根津美術館蔵 尾形光琳筆「白楽天図屏風」につい
て
著者
川延 安直
雑誌名
藝叢 : 筑波大学芸術学研究誌
巻
3
ページ
12- 26
発行年
2000- 01- 06
12
根
津
美
術
館
蔵
尾
形
光
琳
筆
﹁
白
楽
天
図
昇
風
﹂
に
つ
い
て
は
じ
め
に
今
回
の
小
論
で
取
り
掲
げ
た
、
根
津
美
術
館
蔵
﹁
白
楽
天
罰
尻
風
L
に
は
、
こ
の
他
に
、
構
図
・
画
面
形
式
を
ま
っ
た
く
同
じ
く
す
る
作
仰
が
某
氏
の
所
蔵
と
し
て
現
存
し
て
お
り
、
さ
ら
に
﹁
光
琳
百
図
﹄
中
に
も
同
様
の
作
例
が
伝
え
ら
れ
、
同
工
異
曲
の
作
例
が
三
点
確
認
さ
れ
て
い
る
。
ま
た
、
﹁
一
扇
面
貼
交
手
箱
﹂
︵
大
和
文
時
十
館
蔵
︶
の
中
の
三
日
楽
天
罰
扇
一
山
﹂
も
、
作
風
は
異
な
る
が
開
様
の
場
面
を
描
い
て
い
る
。
そ
の
他
、
﹁
白
楽
天
図
界
風
﹂
に
関
連
す
る
資
料
と
し
て
、
小
西
家
伝
来
光
琳
資
料
中
の
、
二
種
の
下
絵
と
忠
わ
れ
る
画
稿
を
忘
れ
る
事
は
で
き
な
い
︵
1
1
こ
の
よ
う
に
、
構
図
を
同
じ
く
す
る
作
例
が
三
点
確
認
さ
れ
、
そ
の
下
絵
が
伝
わ
っ
て
い
る
卒
、
構
閣
の
一
部
が
、
先
行
す
る
宗
達
派
の
扇
面
画
に
類
似
し
て
い
る
事
、
さ
ら
に
は
、
そ
の
図
様
の
源
流
を
室
町
期
の
作
と
さ
れ
る
古
絵
巻
に
求
め
ら
れ
る
、
と
い
っ
た
諸
点
は
、
本
図
の
成
立
に
興
味
あ
る
問
題
を
提
供
し
て
く
れ
る
。
光
琳
の
代
表
作
と
さ
れ
る
作
品
、
例
え
ば
勺
紅
白
梅
民
庶
風
﹂
︵
M
O
A
美
術
館
蔵
︶
・
﹁
燕
子
花
臨
界
風
﹂
︵
根
津
美
術
館
蔵
︶
な
ど
と
比
べ
る
Jll
延
直
安
時
、
本
図
が
、
完
成
度
や
美
的
価
値
に
お
い
て
、
よ
り
擾
れ
た
作
品
で
あ
る
と
は
一
一
一
一
口
え
な
い
で
あ
ろ
う
。
し
か
し
、
本
国
に
は
、
下
絵
を
含
め
て
、
確
か
に
光
琳
独
自
の
造
形
性
を
認
め
る
事
が
出
来
る
の
で
あ
る
。
小
論
で
は
、
こ
の
根
津
美
術
館
蔵
っ
白
楽
天
国
界
風
﹂
を
積
極
的
に
光
琳
作
品
と
認
め
、
﹁
白
楽
天
図
既
風
﹂
の
下
絵
と
忠
わ
れ
る
小
西
家
伝
来
画
稿
、
東
大
寺
蔵
﹁
古
絵
巻
L
︵
2
︶
・
宗
達
扇
面
倒
︵
3
︶
と
の
関
連
、
酪
聞
の
多
く
を
占
め
る
波
の
表
現
な
ど
を
手
掛
り
と
し
て
、
本
図
の
造
形
的
特
一
買
を
明
ら
か
に
し
、
さ
ら
に
、
他
の
光
琳
詩
作
品
と
の
画
風
・
落
款
・
印
設
の
比
較
を
一
通
し
て
光
琳
の
作
風
展
開
上
に
お
け
る
位
置
付
け
、
制
作
年
代
の
推
定
を
試
み
た
い
。
光
琳
筆
根
津
美
術
館
蔵
﹁
白
楽
天
国
群
風
﹂
に
つ
い
て
寸
白
楽
天
図
扉
風
L
に
関
す
る
論
考
﹁
白
楽
天
関
尻
風
﹂
の
作
品
論
に
入
る
前
に
、
き
た
い
と
思
う
。
ま
ず
、
既
に
昭
和
三
十
五
年
山
根
有
三
氏
は
、
そ
の
研
究
通
史
に
触
れ
て
お
﹁
白
楽
天
図
庶
風
﹂
が
謡
っ
白
楽
天
﹂
か
ら
画
題
を
得
た
も
の
で
あ
り
、
ま
た
、
﹁
白
楽
天
図
庶
風
﹂
の
下
絵
と
見
ら
れ
る
小
西
家
伝
来
の
画
稿
が
、
室
町
時
代
末
の
つ
執
金
剛
神
縁
起
絵
巻
L
か
ら
取
ら
れ
た
も
の
で
あ
る
と
し
、
さ
ら
に
、
向
絵
巻
と
宗
達
、
宗
達
と
光
琳
の
間
で
図
様
の
応
用
が
あ
っ
た
可
能
性
を
示
唆
し
て
い
る
︵
4
1
そ
の
後
、
伺
氏
は
宗
達
と
そ
の
一
派
の
描
く
古
典
的
題
材
が
古
絵
巻
か
ら
取
材
さ
れ
て
い
る
事
実
を
突
証
的
に
論
じ
、
そ
の
中
で
﹁
執
金
制
神
縁
起
絵
巻
L
と
っ
白
楽
天
図
庶
風
﹂
と
の
関
係
に
つ
い
て
、
宗
達
周
辺
倒
家
の
作
と
忠
わ
れ
る
﹁
扇
面
貼
付
小
開
風
﹂
︵
フ
り
ア
美
術
館
蔵
︶
の
中
の
向
絵
巻
か
ら
取
材
し
た
扇
面
闘
を
取
り
上
げ
、
同
絵
巻
・
扇
面
白
・
光
琳
画
稿
・
﹁
白
楽
天
図
尻
風
﹂
と
述
ら
な
る
図
様
の
継
承
に
つ
い
て
論
じ
て
い
る
︿
5
︶。
﹁
白
楽
天
鴎
尻
風
﹂
の
造
形
的
側
面
に
触
れ
た
論
に
は
、
未
だ
ま
と
ま
っ
た
も
の
を
見
な
い
が
、
仲
町
啓
子
氏
は
﹁
白
楽
天
国
俳
風
﹂
の
中
の
緑
背
の
山
と
宗
達
筆
﹁
関
屋
図
庶
風
し
︵
静
嘉
堂
文
庫
蔵
︶
中
の
土
域
と
の
類
似
を
指
摘
し
た
。
ま
た
、
同
氏
は
﹁
白
楽
天
国
民
風
﹂
を
光
琳
真
第
十
と
す
る
に
当
た
っ
て
、
未
だ
検
討
の
余
地
が
残
る
と
し
な
が
ら
も
、
特
に
波
の
描
写
に
宗
達
学
習
の
影
響
を
指
摘
し
、
さ
ら
に
、
光
琳
画
稿
中
の
﹁
白
楽
天
図
下
絵
L
︵
一
一
枚
の
う
ち
正
面
向
き
の
白
楽
天
を
描
く
も
の
︶
を
取
り
上
げ
、
そ
の
人
物
と
船
が
一
体
と
な
っ
て
作
り
出
す
抽
象
化
、
様
式
化
さ
れ
た
造
形
に
着
目
し
て
い
る
ハ
6
1
し
か
し
、
以
上
の
諸
論
に
お
い
て
、
謡
曲
﹁
白
楽
天
﹂
、
東
大
寺
蔵
主
口
絵
巻
ヘ
宗
達
派
作
品
と
の
関
連
等
に
つ
い
て
は
触
れ
ら
れ
て
い
る
も
の
の
、
光
琳
筆
っ
白
楽
天
図
界
風
L
を
主
題
と
す
る
総
合
的
論
考
は
行
な
わ
れ
て
い
な
い
︵
7
︶。
13
主
題
に
つ
い
て
﹁
自
楽
天
図
庶
風
﹂
の
造
形
面
に
触
れ
る
前
に
、
主
題
で
あ
る
謡
曲
寸
白
楽
2
天
﹂
と
の
関
係
に
つ
い
て
簡
単
に
記
し
て
お
き
た
い
。
ァ
日
楽
天
国
庶
風
L
の
描
く
と
こ
ろ
が
謡
曲
﹁
白
楽
天
﹂
の
一
場
面
、
白
楽
天
が
唐
国
よ
り
日
本
の
智
恵
を
計
る
為
に
渡
米
し
、
今
ま
さ
に
、
佐
吉
明
神
の
化
神
で
あ
る
と
こ
ろ
の
漁
翁
と
出
会
お
う
と
い
う
場
面
で
あ
る
事
は
、
前
節
で
掲
げ
た
諾
論
文
で
既
に
指
摘
さ
れ
て
い
る
。
し
か
し
、
こ
の
寸
白
楽
天
図
庶
風
﹂
は
謡
曲
に
主
題
を
得
た
も
の
で
は
あ
る
が
、
謡
曲
の
世
界
を
忠
実
に
再
現
し
よ
う
と
し
た
も
の
で
は
な
い
。
後
に
詳
し
く
述
べ
る
が
、
本
図
の
抽
象
的
と
も
言
え
る
対
象
の
形
態
や
酒
店
構
成
は
純
粋
に
造
形
主
義
的
な
意
志
に
支
配
さ
れ
て
お
り
、
そ
こ
に
は
叙
情
的
・
文
学
的
趣
味
は
感
じ
ら
れ
な
い
。
本
図
を
描
く
に
あ
た
っ
て
一
両
曲
に
触
発
さ
れ
は
し
た
で
あ
ろ
う
が
、
そ
れ
は
光
琳
の
美
意
識
を
支
配
す
る
性
質
の
も
の
で
は
な
か
っ
た
。
そ
れ
で
も
、
や
は
り
光
琳
の
能
に
対
す
る
関
心
は
浅
か
ら
ぬ
も
の
で
あ
っ
た
と
忠
わ
れ
る
。
こ
こ
で
は
詳
述
を
避
け
る
が
、
光
琳
は
幼
少
の
頃
よ
り
父
宗
誌
の
感
化
に
よ
っ
て
能
を
学
び
、
終
生
そ
の
鑑
賞
は
も
ち
ろ
ん
、
白
か
ら
演
ず
る
事
の
あ
っ
た
事
が
﹁
小
西
家
旧
蔵
光
琳
関
係
資
料
﹂
、
﹁
二
条
家
内
々
御
番
一
昨
毘
次
記
﹂
等
の
資
料
か
ら
知
ら
れ
る
の
で
あ
る
︵
8
︶。
3
造
形
に
つ
い
て
構
図
・
彩
色
・
対
象
の
造
形
処
理
を
中
心
に
本
図
は
六
曲
一
隻
の
界
風
装
で
紙
本
彩
色
、
一
部
に
金
箔
・
金
砂
子
を
用
い
る
。
右
隻
に
白
楽
天
と
船
頭
を
乗
せ
た
唐
船
、
左
隻
に
漁
翁
の
乗
る
小
船
が
向
き
合
っ
て
配
さ
れ
る
︵
9
︶
。
画
面
左
上
か
ら
土
波
が
伸
び
途
中
二
手
に
岐
れ
て
画
面
中
央
部
に
張
り
出
し
、
さ
ら
に
そ
の
延
長
上
に
金
雲
が
延
び
唐
船
の
近
く
に
達
す
る
。
残
る
画
面
の
大
部
分
は
波
で
埋
め
ら
れ
、
本
図
の
最
も
特
徴
的
な
表
現
を
な
す
。
以
下
、
本
図
の
造
形
的
特
質
を
川
一
構
14
的
彩
色
村
対
象
の
抽
象
的
・
平
語
的
処
理
の
三
点
か
ら
考
察
し
た
い
と
思
う
。
ω
構
図
本
一
凶
の
構
図
の
特
徴
と
し
て
、
閉
鎖
的
・
求
心
的
性
格
を
持
つ
事
、
画
面
の
物
理
的
中
心
と
造
形
意
識
上
の
阿
面
の
中
心
と
の
間
に
ず
れ
が
あ
り
、
造
形
的
に
非
相
称
で
あ
る
事
の
二
点
を
指
摘
で
き
る
。
一
一
一
人
の
人
物
に
拠
る
視
線
の
交
換
、
二
般
の
対
崎
す
る
船
の
位
置
関
係
は
、
観
る
者
の
視
線
を
阿
部
内
に
留
め
、
船
の
動
き
を
抑
え
て
い
る
。
二
般
の
間
に
拡
が
る
海
原
に
は
、
白
楽
天
と
漁
翁
の
中
間
に
張
り
出
す
様
に
土
岐
が
位
置
し
、
問
開
放
的
な
空
間
の
鉱
が
り
を
減
じ
て
い
る
。
画
面
上
端
は
土
岐
と
金
雲
で
埋
め
ら
れ
、
水
平
方
向
へ
の
連
続
性
が
保
た
れ
る
反
面
、
面
倒
上
方
へ
の
空
間
の
拡
が
り
は
断
た
れ
る
事
に
な
る
。
十
山
田
左
端
漁
翁
の
頭
上
に
は
、
画
面
上
半
部
を
占
め
て
土
波
が
拡
が
り
、
漁
翁
の
前
方
、
画
面
中
央
に
も
広
く
土
岐
が
位
置
し
て
い
る
た
め
、
向
翁
は
土
岐
に
取
り
込
ま
れ
る
形
と
な
り
、
閉
鎖
的
な
印
象
を
与
え
て
い
る
。
こ
れ
ら
は
、
す
べ
て
拡
散
か
ら
集
中
へ
と
作
用
す
る
性
格
の
も
の
で
、
視
線
を
画
面
内
に
留
め
、
閉
鎖
的
印
象
を
生
み
出
し
て
い
る
。
本
閣
の
造
形
上
の
中
心
点
を
画
面
に
見
い
出
す
な
ら
ば
、
そ
れ
は
題
材
上
主
要
な
二
人
物
、
白
楽
天
と
漁
翁
の
中
間
点
、
二
人
物
の
間
に
大
き
く
張
り
出
す
土
城
の
中
心
あ
た
り
で
あ
ろ
う
。
国
而
の
物
理
的
中
心
は
対
角
線
の
交
点
で
あ
る
か
ら
、
こ
の
造
型
上
の
中
心
点
は
そ
れ
よ
り
半
出
程
左
へ
ず
れ
て
い
る
事
に
な
る
。
こ
れ
は
、
中
心
を
ず
ら
し
画
面
の
均
衡
・
安
定
を
破
る
事
で
左
右
均
衡
の
安
定
し
た
構
図
か
ら
は
得
ら
れ
な
い
心
型
的
効
果
を
観
者
に
与
え
る
の
を
意
図
し
た
も
の
で
は
な
い
だ
ろ
う
か
。
し
か
し
、
こ
の
構
図
が
勺
白
楽
天
図
尻
風
い
に
お
い
て
必
ず
し
も
成
功
し
て
い
る
と
は
言
え
な
い
。
同
様
の
構
図
を
持
つ
多
く
の
光
域
函
が
正
方
形
に
近
い
回
面
形
式
︵
叩
︶
で
あ
る
の
に
対
し
、
本
図
は
水
平
志
向
が
強
調
さ
れ
る
六
由
一
隻
の
画
面
形
式
で
あ
り
、
構
図
は
緊
張
感
に
乏
し
い
も
の
と
な
っ
て
い
る
。
制
彩
色
次
に
、
措
線
も
含
め
て
彩
色
の
問
題
に
移
ろ
う
と
忠
う
。
本
閣
は
紙
本
地
に
金
箔
・
金
砂
子
を
用
い
、
閉
店
・
金
銀
泥
・
そ
の
他
の
顔
料
を
以
て
彩
色
が
施
さ
れ
て
い
る
。
先
ず
、
人
物
の
彩
色
は
、
漁
翁
は
凱
が
呉
粉
、
着
衣
は
金
泥
。
白
楽
天
は
冠
・
袖
・
襟
に
縁
青
が
施
さ
れ
、
袖
・
襟
に
は
金
泥
で
唐
草
一
様
の
文
様
が
拙
か
れ
て
い
る
。
船
頭
は
着
衣
が
呉
粉
で
襟
・
袖
に
は
謡
音
が
施
さ
れ
て
い
る
。
白
楽
天
の
緑
青
と
金
泥
は
船
頭
の
呉
粉
と
と
も
に
色
彩
的
な
ア
ク
セ
ン
ト
の
効
果
を
果
た
し
て
い
る
。
臨
胴
船
は
呉
粉
・
山
中
山
・
銀
泥
で
船
体
が
掛
か
れ
る
が
、
銀
泥
は
銀
焼
け
が
進
み
県
灰
色
に
近
い
。
船
首
に
は
群
青
・
金
泥
・
朱
で
魚
型
の
装
飾
が
拙
か
れ
、
船
尾
の
金
泥
の
品
川
形
の
装
飾
と
と
も
に
面
回
に
翠
や
か
さ
を
加
え
て
い
る
。
本
国
を
一
見
し
た
と
こ
ろ
、
波
の
部
分
に
は
彩
色
ら
し
き
も
の
は
見
当
ら
ず
淡
広
が
淡
く
引
か
れ
て
い
る
か
に
見
え
る
の
だ
が
、
詳
細
に
観
察
す
る
と
突
は
か
な
り
の
部
分
に
極
め
て
薄
く
群
青
が
施
さ
れ
て
い
る
事
に
気
付
く
。
波
の
背
、
波
頭
の
泡
立
つ
表
現
の
部
分
に
は
僅
か
な
が
ら
呉
粉
も
残
っ
て
い
る
が
、
当
初
は
波
の
背
を
中
心
に
よ
り
多
く
の
部
分
に
施
さ
れ
て
い
た
も
の
と
思
わ
れ
、
今
で
は
そ
の
名
残
り
が
群
青
の
施
さ
れ
て
い
な
い
紙
本
地
の
部
分
と
し
て
お
線
に
沿
っ
て
表
わ
れ
て
い
る
。
お
そ
ら
く
、
当
初
は
操
縦
を
何
本
か
毘
ね
て
一
つ
の
波
の
山
を
表
わ
し
、
思
一
線
の
一
条
毎
に
そ
の
下
に
沿
っ
て
呉
粉
を
施
し
た
後
、
広
く
群
青
を
塗
っ
た
、
か
な
り
明
る
い
叩
象
を
与
え
る
も
の
だ
っ
た
の
で
土
£
、
ご
う
ミ
O
て
ん
v
f
L
J
l
z
一
う
カ
流
れ
る
様
な
川
沿
線
と
群
青
と
呉
粉
と
で
拙
か
れ
た
波
が
広
く
副
函
を
占
め
15
い
た
の
で
あ
れ
ば
、
土
坂
の
緑
青
、
時
船
の
銀
泥
、
そ
し
て
金
一
芸
の
効
果
も
加
わ
り
、
本
図
の
印
象
は
今
よ
り
一
一
周
華
や
か
な
も
の
で
あ
っ
た
ろ
う
と
思
わ
れ
る
。
し
か
し
、
当
初
の
呉
粉
の
姿
は
あ
る
程
度
推
測
し
得
る
と
し
て
も
、
そ
の
他
の
群
背
・
銀
泥
の
当
初
の
姿
を
推
測
す
る
の
に
は
未
だ
問
題
が
残
る
の
で
あ
る
。
こ
こ
で
、
波
と
人
物
の
拙
線
に
つ
い
て
少
し
記
し
て
お
き
た
い
。
ま
ず
波
の
表
現
だ
が
、
幾
筋
も
の
規
則
的
に
引
か
れ
た
淡
品
一
線
で
波
の
一
々
が
表
現
さ
れ
て
い
る
。
こ
の
描
綜
は
太
目
の
ゆ
っ
た
り
し
た
線
で
、
一
気
町
成
に
引
か
れ
た
も
の
で
は
な
か
っ
た
で
あ
ろ
う
が
、
途
中
モ
タ
つ
き
や
ム
ラ
も
な
く
切
れ
の
良
さ
を
感
じ
さ
せ
る
。
人
物
の
着
衣
を
抗
く
ふ
く
ら
み
の
あ
る
総
は
衣
の
柔
ら
か
き
を
良
く
表
わ
し
て
お
り
、
他
の
光
琳
人
物
画
、
﹁
牡
丹
花
肖
柏
像
﹂
・
﹁
中
村
内
蔵
助
像
﹂
︵
大
和
文
部
十
館
蔵
﹀
・
﹁
呂
向
垂
釣
図
界
風
﹂
︵
文
化
庁
蔵
︶
等
に
見
ら
れ
る
着
衣
の
線
に
相
通
じ
る
性
質
を
持
っ
て
い
る
。
同
じ
く
着
衣
を
描
く
紘
で
あ
っ
て
も
、
白
楽
天
の
そ
れ
が
他
の
二
人
物
に
比
べ
比
較
的
硬
い
印
象
を
与
え
る
の
は
、
自
楽
天
の
姿
形
が
、
他
の
二
人
物
に
比
べ
直
線
的
・
幾
何
学
的
で
あ
り
、
曲
線
の
柔
ら
か
き
を
感
じ
さ
せ
る
惑
が
少
な
い
た
め
で
あ
ろ
う
。
付
対
象
の
抽
象
的
・
平
面
的
処
理
最
後
に
対
象
の
抽
象
的
・
平
間
的
処
理
の
問
題
に
触
れ
た
い
と
思
う
。
ま
ず
、
本
図
の
主
要
な
構
成
要
素
で
あ
る
波
は
、
曲
線
の
反
復
で
構
成
さ
れ
る
山
型
の
基
本
形
を
複
雑
に
組
み
合
わ
せ
て
拙
か
れ
て
お
り
、
画
面
の
各
部
と
も
類
型
的
形
状
を
塁
し
大
き
さ
も
ほ
ぼ
均
一
で
、
海
部
上
の
奥
行
き
は
意
識
さ
れ
て
い
な
い
。
こ
こ
で
の
主
た
る
目
的
は
、
波
と
い
う
自
然
現
象
の
一
様
態
を
再
現
す
る
事
に
あ
る
の
で
は
な
く
、
画
面
に
図
案
的
整
理
を
施
す
事
に
あ
る
と
思
わ
れ
る
。
そ
の
他
の
船
や
土
坂
は
、
抽
象
的
に
整
理
さ
れ
た
形
態
の
色
面
と
し
て
処
理
さ
れ
る
。
特
に
土
域
は
曲
線
を
強
調
し
た
緑
青
の
一
千
百
と
し
て
扱
わ
れ
る
傾
向
が
顕
著
で
、
同
様
の
傾
向
は
正
問
観
の
強
調
さ
れ
た
自
楽
天
の
幾
何
学
的
姿
形
、
唐
船
と
一
体
化
す
る
よ
う
に
背
か
ら
腕
へ
の
曲
線
を
強
制
さ
れ
た
船
頭
の
姿
形
に
も
認
め
る
事
が
出
来
る
。
こ
れ
ら
の
図
案
的
、
抽
象
的
、
一
千
十
則
的
造
形
処
即
一
に
つ
い
て
は
後
に
詳
し
く
触
れ
る
事
に
し
た
い
。
っ
白
楽
天
国
扉
風
﹂
の
造
形
的
特
質
古
絵
巻
と
の
関
係
本
国
の
唐
船
の
図
様
が
宗
達
派
作
品
を
問
に
置
い
て
、
東
大
寺
蔵
の
古
絵
巻
の
一
部
か
ら
取
材
さ
れ
た
も
の
で
あ
ろ
う
と
す
る
意
見
が
舵
山
さ
れ
て
い
る
が
︵
日
︶
、
本
節
で
は
そ
の
説
の
も
と
に
a
東
大
寺
蔵
寸
古
絵
巻
﹂
︵
以
下
っ
絵
巻
L
︶
b
﹁
扇
面
貼
交
小
尉
風
﹂
︵
ア
リ
ア
美
術
館
蔵
︶
中
の
一
崩
而
副
︵
以
下
、
っ
中
寸
小
述
扇
面
回
﹂
︶
C
﹁
白
楽
天
図
昨
風
下
絵
L
︵
以
下
、
っ
下
絵
ヘ
っ
白
楽
天
図
下
絵
L
︶
d
根
津
美
術
館
蔵
﹁
白
楽
天
間
院
風
﹂
と
い
う
図
様
の
変
遷
を
想
定
し
、
そ
こ
に
見
ら
れ
る
造
形
性
の
変
化
に
つ
い
て
考
察
し
た
い
。
特
に
つ
宗
達
一
局
面
画
い
か
ら
三
田
楽
天
図
下
絵
﹂
に
至
る
悶
様
の
変
化
は
本
国
の
造
形
意
識
を
知
る
上
で
一
つ
の
重
要
な
手
掛
り
に
な
る
と
忠
わ
れ
る
︵
ロ
︶
。
以
下
、
付
波
、
仲
唐
船
、
仲
人
物
の
三
点
を
中
心
に
図
捺
の
改
変
と
そ
こ
に
見
ら
れ
る
造
形
意
識
の
相
違
を
明
ら
か
に
し
て
行
き
た
い
。
付
波
﹁
机
笠
苦
し
の
波
の
表
現
は
非
常
に
類
型
的
で
、
年
輪
状
に
重
な
り
繰
り
返
す
単
調
な
線
僚
に
よ
っ
て
大
き
さ
、
形
状
と
も
に
ほ
と
ん
ど
変
る
事
の
無
い
同
質
な
波
が
画
面
に
均
等
に
描
か
れ
て
い
る
。
こ
れ
が
J
否
定
一
扇
面
回
し
16
区I 1 東 大 寺 蔵 古 絵 巻
な
る
と
波
の
表
現
は
ま
っ
た
く
ω
列
な
っ
た
も
の
に
な
る
。
ゆ
っ
た
り
と
し
た
伸
び
や
か
な
思
線
と
金
泥
線
は
繁
雑
に
な
ら
な
い
程
度
の
間
隔
に
引
か
れ
、
一
々
の
波
は
そ
の
方
向
性
が
異
な
る
た
め
四
郎
に
流
動
感
を
与
え
て
い
る
。
動
勢
や
変
化
に
乏
し
い
﹁
絵
巻
﹂
の
表
現
に
比
べ
、
J
一
小
述
扇
面
白
し
に
は
、
線
に
よ
る
画
面
構
成
の
面
白
さ
を
指
摘
す
る
事
が
で
き
る
。
2
日
楽
天
図
下
絵
﹂
は
、
肥
痩
の
無
い
均
質
な
線
で
形
状
・
大
き
さ
共
、
ほ
ぼ
均
等
な
波
が
幾
何
学
的
形
態
に
掛
か
れ
、
全
体
的
に
整
理
さ
れ
た
印
象
を
受
け
る
。
本
図
の
波
は
、
や
や
丸
味
を
帯
び
て
い
る
点
を
除
け
ば
、
形
状
・
配
置
な
ど
の
大
概
は
下
絵
と
ほ
ぼ
同
様
で
あ
る
。
し
か
し
、
木
図
で
は
、
下
絵
で
は
拙
か
れ
な
か
っ
た
無
数
の
波
の
線
侠
が
描
き
込
ま
れ
、
波
の
形
状
と
組
合
わ
せ
の
他
に
線
の
繰
り
返
し
に
よ
る
造
形
の
面
自
さ
が
追
求
さ
れ
て
い
る
。
﹁
絵
巻
﹂
で
は
単
調
な
線
の
反
復
に
過
ぎ
な
か
っ
た
も
の
が
、
﹁
宗
達
一
扇
面
画
﹂
で
は
線
の
効
果
に
よ
っ
て
波
の
動
勢
・
流
動
感
が
表
現
さ
れ
る
様
に
な
る
。
そ
し
て
下
絵
、
さ
ら
に
本
図
に
至
る
と
、
規
則
的
な
曲
線
の
繰
り
返
し
で
捕
か
れ
た
波
の
表
現
と
、
そ
の
波
の
複
雑
な
組
合
せ
が
造
り
出
す
曲
線
の
連
続
に
よ
る
図
案
的
画
面
構
成
が
表
現
の
主
眼
と
な
り
、
こ
こ
で
は
、
波
は
自
然
現
象
の
一
様
態
で
は
な
く
、
画
面
に
お
け
る
造
形
上
の
一
素
材
と
な
っ
て
い
る
。
同
唐
船
寸
絵
巻
﹂
中
の
波
苅
の
図
様
が
本
図
の
麿
船
の
図
様
に
変
化
す
る
ま
で
の
過
程
に
は
平
面
的
・
抽
象
的
造
形
へ
の
志
向
が
特
に
明
瞭
で
あ
る
o
J
れ
達
扇
面
白
L
で
は
寸
絵
巻
﹂
と
ほ
と
ん
ど
同
じ
形
態
に
掛
か
れ
て
い
た
船
の
形
は
﹁
白
楽
天
図
下
絵
﹂
で
大
き
く
変
化
す
る
。
船
首
・
船
尾
の
装
飾
が
単
純
化
さ
れ
、
船
体
は
船
首
寄
り
三
分
の
一
あ
た
り
か
ら
後
の
部
分
が
大
き
く
反
り
上
が
る
。
完
成
闘
で
あ
る
本
図
の
唐
船
は
下
絵
の
賠
船
全
体
を
拙
く
図
と
船
首
部
分
を
欠
く
図
と
の
二
種
を
合
成
し
た
も
の
で
︵
日
︶
、
船
頭
を
含
む
船
尾
か
ら
船
首
に
か
け
て
の
大
き
な
曲
線
が
特
徴
的
で
あ
る
。
ま
た
、
﹁
絵
巻
﹂
・
﹁
宗
達
一
一
面
画
﹂
で
は
唐
船
の
奥
行
き
表
現
が
考
慮
さ
れ
て
い
た
が
、
下
絵
と
本
図
で
は
手
前
・
奥
そ
れ
ぞ
れ
の
船
辺
り
を
描
い
て
説
明
的
に
奥
行
き
を
暗
示
し
て
は
い
る
も
の
の
、
そ
こ
に
立
体
感
は
感
じ
ら
れ
ず
極
め
て
平
面
的
な
印
象
を
受
け
る
。
さ
ら
に
、
下
絵
が
粧
側
の
み
の
一
面
的
扱
い
で
あ
っ
た
の
に
対
し
、
本
図
で
は
斜
め
後
方
か
ら
見
た
船
毘
の
描
写
も
が
加
え
ら
れ
、
具
な
る
視
点
か
ら
見
ら
れ
た
こ
部
分
が
同
一
平
面
上
に
合
成
さ
れ
て
い
る
。
こ
の
様
に
、
唐
船
の
表
現
は
下
絵
を
経
て
本
図
に
至
る
と
、
立
体
的
合
理
的
形
態
把
握
は
願
り
見
ら
れ
ず
、
画
商
構
成
の
一
要
素
で
あ
る
色
町
に
還
元
れ
、
色
彩
効
果
の
配
患
の
も
と
に
再
構
成
さ
れ
て
い
る
。
同
人
物
人
物
に
つ
い
て
霊
安
と
思
わ
れ
る
点
は
二
種
の
下
絵
の
表
現
の
差
典
で
あ
る
。
裏
表
を
成
す
下
絵
の
う
ち
一
枚
は
、
真
横
か
ら
見
た
白
楽
天
が
抑
揚
の
な
い
直
線
的
な
線
で
単
純
な
姿
形
に
拙
か
れ
、
﹁
絵
巻
L
や
﹁
宗
達
扇
間
晒
し
に
近
い
。
も
う
一
点
は
、
白
楽
天
は
斜
め
前
向
き
に
こ
ち
ら
を
向
く
姿
に
拙
か
れ
完
成
画
た
る
本
国
と
ほ
ぼ
同
様
の
姿
形
を
成
す
。
冠
や
袖
の
処
理
に
は
正
部
観
が
重
視
さ
れ
台
形
状
の
姿
形
に
は
人
体
を
単
純
な
幾
何
学
的
形
態
に
整
現
し
よ
う
と
の
意
識
が
明
瞭
に
感
じ
ら
れ
る
。
さ
ら
に
、
船
頭
の
姿
形
に
は
白
楽
天
以
上
に
注
目
す
べ
き
も
の
が
あ
る
。
白
楽
天
の
正
面
観
を
強
調
す
る
方
の
下
絵
で
は
同
様
に
船
頭
の
姿
に
も
幾
何
学
的
造
形
処
理
が
顕
著
で
あ
る
。
船
頭
は
右
腕
か
ら
背
・
足
へ
の
曲
線
が
強
調
さ
れ
、
身
体
が
一
つ
の
円
に
納
ま
る
構
成
と
な
り
、
さ
ら
に
、
そ
の
曲
線
が
船
体
と
一
体
化
す
る
事
に
よ
り
、
船
頭
と
唐
船
は
一
つ
の
大
き
な
弧
を
形
成
す
る
の
で
あ
る
。
対
象
を
単
純
な
幾
何
学
的
形
態
広
一
整
理
す
る
傾
向
は
、
箆
成
画
で
あ
る
本
図
に
も
同
様
に
認
め
ら
れ
る
が
、
そ
れ
が
下
絵
ほ
ど
明
壬7
瞭
に
は
画
面
に
表
わ
れ
ず
に
、
下
絵
に
見
ら
れ
る
造
形
意
識
を
引
き
継
ぎ
な
が
ら
も
不
自
然
な
印
象
を
﹂
J
す
げ
九
ま
い
と
す
る
配
慮
が
何
わ
れ
る
。
だ
が
、
そ
れ
が
本
民
の
性
格
を
酸
味
な
も
の
に
し
て
い
る
事
も
否
定
で
き
な
い
事
実
で
あ
ろ
。
﹀
円
ノ
﹁
絵
巻
し
か
ら
本
図
へ
至
る
諸
作
品
の
造
形
性
を
比
較
す
る
時
、
そ
こ
に
そ
れ
ぞ
れ
の
作
品
に
流
れ
る
造
形
意
識
の
変
化
を
見
る
事
が
出
来
る
。
特
に
い
︵
﹁
宗
達
一
扇
面
画
L
か
ら
﹁
白
楽
天
図
下
絵
﹂
お
よ
び
本
図
へ
の
人
物
・
唐
船
の
変
化
に
は
対
象
の
平
面
的
・
幾
何
学
的
形
態
処
理
が
顕
著
で
あ
る
。
こ
の
図
様
の
変
遷
過
程
は
純
粋
に
造
形
主
義
的
な
平
面
的
・
抽
象
的
画
面
構
成
が
次
第
に
進
展
し
て
行
く
過
程
で
あ
っ
た
と
も
言
え
る
の
で
あ
る
。
「白楽天国下絵J (表J
タ 〈葉、天地逆〉
図 2
図 3
波
の
表
現
に
見
る
光
琳
造
形
の
特
費
一
授
の
表
現
は
本
図
の
最
も
特
徴
的
な
占
⋮
の
一
つ
で
、
あ
る
。
木
節
で
は
、
光
琳
作
品
に
見
ら
れ
る
波
の
表
現
の
中
に
本
国
の
波
の
表
現
を
位
置
づ
け
、
造
形
的
特
質