A B C
D F
H I
G
J
E
L K
Na ti ve A α 50 8s to p A α 571 sto p A α 580 E
with Dextran with Glucose Control
図5-3.16 フィブリンゲルのCLSM画像。Native(A, B, C)、Aα508stop(D, E, F)、Aα 571stop(G, H, I)、Aα580E(J, K, L)。それぞれコントロール(中央)、グルコー ス添加(左)、デキストラン添加(右)。糖の最終濃度は10 mg/ml。図中の白い バーは20μmを示す。
5-4. 結論
本章における実験と解析により以下のことが示された。
(1)これまでにウシ血漿由来フィブリノーゲンで観察してきた糖(グルコースおよびデ キストラン)添加によるゲル化の遅延・促進効果は、ヒト血漿由来フィブリノーゲン
(Native)のゲル化においても明確に観測された。
(2)ウシ血漿由来フィブリノーゲンとヒト血漿由来フィブリノーゲン(Native)のゲル化 において形成されるフィブリン繊維の凝集構造は酷似している。
(3)Aα508stopおよびAα571stopにおいては、フィブリノーゲンのゲル化過程、形成さ れたフィブリン繊維の凝集構造およびフィブリンゲルのネットワーク構造に対して、
グルコース添加による影響は観測されなかった。
(4)Aα508stopおよびAα571stopのコントロールが、Nativeのグルコース添加時の結果 と良く一致した。
(5)デキストランの添加効果は、αCドメインに導入された変異に依存せず現れた。
(6)グルコースとの相互作用部位が、Aα571-610(アミノ酸40残基)の領域に含まれるこ とが見出された。
これらの結果から、Aα508stopおよびAα571stopが共通して欠損しているαCドメイン C末端側のアミノ酸40残基(Aα571-610)の領域が、フィブリノーゲンのゲル化過程にお いてはプロトフィブリルのラテラル凝集に関与し、さらに、グルコースと特異的に相互作 用する部位がこの領域に含まれることが強く示唆された。この結果は、考案したグルコー スの作用モデル(図4-3.6)を支持した。
一方、デキストランの添加効果は、αCドメインの変異に依存せず観測されたことから、
デキストランは本研究において変異を導入した部位以外と相互作用している可能性が示唆
された。デキストランの構成単位はグルコピラノースであることから、αCドメインとの 相互作用も考えられるが、4章に示した作用モデル(図4-3.5)のように、αCドメイン以外 の部位とも相互作用することによりプロトフィブリルの凝集を促進していると考えられた。
また、本研究により、グルコースとの相互作用部位をAα571-610(アミノ酸40残基)の 領域にまで絞り込むことに成功し、糖-フィブリノーゲン相互作用が部位特異的な相互作 用であることが示された。今後、フィブリノーゲン Aα571-610 の領域に様々な変異を導 入することにより、さらなるグルコース相互作用部位の特定化が可能である。さらに、こ
の Aα571-610 の領域は糖との相互作用のみでなく、プロトフィブリルのラテラル凝集に
関与していることが見出され、これまで構造・機能ともに未解明であったαCドメインの 機能に関して、非常に有益な知見を得ることができた。
6 章 総括
本研究では、単糖・二糖の立体異性体の添加効果およびレプチラーゼ系における糖類添 加効果の検討により、フィブリンゲル形成過程と糖との相関関係についてより詳細な知見 を収集し、さらに変異を導入したリコンビナントフィブリノーゲンのゲル化における糖類 添加効果を検討することで、糖-フィブリノーゲン相互作用メカニズムについて議論した。
まず、3 章における実験では、フィブリンゲル形成過程に及ぼす単糖および二糖の異性 体効果を、散乱光強度測定、濁度測定およびフィブリンゲルのCLSM観察により検討した。
その結果、単糖の立体異性体の添加はいずれもフィブリンのゲル化を遅延し、細くルーズ なフィブリン繊維を形成する傾向を示した。一方、二糖の立体異性体では、唯一、イソマ ルトースの添加はゲル化にもフィブリン繊維の凝集状態にも影響を与えないことを見出し、
フィブリノーゲンのゲル化過程、形成されるフィブリン繊維の凝集構造およびフィブリン ゲルのネットワーク構造において、単糖・二糖の立体構造に依存した影響(糖の異性体効果)
を及ぼすことが明らかになった。これらの結果は、フィブリノーゲンが糖を認識・結合し、
フィブリンゲル形成が糖の存在により制御されることを強く示唆した。
次に、4 章においては、FPA のみを切断するレプチラーゼ系とトロンビン系との比較に より、フィブリンゲル形成過程と糖類添加効果の相関関係を検討した。レプチラーゼ系で は、トロンビン系と同様にグルコースの添加によりゲル化が遅延され、デキストランの添 加でゲル化が促進されることがわかった。しかし、レプチラーゼ系においては、形成され たゲルのネットワーク構造に、グルコース添加による影響がほとんど観察されず、レプチ ラーゼ系のコントロールとグルコース添加におけるフィブリンゲルのネットワーク構造は、
トロンビン系におけるグルコース添加に類似した構造であることを見出した。一方、デキ ストラン添加時のネットワーク構造は、トロンビン系におけるデキストラン添加の結果と 酷似していた。これまでのすべての研究結果から、グルコースとデキストランでは、フィ ブリノーゲンへの相互作用機構が異なると考えた。グルコースは、フィブリノーゲンのα Cドメインと相互作用することによりプロトフィブリルのラテラル凝集を抑制し、一方、
デキストランは、接着剤のように機能してプロトフィブリルの凝集を促進していると考察 した。
さらに、5 章においては、糖との相互作用が考えられるフィブリノーゲンのαC ドメイ ンを変異させたリコンビナントフィブリノーゲンを作製し、グルコース及びデキストラン の添加効果を比較検討した。その結果、フィブリノーゲンのゲル化過程、形成されるフィ ブリン繊維の凝集構造およびフィブリンゲルのネットワーク構造に対して、欠損型のリコ ンビナントフィブリノーゲン(Aα508stopとAα571stop)においては、グルコース添加によ る影響は観測されず、それらのコントロールがNativeのグルコース添加時の結果と良く一 致することを見出した。この結果から、Aα508stop および Aα571stop が共通して欠損し ているαCドメインC末端側のアミノ酸40残基(Aα571-610)の領域が、プロトフィブリ ルのラテラル凝集に関与し、さらにグルコースと相互作用する部位がこの領域に含まれる ことが明らかになった。この結果は、これまで未解明であったαCドメインの機能に関し て、初めて得られた知見である。また、これらの結果は、考案したグルコースの作用モデ ルを支持するものであり、今後、フィブリノーゲン Aα571-610 の領域に様々な変異を導 入することにより、さらなるグルコース相互作用部位の特定化が可能であることが本研究 により示された。
以上、本研究により、フィブリンゲル形成に及ぼす単糖・二糖の異性体効果を見出すこ とができ、フィブリンゲル形成過程と糖との特異的な相関関係についての知見を得ること ができた。また、糖類添加による影響が、部位特異的な糖-フィブリノーゲン相互作用で あることが示され、フィブリノーゲンのαCドメインに導入した変異と糖の相関関係につ いての知見を得ることができ、これと同時に、これまで構造・機能ともに未解明であった αCドメインの機能に関して、極めて有益な情報を得ることに成功した。
7 章 今後の展望
本研究により、グルコースとフィブリノーゲンの相互作用部位を、フィブリノーゲンの αCドメインC末端側のアミノ酸40残基(Aα571-610)にまで絞り込むことに成功し、さ らに、この領域がフィブリノーゲンのゲル化過程においてプロトフィブリルのラテラル凝 集に関与するというαCドメインの機能に関する新しい知見を見出した。本研究の成果を 基にした今後の研究課題としては、
1. グルコース相互作用部位のさらなる特定化
2. 糖-フィブリノーゲン間のミクロな相互作用解析 などが挙げられる。
本研究と同様の手法を用いて、フィブリノーゲン Aα571-610 の領域に様々な変異を導 入したリコンビナントフィブリノーゲンを作製して研究に用いることにより、さらなるグ ルコース相互作用部位の特定化が可能である。
本研究におけるリコンビナントフィブリノーゲンを用いた実験では、濁度測定やCLSM 観察など、フィブリノーゲンのゲル、またはゲル化を観察する、マクロな凝集状態の解析 を重点的に行った。しかし、糖-フィブリノーゲン相互作用部位を特定化し、その作用機 構を解明するために、今後、糖とのミクロな相互作用解析が必要となる。本研究において、
糖との相互作用部位として注目したフィブリノーゲンのαCドメインは、現在も、その構 造や機能の解明へ向けて研究が進められている部位であり、これらの研究には分子生物学 的手法により作製したフィブリノーゲン断片が用いられている。リコンビナントフィブリ ノーゲンを用いた研究手法と並行して、断片試料を用いることは有効な研究手法である。
リコンビナントフィブリノーゲンに導入した変異に対応する断片試料を作製し、SPR
(Surface Plasmon Resonance; 表 面 プ ラ ズ モ ン 共 鳴)測 定 や QCM(Quarts Crystal
Microbalance;水晶振動子マイクロバランス)を用いた測定を行うことで、糖とのミクロな
相互作用解析が可能となり、また作製した断片試料を添加物として用いる実験を行うこと も可能である。これらの研究から、糖の相互作用部位が特定化され、その作用機構が分子