• 検索結果がありません。

日本における高年齢者の就業率の高止まりおよび変動の要因

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "日本における高年齢者の就業率の高止まりおよび変動の要因"

Copied!
49
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

16

日本における高年齢者の就業率の高止まり

および変動の要因

山田篤裕

要 旨

本稿の目的は 1970 年代から 2000 年代まで,約 30 年間の高年齢者就業を 取り巻く制度変遷を振り返りつつ,1986 年末から 1991 年初めまでの景気回 復局面(いわゆるバブル経済期)前後での高年齢者就業の「変動」要因を明 らかにすることである.また,近年の国際比較研究に依拠しつつ,日本の高 年齢者の就業率の「高止まり」要因についても議論する.

近年の国際比較研究によれば,日本の高年齢者の就業率の「高止まり」要 因として,①寛大でない公的年金給付水準(低い所得代替率),②早期引退 給付を導入しなかったこと,などがあげられる.一方,③年齢賃金プロファ イルの傾きの相対的なきつさにもかかわらず,また④(常雇に対する)相対 的に強い雇用保護規制にもかかわらず,日本では OECD 加盟国のなかで高 年齢者の就業率が高くなっている例外的な国である.

(2)

64 歳の就業率を押し下げる方向に働いていること,などがわかった.さら に,⑤男性 60 64 歳,65 69 歳ともに世帯所得に占める勤労収入比率は低所 得層と高所得層で高く,U 字型をしており,この形状は 20 年間安定してい たこと,⑥例外はバブル経済初期に,中低所得層の勤労収入比率が落ち,バ ブル経済後に男性中所得層で勤労収入比率が上昇したこと,⑦近年,年金生 活者や就業する年金受給者など各カテゴリー内での格差が大きくなりつつあ ること,なども明らかにされる.

(3)

1

はじめに

本稿では 1970 年代から 2000 年代まで約 30 年間の高年齢者就業を取り巻 く制度変遷を振り返りつつ,1986 年末から 1991 年初めまでの景気回復局面 (いわゆるバブル経済期)前後における高年齢者就業の変動要因を明らかに する.労働需要は派生需要であり,景気回復(後退)局面において労働需要 は高まり(低まり),その結果,高年齢者の就業率が上昇(低下)すること はある程度自明なことである.しかし,高年齢者の就業決定には不労所得た る公的年金や定年退職制度などの雇用慣行も大きく影響している.とくに日 本は男性高年齢者の就業率が過去 40 年間高止まりし,かつ多くの先進諸国 とは異なる変動パターンを描いており,こうした社会保障制度や雇用慣行 (年功賃金・定年制度)などの要因がどのような影響を労働供給に及ぼして

いるのか分析するための格好の材料を提供している1)

そこで本稿の前半では,1990 年代以降の国際比較研究に依拠しつつ,日 本における高年齢者就業率の「高止まり」の背景の要因について議論する. 後半では,本稿の主要な論点であるバブル経済期前後の日本の高年齢者の就 業率の「変動」要因について,高年齢者就業に影響を与えた年金制度や雇用 法制の変更など制度的背景を整理した上で議論する.最後に上記議論を通じ て浮き彫りにされた政策課題についても簡単に述べる.

最初に分析対象の定義をしておく.経済協力開発機構(OECD)では, 「高年齢労働者(Older workers)」の定義を「50 歳以上の労働者」としてい

る(OECD[2004a], p. 3).高年齢者の一般的な定義である「65 歳以上」から

すれば,この「50 歳以上」というベンチマークは,かなり低い年齢であり,

(4)

「高年齢者」の年齢区分と「高年齢労働者」の年齢区分との間には乖離があ る.しかし,多くの OECD 加盟国において,だいたい 50 歳くらいから労働 力率の低下が起きること,そして国際比較のため,便宜上,加盟国間で定義 をそろえた方が良いという理由により,こうした「高年齢労働者=50 歳以 上の労働者」という定義が OECD では採用されている.

一方,日本では 1971 年の職種ごとの中高年齢者雇用クォータ制度(改正 職業安定法)に代わり,1976 年に企業ごとの高年齢者雇用クォータ制度 (高年齢者雇用率制度)が導入された2).当時の一般的な定年年齢が 55 歳で あったことから,この制度による各企業の雇用率達成の対象者は 55 歳以上 に定められた(北浦[2003]).したがって,日本は OECD 定義より 5 歳高い, 55 歳を制度的に高年齢労働者としてきたことになる.

本稿では,日本の高年齢者の就業を分析対象とするので,年齢区分として は 55 歳以上,とりわけ長期的に就業率の変動幅が大きい 60 歳以上男性を主 な分析対象とした.

2

高年齢者就業率の「高止まり」要因

――横断面の国際比較データによる検討

2.1 高年齢者の就業率の長期トレンド

高年齢者就業の長期トレンドについて,55 歳以上の年齢階級・男女別に 国際比較する(図表 16 1,16 2)3).なお就業率とは各年齢階級・男女別人口 に占める,失業者を除く実際の就業者の比率である.

まず日本の 1971 年から 2007 年までの 40 年弱にわたる長期トレンドに注 目する.男性 55 59 歳の就業率は,40 年間ほぼ 90%で安定的に推移してい る.一方,男性 60 歳以上については,低下傾向にある.男性 60 64 歳では

2) 1963 年 7 月の職業安定法改正で設けられた「中高年齢失業者等に対する就職促進の措置」に おける中高年齢失業者等は 35 歳以上,1966 年改正によって設けられた項目である「中高年齢者 の雇用」における中高年齢者も 35 歳以上であった.1971 年の中高年齢者雇用促進特別措置では 「中高年齢者」は 45 歳以上となり,「中高年齢者失業者等」は 45 歳以上 65 歳未満となっている.

この 1976 年の高年齢者雇用率制度で「中高年齢者」という区分は(1990 年代末までいくつかの 例外を除き)姿を消す.くわしい経緯は濱口[2004b]の第 7 章を参照されたい.

(5)

80%から 70%(10%ポイント減)に,男性 65 歳以上では 50%から 30%未 満(20%ポイント減)へ,相対的に大幅な低下を経験している.近年につい て見ると,男性 60 64 歳は 2001 年の 65%を底に 2007 年では 71%まで上昇 してきている.さらに男性 65 歳以上についても 2004 年の 28%を底に 2007 年には 29%へとわずかではあるが反転し始めた.高年齢女性の就業率につ いては,男性と傾向が異なる.まず,女性 55 59 歳では,過去 40 年間に, 就業率が 50%から 60%へ上昇してきている.また,女性 65 歳以上で 5%ポ イントの就業率低下が見られるが,男性と比較してその低下幅は小さく,ま た女性 60 64 歳の就業率は横ばいである.

次に,OECD 加盟国の長期トレンドに注目する.男性 55 59 歳,60 64 歳 は,1990 年代半ばまで低下傾向にある.1971 年には比較対象国の多くの国 で男性 55 59 歳の就業率は 80%近くあったが,1990 年代半ばまでに 10%ポ イントから 20%ポイント低下している.また男性 60 64 歳の就業率はさら に低下幅が大きく,70%近くあったが 20%ポイント以上下がっている国が 大半である.なお,日本と比較されることの多い米国の低下幅は比較対象国 のなかでもっとも小さい方に属する.

このように比較対象国の多くで男性 55 59 歳および 60 64 歳の就業率が 1990 年代半ばにかけて低下している.しかし,フランスを除き,この低下 トレンドが 1990 年代半ばから反転している.ドイツやオランダの男性 60 64 歳の就業率の反転はとくに目覚ましく,2007 年までに 10%ポイント以上 回復している.ただし男性 65 歳以上の就業率については,1971 年の段階で 20%の半ばであり,1980 年代までに 10%ポイント下げ,その後もゆるやか に下がり続け,2007 年現在,1 桁%台の就業率となっている国が大半である. 米国のみ 1990 年代半ば以降現在まで,65 歳以上の就業率が 5%ポイントほ ど改善している.

(6)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

(年) 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971

55 59歳

60 64歳

65歳以上

(年) (年) 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971 United States United Kingdom Sweden Netherlands Japan Germany France Finland Canada 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971 (%) (%) (%)

図表 16 1 就業率の国際比較(男性,1971 2007 年)

(7)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

(年)

(年) (年) 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971 07 04 2001 98 95 92 89 86 83 80 77 74 1971

55 59歳

60 64歳

65歳以上

United States United Kingdom Sweden France Finland Canada Netherlands Japan Germany (%) (%) (%)

図表 16 2 就業率の国際比較(女性,1971 2007 年)

(8)

就業率は減少傾向にあったが,男性と同様,1990 年代に入ると反転してい る国が多い.女性 65 歳以上の就業率は,1971 年の段階で,多くの比較対象 国では 1 桁%台となっており,目立った動きはないが 1990 年にかけてさら に低下している.米国だけは例外で,1990 年代以降女性 65 歳以上の就業率 が反転して上昇し,2007 年に 10%を超えている.

最後に,バブル経済期(枠線内)の日本の動きについて注目すると,男性 についてはいずれの年齢階級も,比較対象国では就業率の減少トレンドの 真っただなかであるにもかかわらず,この期間については上昇している.し かしバブル経済の崩壊後は,むしろ比較対象国において高年齢者の就業率が 上昇トレンドに反転したにもかかわらず,日本では下がり続け,2000 年代 に入り,ようやく諸外国の上昇トレンドに合流したところである.女性につ いては,多くの国ではこの時期,高年齢者の就業率は上昇傾向にあり,日本 も同じく上昇傾向にある.高年齢者の就業率のレベルについては,男性に関 しては 1971 年以降一貫して比較対象国よりも高いが,1990 年代以降の比較 対象国における上昇トレンドのなかで,その差は縮まりつつある.また女性 に関しては 55 59 歳および 60 64 歳については,比較対象国に抜かれつつあ る.女性 65 歳以上についても 2007 年には米国に追いつかれ,並んだところ である.

以上をまとめると,日本の男性高齢者の就業率は比較対象国のなかで過去 約 40 年間,高止まりしている.またバブル経済期において,比較対象国に おける男性高齢者の就業率は減少トレンドにあったのに対し,日本は上昇ト レンドにあった.バブル経済期後は日本では減少トレンドに転じたのと対照 的に,諸外国では上昇トレンドに転じた.ただし近年,男性 60 64 歳につい ては,日本はまた上昇トレンドに戻った.一方,日本の女性高年齢者の就業 率は,いくつかの比較対象国の水準と近く,男性高年齢者ほどは高止まりし ていない.また日本の 55 59 歳女性については比較対象国と同じく一貫した 上昇トレンドにあった.

(9)

2.2 老齢年金制度の規模および所得代替率

日本における高年齢者就業率の高止まり要因としてまず指摘できるのは公 的年金を中心とした社会保障制度である.社会保障制度と高齢者の就業率あ るいは引退年齢について,1990 年代後半から,さまざまな精緻な国際比較 研究が蓄積されてきたところである(Blöndel and Scarpetta[1998],Gruber and Wise (eds.)[1999,2004],Duval[2003],Schils[2005]など).これら一連の 研究は,横断面の国際比較データや,各国ごとの定義を揃えた個票データを 用い,年金資産の Option Value や就業への暗黙の課税など分析アプローチ は異なっているが,いずれも社会保障制度が高年齢者の労働供給行動に決定 的な影響を与えていることを実証している.

こうした一連の研究から示唆されるのは,日本において高年齢者の就業率 が高止まりしている理由の 1 つとして,公的年金給付が他の先進国と比較し て相対的に低いということである.図表 16 3 に示されるように,高齢化の 度合いを勘案すると日本の経済規模に関する公的老齢年金給付の大きさは, イタリア,ドイツ,フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国と比較して約半分の 規模で,高齢化のわりに経済規模に対する公的(老齢)年金制度の大きさは,

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

8 10 12 14 16 18 20

イタリア ドイツ

カナダ フランス

日本 スウェーデン 英国 米国

(%)

(%)

図表 16 3 経済規模に占める公的老齢年金の大きさと高齢化率

との関係(1980 2003 年)

(10)

米国より低く,カナダ,英国などの水準に近くなっていることがわかる.こ れら 3 カ国では相対的に適用範囲が広範な企業(職域)年金制度を採用して おり,これらを勘案すると,経済規模に占める年金制度の規模はより大きく なるので,日本の規模はさらに小さいといえる.

図表 16 3 はマクロ的指標から公的年金の給付水準の寛大さを見ているが, ミクロ的指標からも公的年金の給付の寛大さについて確認する.図表 16 4 では,現行の年金制度に基づき,その所得代替率を異なる賃金水準について 示している.この図表から明らかなように,平均的労働者の賃金(AW)を 基準とした異なる賃金レベルに対して描かれる,日本のネット所得代替率プ ロファイルは OECD 平均のグラフに近い形状を示している.しかし,その 水準自体は下方に 30%ポイントほど OECD 平均を移動させた位置にあり, 中位の賃金水準にある日本の労働者のネット所得代替率は 42%4)である. 英国,米国など英語圏諸国のネット所得代替率プロファイルよりさらに下方 に位置する.日本の年金給付は従前所得を保障するという意味においても,

20 30 40 50 60 70 80 90 100

20 30 40 50 60 70 80 90 100

OECD平均 イタリア

ドイツ フランス

カナダ

OECD平均 米国

英国 スウェーデン 日本

平均的労働者(AW)の賃金水準による相違,男性

2 1.5 1 中位 0.75

0.5 0.5 0.75 中位 1 1.5 2

(%)

(倍)

図表 16 4 強制加入の年金給付のネット所得代替率

注) AW とは平均的労働者の賃金で,推計時点の日本(2004 年)では 494 万円.税には社会保険税(料)も 含まれている.シミュレーションでは公的年金と賃金のみにかかわる税・控除のみを考慮しており,消費税 や利子所得に対する課税等は考慮されていない.所得代替率は,20 歳から年金受給開始年齢まで全期間欠

けることなく拠出していたことを前提にしている.なお,ここでは,平均労働者(AW)の賃金=1.0 とし

ている.

(11)

さほど寛大な水準ではないことがわかる.また低所得者(AW の 0.5 倍の 賃金と定義)に注目すると日本のネット所得代替率はもっとも低い部類に入 る.OECD 平均が 8 割であるのに対して,日本は 5 割でとなっている.

このように日本はマクロ的指標で見てもミクロ的指標で見ても公的年金の 給付水準は寛大ではなく,過去 40 年間にわたり高年齢者の就業率が高止ま りしてきた背景として,この給付水準の低さをまずあげることができる.

2.3 早期引退パス

高年齢者の就業率に影響を与える社会保障制度はなにも公的年金に限られ ない.年金以外のさまざまな早期引退給付も高年齢者の就業率には決定的な 影響を与えている.公的な早期引退制度については,1969 年から 1999 年ま での間の OECD 加盟 22 カ国(日本を含む)について,年金制度と早期引退 制度の影響を分け,それぞれの引退に対する影響の度合いを Duval[2003]が パネル・データによって国際比較分析を行い,55 59 際層の就業率に関して 早期引退制度が決定的な影響力をもつことを実証した.日本においては社会 政策を通じた早期引退制度は存在していない.

図表 16 5 は各国の早期引退制度の有無について示している.大陸ヨー ロッパ諸国における早期引退制度は,失業給付,社会扶助,障害給付などが 主である.たとえばオランダなど大陸ヨーロッパ諸国のなかには,それまで 従事してきた職業で仕事が見つからないことをもって,障害給付の支給が認 められ,それが早期引退パスとなっている.しかし日本では,障害給付につ いてもその受給要件が厳密な身体的・精神的障害の定義をもって決定されて いることで,早期引退パスにはなりえない.このように,年金制度以外に早 期引退パスが存在しているかどうか,あるいは過去に導入していたかどうか によって,高年齢者の就業率は大きく影響される.英語圏諸国では,企業 (職域)年金が早期引退パスを形成している.

こうした日本には存在しない早期引退パス5)の多くは,歴史的に遡って

(12)

みれば 1970 年代に起こった石油危機後の経済成長鈍化と失業率の高まりに ともなう,いわゆる福祉国家の危機への対応として多くの先進国で導入され た.日本では,この時期,マイナス成長を経験したとはいえ,ほかの先進国 ほど高い失業率には直面せず,後述するように高年齢者雇用を促進するため の一連の対策が 1970 年代以降導入されてきた.

失業を減らすためには,労働供給を減らす,労働需要を増やす,あるいは 労働市場の均衡を速やかに達成するために労働市場を柔軟化する,という 3 つの方法が考えられる.

Esping-Andersen[1996]によれば,1980 年代を通じて,とくに失業率上昇 に対応した労働市場をめぐる社会政策には,福祉レジームの 3 類型に対応し, この 3 つの異なる方法が採用された.大陸ヨーロッパでは,早期引退給付を 通じて,労働供給を減少させようとするアプローチを採用し,スカンジナ ヴィア諸国では,福祉分野などの公的部門の雇用拡大を通じて労働需要を増 大させようとするアプローチ,そして英語圏諸国は,最低賃金および公的扶 助水準の切り下げにより,労働市場を柔軟化させるアプローチを採用した. こうした大陸ヨーロッパの早期引退アプローチは,高年齢者の就業率が低 下した点に関して成功した.しかしながら,依然として高い失業率の数字が

5) 日本でも厚生年金基金やすでに廃止が決まっている適格年金などの企業年金が広く存在してい る.しかし,金子・高橋[1997]によれば,企業年金の平均受給額は 1990 年代前半においてはま だ低く,厚生年金本体の給付額が引退を促す効果よりも,企業年金の効果の方が低いという結果 を得ており,早期引退パスとは言い難い.

図表 16 5 早期引退制度の有無

失業給付・

社会扶助 障害給付 企業(職域)年金 失業給付・社会扶助 障害給付 企業(職域)年金

オーストラリア オランダ × ×

カナダ × ノルウェイ ×

フィンランド × × スペイン ×

フランス × スウェーデン

ドイツ × × スイス

イタリア 英国 × × ×

日本 米国 ×

韓国

注)「×」はその国で該当制度がある事を示す.

(13)

示しているように,大陸ヨーロッパにおける早期引退アプローチは,失業を 減少させるという所期の目的を果たすことなく,早期引退者の増大による早 期引退給付の膨張により,財政的負担だけが増える苦い経験を残した.多く の大陸ヨーロッパでは,早期引退パスを閉じ,高年齢者の早期引退をいかに 防ぐかが大きな政策課題で,現在,さまざまな改革が進められているところ

であり(OECD[2006]),先に見たように改革に成功した国では 1990 年代後

半から就業率が反転し,上昇している.

2.4 高年齢者の定年制度と賃金変動をめぐる議論

日本は早期引退制度を政策的に採用しなかったが,後述するように同時期, 定年制が普及した.定年制は年功賃金と密接的な関係をもっている.年功賃 金がどのように日本を含めた各国の高年齢者の就業率に影響を与えているか 議論する前に,定年制と年功賃金に関する理論および実証研究を整理してお く.

次項で見るように日本では賃金プロファイルの傾きが先進国のなかで相対 的にきつく,年齢とともに賃金は相対的に急上昇するが,高齢期に相対的に 大きな賃金低下があるという特徴をもっている.この定年後の大きな賃金下 落に関し,3 つの説明が可能である.第 1 は,再就職時に,それまで蓄積さ れてきた人的資本が失われ賃金が低下するというものである.その定義上自 明なことであるが,再就職前に働いていた企業でしか使えない技能(=企業 特殊的人的資本)は,再就職先企業では使えないため,その分だけ賃金水準 は低下する.これは,Becker[1975]の人的資本理論に基づく,再就職時の 賃金変動の説明である.

第 2 は,定年制のある企業においては,若年期には労働者の生産性以下の 賃金が支払われ,高齢期にはその労働者の生産性以上の賃金が支払われてい るので(さもなければそもそも定年制は必要ない),再就職時に(あるいは この理論の場合には継続雇用時にも)その労働者の限界生産力価値に等しく なるよう賃金が再評価される分だけ低くなるというものである.これは, Lazear[1979,1986]の理論に基づく,再就職(あるいは継続雇用)時の賃金 変動の説明である.

(14)

この第 3 の理論は報酬の後払いというモデル設定をする点では Lazear の理 論モデルと似ている.具体的には定年延長を実施した企業が定年退職した元 従業員に対し再就職後の賃金を高めるよう関与すること(あるいは再就職後 の賃金を高める可能性を定年前に企業が暗黙に約束すること)の合理性を, この理論では説明する.第 1 の理論でも第 2 の理論でも,定年退職により企 業特殊的人的資本が失われることや,定年後に限界生産力価値に基づく賃金 の再評価で,結局は再就職時に(あるいは第 2 の理論の場合には継続雇用時 にも)賃金は低下することを説明する.しかしこの第 3 の理論では,そうし た再就職時の賃金変動についても理論枠組みに取り込み,定年前に勤めてい た企業が再就職斡旋等の方法で積極的関与を行う合理性を説明するものであ る.

大橋[1990],Carmichael[1989]や Gibbons and Murphy[1992]が,こうし た第 3 の理論を展開している.大橋[1990]の理論モデルは,定年延長が若年 者にとっては昇進の遅れ(=賃金上昇の遅れ)を招き,その結果,若年者の 勤 労 意 欲 を 減 退 さ せ て し ま う 状 況 を モ デ ル 化 し て い る.Gibbons and Murphy[1992]は,このような場合,定年後の再就職先で高い賃金を約束す るなら,定年延長による勤労意欲減退を防止することを示した.これらの研 究の共通点は,定年後にどのような賃金を提示するかが,定年前の労働者の 勤労意欲をコントロールする重要なインセンティブ・デバイスとなりうるこ とを示した点で共通している.この第 3 の理論は定年延長ばかりでなく,同 一企業における継続雇用(とくに再雇用)制度など,賃金の再設定が行われ るような定年後のさまざまな雇用確保措置についても応用可能である.

(15)

相対的に大きな賃金低下を経験することを前提に,相対的に高い賃金を支払 う再就職先の斡旋あるいは高い賃金での継続雇用を約束することは,高年齢 労働者の就労意欲を左右する強力なインセンティブ・デバイスとなりうる. こうした,現実に観察される日本の賃金低下と従業員に対する企業のイン センティブ・デバイスに関する理論的説明は Carmichael[1989]で行われて いる.彼の理論のユニークな点は,後述される制度改革の項でも明らかにな るように,日本で一般的な定年年齢が年金受給開始年齢より常になぜ若く設 定されているのかについて説明可能な点にある.Carmichael[1989]によれ ば,日本では大企業の定年退職者は,年金受給開始年齢までの数年間,一時 退職金を受給し,外部労働市場へと移動するかより低い賃金で嘱託・契約社 員などの身分で同一企業に雇われるか,あるいは高い賃金で役員として雇わ れることになっている.こうした雇用慣行は,以下のように機能することで, 定年到達直前まで就労意欲を高く保つ役割を果たしている.まず,役員のポ ストをめぐる競争は,役員候補者の労働者間で大変熾烈で,役員候補者はこ の熾烈な昇進競争のなかで,定年到達直前まで就労意欲を高く保つことにな る.また,役員のポストをめぐる昇進競争から脱落してしまった労働者に とっては,定年後の再就職先について現在雇っている企業が斡旋という形で 影響を及ぼしうるので6),定年到達直前まで就労意欲を高く保つことになる. いい換えれば,企業は定年後の就労期間が存在するよう,年金受給開始年齢 より定年年齢を低く設定するのが合理的,と主張しているのである.

こうした定年前後の賃金変動の理論に関連し,Rebick[1993]や鹿毛 [1993]は,定年前後に観察される賃金低下の大部分が,雇用主の変更(=企 業特殊的人的資本の損失と解釈される)と職種の変更(=一般的人的資本の 損失と解釈される)に由来することを実証7)したうえで,米国と比較して 日本で高年齢者の就業率が高い要因を,定年前に企業による再就職斡旋が行 われていること,そして高年齢者を低い賃金で再雇用できることに求めてい る.再就職斡旋に関し,さらに Rebick[1995]は,企業による再就職斡旋に より再就職後の賃金が 20%も上昇することを見出している.そして,この

6) Carmichael[1989]の主張は,継続雇用時の賃金設定についていい換えることも可能である. 7) ただし,Rebick[1993]や鹿毛[1993]の推計モデルでは,サンプル・セレクション・バイアスの

(16)

再就職斡旋による再就職先企業における賃金上昇こそが,定年到達前の主要 な昇進競争が終わってしまった数年間においても,就労意欲を高く保つイン センティブとなっている8)と結論づけている.

同じく,三谷[1997]や山田[2000]は再就職斡旋ばかりでなく再雇用・勤務 延長などの継続雇用制度の存在も,定年後の賃金低下を緩和する効果を明ら かにしている.さらに山田[2000]では,大企業より継続雇用割合の高い中小 企業で,継続雇用されなかった場合の賃金低下(ペナルティー)が大企業よ り大きいことを見出している.

2.5 年功賃金制度

それでは,定年制度が普及している日本の年齢賃金プロファイルは国際比 較から見て実際にどのような特徴をもつのであろうか.図表 16 6 は OECD 主要国の学歴別賃金カーブを示している.日本の年齢賃金プロファイルの傾 きは相対的に比較対象国のなかでもきつくなっている.

ただし,55 歳以降の賃金については,大きく落ち込んでいることがわか る.高校卒未満および高卒では,男性 60 64 歳の賃金は,ほぼ 25 29 歳と同 じ水準に落ち込む.高等教育を受けた男性では,60 64 歳の賃金の落ち込み はかなり抑制されており,25 29 歳の 1.4 倍程度の賃金水準に踏みとどまっ ている.女性については男性ほどきつい賃金カーブは観察されず,35 歳以 降ゆるやかに賃金は下降する.別の見方をすれば,このように日本の(男性 の)年齢賃金プロファイルの傾きはきついが,同時に日本の高年齢就業者の 賃金はかなりの柔軟性をもち合わせているといえる.日本の高年齢者就業率 の高止まり要因として,この賃金の大幅な低下という調整が考えられる.

年齢賃金プロファイルと労働市場の成果について分析した OECD[2006] は年齢賃金プロファイルのきつさが高年齢者就業に影響を与えることを示し た.図表 16 7 は,男性 50 64 歳被用者比率,男性 55 59 歳の 5 年間の継続 雇用率,男性 60 64 歳の採用比率,男性 50 64 歳の失職率という 4 つの指標 で,年齢賃金プロファイルのきつさ(より具体的には男性 25 29 歳賃金に対 する男性 55 59 歳の賃金の相対比)の効果を検討している.

(17)

高校卒未満

20

24 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+ 20

24 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+ 2024 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+ 20

24 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+ 20

24 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+

高校卒

高等教育

60 100 140 180 220 260

高校卒未満

男性 女性

高校卒

高等教育

60 100 140 180 220 260

日本 韓国 フランス 英国 米国

20

24 2529 3034 3539 4044 4549 5054 5559 6064 65+ 60

100 140 180 220 260

60 100 140 180 220 260

60 100 140 180 220 260

60 100 140 180 220 260 (%)

図表 16 6 OECD 主要国の学歴別年齢賃金プロファイルの国際比較

(2000 年頃,25 29 歳賃金=100%)

注) 元データは,Korean Wage Structure Survey, 厚生労働省統計情報部『賃金構造基本統計調査』,August Supplement to Australian Labour Force Survey European Labour Force Survey, US Current Population Survey 等.

(18)

CZEGBR

AUS FIN NZD DNK SWENOR CAN IRL HUN ITA USA CHE JPN NLD DEU AUT BELFRA ESP LUX CZE GBR AUS FIN KOR KOR DNK SWE NOR CANIRL HUN ITA USA CHE JPN NLD DEU

AUT BELFRA ESP LUX CZE GBR AUS FIN DNK SWE NOR CAN IRL HUN ITA USA CHE JPN NLD DEU AUT BEL FRA ESP LUX KOR CZE GBR FIN DNK SWE NOR IRL HUN ITA USA CHE JPN NLD DEU AUT BEL FRA ESP LUX 1.1

1.0 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8

10 20 30 40 50 60 70

80 男性50 64歳の被用者比率(%)

a)

男性55 59歳/25 29歳の賃金比 c) Correlation coefficient : −0.20

1.1

1.0 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8

10 20 30 40 50 60

70 男性55 59歳の5年間の継続雇用率(%)

b)

男性55 59歳/25 29歳の賃金比 c) Correlation coefficient : −0.48**

1.1

1.0 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8

0 2 4 6 8 10 12

14 男性50 64歳の採用比率(%)

d)

男性55 59歳/25 29歳の賃金比 c) Correlation coefficient : −0.62***

1.1

1.0 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8

0 1 2 3 4 6 5 9 8 7

10 男性50 64歳の失職率(%)

e)

男性55 59歳/25 29歳の賃金比 c) Correlation coefficient : −0.15

図表 16 7 年功賃金と労働市場の成果

注) **,*** はそれぞれ 5%あるいは 1%水準で統計的に有意. a)被用率とは 2004 年の各年齢人口に占める 2004 年時点の被用者の割合を示す. b)継続雇用率と は 1999 年の被用者のなか,2004 年にも同じ雇用者に雇われている人の割合(推計値)を示す(韓国については 1995 2000 年で計算). c)給与データは 1998 2003 年のいずれかで,フルタイム労働者の給与である. d)採用率とは,被用者に占める 1 年未満の勤続年数の者の比率を示す.データは 2004 年(韓国は 2000 年). e)失職率とは,現在非就業で過去 1 年間に非自発的理由で失職した者の,1 年前の全被用者(失職した者を含む)に対する比率を表す.日本については 2002 年デー タ,他の国については 2004 年データである.

(19)

この横断面の国際比較データによれば,統計的に有意であるのは,4 指標 のうち,男性 55 59 歳の 5 年間の継続雇用率と男性 60 64 歳の採用比率の 2 つである.年齢賃金プロファイルがきついと男性 55 59 歳の継続雇用率と男 性 60 64 歳の採用比率は低下するという,統計的に有意な負の相関が確認さ れている.一方で,高年齢者の就業率(ここでは男性 55 64 歳の被用者比 率)については,統計的に有意な負の相関は確認できていない.むしろ OECD[2006]は,日本が「年功賃金が重要であるにもかかわらず高年齢者の 雇用率がなおきわめて高いという明らかな例外である」と指摘している.

以上をまとめれば,日本では年齢賃金プロファイルの傾きが比較対象国の なかで相対的にきつく,それは横断面の国際比較分析からすれば男性 55 59 歳の継続雇用率や男性 50 64 歳の中途採用比率を統計的に有意に低める要因 ではあるが,それでも男性 50 64 歳の被用者比率を低める統計的に有意な効 果とはなっていない.

とはいえ,こうした国際比較の結果の解釈には議論の余地があることを付 言しておく.たしかに定年経験は,60 歳代の男性の就業確率を 2 割程度低 下させる要因となっており,この負の影響の度合いは過去 20 年間一貫した 大きさとなっている(清家・山田[2004], p. 109).ところがこの定年経験は就 業確率の引き下げ効果がある一方,定年年齢までの雇用保障効果(樋口・山

本[2002a])もあり,さらに各企業の定年年齢と賃金プロファイルには密接

な関係がある.たとえば大橋[1990],Clark and Ogawa[1992]や三谷[2003] などの実証分析では,定年延長が賃金に対する勤続年数の正の効果を引き下 げること,すなわち定年延長が年齢賃金プロファイルを緩やかにし,同じ勤 続年数でも定年延長された企業では賃金が引き下げられる実態を明らかにし ている9).山田[2007]も同様の研究結果を得ている10).また,樋口・山本 [2002a]は賃金カーブが急な事業所(産業)ほど多くの高齢雇用者が企業外 部へ排出されていること,樋口・山本[2002b]では 55 歳以降の賃金カーブ をフラット化した場合フルタイム雇用確率は男性 55 59 歳で下落し,男性

9) なお,大橋[1990]の理論モデルでは,第 2 期の賃金水準(年齢賃金プロファイルの傾き)が最 適な定年年齢に与える影響は定まらないことを示しており,実証分析の課題だとしている. 10) 山田[2007]では定年延長や定年廃止と賃金プロファイルとの関係も分析し,よりきつい賃金

(20)

60 64 歳で上昇するとのシミュレーション結果を得ている.このように日本 においては,就業確率は年齢賃金プロファイルのみならず,定年制度と年齢 賃金プロファイルを通じた影響をもつので,後者の関係を捨象し,年齢賃金 プロファイルと労働市場の成果を直接結び付けるには一定の留保が必要であ ろう.

こうした日本における各研究の知見を考慮しつつ,以上をまとめれば,日 本が OECD 加盟国内で例外的な存在である理由として 2 つ考えられる.第 1 に,次節でも示すように過去 40 年間に 60 歳までの一律定年制が急速に普 及したことにより,曲りなりにも 60 歳までの雇用確保がなされていること があげられる.早期引退制度がないことと,この定年制普及により,定年年 齢までの雇用保障効果により 55 59 歳については被用者比率が高くなってい る可能性がある.第 2 に,55 59 歳の賃金で見るとたしかに 25 29 歳の賃金 よりかなり高く,その結果,図表 16 7 では年齢賃金プロファイルがきつい 方に位置している.しかし,図表 16 6 で見たように 60 64 歳ではかなり大 幅な賃金引き下げが行われており,60 64 歳まで含めて考えた場合には,年 齢賃金プロファイルの傾きは緩くなり,図表 16 7 で示されている年齢賃金 プロファイルのきつさは実は見掛け上の部分もある.

2.6 雇用保護規制

雇用保護規制は解雇コスト上昇による継続雇用の促進と新規採用の手控え という 2 つの相反する効果があり,高齢者の就業率に対するネットの影響は 理論的に定まらないため,OECD[2006]ではこの雇用保護規制と労働市場の 成果についても横断面の国際比較データを用いて分析している.ここで雇用 保護規制の強さとは,個別解雇規制,整理解雇規制,非常用雇用への解雇規 制という 3 つの領域における総合的な規制の強さを数値化した指標であ る11)

図表 16 8 は,同じく男性 50 64 歳被用者比率,男性 55 59 歳の 5 年間の 継続雇用率,男性 60 64 歳の採用比率,男性 50 64 歳の失職率という 4 指標 で,雇用保護規制の効果を検討している.雇用保護規制が強いほど,すなわ

(21)

16

日本における高年齢者の就業率の高止まりおよび変動の要因

561 CZE GBR AUS FIN POL POL POL POL DNK MEX GRC PRT CAN TUR HUN ITA

USA CHE JPN NLD

DEU AUT BEL FRAESP

NOR SWE SVK NZL IRL CZE GBR AUS FIN KOR KOR DNK SWE NOR CAN IRL HUN ITA USA CHE JPN NLD NLD NLD DEU AUT AUT AUT BEL FRA ESP PRT PRT PRT GRC GRC GRC CZE CZE GBR GBR AUS FIN FIN DNK DNK SWE SWE NOR NOR CAN IRL IRL HUN HUN ITA ITA USA USA CHE CHE JPN DEU DEU SVK SVK BEL BEL FRA FRA ESP ESP KOR JPN 0.5

0.0 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

0.5

0.0 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

10 20 30 40 50 60 70

80 男性50 64歳の被用者比率(%)

a)

雇用保護規制の強さ c) Correlation coefficient : −0.50***

0.5

0.0 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

0.5

0.0 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

10 20 30 40 50 60

70 男性55 59歳の5年間の継続雇用率(%)

b)

雇用保護規制の強さ c) Correlation coefficient : −0.23

0 2 4 6 8 10 12

14 男性50 64歳の採用比率(%)

d)

雇用保護規制の強さ c) Correlation coefficient : −0.50**

10 1 2 3 4 6 5 9 8 7

10 男性50 64歳の失職率(%)

e)

雇用保護規制の強さ c) Correlation coefficient : 0.20

注) **,*** はそれぞれ 5%あるいは 1%水準で統計的に有意. a)被用率とは 2004 年の各年齢人口に占める 2004 年時点の被用者の割合を示す. b)継続雇用率と は 1999 年の被用者のなか,2004 年にも同じ雇用者に雇われている人の割合(推計値)を示す(韓国については 1995 2000 年で計算). c)雇用保護規制の強さは, 個別解雇,整理解雇,非常用雇用に対する雇用保護規制の総合的な強さに関する OECD[2004b]の指標による. d)採用率とは,被用者に占める 1 年未満の勤続年数 の者の比率を示す.データは 2004 年(韓国は 2000 年). e)失職率とは,現在非就業で過去 1 年間に非自発的理由で失職した者の,1 年前の全被用者(失職した者 を含む)に対する比率を表す.日本については 2002 年データ,他の国については 2004 年データである.

(22)

ち解雇により強い制限的ルールを課している場合,この数値は高くなる. この横断面の国際比較データによれば,統計的に有意であるのは,4 指標 のうち,男性 50 64 歳の被用者比率と男性 60 64 歳の採用比率の 2 つである. 雇用保護規制が強いと男性 50 64 歳の被用者比率と男性 60 64 歳の採用比率 は低下するという,統計的に有意な負の相関が確認されている.

しかし,雇用保護規制の強さと男性 50 64 歳の被用者比率に関する日本の データには注意が必要である.すでにこの図表 16 8 の左上パネルにおいて も日本はノルウェイやスウェーデンと並び,比較対象国の平均的な傾向線か ら右上にずれている.すなわち,これら 3 カ国については同じ雇用保護規制 の強さでもかなり高い被用者比率になっている.さらに,この雇用保護規制 の強さは常用雇用と非常用雇用の両方の雇用保護規制の強さを合成した数値 である.たしかに両方を合計すれば日本の雇用保護規制の強さは比較対象国 の中でちょうど中間ほどに位置しているが,常用雇用のみに注目すると日本 はむしろ大陸ヨーロッパ諸国並みに雇用保護規制が強い(OECD[2004b], p. 72)12).したがって,常用雇用のみに注目すれば日本は雇用保護規制が強い ながらかなり被用者比率が高いといえる.別のいい方をすれば,日本では雇 用保護規制の強さはネットの効果として,むしろ高齢期における被用者比率 を高める要因となっている可能性が高い.

以上の横断面の国際比較データに基づく最近の研究知見をまとめると,日 本の高年齢者就業率の高止まり要因として,①寛大でない公的年金給付水準 (低い所得代替率),②早期引退給付を導入しなかったこと,があげられる. 一方,③年齢賃金プロファイルの傾きの相対的なきつさにもかかわらず,ま た④(常雇に対する)相対的に強い雇用保護規制にもかかわらず,日本では OECD 加盟国のなかで例外的に高年齢者の就業率は高くなっていることが わかった.

(23)

3

高年齢者就業率の「変動」要因

――日本の時系列データによる検討

3.1 高年齢者就業に関する主要な制度変更

この節では日本の時系列データを用いバブル経済期前後の男性高年齢者の 就業率の変動について掘り下げて分析する.高年齢者の就業率は,景気変動 のみならず社会保障制度や雇用法制などの変化によってもたらされる部分も 大きいと考えられる.1960 年代半ばからの,40 年間にわたるそうした制度 変更をまとめたのが,章末付表である.

付表(章末)において 1960 年代半ばを起点としたのは,日本の高年齢者 の就業率に大きな影響を与える 2 つの制度が成立したからである.第 1 は在 職老齢年金制度の成立である.この背景は,それ以前まで厚生老齢年金は退 職が受給要件となっていたため,給付水準の低い年金を就労所得で埋め合わ せることができず,低所得層に留まる高年齢者が多数いたことにある.こう した「退職年金」であった厚生老齢年金制度に「老齢年金」的性格を導入し, 年金給付水準の低い高年齢者に就労所得による埋め合わせができるよう工夫 されたのが 1965 年の在職老齢年金制度(高在老)であった.第 2 は一律 55 歳定年制の法的な是認である.定年制の歴史自体は 1887 年の海軍火薬製造 所までさかのぼることができ,また定年制の定着は昭和 30 年代であった

(萩原[1984])13)が,年功賃金制度下での一律定年制(55 歳)が最高裁判決

で合法とされ是認されたのは昭和 40 年代に入ったこの 1968 年のことであっ た14)

在職老齢年金制度は,以後 40 年間にわたり,受給権発生の上限引き上げ を通じた支給要件緩和と,支給停止方法の改善などの改革がくり返されてい く.また,65 歳以上を対象とする在職老齢年金(高在老)は 1985 年にいっ たん廃止されるが 2002 年に復活する.また年金給付水準については,1985 13) 昭和 10 年代には軍事動員および軍需工場の労働力吸収により発生した深刻な労働力不足のた め,多くの企業で定年制(停年制)の適用が中止された.しかし第 2 次世界大戦後の復興期(昭 和 20 年代)に再び生産設備の荒廃と復員・引き上げなどにより労働力が過剰となり,人員整理, 労働時間の短縮,希望退職者の募集,操業率調整などと並び定年制は復活し,昭和 30 年代に定 着していくことになる.詳細は萩原[1984]を参照せよ.

(24)

年以降,乗率の段階的変更とスライド方式の変更により,大幅な給付水準の 抑制が図られてきた.たとえば,1985 年の給付乗率の変更は,乗率変更が なかった場合と比較して 20 年間で厚生年金の報酬比例部分を 25%ほど削減 する効果がある15).この在職老齢年金制度は,定年制とともに賃金額に応 じて年金給付が就業中は全額もしくは一部停止されることによる労働供給側 の就業抑制効果が指摘されており,これまで数多くの研究(Amemiya and Shimono [1989],清 家 [1993],清 家・山 田 [1996],安 部 [1998],小 川 [1998a, 1998b],岩本[2000],大石・小塩[2000],三谷[2001],樋口・山本[2002b],大

竹・山鹿[2003],清家・山田[2004],樋口ほか[2006]など)で検証されてき

た16).また労働需要側にとっては,この在職老齢年金制度は一種の賃金補 助金として機能しており,低賃金雇用を促すこと(橘木・下野[1989]),賃金 上昇による労働供給増加より賃金補助金としての在職老齢年金増大による労 働需要増加の影響の方が大きいこと(小川[1998b]),在職老齢年金により若 年者との雇用代替が起きている可能性(金子[1997])などが指摘されている.

一方,定年制に対する直接的な政策介入は 1986 年の 60 歳以上定年制の努 力義務化により始まる17).それまでは,高年齢者雇用はクォータ制(職種 別,その後に企業別)による促進が試みられてきた.具体的には,1971 年 の中高年齢者雇用促進特別措置法により職種別クォータ制,1976 年の同法 改正による企業別のクォータ制(一律 6%以上の 55 歳以上高年齢者の雇用 率)である.定年年齢に関する(努力義務化以外の)直接的な政策介入は,

15) このような厚生年金制度のパラメトリックな制度改正の歴史と年金財政に与えた影響につい ては中嶋ほか[2005]にくわしい.

16) 在職老齢年金制度の改革効果に関する過去における研究の評価は以下の通りである.1989 年 改正については,安部[1998],岩本[2000],三谷[2001]は就業抑制に対する改善効果はなかった と結論づけている.ただし,大竹・山鹿[2003]は支給停止前の本来の厚生年金額が少ないグルー プについては,1989,1994 年改正が就業抑制効果を和らげたことを検証している.樋口・山本 [2002b]と三谷[2001]も,1994 年改正により就業率上昇効果があったことを確認している.しか し一方で樋口・山本[2002b]は就業抑制効果が依然として残っていること,また清家・山田 [2004]も 1994 年改正後も 8 12 万円の勤労収入層にモードがあり雇用慣行として改正前の影響が 残っている可能性を指摘している.なお,2000 年改正による 65 69 歳への在職老齢年金制度の 再導入の評価については,樋口ほか[2006]が試みているが,利用した「高年齢者就業実態調査 (2004 年)」の調査票設計上の問題のために統計的に有意な結果が得られていない.

(25)

その後,1986 年の男女雇用機会均等法による女性への定年と解雇に関する 差別的取り扱いの禁止,1994 年の 60 歳未満の定年制の禁止(高年齢者雇用 安定法)18)として行われる.さらに 2004 年の改正法で年金受給開始年齢ま での雇用確保措置の義務化が行われた.

このように政策介入が行われてきた定年年齢を年金受給開始年齢との関係 で見ると興味深い事実に気づかされる.それは年金支給開始年齢の方が,法 で定められた定年年齢下限より(あるいは一般的な定年年齢より)高い期間 の方が長いということである.たとえば,1968 年時点において一般的な定 年年齢は 55 歳であったが,その当時の支給開始年齢は男性で 58 歳19) あった.また 60 歳未満の定年制が禁止された 1994 年(施行は 1998 年)よ り,さかのぼること 20 年前の 1973 年に支給開始年齢(男性)は 60 歳に引 き上げられている.また 1994 年から 2000 年までの 7 年間は定年年齢下限 (60 歳)と支給開始年齢は一致している例外的な期間ではあるが,2001 年か らはまた(定額部分の)支給開始年齢の引き上げが始まり20),一般的な定 年年齢よりも支給開始年齢は高くなった.このことは社会政策的には,年金 と雇用が適切に接続されていない,すなわち雇用政策と社会保障政策との間 に一種の隙間が発生している,ということを意味する.しかし一方で,第 2.4 項で議論したように,Carmichael[1989]が指摘するように,このことは 定年後の雇用について企業が影響力を保持する可能性を意味し,ある意味に おいて企業側にとっては都合の良い政策となっている.

なお,こうした支給開始年齢と定年年齢の空白期間を埋める社会保障給付 としては雇用保険がある.この制度に関しても過去 40 年間にさまざまな改

18) なおこれも付表から省略されているが,1994 年には雇用保険法(雇用安定事業)による事業 主への各種助成金がさらに拡充された.樋口・山本[2002a]は,1992 年,1996 年,2000 年の 「高年齢者就業実態調査」の事業所票を用い,政府の雇用助成金・奨励金制度を認識している企 業(ただし設問項目からは実際に当該助成金・奨励金を利用しているかどうかまではわからな い)では,60 64 歳被用者の継続雇用率が相対的に高いことを明らかにしている.しかし,この ような助成金に対する厳密な評価はまだほとんど行われていない(OECD[2004]).三谷[2001] が指摘するように,個々の助成金に対する体系的評価方法を今後導入し,効率的運用を図ること が重要であろう(三谷[2001], p. 375).

19) 1954 年の厚生年金保険法改正により支給開始年齢が,55 歳から 60 歳に段階的に引き上げら れることとなった.1968 年はその引き上げスケジュールの途上にある.

(26)

革が行われてきた.低所得の高年齢者に配慮しつつ日数と給付水準が設定さ れた雇用保険が導入されたのは 1975 年である.それまでの失業保険では継 続雇用期間のみで給付日数が定められていたので高賃金の定年到達者に相対 的に有利な給付体系となっていた.しかし,雇用保険が導入されてからは相 対的に定年到達者に対して雇用促進的な改革が行われた.また,1990 年代 に入ってからは,定年到達後の賃金下落に対する補助金(1994 年の高年齢 雇用継続給付)の導入や年金と雇用保険の併給調整(1998 年)などが行わ れた21)

さらに,求人における年齢制限に対処するための最初の試みが,2001 年 の雇用対策法改正による,募集・採用時に年齢制限禁止に関する努力義務化 である.この努力義務から踏み込み,2007 年からは合理的な理由があって 例外的に年齢制限が認められる場合(=「例外事由」22))を除き,募集・採 用時における年齢制限が禁止された.

次項では,こうした制度変更の結果として,一律定年制の普及,失業率, 年金と雇用保険の併給状況,就業と年金の組み合わせが実際どのように変動 してきたかについて,バブル経済期前後を中心に見ていく.

3.2 一律定年制の普及

定年制度の普及状況について企業調査から概観したのが図表 16 9 である. バブル経済期前までに定年制のない企業は 1 割程度までに減少しており,9 割の企業が定年制を採用している.その定年制の多くが一律定年制であ

21) この高年齢雇用継続給付の効果について,大石・小塩[2000]は在職老齢年金による就業抑制 効果を半分以上相殺していると評価している.一方で,小川[1998a],金子[1998]や樋口・山本 [2002b]は,たしかに高年齢雇用継続給付は就業促進的ではあるが,在職老齢年金制度と高年齢 雇用継続給付の併給調整により,その労働供給側への効果は限定的であるとしている. 22) この「例外事由」とは雇用対策法施行規則(第 1 条の 3 第 1 項)に示される以下の場合を具

(27)

り23),定年年齢は 60 歳となっている.とくにバブル経済期以降,59 歳以下 の一律定年制を採用する企業の割合の大幅な減少とともに,60 歳の一律定 年制を採用する企業の割合が急増し,2006 年には 85%の企業にまで普及し た.しかし,2006 年の改正高年齢者雇用安定法の施行にともない,60 歳で の一律定年制を採用している企業比率は 5%ポイント減少し,その代わりに 65 歳以上の一律定年制を採用する企業および定年制のない企業が微増した.

3.3 失業率の変動

次に年齢階級別に失業率の変動に注目する.男性 60 64 歳の失業率を見る と,全年齢層(15 歳以上計)あるいは他の年齢階級の高年齢者と比較して 高いまま推移している(図表 16 10).1976 年から 2000 年までの四半世紀に わたり,男性 60 64 歳の失業率は,全年齢層(15 歳以上計)より 2 倍以上 高い水準で推移していた.これは,男性 55 59 歳,65 歳以上では,1991 年

23) 一律定年制以外の定年制の多くは職種別定年制である.相対的に不動産業,サービス業,建 設業などに職種別定年制を採用している企業が多い.ただし,それらの産業においても大多数の 企業は一律定年制を採用している.

(%)

0 20 40 60 80 100

一律以外の定年制 一律66歳以上定年 一律65歳定年 一律61 64歳定年 一律60歳定年 一律59歳以下定年 定年制無し

07(年) 05 03 2001 99 97 95 93 91 89 87 85 83 81 79 77 1975

図表 16 9 一律定年制の普及状況(1975 2007 年)

注)「一律以外の定年制」とは男女別(1986 年まで)あるいは職種別の定年制を意味する.男女雇 用機会均等法施行以前(1986 年以前)は,一律定年制以外の定年制のほとんどが男女別に定め られた定年制であった.なお「一律 66 歳以上定年」採用企業の割合は,最大でも 0.4%であり, 計上はされているが,グラフでは判別できないほど小さい値となっている.

(28)

以降,全年齢層(15 歳以上計)の失業率よりも低いまま推移してきたこと と対照的である.また,女性については 55 歳以上のいずれの年齢階級にお いても,その失業率は全年齢層を上回ったことがないので,男性 60 64 歳の 失業リスクの高さは際立っていることがわかる.

バブル経済期には男性 60 64 歳の失業率は 2%ポイントほど低下している. また男性 55 59 歳でも同程度の失業率の低下があり,バブル経済期以降は全 年齢層よりも低い水準で推移している.男性 60 64 歳ではバブル経済期以降 に再び失業率は急上昇し,2000 年代に入り 5%ポイント以上の急速な低下を 経験している.このように男性 60 64 歳の失業率の景気循環に対する振幅は,

0 2 4 6 8 10 12

15歳以上計 65歳以上

60 64歳 55 59歳

0 2 4 6 8 10 12

15歳以上計 65歳以上

60 64歳 55 59歳

男性

女性

(年) 06 04 02 2000 98 96 94 92 90 88 86 84 82 80 78 76 74 72 70 1968 06 04 02 2000 98 96 94 92 90 88 86 84 82 80 78 76 74 72 70

1968 (年)

図表 16 10 高年齢者の失業率(年齢階級・男女別,1968 2007 年)

(29)

バブル経済期を挟みむしろ拡大している.このことは,60 歳一律定年制の 急速な普及を反映しているものと考えられる.

図表 16 11 では,男性各歳人口に占める雇用保険受給者の比率について, 年金と雇用保険の併給・単給状況別にカテゴライズして示している.なお, ここで利用した『就業構造基本調査』では個人での雇用保険受給者が識別で きず,世帯単位での受給のみしかわからない.したがって,この図表におけ る雇用保険受給者とは,必ずしも本人の雇用保険受給でないケースが入って いることに注意する必要がある24).(本人が無業かつ)雇用保険受給者であ る者の割合は,1982 年から 2002 年までの 5 時点間 20 年間に 60 歳で急拡大 していることがわかる.2002 年では男性 60 歳の 10 人に 1 人が雇用保険給 付を受給している.また,バブル経済期の後(1992,1997 年)に併給者の比 率が急増し,また 1998 年の公的年金との併給調整を反映し,2002 年では雇 用保険のみの単給者の比率が急増している.

3.4 就業する年金受給者

高年齢者の就労パターンについて就業と年金の組み合わせから,過去 20 年間の変化を概観する(図表 16 12).清家・山田[2004]で明らかにされたよ うに就業する年金受給者の存在が日本の高年齢者就業を特徴づけている.日 本で就業する年金受給者が多い 1 つの制度的背景として,先に述べたように 1965 年から在職老齢年金制度を導入していることがあげられる.

図表 16 12 では左パネルが男性,右パネルが女性となっている.ここでは, 年金(厚生年金基金や企業独自の退職年金を含む)の有無および就労の有無 によって 55 歳以上の中高齢者を 5 歳刻みごとに 4 つのグループに分けてい る.55 59 歳層での圧倒的多数は,年金なし就業者であり,1996 年から 2004 年にかけて年金なし非就業者の微増にともない,やや減少しているが, その時点を除けば,年金支給開始年齢の引き上げおよび一連の高年齢者雇用 安定法の改正による定年退職年齢の下限の引き上げと軌を一にし,1983 年

(30)

0 2 4 6 08 10 12(%)

1992年 1997年 2002年

1987年 1982年

60

55 55 60 55 60 55 60 55 60

図表 16 11 無業者の年金と雇用保険の併給・単給状況(男性各歳別,1982 2002 年)

注) 男性各歳人口に占める無業者かつ年金・雇用保険併給者(灰色)および無業者かつ雇用保険単給者(黒色)の割合. 出所) 清家・山田[2009]による総務省『就業構造基本調査』個票の推計.

0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80

100 男性 女性

2004 2000 1996 1992 1988 1983 2004 2000 1996 1992 1988 1983 2004 2000 1996 1992 1988 1983

55 59 60 64 65 69

非就業の年金受給者 年金なし非就業者

就業する年金受給者 年金なし就業者

55 59 60 64 65 69

非就業の年金受給者 年金なし非就業者

就業する年金受給者 年金なし就業者

2004 2000 1996 1992 1988 1983 2004 2000 1996 1992 1988 1983 2004 2000 1996 1992 1988 1983

図表 16 12 高年齢者雇用と年金の接続(年齢階級・男女別,1983 2004 年)

(31)

の 8 割から上昇を続け,9 割近くが,このカテゴリーに入っている. 男性 60 64 歳では定年制と年金支給開始年齢の影響を受け,年金なし就業 者の割合は激減し,代わって就業している年金受給者が大多数になってくる. 1983 年には,このグループは 45%程度であり,その後,その割合はバブル 経済期をはさみ低下したとはいえ,4 割近くになっている.年金なし就業者 と非就業年金受給者が,1983 年以降,一貫してほぼ同じ割合(3 割ほど)を 占めている.

男性 65 69 歳でも,大多数は就業する年金受給者であり,2004 年まで漸 減しているとはいえ,それでも 5 割を占めている.近年,このグループの微 減に対応して,微増しているのが非就業の年金受給者のグループであり, 2004 年においては,就業する年金受給者とほぼ同じ割合となっている.

先にも見たように,日本では女性はもともと男性と比較すると就業率が低 いという差がある.それを反映して,55 59 歳層では,年金なし就業者が大 多数であり,1983 年よりバブル経済期をはさみ一貫してその比率は伸びて いるとはいえ,それに次いで年金なし非就業者の割合が高くなっている. 60 64 歳層になると,非就業の年金受給者が大半になるが,就業する年金受 給者も男性と比較してその比率は低く 1983 年以来減少傾向にあるとはいえ, 2004 年においても約 4 人に 1 人がこのグループに属する.さらに,65 69 歳 層になると,非就業の年金受給者が圧倒的多数になるが,就業する年金受給 者の割合は,さらに目立ち,女性 65 69 歳層の約 4 人に 1 人がこのグループ に属している.

さらに,この就業する年金受給者で,勤労収入が世帯所得に対し,どれほ どの大きさを占めているかについて,所得十分位ごとに確認する(図表 16 13).本人の勤労収入(y)の大きさは世帯員数(S)および世帯所得(D

から以下の式で指標(R)化されている.つまり本人の勤労収入を等価所

得25)(世帯に働く規模の経済性を調整した個人所得)で評価した指標であ る.別のいい方をすれば,本人が自らの勤労収入を 1 人のみで使う場合の厚

(32)

生水準と,本人が属する世帯における世帯員が享受している厚生水準の比で ある.

本人の勤労収入比率:R= y

D S 30

40 50 60 70 80 90 100

30 40 50 60 70 80 90 100

男性 就業する年金受給者 60 64歳

等価所得にたいする本人勤労収入の大きさ(十分位ごと)

男性 就業する年金受給者 65 69歳

等価所得にたいする本人勤労収入の大きさ(十分位ごと)

(%)

(%)

2002年 1997年

1992年 1987年

1982年

2002年 1997年

1992年 1987年

1982年

D10 D9 D8 D7 D6 D5 D4 D3 D2 D1

D10 D9 D8 D7 D6 D5 D4 D3 D2 D1

図表 16 13 高年齢者の所得に占める勤労収入の大きさ

(男性就業者,所得十分位ごと,1982 2002 年)

(33)

図表 16 13 から明らかなように,男性 60 64 歳,65 69 歳ともに勤労収入 比率は低所得層と高所得層で高く,U 字型をしている.この形状は 20 年間 で安定的である.例外は,1982 年から 1987 年のバブル経済期の始まりにか けて,両年齢階層とも第 1 から第 4 所得十分位で勤労収入比率が落ちている ことと,バブル経済期の後に男性 60 64 歳では第 3 から第 6 所得十分位で勤 労収入比率に反転が見られることである.こうした変動は,高年齢者の就業 行動,賃金,世帯構造,公的年金の給付水準などのさまざまな要素の変化の 複合的な結果として生み出されたものである.次項以下,これらの変化につ いてさらに掘り下げて検討する.

3.5 相対賃金と所得代替率の変動

年齢賃金プロファイル(年功賃金制)に関する詳細な分析は,本巻第 7 章 で行われているので,ここでは高年齢者をいくつかの年齢階級に分けたうえ, 25 29 歳に対する相対賃金比(一般労働者のきまって支給する現金給与額) を用いて検討する.図表 16 14 から明らかなように 25 29 歳との賃金比で急 上昇しているのが,55 59 歳の賃金である.1974 年には 1.2 倍であった 55

0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8

06(年) 04 02 2000 98 96 94 92 90 88 86 84 82 80 78 76 1974

65歳以上 60 64歳

55 59歳 50 54歳

(倍)

図表 16 14 賃金の相対比(男性 25 29 歳賃金=1.0,年齢階級別,1974 2007 年)

注) 賃金の相対比は男性 25 29 歳の「きまって支給する現金給与額」を分母,男性各年齢階級 の「きまって支給する現金給与額」を分子として計算.

(34)

59 歳の賃金は 2000 年には 1.5 倍になっている.この伸びは,一律 60 歳定 年の普及と軌を一にしている.その一方,50 54 歳,60 64 歳,65 歳以上の 3 つの年齢階級についてはバブル経済期までは賃金比が上昇しているが,バ ブル経済期には頭打ち,もしくは低下傾向にあり,バブル経済後にやや漸増 しているに過ぎない.

さらに,男性 60 64 歳,65 69 歳の 2 つの年齢階級について,就業率,賃 金比,厚生年金の所得代替率(受給権者の平均年金額と 60 64 歳あるいは 65 69 歳の賃金比〔再掲〕)について重ね合わせたのが図表 16 15 および図 表 16 16 である.

バブル経済期を中心に 3 変数の動きに注目する.男性 60 64 歳ではバブル 経済期に入ってから就業率が上昇傾向にあるが,厚生年金の所得代替率は乗 率変更により給付水準が抑制されていることもあり一定である.しかし,同 時期に 60 64 歳の賃金比は低下傾向にある.

男性 60 64 歳についてはバブル経済期の半ばまで就業率はいったん上昇し た後,低下しているが,賃金比や所得代替率についてはそれほど目立った動 きはない.

0 20 40 60 80 100 120(%)

(年) 05 2002 99 96 93 90 87 84 81 78 1975

60 64歳賃金/25 29歳賃金(前年)

厚生年金の所得代替率(前年) 男性60 64歳就業率(再掲)

図表 16 15 就業率と年金の所得代替率および賃金の相対比

(男性 60 64 歳,1974 2007 年)

(35)

3.6 高年齢者の就業率の変動に関する各要因の寄与

高年齢者の就業率に与えるさまざまな変数をコントロールするため,さら に多変量解析を行った.使用した変数および記述統計量は図表 16 17 に示さ れている.なお最小二乗法によるモデルでは 1 階の自己相関が検出されたた め,Prais-Winsten 法による GLS モデルにより推計した26)

推計結果は図表 16 18 および図表 16 19 に示されている.男性 60 64 歳で は,失業率,厚生年金の所得代替率,25 29 歳に対する相対賃金比は就業率 に対していずれも負の影響を与えている.さらに 61 歳以上の一律定年制の 普及も正の影響を与えている.とくに 25 29 歳に対する相対賃金比が負の影 響を与えるという結果は,高年齢者の賃金が若年者より相対的に安くなると, 高年齢者雇用が進展するということを意味する.この背景には,企業にとっ ては採用時および定年後の継続雇用時に,雇用量を調節する最大限のフレキ シビリティーをもつがゆえ,この相対賃金の大小により若年者雇用か高年齢 者雇用か,という選択が企業により行われている可能性があり,いわゆる若

26) なお,すでにこうした時系列データを用いたバブル経済期までの高年齢者の就業率変動の分 析は八代ほか[1995]でも行われている.

0 20 40 60 80 100 120

(年) 05 2002 99 96 93 90 87 84 81 (%)

78 1975

65 69歳賃金/25 29歳賃金(前年)

厚生年金の所得代替率(前年) 男性65 69歳就業率(再掲)

図表 16 16 就業率と年金の所得代替率および賃金の相対比

(男性 65 69 歳,1974 2007 年)

図表 16 13 から明らかなように,男性 60 64 歳,65 69 歳ともに勤労収入 比率は低所得層と高所得層で高く,U 字型をしている.この形状は 20 年間 で安定的である.例外は,1982 年から 1987 年のバブル経済期の始まりにか けて,両年齢階層とも第 1 から第 4 所得十分位で勤労収入比率が落ちている ことと,バブル経済期の後に男性 60 64 歳では第 3 から第 6 所得十分位で勤 労収入比率に反転が見られることである.こうした変動は,高年齢者の就業 行動,賃金,世帯構造,公的年金
図表 16 18 男性 60 64 歳就業率変動の要因分析 説明変数: 被説明変数:男性 60 64 歳就業率[Std. Err. ]value 60 64 歳失業率(前年) − 2.395 [0.804] − 2.98** 一律定年制(61 歳以上)採用企業比率 2.037 [0.535] 3.81*** 厚生年金の所得代替率(前年) − 1.731 [0.357] − 4.86*** 60 64 歳賃金/25 29 歳賃金(前年) − 1.940 [0.338] − 5.75*** 定数項 3.673

参照

関連したドキュメント

(J ETRO )のデータによると,2017年における日本の中国および米国へのFDI はそれぞれ111億ドルと496億ドルにのぼり 1)

成績 在宅高齢者の生活満足度の特徴を検討した結果,身体的健康に関する満足度において顕著

デロイト トーマツ グループは、日本におけるデロイト アジア パシフィック

海に携わる事業者の高齢化と一般家庭の核家族化の進行により、子育て世代との

購読層を 50以上に依存するようになった。「演説会参加」は,参加層自体 を 30.3%から