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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2004年 1月号

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Academic year: 2018

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− 14 − − 15 − 「ハードな」物乞い カルカッタの街は、ここ10年急

速に清潔になっている。ゴミ収集車がまわり、街中の あちこちでは掃除をする人々も増えた。多様多態の「物 乞い」の数もずいぶん減った。とはいえ、オー、カル カッタ! サダー(サダル)ストリート、パークスト リートなどの中心部には、依然として乞食さんは健在 である。インドの乞食は、どこでも誰でも実にタフで ある。身体的ハンディのある者は、これでもかとばか りにその姿を最大限にさらし、足腰立たない者は、そ ばの相棒が声を絞り出して訴える。歩ける者は、通行 人の袖を引きつづけどこまでも追ってくる。物も言え ず立てない者は、アルミ鍋やカンの底を棒でたたき、 あるいは鈴を鳴らして、通行人の気をひきつける…。 一片の同情や憐れみも拒否するが、何としてでも「喜 捨」させる、「カネ出させるぞ」という「物乞い」の 強い気迫がみなぎっている。

物乞い問答 インドの「物乞い」は論理的(?)でも ある。忘れられないのは、マドラス(現チェンナイ) の港に近い中央郵便局で出会った子どもの物乞いとの 「対話」である。

 「カネくれ(英語)」「なんでやねん(これも英語。 以下同)」「なんでかって、日本人ここまで来れるや ないか、カネあるやろ」「ない」「水は高い所から低い 所へ流れるやろ。カネもそうや。あるもんからないも んへおちるのは自然やないか(it is natural.…といっ たかどうか、私のフィールドノートの記録は定かでな い)」私はついに根負けして何がしかの喜捨をした(喜 んで、ではなかったが)。

 インドで「乞う」こととは、自らの「ハンディキャッ プ=負」も含めた最大のパフォーマンスである。正確 には「乞う側」と「乞われる側」とのぎりぎりのかけ 引き。そのかけ引きに、日本人旅行者の多くはコロリ と負ける。ともかく、インドの「物乞い」は強引でタ

フでアグレッシブなのである。

「ソフトな」物乞い バングラデシュのダッカ、チッ タゴンでのことである。洪水で土地を失った男、稼ぎ 手に先立たれた未亡人、ハンディキャップの人々…多 種多様多因の「物乞い」が流入し、移動し、うごめく。 でも、彼らは総じて「穏健」である。高額札しかもた ない通行人にはツリをくれる。なかには、ツリ銭を適 当にもっていく喜捨人もいる(らしい)。追いかけて きても、10数mで引き返す。インドのように「払わず ば手離すまじ」の気迫はない。おとなしいのである。 だが、国中上から下まで物乞いだらけ、乞うて当然、 もらって当然の気風。

 これが、マレーシアのKLやシンガポールとなると 様相が変わる。チャイナタウンの食堂で海南飯の鶏骨 をしゃぶっているそばで、杖ついたバーサンが、ひと しきりブツブツつぶやく。やおら、ビニールカバー綴 じの「文書」、中国語が並ぶ文章。なにやら「我いかに して物乞いになりしや」なる来歴、履歴らしい。小銭 を渡すと、ティッシュペーパーを1個くれる。宝クジ 売りも頻繁にやってくる。これも「物乞い」の一種か。 東南アジア諸都市の「物乞い」は概して静かで、喜捨 への「対価」(ティッシュが多いが、ガムもある)が 払われる。これは一種の「物乞い」ビジネスか。イン フォーマルセクターか。

システムとしての物乞い 私は「物乞い」を善とも悪 とも思わない。ある時代のある国のある状況での経済 文化の一様式である。「Give me chocolate. I am hungry.」 の世代であった僕らの日課は、必死でオヤツを稼ぐこ とだった。そんな僕らは、インドの子どもの物乞いに 出会うたびに、同情や憐れみよりも、懐かしささえ覚 える。大きく違う点は、彼らのしたたかさである。  バングラデシュやネパールなどの「開発途上国」の 多くが、他の金持ち国からの「物乞い」で生きている。 ODAをはじめ、国連、国際NGO、国際民間慈善団体、 あるいは、中国などの「開発途上国」までが援助とい う名の下、他の「開発途上国」への「物乞い支援」競 争をくり広げている。「物乞い」とは、国際規模・国 家規模のスケールや「物乞いシステム」の違いを別に すれば、個人レベルでも同質なのである。「乞う」「乞 われる」関係が、ベンガル湾沿いで微妙に姿を変えて ゆく。ハードなインド型、情と対価の東南アジア型、 中間に位置するソフト・ズッポリ依存(がっぽり?) のバングラ型。開発研究者も国際経済学者も社会経済 史家もふり向かない「物乞い」の実情から、それぞれ の国・地域・ヒトの今がうかがえるのである。

− 15 − 南海寄帰内聞伝

ハードベギング、

ソフトベギング

追手門学院大学教授/中部高等学術研究所客員教授 重松伸司

参照

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