三章4節の,今日のテーマであるmapping class groupMgの構造と3次元多様体の位相不変量について,
これは問題がたくさんあるのですが,大槻さんの始めたhomology 3-球面のOhtsuki-不変量,それらを一般化 するLMO不変量,有限型不変量,そちらの立場から,例えば,volume conjecture,問題がたくさんあります.
ここでは写像類群の構造と関係する部分だけ取り出して今日はお話します.
これはここだけの記号ですが,
M(3)={closed oriented 3-manifolds}/orientation preserving diffeomorphisms
可算個の集合,なんだかそういうと身も蓋もないですが,closed oriented 3-manifoldの微分同相類全体のなす 集合です.その中に大事なものとしてhomology 3-sphere全体の集合があります.
M(3)⊃ H(3)={closed oriented homology 3-spheres}/orientation preserving diffeomorphisms
写像類群との関係でいうと,写像類群と3次元多様体の関係で最初に出てくるのは,まずHeegaard decomposi-tion,もう1つはmapping torus,S1上のfibration.2つの構成がありますが,ここではHeegaard decomposition との関係からやります.Heegaard decompositionは皆さんご存知だと思いますが,少し復習します.
M(3)∋[M]に対して,あるgenusgとφ∈ Mgが存在して, Heegaard decopmpsitionというのは M=Hg∪φ−Hg.
ここでdiffeomorphismとそのisotopy classを同じ記号φで表しています.Hgはgenusgのhandlebody,具 体的に1つ決めたΣgの中身を埋めたもので,境界はΣg =∂Hg. orientationをreverseしたものを−Hgと書き ます.これがHeegaard decompositionと呼ばれるもので,この分解はもちろんuniqueではない.それはすぐ にわかります.もし1つの分解があると,
M=Hg∪φ−Hg
こうなるような最小のgをHeegaard genusといいますが,そのHeegaard genusの決定は難しいです.もし1 つあったとすると,MとS3のconnected sumもやはりMになります.S3の種数1の普通のsolid torusの貼 り合わせがあり,後でιgが出てきますが,ここでι1:Σ1,1→Σ1,1は90度回転, homologyを消してこれで貼り 合わせるとS3になります.
M=M♯S3=Hg+1∪φ♯ι1−Hg+1
となります.これでgがg+1になり,従ってg+2,g+3,· · · と無限個のHeegaard decompositionを持ち ます.なのでuniqueではありません.よく知られているようにuniqueでない部分はこれで尽きる.もう少 し厳密にいうと,古典的な仕事ですが,ReidemeisterとSinger,独立の仕事で,これはI. M. Singerではあり ません.この当時のSinger. こういうものをstabilization operationといいますが,言葉でいうとstabilization すると同じになる.Reidemeister-Singerの定理を書きます.M(3) ∋[M]が2つのHeegaard decompositions M=Hg∪φ−Hg,M =Hh∪ψ−Hhを持つとします.この間に関係があるというのがReidemeister-Singerの定 理です.
Theorem 3.22(Reidemeister-Singer). 次を満たすような自然数m,n∈Nとdiffeomorphism f :M →Mが存在 する.
• g+m=h+n,
• M=M♯mS3=Hg♮m(S1×D2)∪φ♯mι1−(Hg♮m(S1×D2))=V+∪φ♯mι1−V−,
• M=M♯nS3=Hh♮n(S1×D2)∪ψ♯nι1−(Hh♮n(S1×D2))=U+∪ψ♯nι1−U−,
• f はidenitityにisotopic,
• f(V+)=U+,f(V−)=U−.
つまり,stabilizationをm回繰り返したものとn回繰り返したものがup to isotopyで同じになる.ここで
♮はboundary connected sumを表します.この意味でuniqueであるというのが,Reidemeister-Singerの定理 です.
これはさっき言った方がよかったかもしれませんが,微分同相とmapping classを混同して書いていますが,
もしφ, ψがisotopicならば,Mφ=Hg∪φ−HgとMψ=Hg∪ψ−Hgは微分同相なので,写像類群からgenusg を固定するごとに,このHeegaard decompositionを通して,写像類群から3次元多様体が作られます.
Mg∋[φ]7→[Mφ]∈M(3)
Heegaard分解を考えてその微分同相類を考えるとこの写像がwell-defined. これは写像類群のg ≥1を渉る
disjoint unionで,それをReidemeister-Singerのstabilizationで割ると,これが3次元多様体の全体のなす集 合となります.
Theorem 3.23(Heegaard-Reidemeister-Singer).
⨿
g≥1
Mg/R.S. stabilizationM(3)
写像類群のある種の商による同値関係でdirect systemができますが,そのdirect limitと等しい.これは古 典的な結果です.右辺のM(3)上の関数,不変量を写像類群を通して作ろう,というのは,当然出てきますが,
それはそんなに簡単にうまく行くわけではありません.
これを少し言い換えます.そのためにhandlebodyの写像類群,微分同相写像を考える必要があります.S3 のHeegaard decompositionがuniqueというのはWaldhausenの結果です.そこでhandlebodyの写像類群を
Hgと書きたいのですが,また論文でも以前そう書いているのですが,これはhomology cylinderの理論が出
てきて,Hgというnotationが出てきたので,あまり良いnotationdではありませんが,ここでは
Mg⊃ HBg={φ∈ Mg;φがHgのdiffeo ˜φにextendする.}
と書きます.この群に関しては日本では鈴木晋一さんのパイオニア的な仕事があります.もう1つ,抽象的な 群としては同型ですが,
Mg⊃ HB′g ={φ∈ Mg;φが−Hgのdiffeo ˜φにextendする.}
を考えます.こういう2つの部分群を使うとM(3)というのが,写像類群を用いて具体的にdirect limitで表す ことができます.
gをg+1にするときに,よくやる手ですが,disk relativeにしてMg,1で考えて, direct systemを作るときに,
右側からHBg,1で割って,反対側,左側からHB′g,1で割って,double cosetを考えて,これがdirect system を作って,M(3)はそのdirect limitと等しくなります.
M(3)= lim
g→∞HB′g,1\Mg,1/HBg,1
これを詳しく書いたのはBirmanが最初だと思います.そうするとさっきのやつをもう少し詳しく,両方の
handlebody groupによるdouble cosetの不変量が作れたら,それは3次元多様体の不変量になります.ここか
ら3次元多様体の不変量を作るという戦略が出てきます.これはさっきから言っているように,戦略的には うまくいきそうですが,写像類群の構造はそんなにやさしくありません.HBgによるdouble cosetもそうで す.ここから不変量を取るというのは,なかなか難しい.一番最初のものはlinking formが出てきて,それは
Birmanさんの初期の仕事です.そこでこれに関連する問題は出てきます.この枠組みから3次元多様体の不
変量を作るというのが問題です.より写像類群,Johnson準同型の観点から,specifyすると,
Mg,1⊃ Mg,1(1)=Ig,1⊃ Mg,1(2)· · ·
ここにJohnson filtrationというもの,部分群,正規部分群の系列があって,これは非常に基本的な写像類群の
研究手段を与えています.Johnson filtrationを持ってくると,そうすると問題が少しspecifyされて,M(3)と いうのはdouble coset
M(3)= lim
g→∞HB′g,1\Mg,1/HBg,1
ですが,Mg,1の部分群の系列があるわけですから,Mg,1(k)⊂ Mg,1のimageの占める部分集合のdouble coset を考えることができて,
問題: [Image ofMg,1(k)]⊂M(3)を決定せよ.
という問題があります.
部分集合の占めるdirect limit,それを決める.うまくいくと不変量が出てくる.これにfiltrationが入るの で,homology sphereを基底とするQ上のvector spaceを考えて,filtrationが入るので,graded quotientを考 えることができます.最初に出てくるのがlinking form, Birmanの初期の仕事です.このようにしてHeegaard
decompositionの立場から,3次元多様体の不変量としてlinking formを構成しました.それをもう少し拡
張したのが,Birman-Johnson-Putmanの論文があります.これは2006年のGroups of Diffeomorphismsの
proceedingsに出ています.最近これに関してBirmanさんとe-mailでやりとりしたら,その頃の思い出話を
送ってくれました.
これをTorelli群に制限するとさっきのM(3)の重要な部分集合H(3)が出てきて,この方がもう少しattack しやすいので,それを残った時間でお話します.Torelli群で書くと,double cosetに対応するequivalence relation,ちょっと捻って
glim→∞Ig,1/∼=H(3)
へのattackを考えます.これの方がというか,Birman, Birman-Johnson-Putmanで最初のやつはわかってい るので,残りはH(3)という言い方もできます.それが今の状況です.equivalence relationは何かというと,
homology sphereを出すので,
Ig,1∋φ7→[Wφ:=Hg∪ιgφ−Hg]∈ H(3)
そもそもιgはhandlebody,g個のsolid torusのconnected sumでそれぞれのところで90度回転,それとφと 合成してhandlebodyを貼り合わせるとhomology sphereになります.non-uniqueness, Reidemeister-Singerに 対応する部分がどうなるかというと,Torelli群の2つの元φ, ψ∈ Ig,1が同値だというのは,φ∼ψはιgφの double cosetとιgψのdouble cosetがHB′g,1\Mg,1/HBg,1の中で等しい,と定義します.要するにTorelli群 のimageを考える.homology sphereについて問題を設定すると,homology 3-sphereがdirect limitで具体的 に書けて,HB′g,1\Mg,1/HBg,1,ここでTorelli群のimage,
問題
H(3)=lim
g→∞Ig,1/∼
の中でさっきのJohnson filtrationMg,1(k)(k≥2)のimage, Image ofMg,1(k)は何か?
これで考えるともうちょっと自然なものがあります.それはTorelli群自身のlower central series{I(k)g,1}で す.これはJohnson filtrationの上にあって,これは2番目weight
I(2)g,1=[Ig,1,Ig,1]⊃ Mg,1(2)
でrank 1だけ差があって,それがCasson不変量です.二つのfiltrationの差はCasson不変量だけかというの はHainさんの出した大問題です.これのimageがわかったら,そこからhomology sphereの不変量が出てく るはずですが,これがどうなるか.
これがもうちょっと具体的な計算ができるようにするには,任意のhomology球面の微分同相類を基底とす るQ上のvector space
QH(3)=Q-vector space onH(3)
を考えます.これは最初大槻さんが考えました.まず大槻さんがVassilievの理論をknotからhomology sphere, knotのfinite type invariant のfiltration をhomology sphereに拡張しました.そしてLMO 理論で さらに3次元多様体に拡張しました.Ohtsuki filtrationを入れ,研究の手段を与えました.そのbaseには Gussarov-Habiro理論があります.
Garoufalidis-Levineは,これは写像類群の立場から説明がつくのではないかと考えました.Johnson filtration ではなく,lower central series ofIg,1が自然にこのvector spaceにfiltrationを誘導していて,この2つは本質 的に同じだということを証明しました.写像類群, Johnson準同型を研究している立場から3次元多様体への
attackができる.ここで非常に希望が見えたのですが,その後あまり進んでいません.3次元多様体のfinite
type invariantの理論も難しくて,Casson不変量を拡張したOhtsuki不変量λkはGaroufalidis-Levineの仕事 から,finite type invariantはTorelli群のあるfiltrationに対応しているので,これで書けるはずですが,全くわ かっていません.これを問題としてもう少し詳しく書きます.
それでそもそもCasson不変量は,
λ:H(3)→Z
で1984年,30年も前になります.この Garoufalidis-Levineの論文を読むと,ちょっと手前味噌ですが,
Casson不変量と特性類の関係の仕事,これを拡張することがmotivationだと書いてあります.ここから
d1 :Kg=Mg(2)→Z
が出てきて,またCasson不変量はfinite type invariantであり,そこら辺はHabiroさん,Garoufalidis-Ohtsuki, たくさん仕事があります.これだけではなくfinite type invariantと写像類群の構造との関係では非常によく書 かれているHabiro-Massuyeauのsurvey論文, Handbook of Teichm¨uller spaceのIIIに出ています.これを読 んでいただくのと,それより前の大槻さんのproblems,これはどんどんupdataされています.今日はあまり 言いませんが,Kontsevichのcommutative graph homlogyとの関係も書いてあります.
もうちょっと言うと, Ohstuki理論,LMO理論で出てくるのが,
A(∅)=Q[connected, vertex oriented trivalent graph]/AS, IHX
graphの言葉,これはQ上の多項式代数であって,頂点でcyclic orientationがあるconnected trivalent graph で生成される多項式代数をAS, anti-symmetry, orientation reverseなやつと有名なIHX relation, Jacobi恒等式 に対応するrelationで割ったものを考えます.これの次元がどうなるかというのが大問題です.
これを完備化したものAˆ(∅)がLMO不変量のtarget,
LMO:M(3)→Aˆ(∅)
LMO不変量という3次元多様体の不変量,これをhomology sphereに制限したものです.それがinjectiveか というのが問題です.Betti数の分は足りないのですが,homology sphereに限ればinjectiveかどうかという ことです.
Casson不変量の一般化として
λk:H(3)→Z,
homology 3-sphereの不変量,これはA polynomial invariant of integral homology 3-spheresという大槻さんの 論文に出ています.λ1はCasson不変量,λ2, λ3,· · · と無限個あるのですが,性質や写像類群との関係などほ とんど何もわかっていません.
その部分をもう少し書きます.まずはGaroufalidis-Ohtsukiの論文があって,その次にさっきのLMO, Le-Murakami-Ohtsuki,この2つの仕事で,trivalent graphには頂点の数で自然にfiltrationが入って,そこから graded quotientsが考えられます.degreemというのはvertexが2m個,edgeが3m個のところです.
この結果は何かというと,GrmA(∅)が3次元多様体のuniversalな不変量と思われているLMO不変量の target,これがOhtsuki filtrationと全く同じなんです.
GrmA(∅)Gr3mQH(3)
右辺はOhtsuki-filtrationです.graphの言葉で書ける.AS relationは難しくないのですが,IHXが非常に難し いので,わからない.computer計算,我々もやっていますが,すぐにできなくなります.Willwacherたちがま たpreprintを出して計算をさらに進めているようです.それはcomputerでcg,1のhomologyを計算するのです が,不変量はlowest weightの部分,上の計算が進んだとしても,不変量の計算が進んだとは言えない.言わく