. . . (ヨコ30文字) . . . . 問1
「○ ○ の手習い」あるいは「少年易老学難成」という言葉からは、
老いは学びにとって負であるかの如き印象を受ける。その一方で、
「亀の甲より年の劫」というように経験を重ねて得られる知恵の存
在も、世間一般に知られているところである。これら2つのタイプ
の知力・知能の存在は、いくつかの調査、実験によって証明が試み
られてきた。
「ウェスクラー成人知能検査」(1955年)では、6個の「言語
性」検査(知識や理解力、演算や記憶能力)と、5つの「動作性」
検査(符号の認知や空間認識など)から構成される。この検査でわ
かったことは、加齢によって動作性知力は低下するが、言語性知力
は低下のカーブが緩やかであることがわかった。一部の言語性検査
では、加齢によって結果が上昇することを伺わせる結果さえ出た。
その後登場したキャッテルとホーンによる「流動性知力—結晶性
知力」の理論によると、生活経験や教育とは独立した神経生理的な
条件に基づく「流動知力」は、成年期に頂点に達し、その後低下して
いくと考えられている。例えば、抽象的関係の知覚、概念形成や暗
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. . . (ヨコ30文字) . . . . 記力などである。一方「結晶性知力」は、文化的・社会的な経験や、
教育によって得た知力であり、青年期を過ぎても衰えにくく、寧ろ
う ま く 学 習 を 継 続 す れ ば 上 昇 す る こ と さ え あ る 知 力 で あ る 。例 え
ば、語彙、演算、哲学・思想・社会規範の理解や判断力などである。
いずれも、加齢は知力にとってマイナスの面だけではなく、訓練
や継続的な学習によっては寧ろプラスに働くことを示唆している。
「プラクティカル・インテリジェンス」あるいは「プラグマティク
ス」と呼ばれる経験によって発達する知力は、加齢に伴って深みを
増すことが期待される。年齢に応じた学習方法や、社会的役割につ
いて考慮が必要であるといえよう。
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. . . (ヨコ30文字) . . . . 問2
(ア)マズローは、人間の欲求は常に相対的、階層的にしか充足さ
れないと考えた。欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、
底辺から始まり、1段目の欲求が満たされると、さらに1段上の欲
求をめざすのだという。
欲求の段階は、「生理的」、「安全」、「所属・愛情」、「承認」、「自己
実現」の欲求である。「生理的欲求」は衣食の充足などをいい、「安
全の欲求」は危険や障害・苦痛などを避けようとする欲求である。
この2つの欲求は、人が生きる上での根源的な欲求である。「所属・
愛情の欲求」とは、他人との係わり合いや、他者と同じようにした
いなどの、集団への帰属欲求である。「承認の欲求」とは、集団か
ら価値を認められ、尊敬を求める認知欲求をいう。「自己実現の欲
求」とは、自分の能力、可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長
を図ろうとする欲求のことをいう。
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(イ)西洋社会では、人間が一生にわたって発達をつづけるとい
う考えは、東洋ほどには普及していなかった。そのような中、成人
期以降も人間は成長を続けると述べたのがユングである。
彼は、人生の前半が労働と愛による社会的地位の確立に向けられ
るが、後半では、前半ではあまり重要視されなかった、より内面的
な発達、あるいはより高次な自我や自己実現に向けられるとした。
たとえば、老いや死の問題にくらべて、結婚・就職や記録達成など
といった若いころに重視された社会化としての発達はさほど重要で
はなくなることなどである。
人は一方向の目的をめざして生涯を送るのではなく、歳を重ねる
につれ人生の意味や目的に変化が現れることを示しているといえよ
う。その変化を、ユングは中年の人が経験する心のうずきであると
考え、病ではなく成長への兆しであると見たのである。
(以上)
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