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plutonius 典型株/非典型株検出・識別用 Duplex PCR 法の開発

42 序論

M. plutonius には典型株と非典型株の2つのタイプの株が存在し,さらに,

感染実験の結果から,両者は異なるメカニズムで病原性を制御している可能性 が明らかとなった。従って,より正確に EFB を診断し,より有効な対策を考 える上で,野外の各EFB症例の原因となっているM. plutonius株のタイプを 識別し,EFBの疫学情報を蓄積することが重要となってくる。

EFB の診断はまず特徴的な臨床症状を確認することから始まる。しかし,

EFB以外の原因でも幼虫がEFBと類似の症状を示すことがあり,EFBであっ ても,P. larvaeによるアメリカ腐蛆病(American foulbrood; AFB)と類似の 症状である有蓋幼虫の死亡が引き起こされることもある。そのため,EFBの確 定診断にはM. plutoniusの検出が必要とされる。

M. plutoniusを検出するための方法としては第一に分離培養法が挙げられる。

特に,実際に病気を引き起こしている株そのものを手に入れる必要がある場合 には,分離培養法は必須の方法である。しかし,M. plutoniusのように複雑な 条件で培養する必要がある菌では,その取扱いが難しく,培養操作が煩雑であ り,分離頻度に検査担当者の熟練度が影響する。さらに,M. plutoniusは発育 速度が比較的遅い菌種であることから,分離・同定には2週間以上の時間を必 要とする。従って,診断の簡便性・正確性・迅速性の点において,分離培養法 には様々な欠点が存在する。

近年,病原体を簡便・迅速に検出・同定するための方法として PCR 法が広 く活用されている。EFB においても,16S rRNA 遺伝子を標的とした M.

plutonius特異的PCR法が報告されている(14, 23, 29)。しかし,これらの方 法は典型株と非典型株の両タイプを検出出来るものの,これらを識別すること

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は出来ない(図1-1,第三章 結果 2 各PCR法の特異性)。そこで,本章では,

2 組のプライマーセットを同時に用いることにより,1つの反応で典型株と非 典型株の両者を検出し,それぞれを識別できる新たな M. plutonius 特異的 Duplex PCR法を開発した。さらに,本Duplex PCR法のEFB診断における 有用性について既報のPCR法および分離培養法との比較検証を行った。

44 材料および方法

1 供試株

M. plutonius特異的 Duplex PCR 法の開発とその特異性の検証のために,

M. plutonius典型株24株・非典型株26株,M. plutonius以外の19菌種23 株および健康なミツバチ幼虫の腸由来菌13株を用いた(表3-1)。

M. plutonius株の内,33株は第1章で供試した株(表1-1)と同一であり,

残り 17 株は以下に示す方法で腐蛆から新たに分離された。健康なミツバチ幼 虫腸由来菌株は下記の方法で分離された。これら以外の菌株は,埼玉県中央家 畜保健衛生所および独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研 究所に保存されていた株を用いた。

(1)腐蛆からのM. plutonius分離

EFBの臨床症状を示した腐蛆を乳剤化後,KSBHI培地に塗抹し,37℃・

3~4 日間嫌気培養を行った。M. plutonius を疑うコロニーを KSBHI培地 に継代し,単離した後,形態学的特徴,培養・生化学性状,M. plutonius特 異的PCR法(23)により,M. plutonius典型株または非典型株と同定した。

(2)健康幼虫からの細菌分離

健康なセイヨウミツバチおよびニホンミツバチ(Apis cerana japonica)

幼虫は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所で飼育 されている蜂群から集められた。それぞれ 10 匹以上の幼虫を分離培養に用 いた。幼虫の体表面を 70%エタノールで消毒後,滅菌蒸留水で洗浄した。

腸を外科的に摘出し,その内容物を100-500 µlのPBSまたはBHI(Difco)

ブロスと混合して,乳剤を作製した。乳剤をBHI寒天培地,5%馬血液加BHI 寒天培地,Lactobacilli MRS寒天培地(Difco)および卵黄加GAM寒天培

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地(日水製薬(株))に塗抹し,いずれも35~37℃で,BHI培地は好気培養,

5%馬血液加BHI培地は5%炭酸ガス培養,これら以外の培地は嫌気培養し,

発育してきたコロニーを初代分離と同じ培養条件で数回継代培養した。グラ ム染色,カタラーゼ試験およびオキシダーゼ試験により分離菌の一次鑑別を 行った後,良く分離した菌株について後述の方法で DNA を抽出し,16S rRNA 遺伝子の部分塩基配列を前述の方法(第一章 材料と方法 7 16S rRNA 遺 伝 子 解 析 ) に よ り 決 定 し た 。 EzTaxon-e (http://eztaxon-e.ezbiocloud.net)(26)を用いて,決定した配列とデータベ ースに登録されている各菌種の基準株の16S rRNA遺伝子配列を比較し,分 離した各菌株の種,属,科,目または綱を決定した。

2 DNA抽出

各菌株をそれぞれの至適条件で培養した後,前述の方法(第一章 材料および 方 法 6 ゲ ノ ム DNA の 抽 出 ) ま た は InstaGene Matrix(Bio-Rad Laboratories)によりDNAを抽出した。

3 特異遺伝子領域の抽出およびプライマー設計

Duplex PCR の 標 的 遺 伝 子 の 選 択 の た め ,in silico MolecularCloning Genomics Edition(インシリコバイオロジー(株), 横浜, 日本)を用いてM.

plutonius 基準株(典型株: DDBJ/EMBL/GenBank アクセッション番号

AP012200)および DAT561 株(非典型株:アクセッション番号 AP012282)

の全ゲノム配列を比較解析し,典型株および非典型株それぞれに特異的な遺伝 子領域を抽出した。その結果に基づき標的遺伝子候補を選択し,電気泳動をし た際に容易に識別可能なサイズの特異的 PCR 産物が得られるプライマーセッ

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ト2組を設計した(表3-2)。また,BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/

BLAST)を用いた検索により,設計したプライマーがアニーリングする可能性 のある相同配列が近縁菌種に存在しないことを確認した。

4 M. plutonius特異的PCR法の特異性と感度の検証

M. plutonius特異的PCR法として,本研究で開発したDuplex PCR法に加 え,Govanら(23)によって報告されたPCR法とDjordjevicら(14)および McKee ら(29)によって報告された Hemi-nested PCR 法を比較検証の対象 とした。

各PCR法の特異性は,M. plutonius近縁種やミツバチ幼虫からの分離菌を 含む幅広い菌種から抽出した DNA(表 3-1)をテンプレートとして用い,表 3-3に示した反応液組成および反応条件で検証した。

また,Duplex PCR法およびGovanらのPCR法(23)の感度は,1反応あ

たり最小 10 fg(染色体 5 コピーを含む)になるように段階希釈した M.

plutonius基準株(典型株)およびDAT561株(非典型株)の DNAを用い,

前述の条件で検証した。ただし,サイクル数はいずれも35サイクルとした。

全てのPCR反応はiCycler(Bio-Rad Laboratories)またはMx3000P QPCR system(Agilent Technologies, Inc., Santa Clara, CA, USA)を使用して行わ れた。特異的PCR産物の増幅の有無は,増幅産物のうち5 µlを1.5 %アガロ ースゲルで電気泳動(100V, 30分)し,エチジウムブロマイドで染色後,UV 光下で観察することで確認した。

5 野外発症幼虫を用いたM. plutonius検出法の有用性の検証

野外発症幼虫43検体を用い, M. plutonius分離培養法とDuplex PCR法の

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EFB 診断における有用性を比較検証した。発症幼虫は埼玉県内の 19 蜂場 26 群から得られたもので,全てセイヨウミツバチ幼虫である。43検体中41検体 はEFBの臨床症状を,2検体はAFBの臨床症状を示していた。

幼虫を乳剤化し,M. plutoniusおよびP. larvae(AFBの原因菌)の分離培 養に用いた。M. plutoniusの分離培養は前述の方法(第三章 材料と方法 1(1)

腐蛆からのM. plutonius分離)で行い,分離株はDuplex PCR法により典型 株または非典型株に型別した。P. larvaeの分離培養は,乳剤を5%羊血液加コ ロンビア寒天培地に塗抹し,37℃・5%炭酸ガス培養することにより行った。

P. larvaeを疑うコロニーを継代して単離した後,形態学的特徴,生化学性状お

よびP. larvae特異的PCR法(22)により菌種の同定を行った。

Duplex PCR 法のために,分離培養に用いたのと同じ幼虫乳剤約 1 µl から

InstaGene Matrix(Bio-Rad Laboratories)によりDNAを抽出した。抽出し たDNA 5 µlをDuplex PCR法のテンプレートとして用いた。

6 アクセッション番号

決定した健康なミツバチ幼虫の腸由来菌株の 16S rRNA 遺伝子配列は,

DDBJ/GenBank/EMBLに登録および公開している。アクセッション番号は表

3-1に示すとおりである。

48 結果

1 Duplex PCR法の標的遺伝子とプライマーセット

in silico MolecularCloning Genomics Editionにより抽出された典型株(基 準株)および非典型株(DAT561 株)に特異的な遺伝子領域をそれぞれ表 3-4 および3-5に示す。これら遺伝子の中から,典型株を検出するための標的遺伝 子としてNa/H antiporter遺伝子[基準株におけるlocus tag:MPTP_0420, 遺伝子名:napA (39)]を,非典型株を検出するための標的遺伝子としてFur family transcriptional regulator 遺伝子(DAT561 株における locus tag:

MPD5_0863)を選択し,それぞれ187 bpおよび424 bpの増幅産物が得られ

るようプライマーセットを設計した(表3-2)。

2 各PCR法の特異性

表3-3に記載した最適条件下でDuplex PCR法を実施した結果,供試した全

ての M. plutonius 株で典型株または非典型株に特異的な増幅産物のみが得ら

れ,M. plutonius以外の菌種ではいかなる増幅産物も認められなかった(表3-1,

図 3-1(A))。さらに,得られた典型株と非典型株の増幅産物は明らかにその大

きさが異なり,アガロースゲル上で容易に識別することが可能であった。一方,

Govan らの PCR 法(23)と Djordjevic ら(14)および McKee ら(29)の

Hemi-nested PCR 法では,典型株と非典型株の両方から特異的な増幅産物が

得られたが,これらはアガロースゲル上で同じサイズを示し,両産物を識別す ることは出来なかった(表 3-1 および図 3-1(B))。加えて,これら既報の 2 法

では,M. plutoniusやその他の菌種で非特異産物が認められることがあった(表

3-1および図3-1(B))。特に,Hemi-nested PCR法(14, 29)では,E. faecalis

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