井上明久東北大学元総長の二重
投稿疑惑の検証
第2回
東北フォーラム
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二重投稿疑惑論文と疑惑の概要と問題点(ケース1
論文1: 二重投稿が疑われる論文
4)
Formation and mechanical properties of bulk amorphous FC20(Fe-C-Si) cast iron with small addition of B. X.M.Wnag and A.Inoue, Mater. Sci. Eng. A. Vol.304/306(2001)710-715. 10th Inter. Conf on Rapidl y Quenched Metals (and Metastable Materials) (RQ10), August 23-27 (1999), Bangalore/India. 国際 会議報告論文。この論文は、掲載誌の区分では Original Research Articles とされている。
論文2: 元になったと考えられる論文
Bulk Amorphous FC20(Fe-C-Si) Cast Iron with Small Addition of B X.M.Wnag and A.Inoue, Mater. Trans. JIM, Vo.40, No.7(1999) 634-642. (Received January 20,1999, In final form April 19,1999)
疑惑の概要と問題点:
August 23-27(1999) に開催された国際会議で発表された論文1の内容は、7つの 図を使ってまとめてあるが、これらのデータは全て論文2に報告されている内容と 基本的に同一である。また、論文2は引用されていない。したがって、論文1の読 者が、本当の Originality は論文2にあると理解することは難しいと思われる。また
、国際会議報告論文だからといって、元データの引用をせず、同じ内容を公表する ことは、研究倫理上許されないことが学術界の共通理解である。
なお、上で、両論文の図表が「基本的に同一」と述べたのは、完全に同一の場 合もあるが、一部データの場所を入れ替え、記号 a 、 b 等に括弧を付加あるいは 削除をしたり、画像を回転した可能性が認められるからである。論文 1 の著者らに は、なぜ論文 2 への参照 引用指示を与えなかったのか、また一部データにこうし・
た異同が生じたことを科学的合理的に説明する必要がある。 2
論文 1 の Fig.1 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.1
元データ
3
論文 1 の Fig.2 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.3
元データ
4
論文 1 の Fig.3 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.4
元データ
5
論文 1 の Fig.4 ( 左 ) と論文 2 の Fig.6( 右 )
元データ
論文 1 の Fig.4 では、元データ写真と見られる論文 2 の Fig.6 で 区別記号に使われている (a) ~ (d) の括弧が削除されている。 また写真 a と 写真 (b ~ d) の間に隙間が設けられている
論文1の Fig.4d は論文 2 の Fig.6 (d) を反時計回りに 90 度回転す ると重なる(これについては、この「検証第 2 回」、 15 ペー
ジも参照されたい) 6
論文 1 の Fig.5 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.7
元データ
一部入れ替え
7
論文 1 の Fig.6 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.10
元データ
8
論文 1 の Fig.7 ( 左 ) と論文 2( 右 ) の Fig.11
元データ
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二重投稿疑惑論文と疑惑の概要と問題点(ケース 1
5 )
論文1: 二重投稿が疑われる論文 学士院賞審査要旨リスト論文 23 Bulk Amorphous FC20(Fe-C-Si) Alloys with small amounts of B and their Crystallized Structure and Mechanical Properties
A. Inoue and X.M Wang : Acta Materialia, Vol.48, No.6 (2000),1383-1395 (Received 25 June 1999J; accepted 16 September 1999)
論文2: 元になったと考えられる論文
Bulk Amorphous FC20(Fe-C-Si) Cast Iron with Small Addition of B X.M.Wnag and A.Inoue, Mater. Trans. JIM, Vo.40, No.7(1999)634-642. (Received January 20,1999, In final form April 19,1999)
疑惑の概要と問題点:
1.論文1の主要な結果は、表題が示すとおり、市販の FC20(Fe-C-Si) 合金に少 量のボロンを加えたバルク状のアモルファス合金に関する 結晶化に伴う構造 および機械的性質であり、その内容を主に7つの図 (Fig.5 ~ Fig.11) を使って まとめてあるが、これらは全て論文2に報告されている内容と基本的に同じで ある。
2.理系の学術論文では、先に出した論文に、新たなデータを加えて内容の補 充・補強、更なる議論を加えて「新たな論文」として発表することが認められ ているが、その主旨を新たな論文に明確に記述することが求められる。しかし
、論文1に、論文2は引用されておらず、かつ新たな視点を加えた論文である ことの記述も全くない。したがって、たとえ論文2に含まれないデータが部分 的に追加されていたとしても、ほぼ同じ内容を元論文を引用せずに公表するこ とは、研究倫理上許されないことが学術界の共通理解である。
10
なお、前ページ、第 2 項については、別掲記事(「『一つでも新たなデータが元 論文のデータに追加されていれば、別論文である』との主張は通用しない」)で 紹介した AIP (米国物理学会)の見解をあわせて参照されたい。
3.さらに論文1は、完全に論文2のデータと同一の場合もあるが、合金の組成 表示が at% から mass %に書き換えられており、区別のために導入された記号 a 、 b 等に括弧が付加されたり、写真の上下が逆、回転、裏返しなどの加工が加 えられているケースが認められる。論文 1 の著者らには、なぜ論文 2 への参照・ 引用指示を与えなかったのか、また両論文間に生じている主要画像データの異同 を科学的合理的に説明する必要がある。
Acta Mat. 論文1 Mater. Trans. JIM 論文 2
Comments
Fig.5 =Fig.5 = but upside down ?
Fig.6 (b), (c), (d) =Fig.6 (b), (c), (d) = but 90 degree rotation ?
Fig.8 (a), (b) =Fig.9 (a), (b) = but reverse in both side ?
Fig.9 (a) =Fig.2 (a) = but upside down ?
= means “considered to be identical”
参考:論文2の議論では①ガラス相生成の及ぼす少量のボロンの添加効果、
②ガラス形成合金におけるグラファイトの析出、③ α-Fe + Fe3C + graphite の 混合相からなる試料の高強度と延びについて述べている。これに対して、論 文1の議論では、ガラス相中にナノスケールの α-Fe が含まれる場合の強度増 加に関する項目をプラスして 4 項目となっているが、論文1と論文2の結論
に明瞭な差は認められない。 11
論文 1 の Fig.5 と論文 2 の Fig.5
論文 1 論文 2
一見したところ、両者は同一ではないかに見えるが、論文 1 の
図を天地転倒させ、裏返すと一致する ( 次頁、参照 ) 12
天地逆転
裏返す
=
一致する
ここで矢印付近の斑点に着眼すると、論文 1 の Fig5 が、論文 2 の Fig5 の流用であるの は明白である。論文 1 では論文 2 が引用されていない。改竄無断流用の可能性を指摘 できる。
上 : 論文 1 の Fig.5
上 : 論文 2 の Fig.5
13
論文 1 の Fig6b,c,d と論文 2 の Fig6(b),(c),
(d)
論文 1 論文 2
両図を比較すると、右端の d および (d) 図が重な
らない。しかし、 d 図を 90 度、右(時計回り)
に回転させると重なる ( 次頁、参照 )
14論文1の Fig.6 d を右に 90 度回転
論文1の Fig.6d を右に 90 度回転
論文2の Fig.6(d)
井上氏は論文 1 で論文 2 を参照せず、このd図の元図が
(d) 図であったことを明らかにしていない。また (d) d ⇒
のように括弧も削除している。
15論文 1 の Fig.8a,b,c と論文 2 の Fig.9(a),(b),
(c)
論文 1 論文 2
両者は一見異なるデータに見え
るが、天地や左右を逆転させた
り、データの角度を変えると同
一であるのが分かる ( 次頁、参
照 )
16
MTJIM.40(1999)
論文 1 図 a
天地逆転させ、裏返す
左右対称!
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論文 1 (b),(c) 論文 2(b),(c)
裏返すと両者 が同一である のは明白
そのまま流用。 若干角度を変 えている 左右対称
論文 1 は論文 2 を引用せず。データの改竄無断流用
の可能性を指摘できる
18論文 1 の Fig.9 と論文 2 の Fig.2
論文 1 論文 2
似ているが斑点の位置が違う。しかし論文 1 の
図を天地逆転させると一致する ( 次頁、参照 )
19論文 1
論文 2
逆さま
=