題と
も捉えられる.
V が計量空間の場合,全単射 (⋄) は,線形構造に加え内積も保つものであって欲しい. これが満たされるのは基底 v1, v2, . . . , vn が正規直交基底となる場合である.この場合 に,上の問題に相当するのは次になる.
問題2 計量空間V 上の線形変換 f に対し, V の正規直交基底v1, v2, . . . , vn をうまく 選んでそれに関する f の表現行列が対角行列となるようにできるのは,f がどんな条件を 満たすときか? またその条件が満たされる場合,その対角行列はどのように求まるか?
7.2 節,7.4 節にて上の2つの問題に答える.キー・アイデアは,f に応じベクトルの 間に軽重をつけ,f(v) が v のスカラー倍に一致するような非零ベクトル v (f の固有ベ クトル)を特に大事に思うことである.
成績評価 計算力テスト(3回)の評点4割, 思考力テスト (2回) の評点6割の重みで評 価する.出席は評価しない.テストには,Appendix A.2 節 補充題にある程度の問題を 出題する(特に計算力テストにはほぼ同じ問題を出題する.また要望次第で,思考力テス
トへの自筆ノートの持ち込みを可とする).
オフィスアワー 水曜日 昼休み自然学系棟 D 602
第5章
数ベクトル空間と線形写像(復習)
この章を通し,基礎体 K はR,C のいずれか,いずれでもよい.
5.1
線形写像と行列
K に成分をもつ m×n 行列全体からなる集合を M(m, n;K) とかく.特に n= 1 の 場合,M(m,1;K) は m 次タテベクトル全体からなる集合である.これを Km で表す. これらの集合には成分ごとの演算
(
aij )
+(bij )
=(aij +bij )
, λ(aij )
=(λaij )
M(m, n;K) が Kmn と同一視できることが見て取れるだろう.あらゆる m > 0 に対す るKm を総称して数ベクトル空間と呼ぶ.
定 義 和 と ス カ ラ ー 倍 を 保 つ 数 ベ ク ト ル 空 間 の 間 の 写 像 を 線 形 写 像と 呼 ぶ. す な わ ち,
f :Kn →Km
が線形写像であるとは,
(1) f(x+y) =f(x) +f(y), x, y∈Kn,
(2) f(λx) =λf(x), λ ∈K, x∈Kn
が満たされるときにいう. 線形写像 Kn → Km 全体からなる集合を Hom(Kn, Km) で 表す*1. とくにm=n の場合, 線形写像 Kn → Kn を Kn 上の線形変換と呼び, その全 体からなる集合をEnd(Kn) で表す*2.
例 行列 A ∈M(m, n;K) に対し, その左乗法
LA:Kn →Km, LA(x) =Ax
は線形写像である.これは LA ∈ Hom(Kn, Km) と表せる.対応 A 7→ LA が与える写 像を
L:M(m, n;K)→Hom(Kn, Km)
で表す (写像の値を表す通常の記号L(A) に替えて LA と書くと理解する).
疑問 線形写像 f はすべて f = LA の形をしているだろうか? また,f = LA, f = LB と2通りに表されることはないだろうか?
これらの疑問に「形をしている」,「表されることはない」と答えるのが次の定理である.
定 理 A ど ん な 線 形 写 像 f : Kn → Km も LA の 形 を し て い る .こ の 行 列 A ∈
M(m, n;K) は基本ベクトル e1,e2, . . . ,en(∈Kn) の値を並べて得られる行列
f(En) :=(f(e1) f(e2) . . . f(en))
に必ず一致する.
これは次のように言い換えられる.
定 理 B 上 の 写 像 L : M(m, n;K) → Hom(Kn, Km) は 全 単 射 で あ っ て ,逆 写 像 は
L−1(f) =f(En)で与えられる.
*1
線形写像= linear homomorphismのHomに由来する記法.
*2
5.2
線形写像の像と核
定義 Kn の部分空間とは, 次の (1)–(3) を満たす Kn の部分集合 W のことをいう. (1) W ̸=∅.
(2) W は和に関して閉じている. すなわち, x,y ∈W ならば x+y ∈W.
(3) W はスカラー倍に関して閉じている. すなわち, λ∈K, x∈W ならば λx∈W.
例 Kn 自身,また零ベクトルだけからなる {0} はともにKn の部分空間.包含に関し 最大、また最小の部分空間である.これらを自明な部分空間と呼ぶ.
定義 線形写像 f :Kn →Km に対し,f の核 (独Kernel) Kerf と像 (英 image) Imf をそれぞれ
Kerf :={x∈Kn|f(x) = 0}, Imf :={f(x)|x∈Kn}
により定める.
考察 f =LA が行列 A= (
aij) ∈M(m, n;K) の与える線形写像の場合,核 Kerf は, 斉次連立1次方程式 Ax=0,すなわち
a11x1+a12x2+· · ·+a1nxn = 0
a21x1+a22x2+· · ·+a2nxn = 0 ..
.
am1x1+am2x2+· · ·+amnxn = 0
の解 x= x1 x2 .. . xn
全体からなる集合に一致する.また像 Imf は,A の列ベクトル
a1=
a11 a21 .. .
am1
, a2 =
a12 a22 .. .
am2
, . . ., an =
a1n a2n
.. . amn
を以て与えられるベクトル
c1a1+c2a2+· · ·+cnan; c1, c2, . . . , cn∈K
定理 線形写像 f :Kn →Km に対し,
(1) 核Kerf はKn の,像Imf は Km の部分空間である. (2) f が単射 ⇔ Kerf ={0}.
例 行列 A =
2 6 3 4
2 9 4 8
0 3 1 3
が与える線形写像 f =LA : K4 →K3 の核と像は,それ
ぞれ
Kerf = c
−1/2 −1/3
1 0 c∈K
, Imf = { c1 (2 2 0 ) +c2
(3 4 1
) +c3
(4 8 3 )
c1, c2, c3 ∈K
}
で 与 え ら れ る .Kerf は A の 簡 約 階 段 化 が
1 0 1/2 0 0 1 1/3 0
0 0 0 1
で あ る こ と よ り 求 ま り
(A.1 節の定理参照),また Imf の記述に第2列ベクトル 6 9 3
を用いずに済むのは,そ
れが第1,3列ベクトルを用いて表される,− 3 2 2 2 0 + 3
3 4 1
に一致するからである.
5.3
線形結合と部分空間
Kn から元 x1,x2, . . . ,xr を勝手に選び固定する. r
∑
i=1
cixi =c1x1+c2x2+· · ·+crxr, c1, . . . , cr ∈K
の形をした Kn の元を x1,x2, . . . ,xr の線形結合と呼ぶ.その全体を
⟨x1,x2, . . . ,xn⟩:=
{ r
∑
i=1 cixi
c1, . . . , cr ∈K }
と 書 く .こ れ は x1,x2, . . . ,xr す べ て を 含 む ,Kn の 最 小 の 部 分 空 間 と な る .こ れ を x1,x2, . . . ,xr で生成される(または張られる)部分空間と呼ぶ.
例 前 考 察 の 結 果 を 換 言 す る と ,線 形 写 像 f = LA : Kn → Km の 像 Imf は ,A(∈
第6章
ベクトル空間と線形写像
引き続き,基礎体 K は実数体 R または複素数体 C のいずれかとする.
6.1
ベクトル空間と部分空間
定義 (K 上の) ベクトル空間とは, 下に挙げるすべての条件を満たすような2つの演算
V ×V →V, (x,y)7→x+y; K ×V →V, (λ,x)7→λx
(それぞれ和, スカラー倍と呼ぶ) を伴う集合 V ̸=∅のことをいう. (1) 和に関してV が加法群をなす. すなわち次の (i)–(iii) を満たす.
(i) 和が結合律 (x+y) +z =x+ (y+z) と可換律 x+y=y+x を満たす. (ii) 0+x=x (∀x∈V) を成り立たせる元 0∈V が (必然的にただ1つ)存在す
る(これを零元と呼ぶ).
(iii) 各元 x ∈ V に対し x+ (−x) = 0 を満たす元 −x ∈ V が (必然的にただ1 つ) 存在する(これを x の逆元と呼ぶ).
(2) スカラー倍が次の(iv)–(vi) を満たす.
(iv) スカラー倍が次の2種類の分配律を満たす.
λ(x+y) =λx+λy, (λ+µ)x=λx+µx, λ, µ∈K, x,y∈V.
(v) スカラー倍が次の結合律を満たす.
λ(µx) = (λµ)x, λ, µ ∈K, x∈V.
(vi) 1 (∈K) によるスカラー倍は恒等的, すなわち 1x=x, x∈V.
注意 (1) ベクトル空間 V において次が成り立つ.
0x=0, −x= (−1)x (x∈V); λ0=0 (λ∈K). x+ (−y) をx−y とも書く.
(2) ベクトル空間 V の元をベクトル, K の元をスカラーと呼ぶことがある.
り K 上のベクトル空間をなす. 換言すれば K[x]n は K[x] の部分空間である (次の定義 を見よ).
例3 R 内の区間 I ̸= ∅ 上の実数値連続関数 p1(x), . . . , pn(x) が与えられたとき,線形 斉次微分方程式
y(n)+p1(x)y(n−1)+· · ·+pn(x)y = 0 (♠)
の解全体は関数の和とスカラー倍について閉じており,これらの演算によって R 上のベ
クトル空間をなす.これを (♠) の解空間と呼ぶ.零元は I 上つねに 0 を値にとる定数関 数である.
例4 K 上のベクトル空間 V1, V2, . . . Vn が与えられたとき, 直積集合 n
∏
i=1
Vi =V1×V2× · · · ×Vn
は成分ごとの和とスカラー倍によりベクトル空間をなす. これをベクトル空間としての直 積と呼ぶ.
以下に見るように,数ベクトル空間に関して定義された,部分空間,線形結合,ベクト
ルによる生成,線形写像,その核と像といった概念は,一般のベクトル空間に容易に一般
化される.
定義 ベクトル空間 V の部分空間とは, 次の (1)–(3) を満たす V の部分集合 W のこと をいう.
(1) W ̸=∅.
(2) W は和に関して閉じている. すなわち, x,y ∈W ならば x+y ∈W.
(3) W はスカラー倍に関して閉じている. すなわち, λ∈K, x∈W ならば λx∈W.
注意 (2), (3) により V の上の和とスカラー倍を W に制限できる. こうして得られる演 算により W はベクトル空間になる. W の零元は V の零元 0 と一致. 従って上の条件 (1) を
(1′) 0∈W
例5 どんなベクトル空間 V も {0} と V 自身を (それぞれ最小, 最大の) 部分空間とし て含む. また, W1, W2, . . . , Wr を V の部分空間とすると,
共通部分 r ∩
i=1
Wi =W1∩W2∩ · · · ∩Wr,
はすべての Wi に含まれる最大の部分空間. また
和 r ∑
i=1
Wi =W1+· · ·+Wr :={w1+w2+· · ·+wr |wi ∈Wi}
はすべての Wi を含む最小の部分空間になる.
V をベクトル空間とし,x1,x2, . . . ,xr をV の元とする. これらの元の線形結合全体 ⟨x1,x2, . . . ,xr⟩:={c1x1+c2x2+· · ·+crxr |ci ∈K}
は, すべての xi を含む V の最小の部分空間をなす. これをx1,x2, . . . ,xr が生成する部 分空間と呼ぶ. とくにV =⟨x1,x2, . . . ,xr⟩となる場合, V は x1,x2, . . . ,xr によって生 成される, x1,x2, . . . ,xr は V の生成系であるという (「集合」でなく「系」と呼ぶのは 元のうちに重複を許すため). ⟨∅⟩={0} と約束する.
有限 (個の元からなる) 生成系をもつベクトル空間を, 有限生成ベクトル空間という. 例 1–3に挙げたベクトル空間の例のうち, 有限生成でないものはK[x] のみ.
6.2–6.3
線形独立性と基底
,
ベクトル空間の次元
V をベクトル空間とする. V の元 x1, . . . ,xr が線形独立であるとは,
c1x1+· · ·+crxr= 0 を満たすスカラーが c1 =· · ·=cr = 0 に限る
とき, または同値に
すべての 1≤i≤n に対し, xi ∈ ⟨/ x1, . . . ,xbi, . . . ,xr⟩
が成り立つときにいう. ここで,xbi はxi を省くことを意味する. 従って最後の条件は,xi がそれ自身を除いた x1, . . . ,xi−1,xi+1, . . . , xr の線形結合として表せないことを意味す る. 線形独立でないことを, 線形従属であるという.
(2) 極小生成系. すなわち x1, . . . ,xr は V の生成系であり, これより1つでも省くと 生成系でなくなる.
(3) 極大線形独立系. すなわち x1, . . . ,xr は線形独立であり, これに1つでも加えると 線形従属になる.
(4) V のどんな元もそれらの線形結合として1通りに表される.
定義 これらの同値条件が満たされるとき, x1, . . . ,xr をV の基底と呼ぶ. 零元だけから なるベクトル空間{0} は空集合 ∅ を基底に持つとみなす.
定理B 有限生成ベクトル空間 V は必ず基底をもつ. 基底の選び方はさまざまあるが, そ れを構成する元の個数は一定である.
定義 その一定値を V の次元と呼び, dimV で表す.
注意 有限生成ベクトル空間と有限次元ベクトル空間は同義語になる.
例 6.1 節の例2において,K[x]n は 1, x, . . . , xn を基底にもち,n+ 1 次元である.ま た例3において (♠) の解空間は n次元であることが知られている.
定理C (基底の構成法) V を n次元ベクトル空間とする.
(1) V の生成系 x1, . . . ,xm が与えられたとき, これに含まれる極小生成系, 極大線形 独立系はどちらもV の基底になる.
(2) v1, . . . ,vr を V の 線 形 独 立 系 と す る と, r ≤ n で あ り, こ れ を 延 長 し て V の 基 底 v1, . . . ,vr,vr+1, . . . ,vn が 得 ら れ る. 実 際, vr+1 ∈ ⟨/ v1, . . . ,vr⟩, vr+2 ∈/ ⟨v1, . . . ,vr+1⟩, . . . , vn∈ ⟨/ v1, . . . ,vn−1⟩を満たす V の元 vr+1,vr+2, . . . ,vn が
存在. これらを付け加えればよい.
定理Bの後半と定理C(2)の証明に次を用いる.
定理D V をn次元ベクトル空間,v1, . . . ,vn をその基底とする. V の n元w1, . . . ,wn が与えられたとき,
w1 = a11v1+a21v2+· · ·+an1vn w2 = a12v1+a22v2+· · ·+an2vn
. . . .
wn = a1nv1+a2nv2+· · ·+annvn
を 満 た す ス カ ラ ー aij (1 ≤ i, j ≤ n) が 1 通 り に 決 ま り, 正 方 行 列 A = (
aij )
∈
M(n, n;K) を得る. このとき次が同値になる. (1) w1, . . . ,wn が V の基底.
(2) w1, . . . ,wn が線形独立. (3) A が正則行列.
こ れ ら の 同 値 条 件 が 満 た さ れ る と き, 正 則 行 列 A を 基 底 v1, . . . ,vn か ら 基 底 w1, . . . ,wn への変換行列と呼ぶ.
注意 上の定理の式 (∗) を行列の積の記法を借用して, (
w1, . . . ,wn )
=(v1, . . . ,vn )
A
と表す. もともとベクトルのスカラー倍を表すのにスカラー a の左乗法 av で表す代わ りに, 右乗法 va で表しても問題なく, とくに上の記法を用いる場合は後者の方が適して いる.
演習題 上と同様の記法を用いると, ベクトル空間 V において元 x1, . . . ,xr が線形独立 であるための条件は次のように表せることをたしかめよ.
(
x1, . . . ,xr )
c1
.. .
cr
=0 を満たす
c1
.. .
cr
∈Kr が零ベクトルに限る.
演 習 題 次 を 示 せ. 有 限 次 元 ベ ク ト ル 空 間 V の 部 分 空 間 W は ま た 有 限 次 元 で あ っ て, dimW ≤dimV. さらに, dimW = dimV ⇔ W =V.
6.4
部分空間の和と直和
V を ベ ク ト ル 空 間, W1, . . . Wr をそ の 部 分 空 間 と す る. 6.1 節 で 定 義 し た よ う に, 和 ∑r
i=1Wi =W1+· · ·+Wr は ∑r
i=1wi =w1+· · ·+wr (wi ∈Wi) の形の元全体からな るV の部分空間であった.
定義 この和が直和であるとは, 次の互いに同値な条件が満たされるときにいう. (1) 和の各元の表し方が一意的. すなわち
∑r
(2) ∑ri=1wi =0 (wi ∈Wi) ならば wi =0 (1≤i ≤r). (3) 和 が 与 え る 全 射
∏r
i=1Wi → ∑ri=1Wi, (w1, . . . ,wr) 7→ w1 +· · ·+wr が 単 射 (従って全単射; 実は同型写像, 6.5 節).
この場合, 和を
r ⊕
i=1
Wr =W1⊕ · · · ⊕Wr
で表す.
定理 記号を上の通りとする.
(1) r= 2 の場合, 次が同値になる. (i) 和W1+W2 が直和. (ii) W1∩W2 ={0}.
(2) r≥2 が一般の場合, 次が同値になる. (i) 和
∑r
i=1Wi が直和.
(ii) すべての 1< k ≤r に対し,
∑k−1
i=1 Wi と Wk の和が直和. (iii) すべての 1< k ≤r に対し,
( ∑k−1
i=1 Wi )
∩ Wk ={0}.
系 和 ∑r
i=1Wi が 直 和 で あ る と す る. u1, . . . ,up が W1 の 基 底, v1, . . . ,vq が W2 の 基 底, . . . , w1, . . . ,wt が Wr の 基 底 で あ れ ば, こ れ ら す べ て を 並 べ て 得 ら れ る u1, . . . ,up,v1, . . .vq, . . . ,w1, . . . ,wt はこの和の基底になり, 従って
dim r ⊕
i=1 Wi =
r ∑
i=1
dimWi
が成り立つ.
定理 r = 2の場合, 一般には
dim(W1+W2) = dimW1+ dimW2−dim(W1∩W2)
が成り立つ.
定義 ベクトル空間 V の部分空間 W に対し, V =W ⊕U を満たす部分空間 U ⊂V を
W の (V における)補空間と呼ぶ.
(1) 部分空間 W ⊂ V に対し, W の補空間が存在する. {0} ̸= W ̸= V であれば, そ の補空間は無数に存在する.
(2) W1, W2 をV の部分空間とし, i = 1,2 に対し Ui をW1 ∩W2 の Wi における補 空間とするとき,
W1+W2 =U1⊕U2⊕(W1∩W2)
が成り立つ.
6.5
線形写像
U, V, W をベクトル空間とする.
定 義 和 と ス カ ラ ー 倍 を 保 つ ベ ク ト ル 空 間 の 間 の 写 像 を 線 形 写 像と 呼 ぶ. す な わ ち,
f :U →V が線形写像であるとは,
(1) f(x+y) =f(x) +f(y), x,y∈U,
(2) f(λx) =λf(x), λ ∈K, x∈U
が満たされるときにいう. 線形写像 U →V 全体からなる集合を Hom(U, V) で表す. と くにU =V の場合, 線形写像 V →V を V 上の線形変換と呼び, その全体からなる集合 をEnd(V) で表す.
線形写像の簡単な性質として,
(i) 線形写像 f :U →V は零元, 逆元を保つ. すなわち f(0) =0, f(−x) =−f(x). (ii) 線形写像 f :U →V, g:V →W の合成 g◦f :U →W はまた線形写像.
(iii) U のすべての元を V の零元に写す写像 U →V は線形写像. これを零写像と呼ぶ. (iv) V の上の恒等変換 IV :V →V, IV(x) =x は線形変換.
定理 f :U →V を線形写像とする. (1) f の核 (独 Kernel)
Kerf ={x∈U |f(x) =0} はU の部分空間である.
(2) f の像 (英 image)
Imf ={f(x)∈V |x∈U}
(3) f が単射 ⇔ Kerf ={0}.
(4) U が有限次元であれば次の等式(次元公式と呼ばれる)が成り立つ. dimU = dim(Kerf) + dim(Imf)
注意 dim(Kerf) を f の退化次数と呼び nullf で表す. dim(Imf) を f の階数と呼び rankf で表す.
例 U =Kn, V =Km の場合を考えよう. 5.1 節の定理Aにより,線形写像 f :U →V は行列 A=f(En)∈M(m, n;K) を以て f =LA で与えられる.この場合,次元公式の 成立が次から確かめられる.
(1) f =LA の核 Kerf は, 斉次連立1次方程式 Ax= 0 の解集合に一致した.A.1 節 の定理から,Kerf はこの連立1次方程式の基本解を基底にもち,従って退化次数 nullf は解の自由度 n−rankA に一致する.
(2) A の列ベクトルをa1, . . . ,an とするとき, f の像 Imf はこれらの列ベクトルが生 成する Km の部分空間⟨a1, . . . ,an⟩ に一致し (5.3 節の例), 従って列ベクトルた ちのうちの極大線形独立系を基底にもつ (前定理C(1)).これより階数 rankf は 行列 A の階数 rankA に一致する.これは重要なので等式として記録しておこう.
rankA= rankLA(= dim(ImLA))
5.2 節 の 最 後 の 例 に お い て ,Imf が ,行 列 A の 第 1,第 3,第 4 列 ベ ク ト ル だ け で す で に 生 成 さ れ て い る こ と を 見 た .nullf = 1 よ り ,次 元 公 式 か ら rankf = 4−1 = 3 ゆえ,これら3列ベクトルは線形独立で,Imf の基底をなす.
定義 線形写像のうち特に全単射であるものを同型写像と呼ぶ. 2つのベクトル空間の間 に同型写像 U →V が存在する場合, これらは同型であるといい, U ≃V で表す.
同型写像の簡単な性質として,
(i) 同型写像 f :U →V の逆写像 f−1 :V →U 線形写像, 従って同型写像. これによ り, U ≃V とV ≃U は同値.
(ii) 同型写像 f :U →V, g:V →W の合成 g◦f :U →W はまた同型写像. (iii) 恒等変換 IV :V →V, IV(x) =x は同型写像.
(1) f, g∈Hom(U, V) とする. 和 f+g とスカラー λ 倍λf を
(f +g)(x) :=f(x) +g(x), (λf)(x) :=λf(x) (x∈U)
により定めると f +g∈Hom(U, V), λf ∈Hom(U, V) であり, こうして定まる演 算により Hom(U, V) はベクトル空間になる.
(2) 5.1 節 定理Bの全単射 L :M(m, n;K)
≃
−→ Hom(Kn, Km)
はベクトル空間の間
の同型写像である.
ベクトル空間に関し, 和とスカラー倍という代数構造だけを問題にする限り,互いに同 型なベクトル空間は (同型写像を通して) 同一視できる. 例えば, 生成系, 線形独立系, 基 底は同型写像で互いに写り合う. これより次が従う.
定理 2つの有限次元ベクトル空間U, V に対し,
U ≃V ⇔ dimU = dimV.
ベクトル空間V の元の列 v= (v1, . . . ,vm) が与えられたとき,写像 φv :Km→V を
φv
c1
.. .
cm
=(v1, . . . ,vm )
c1
.. .
cm
(=c1v1+· · ·+cmvm)
により定める.
命題 この写像に関して次が成り立つ. (1) φv は線形写像である.
(2) φv が単射⇔ v1, . . . ,vm が線形独立. (3) φv が全射⇔ v1, . . . ,vm がV の生成系. (4) φv が同型写像 ⇔ v1, . . . ,vm がV の基底.
注意 以後専ら, φv が同型写像の場合, 同値に v1, . . . ,vm が V の基底の場合にこの写像 を用いる. また以後, 基底という場合, それを構成する元の順序を考慮したもの (順序つき 基底) を指すことが多い. その場合, 基底を表すのに v = (v1, . . . ,vm) のように記す. U を n 次 元 ベ ク ト ル 空 間, V を m 次 元 ベ ク ト ル 空 間, た だ し n, m > 0 と す る.
f ∈Hom(U, V) に対し,
(
f(u1), . . . , f(un))=(v1, . . . ,vm)
a11 . . . a1n
..
. . .. ...
am1 . . . amn
により決まるスカラー aij を成分にもつ行列A = (
aij )
∈M(m, n;K) が得られる.
定義 この A をf の(基底 u, v に関する) 表現行列と呼ぶ. この A による左乗法 LA:Kn →Km は,
Kn φu −−−−→ U
LA
y yf
Km φv −−−−→ V
を可換図式にする, すなわち
f ◦φu=φv◦LA, 等しく φ−v1◦f◦φu =LA
を成り立たせる線形写像 Kn →Km として特徴づけられる. これは φu を通し Kn とU を, φv を通しKm と V を同一視するとき, LA とf が同一視されることを意味する. 演習題 上の状況において次を示せ.
(1) 対応 “線形写像7→その表現行列” が同型写像
Hom(U, V)−→≃ M(m, n;K)
を与える.
(2) 上の同型写像に同型写像 L : M(m, n;K)
≃
−→ Hom(Kn, Km)
を合成させたもの
は, f 7→φ−1
v ◦f◦φu が与える同型写像
Hom(U, V)−→≃ Hom(Kn, Km)
である.
例 U = Kn, V = Km の場合を考えよう. Kn の基底u = (u1, . . . ,un) と Km の基 底 v = (v1, . . . ,vm) が与えられたとする. これらを構成するベクトルを並べて得られる
P =(u1 . . . un )
, Q=(v1 . . . vm )
はそれぞれ n 次, m 次正則行列で,
線形写像 f ∈Hom(Kn, Km) は, ある B ∈M(m, n;K) を以てf =LB で与えられる.
φ−v1◦f◦φu =L− 1
Q ◦LB ◦LP =LQ−1BP
だから, 基底 u, v に関する f =LB の表現行列は Q−1BP に等しい.
さて, 次の問題を考えよう.
問題 有限次元ベクトル空間の間の線形写像 f :U →V が与えられたとき, U とV の基 底をうまく選んで, それらの基底に関する f の表現行列がなるべく簡単な形になるように せよ.
これへの答えは極めて単純で, 次の定理により与えられる. 定理 どんな線形写像 f :U →V に対しても, その表現行列が
(
Er O
O O
)
, r = rankf
となるように U と V の基底を選ぶことができる.
U = V の場合, 線形写像 f :V → V (すなわち V 上の線形変換) に対し, V の基底v と同じ基底 v に関してその表現行列 A (すなわち f ◦φv =φv ◦LA を満たす A) を簡単 な形にしようとすると問題は難しくなる. 以後この場合このような A を, 線形変換 f の 基底 v に関する表現行列と呼ぶ.
次章において次の問題につき考える. この問題に完全に答えるのがJordan 標準形の理 論(教科書 第9章)であるが,この授業ではそこまで及ばない.
問題 有限次元ベクトル空間 V 上の線形変換 f :V →V が与えられたとき, V の基底v をうまく選んで, その基底に関するf の表現行列がなるべく簡単な形になるようにせよ.
例 前の例によれば,V = Kn の場合この問題は次のように言い換えられる. 正方行列
B ∈ M(n, n;K) が与えられたとき, 正則行列 P をうまく選んで P−1BP がなるべく簡 単な形になるようにせよ.
6.6
商空間と同型定理
V を ベ ク ト ル 空 間, W を そ の 部 分 空 間 と す る. 元 x ∈ V に 対 し て, V の 部 分 集 合 x+W を
により定める. V の2元x, y に対し,
x+W =y+W ⇔ x−y∈W
が成り立つことから,
(i)x+W =y+W, (ii) (x+W)∩(y+W) =∅
のいずれかただ1つが成り立ち, 従ってV は x+W の形の部分集合たちに分割できる. すなわち, V の部分集合RW を選んで
V = ⊔
x∈RW
(x+W) (互いに交わらない部分集合たちの和集合) (#)
となるようにできる. x+W 全体 (x∈ V) からなる集合 (x+W = y+W のとき, ま たその時に限りこれらを等しい元とみなす) をV /W で表す. x+W は V /W において は元である. これを[x] または [x]W で表す. 従って
[x] = [y] (V /W の元として) ⇔ x+W =y+W (V の部分集合として). (ただし, V /W の元を表す記号 [x] と V の部分集合を表す記号 x+W を混用すること も多い. どちらの意味か意識すべき.) 全射
[ ] :V →V /W, x7→[x]
が得られる. これを上の RW に制限すれば全単射になる. V /W の上に和とスカラー倍が
[x] + [y] := [x+y], λ[x] := [λx] (λ∈K)
により, 元の表示の仕方によらずに定義できる. すなわち,
[x] = [x′], [y] = [y′] ⇒ [x+y] = [x′+y′], [λx] = [λx′].
さらに, これらの演算により V /W はベクトル空間になる. [ ] :V → V /W は線形写像 になり, W を核にもつ.
定義 V /W をV のW による商空間, [ ] を V から W への自然な線形写像と呼ぶ.
(#) を成り立たせる部分集合 RW ⊂ V を,V における V /W の完全代表系と呼ぶ.
W の補空間はどれも,このような完全代表系であって,しかもベクトル空間としてV /W
と自然に同型である.
演習題 最後の主張を確かめるべく,V の部分空間 U に対して, 次が互いに同値であるこ とを示せ.
(1) U がV における W の補空間.
(2) 自然な線形写像 [ ] :V →V /W のU への制限 U →V /W が同型写像. (3) U がV における V /W の完全代表系.
例 整数n≥0を固定する.多項式全体からなるベクトル空間 V =K[x]において,n 次 以下の多項式全体W = K[x]n は部分空間をなす (6.1節 例2).n 次以下の係数がすべ て零であるような,すなわち
p(x) =cn+1xn+1+cn+2xn+2+cn+3xn+3+. . . (ci ∈K)
の形の多項式全体 U もまたV の部分空間である.これが上の条件 (1)または(3)を満た すことを見るのは容易.従って上の結果から U ≃ V /W.これは,V において n 次以下
の多項式をすべて零と見做してできるベクトル空間が,U であるという直感を裏付ける.
また W と U の立場を替えて,W ≃V /U であることも注意しよう.
定理A (準同型定理) ベクトル空間の間の線形写像f :U →V は同型写像
U/Kerf −→≃ Imf, [u]7→f(u)
を引き起こす.
定理B 有限次元ベクトル空間 V とその部分空間 W に対して dimV /W = dimV −dimW.
定理Aの帰結としていくつかの同型定理が得られる (教科書 定理 6.17–18, 問題 6.17 参照). 次も1つの帰結であって,Jordan 標準形の理論で基本的な役割を果たす.
写像
U/f−1(W)→V /W, [u]f−1(W) 7→[f(u)]W
が引き起こされる.
6.7
計量ベクトル空間
定義 K =R または C の上の有限次元ベクトル空間 V に対し, その上の内積とは, 次の 条件を満たす (2 変数) 関数 ( , ) :V ×V →K のことをいう.
(1) 第1変数に関して線形. すなわち
(x1+x2, y) = (x1, y) + (x2, y), (λx, y) =λ(x, y).
(2) エルミート対称性. すなわち (x, y) = (y, x).
(3) 正値かつ非退化. すなわち, すべての x∈ V に対し (x, x)≥ 0. かつ(x, x) = 0 を満たすのは零元x=0 に限る.
内積が1つ与えられた有限次元ベクトル空間を計量ベクトル空間と呼ぶ.
注意 複素数 α =a+b √
−1 (a, b ∈R) に対し, α は α の複素共役α =a−b √
−1 を表 す. 従って K =R の場合, 条件 (2) は対称性 (x, y) = (y, x) を表す. 条件 (1), (2) か ら, K =C の場合
(4) 第2変数に関して半線形: (x, y1+y2) = (x, y1) + (x, y2), (x, λy) =λ(x, y)
が, K =R の場合
(4′) 第2変数に関しても線形: (x, y
1+y2) = (x, y1) + (x, y2), (x, λy) =λ(x, y)
が従う.
例 Kn 上の内積が
(x,y) := n ∑
i=1 xiyi
( , ) :V ×V →K をW ×W に制限すると W 上の内積が得られ, 従って W はこの内 積により計量ベクトル空間になる.
計量ベクトル空間 V において, 各元 x∈V のノルム ||x|| を ||x||=√(x, x)
により定める. これは非負実数値をとり, ||x||= 0 となるのは x=0 の場合に限る. また ||λx||=|λ| ||x|| (λ∈K, x∈V).
定理 計量ベクトル空間 V において
Cauchy-Schwarz の不等式 |(x, y)| ≤ ||x|| ||y|| 三角不等式 ||x+y|| ≤ ||x||+||y||
が成り立つ. Cauchy-Schwarz の不等式において等号が成り立つのは x と y が線形従属 の場合, またその場合に限る.
演習題 三角不等式から次の不等式を導け.
||x|| − ||y||
≤ ||x+y|| (x,y∈V).
計量ベクトル空間 V において, 2元 x,y が (x, y) = 0 または同値に (y, x) = 0 を 満たすとき, この2元は直交するといい, x⊥ y または y ⊥ x とかく. 零元はすべての 元と直交する. u1, . . . ,ur が, 互いに直交する V の非零元からなるとき, これを V の直 交系と呼ぶ. これは必然的に線形独立系である. ノルム1の元からなる直交系を正規直交 系と呼ぶ. u1, . . . ,ur が直交系であれば, 1
||u1||u1, . . . , 1
||ur||ur は正規直交系になる.
n = dimV の場合, n 元からなる (正規) 直交系は V の基底をなす. この場合これを
V の (正規) 直交基底と呼ぶ.
補題 計量ベクトル空間 V において, 直交系 u1, . . . ,ur と1元 v が与えられたとする.
u:=v− r ∑
i=1
(v,ui) (ui,ui)
ui
これを順次用いることにより, 次が得られる. 計量ベクトル空間の基底から (正規) 直交 基底を構成するこの方法を, Gram-Schmidt の直交化法と呼ぶ.
定理 計量ベクトル空間 V において, 基底 v1, . . . ,vn が与えられたとき,
u1:=v1, u2:=v2−
(v2,u1)
(u1,u1)
u1, u3 :=v3− 2
∑
i=1
(v3,ui)
(ui,ui)
ui, . . . , un :=vn− n−1
∑
i=1
(vn,ui)
(ui,ui)
ui
はV の直交基底をなす. 従って 1
||u1||u1, . . . , 1
||un||un は V の正規直交基底をなす.
演習題 次の3つの複素ベクトルは C3 の基底をなす. Gram-Schmidt の直交化法を用い てこれらから正規直交基底を構成せよ. ただし, i は虚数単位
√
−1 を表す.
v1 =
−0i
1
, v2 =
0i
−i
, v3 =
1i
0
計量ベクトル空間の間の線形写像 f :U →V が内積を保つとは, これが (x, y) = (f(x), f(y)) (x,y∈U)
を満たすときにいう.
演習題 次を示せ.
(1) 計量ベクトル空間の間の内積を保つ線形写像は必ず単射である. (2) V を計量ベクトル空間, v = (v1, . . . ,vn) をその基底とするとき,
φv :Kn ≃
−→V が内積を保つ ⇔ v1, . . . ,vn がV の正規直交基底.
演習題 W を計量ベクトル空間 V の部分空間とするとき, W のすべての元と直交するよ うなV の元全体からなる集合
W⊥ ={v ∈V |すべての w∈W に対し (v,w) = 0}
第7章
固有値と固有ベクトル
本章では, 断らない限りスカラー域を複素数体 C とする. それは C がもつ次の性質を 用いるためである.
代数学の基本定理 複素数を係数にもつ定数でない多項式 f(x) は必ず
f(x) =c
s ∏
i=1
(x−αi)ei, α1, . . . αs は相異なる複素数, ei >0, c∈C
の形に (積の順序を無視すれば) 一意的に分解する.
これより方程式f(x) = 0 は α1, . . . , αs を解にもつ. ei を解 αi の重複度と呼ぶ.
7.1
正方行列の固有値と固有空間
A= (
aij )
を n 次(複素)正方行列とする.教科書第4章で学んだように,文字x の
多項式を成分とする n 次正方行列 xE−A = (
δijx−aij) の行列式
ΦA(x) = det(xE −A)
を A の固有多項式と呼び, 方程式 ΦA(x) = 0 (A の固有方程式) の (重複度を込めて n 個の) 解を A の固有値と呼ぶ. 固有方程式の解としての重複度を,固有値の重複度と呼ぶ. 複素数 α が A の固有値であるのは, Cn の部分空間
Vα := Ker(L(αE−A):Cn →Cn)
が {0} を 真 に 含 む こ と と 同 値. そ の 場 合 Vα を, A の 固 有 値 α に 関 す る 固 有 空 間,
Vα \ {0} の元を A の α に関する固有ベクトルと呼ぶ. 換言すれば, A の α に関する固 有ベクトルとは, Av =αv かつ v̸=0 を満たすベクトルv ∈Cn のことをいう.
命題 A の固有値 α に対し, dimVα ≤ α の重複度.
7.2
正方行列の対角化可能性
定理A 正方行列 A の相異なる固有値 β1, . . . , βr に対し, 固有空間の和Vβ
1 +· · ·+Vβr
は直和である.
n次正方行列A が対角化可能であるとは,n 次正則行列P をうまく選んでP−1AP が 対角行列であるようにできるとき, 換言すれば, V =Cn の基底 v = (v1, . . . ,vn) をうま く選んで, それに関する V 上の線形変換 LA の表現行列が対角行列であるようにできる ときにいう.
定理B n 次正方行列 A に対し, 次は互いに同値になる. (i) A が対角化可能.
(ii) A のすべての固有空間の和(必ず直和)が Cn に一致する. (iii) A の各固有値 α に対し, dimVα =α の重複度.
(iv) 重複度>1 であるような A の各固有値 α に対し, dimVα =α の重複度.
系 n 次正方行列 A が n 個の相異なる固有値をもてば, A は対角化可能である.
例 A =
1 2 1
−1 4 1
2 4 0
が対角化可能かどうか見よう. ΦA(x) = (x−1)(x−2)2. 従って,
A の固有値は 1,2,2. さて, 1 に関する固有空間 V1 を求めるのは, 斉次連立1次方程式 (A−E)x= 0を解くのと同じ. A−E =
0 2 1
−1 3 1
2 −4 −1
の簡約階段化が
1 0 1/2 0 1 1/2
0 0 0
となることから, V1 は次元1 (1 の重複度 = 1 ゆえこれは必然) で, u := t(1,1,−2) を 基底にもつ. 同様に, A−2E =
−
1 2 1
−1 2 1
2 −4 −2
の簡約階段化が
1 −2 −1
0 0 0
0 0 0
とな
ることから, V2 は次元 2 (= 2 の重複度) で, v := t(2,1,0), w := t(1,0,1) を基底にも つ. 定理Bの条件 (iv) が満たされるから, 同定理により A は対角化可能. 実際, すべて の固有空間の基底を並べて得られるP :=
(
u v w)=
1 2 1
1 1 0
−2 0 1
は定理Aにより正
則で, P−1AP = diag(1,2,2). これは u, v, w が固有ベクトルであることを示す3等式
演習題 次の正方行列 A は対角化可能か? 可能であれば対角化せよ.
(1)
0 10 0 01 1 0 0
(2)
01 10 11 1 1 0
(3)
00 10 01 0 0 0
演習題 実正方行列A に対して次が互いに同値になることを示せ.
(i) A が実対角化可能. すなわち複素正則行列 P をうまく選んで P−1AP が実対角行 列であるようにできる.
(ii) 実正則行列P をうまく選んで P−1AP が対角行列であるようにできる. (iii) A が複素行列として対角化可能, かつ A の固有値がすべて実数である
複素正方行列 A = (
aij )
に対し, 各成分をその複素共役に置き換えた行列をA= (
aij )
とかく. これの転置行列を
A∗ =tA
とかき, A の随伴行列と呼ぶ. n次正方行列 A, B に対し, 次が成り立つ. (AB)∗ =B∗A∗
命題 標準内積に関して
(Av, w) = (v, A∗w)
がすべての v,w ∈Cn に対して成り立つ.
演 習 題 上 の 性 質 が A∗ を 特 徴 づ け る こ と, す な わ ち す べ て の v,w ∈ Cn に 対 し (Av, w) = (v, Bw) をみたす n 次正方行列 B は A∗ に限ることを示せ.
定義 AA∗ =A∗A を満たす複素正方行列 A を正規行列と呼ぶ. 命題 A を正規行列とする. 勝手な複素数 α に対して
Ker(A−αE) = Ker(A∗−αE).
従って, α が A の固有値 ⇔ α がA∗ の固有値 であり, この場合
系 正規行列A の相異なる固有値 α, β に対して Vα ⊥Vβ. すなわち, α に関する固有ベ クトルと β に関する固有ベクトルは必ず直交する.
定義 次の4種類の行列を, それぞれの条件を満たすものとして定める (すべて正規行列). ユニタリ行列 A∗ =A−1 (⇔A の列ベクトルたちが Cn の正規直交基底)
直交行列 実行列かつ tA =A−1 (⇔A の列ベクトルたちが Rn の正規直交基底) エルミート行列 A∗ =A
実対称行列 実行列かつ tA =A
正方行列A に対し, ユニタリ/直交行列 P をうまく選んで P−1AP が(実)対角行列で あるようにできるとき, A はユニタリ/直交行列により (実)対角化可能であるという.
定理C 複素正方行列 A がユニタリ行列により対角化可能 ⇔ A が正規行列. 定理D (1) エルミート行列はユニタリ行列により実対角化可能.
(2) 実対称行列は直交行列により実対角化可能.
例 A =
2 −i 1
i 2 −i
1 i 2
(ただし i =
√
−1) はエルミート行列, 従って正規行列だからユ
ニタリ行列によりが対角化可能. 実際, ΦA(x) = x(x−3)2 より, A の固有値は 0,3,3. 前 の 例 に あ る の と 同 じ 方 法 に よ り, V0 はu := t(−1, i, 1) を, V3 は v := t(1, 0, 1), w :=t(i, 1, 0) を基底に持つ. それぞれの基底に Gram-Schmidt の直交化法を施し, V0 の正規直交基底 u′ := √1
3u, V3 の正規直交基底v′ := 1 √
2v, w′ := 1 √ 6
t(i, 2, −i) を得
る. これらのベクトルを並べて得られるP := (
u′ v′ w′) =
−
1/√3 1/√2 i/√6
i/√3 0 2/√6 1/√3 1/√2 −i/√6
は前系によりユニタリで, P∗AP = diag(0,3,3).
演習題 次の行列 A はどれも正規行列である. ユニタリ行列により(実対称行列であれば 直交行列により) 対角化せよ. ただし, i =
√
−1, ω = −1 + √
−3
2 (1 の原始3乗根).
(1)
−21 −21 −−11 −1 −1 2
(2)
1 ω
2 ω
ω 1 ω2
ω2 ω 1
(3)
2−0 i 1 +0 i 0i
i 0 2−i
演習題 次の同値を示せ. n 次複素正方行列 A がユニタリ行列により (実) 対角化可能 ⇔
V =Cn の正規直交基底v = (v1, . . . ,vn) をうまく選んで, それに関する V 上の線形変 換LA の表現行列が (実) 対角行列であるようにできる.
7.3
線形変換の固有値と固有ベクトル
この節を通し, V を有限次元ベクトル空間, f を V 上の線形変換とする.
複素数 α に対し, f(v) = αv かつ v ̸= 0 を満たす v ∈V が存在する場合, この α を
f の固有値, v をf のα に関する固有ベクトルと呼ぶ. またこの場合, V の部分空間
Vα := Ker(f −αIV) ={0} ∪ {f の α に関する固有ベクトル}
を, f の固有値 α に関する固有空間と呼ぶ. これらの定義は, 先の正方行列に関する定義 を一般化するものである. (正方行列A に関する先の定義が, LA に関する上の定義に一致 する.)
V のある基底 v に関する f の表現行列 A の固有多項式 ΦA(x) を, f の固有多項式と 呼び Φf(x) で表す.別の基底に関する表現表列は P−1AP (P は正則) の形をしており, ΦP−1AP(x) = ΦA(x) が成り立つから, この定義は基底の選び方に依らない.α ∈C を勝 手に選ぶとき,同型写像 φv が同型写像Ker(A−αE)
≃
−→ Ker(f −αIV) に制限される ことから,
f の固有値 = A の固有値 = 固有方程式Φf(x) = 0 の解.
固有方程式の解としての重複度を, 固有値の重複度と呼ぶ.
考察 f(W) ⊂W を満たす部分空間 W ⊂V をf-不変部分空間と呼ぶ. このような部分 空間 W が与えられたとき, 商空間 V /W 上の線形変換 f が
f([v]) := [f(v)] (v ∈V)
で定義される. 実際, [v] = [v′] であれば [f(v)] = [f(v′)] だから, 上が V /W から V /W への写像 f を定義し, これが線形であることが見てとれる.
定理 V の基底 v1, . . . ,vn で,
ようなものが存在する.
系 勝手な正方行列 A は上三角化可能. すなわち正則行列 P をうまく選んで P−1AP が 上三角行列であるようにできる.
7.4
半単純な線形変換
引き続き, V を有限次元ベクトル空間,f を V 上の線形変換とする.
f が単純であるとは, これが恒等変換のスカラー倍に等しいときにいう. f が半単純で あるとは, V の基底をうまく選んでその基底に関する f の表現行列が対角行列であるよ うにできるときにいう. 単純な線形変換は半単純である.
定理 f に対し次が同値になる. (i) f が半単純.
(ii) V の勝手な基底に関する f の表現行列が対角化可能. (iii) f の固有ベクトルからなる V の基底が存在.
(iv) 重複度>1 であるような f の各固有値 α に対し, dimVα =α の重複度.
V を複素または実計量ベクトル空間, f をV 上の線形変換とする.
すべての v,w ∈V に対して(f(v), w) = (v, f∗(w)) を成り立たせる V 上の線形変 換 f∗ がただ1つ存在する. この f∗ をf の随伴変換と呼ぶ. f f∗ =f∗f を満たすとき,
f を正規変換と呼ぶ.
演習題 V のある正規直交基底に関するf の表現行列を A とするとき, 次を示せ. (1) 同じ基底による f∗ の表現行列は A∗ である.
(2) f が正規変換 ⇔ A が正規行列
定義 (1) 複素計量ベクトル空間 V 上の2種類の正規変換を, それぞれの条件を満たすも のとして定める.
ユニタリ変換 f∗ =f−1. 同値に, V のある/勝手な正規直交基底に 関する f の表現行列がユニタリ行列
(2) 実計量ベクトル空間 V 上の2種類の正規変換を, それぞれの条件を満たすものと して定める.
直交変換 f∗ =f−1. 同値に, V のある/勝手な正規直交基底に 関する f の表現行列が直交行列
対称変換 f∗ =f. 同値に, V のある/勝手な正規直交基底に 関する f の表現行列が対称行列
定理 (1) 複素計量ベクトル空間 V 上の正規変換 (とくにユニタリ変換) f は半単純であ る. もっと詳しく, V の正規直交基底をうまく選んでそれに関する f の表現行列が対角行 列であるようにできる.
(2) 複素 (実)計量ベクトル空間 V 上のエルミート (対称) 変換 f に対し, V の正規直 交基底をうまく選んでそれに関する f の表現行列が実対角行列であるようにできる.
Appendix
A.1
斉次連立1次方程式の解法(復習)
A ∈M(m, n;K) を零行列と異なる行列とする.この A が簡約階段行列であるとは次 の条件が満たされるときにいう.
(i) A のn 個の列は主列とそうでない従列*3に分けられ,主列を少なくとも1つ含む. (ii) 主列の番号を i1 < i2 <· · ·< ir とすると,第 ip 列は第 p 基本ベクトル ep に一
致する.
(iii) 第ip 列より左にある列の第 p 成分以下の成分はすべて 0 である(とくに第 i1 列 より左の列はすべて零ベクトルである).
ただし零行列も,従列だけからなるものとして,簡約階段行列に含める.一般に,主列の
個数 r がrankA に一致すること注意しよう.
A ∈ M(m, n;K) を零行列と異なる簡約階段行列とし,r = rankA(>0) とおく.上 のように,A の主列の番号を i1 < i2 < · · · < ir とする.n 次タテベクトルに関し,そ
*3
の第 ip 成分 (1 ≤p≤ r) を主成分,その他の成分を従成分と呼ぶ.斉次連立1次方程式
Ax=0 の基本解とは,次の条件をみたす n−r 個の n次タテベクトルx1, x2, . . . ,xn−r をいう.
(1◦) 各x
q の第 q 従成分(従成分だけを上から数えて q 番目にある)は1で,他の従成 分はすべて0.1である第 q 従成分より下にある成分は(主従にかかわらず)すべ て0 である*4.
(2◦) すると,x
q の第 q 従成分より上にある主成分は Axq =0 を満たすように一意的 に与えられるから,それらを当該成分とする.
例 3×6 行列 A=
1 0 −1 0 −1 −2
0 1 2 0 1 2
0 0 0 1 1 1
は簡約階段行列.主列の番号は i1 = 1,
i2 = 2, i3 = 4.これに応じ6次タテベクトルの成分の主従は
主
主
従
主
従
従
となる.Ax=0 の
基本解 x1,x2,x3 は,まず (1◦)を満たすように
x1 =
∗ ∗ 1 0 0 0
, x2 =
∗ ∗ 0 ∗ 1 0
, x3 =
∗ ∗ 0 ∗ 0 1
となり,さらに (2◦) を満たすように
x1 =
1 −2 1 0 0 0
, x2 =
1 −1 0 −1 1 0
, x3 =
2 −2 0 −1 0 1
と求まる.
*4
一般の行列 A∈M(m, n;K) が与えられたとき,それに行基本変形を何回か施して(同 値にm 次正則行列を左から掛けて)簡約階段行列B が得られる.このような B は一意
的に決まり,A の簡約階段化と呼ばれる.A とB の階数は一致するが,それをr で表す.
また斉次連立1次方程式 Ax= 0 の解集合とBx=0 の解集合は一致する.Bx =0 の 基本解 x1, . . . ,xn−r を以て Ax=0 の基本解という.
定理 Ax=0 の解は
c1x1+· · ·+cn−rxn−r, c1, . . . , cn−r ∈K
の形に一意的に表せる.
基本解の個数 n−r を Ax=0 の解の自由度と呼ぶ.
例
1 2 3 4 5 6
6 5 4 3 2 1
4 5 6 1 2 3
の簡約階段化は前の例の行列である(確かめよ).
A.2
補充題
指定しない限り,基礎体 K は R またはC のいずれか,いずれでもよい.
計算力を試す
1. 正方行列
A =
1 −1 −1 −1 −1 1 −1 −3 2 −2 1 4 1 −1 0 1
が与える線形変換
f :K4 →K4, f(x) =Ax
について,核 Kerf と像 Imf の次元を求め,それらの基底を1組ずつ与えよ.
2. 複素正方行列
00 a1 bc
0 0 0
が対角化可能であるために,複素数 a, b, cが満たすべき条件を求めよ.またそれが満たさ
3. 次はエルミート行列である.i は虚数単位を表す.複素数 a, b, c の値を与えた上で, この A をユニタリ行列により対角化せよ.
A =
0i a0 bc
1 i 0
思考力を試す
4. A を n 次正方行列とし,r0 =n, ri = rankAi, i >0 とおく.次を示せ. (1) ある番号 k ≥0 に対しr0 > r1 > r2 >· · ·> rk =rk+1 =rk+2 =. . .. (2) 数列 {ri−ri+1} が非増大. すなわち
ri−ri+1 ≥ri+1−ri+2, i ≥0.
5 *5. A を n 次正方行列とし, これが与える Kn の線形変換 f(=LA) とかく. (1) 次の条件 (i)–(iii) が互いに同値であることを証明せよ.
(i) A と A2 の階数が等しい. すなわちrankA = rankA2. (ii) A2 =AP
を満たす正則行列P が存在する.
(iii) f の核 Kerf と像 Imf の共通部分が零ベクトル 0 だけからなる. すなわち Kerf ∩ Imf = {0}.
(2) n= 3, A =
1 0 a
0 1 b
b a 2ab
の場合に,
(α) Kerf および Imf の基底をそれぞれ1組求めよ.
(β) 上の同値条件 (i)–(iii) が成り立つために a, b が満たすべき条件を求めよ. (γ) またその条件が満たされるとき, A2 = AP を満たす正則行列 P を 1 つ求
めよ.
6 *6. K =Rとする.V =R[x]2 を,R に係数をもつ2次以下の多項式全体からなるベ クト空間とする.p(x)∈V に対し多項式 f(p(x)) を
f(p(x)) = (x+ 1) d
dxp(x) *5
筑波大2015年度大学院入試問題から.
*6
で定める.
(1) f が V 上の線形変換であること, すなわち f ∈End(V) を示せ. (2) V の基底を 1 組選んだ上, その基底に関する f の表現行列を求めよ. (3) f と可換な線形変換 g 全体からなる集合
M ={g∈End(V)|g◦f =f ◦g}
がEnd(V) の部分空間であることを示した上で,その次元を求めよ.
7. A, B をn 次複素正方行列とする. (1) 次が互いに同値であることを示せ.
(i) A, B が 同 時 対 角 化 可 能 .す な わ ち 正 則 行 列 P を う ま く 選 ん で P−1AP,
P−1BP
がともに対角行列であるようにできる.
(ii) A, B はともに対角化可能であり,かつAB =BA をみたす.
(2) AB = BA であれば,A, B は同時上三角化可能,すなわち正則行列 P をうまく 選んで P−1AP, P−1BP がともに上三角行列であるようにできることを示せ.ま た逆が成り立たないことを示す例を挙げよ.
8. Aをn次実正規行列(n次実正方行列でtAA=AtAを満たす)とする.次の(1)–(4) が成り立つことを示し,また(5) に答えよ.
(1) Aの(Cにおける)固有値すべてを重複度も込めて記述すると,実数 λ1, λ2, . . . , λr とペアで複素共役な虚数µ1, µ1, µ2, µ2, . . . , µs, µs (r≥0, s≥0, r+ 2s=n) からなる.
(2) 実ベクトル v1, v2, . . . , vr とペアで複素共役 (各成分が複素共役) な複素ベクト ルw1, w1, w2, w2, . . . , ws, ws であって,Cn の正規直交基底をなし,上の固 有値に関し,順に固有ベクトルとなるようなものが存在する.
(3) xi := 1 √
2(wi+wi), yi := 1 √
−2(wi−wi) (1≤i≤s) とおくと,これらは実ベ クトルで, v1, v2, . . . , vr, x1, y1, x2, y2, . . . , xs, ys は Rn の正規直交基底. 従ってこれらを並べた
P =(v1 . . . vr x1 y1 . . . xs ys
)
(4) µi =ai+bi √
−1 (ai, bi ∈R, bi ̸= 0; 1≤i≤s) とすると,tP AP は
B=
λ1 0 . . .
0 . .. ..
. λr
a1 b1 −b1 a1
. ..
as bs
−bs as
.
に一致する.このB は対角行列 diag(λ1, λ2, . . . , λr) と (
a1 b1
−b1 a1
)
,
(
a2 b2
−b2 a2
)
, . . . ,
(
as bs −bs as
)
,
を順に対角に並べ,空いた成分をすべて 0 としたもの*7.
(5) A が (i)直交行列,(ii) 交代行列の場合,上の B はどのような形になるか.
*7