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Hecke 47 として実現される.

この記述は,Kleshchev’sp-good latticeの構成と完全に同じものである.すなわち次のことが成り立つ.こ れがLascoux-Leclerc-Thibonの観察であった.

系 6.14. ,=pのとき,L(Λ0)の結晶グラフは,Kleshchevp-good latticeに一致する.

注意6.15. Uv(!sl!)の場合の-Ei, Fi, Ki±1.のように,一般の量子展開環Uv(g)にも,gに付随するルート系の 単純ルートに対応してUv(sl2)と同型な部分代数がある.このようなたくさんの部分代数に対して,次のような 問題を考える.

Uv(g)の表現M に対し,M の基底Bであって,すべてのiに対してUv(sl2)i-加群としてのM の既約 分解と整合的なものは存在するか.

先ほどの例6.12で行った計算を見てみると,たとえば-E0, F0, K0±1に関する既約分解の基底として,

(|φ. ⊕ |(1).) )

(|(2). ⊕ |(3).) )

(|(1,1). ⊕ |(1,1,1).) )

· · ·

という基底が取れる.しかし,この基底は,-E1, F1, K1±1.というUv(sl2)で見ると,既約分解を与える基底に は程遠いように見える.例えば,|(1,1). ⊕v|(2).という1次元の既約成分を与える基底は,上の-E0, F0, K0±1. による既約分解の基底とはあわない.

そもそも量子展開環を持ち出すまでもなく,通常の半単純Lie環の表現においてさえ上のような問題の答は Noである.表現の基底と既約分解の関係は非常に複雑であると言ってよい.

しかし,v= 0において,結晶基底(L,B,E=i,F=i)は,すべてのiに対して同時にE=i,F=i :B→B8 {0}を満 たすような基底を与えていることになる.{BF :={|λ.modvL}は,どのiで見てもUv(sl2)-加群としての既 約成分の結晶基底を与えている.そのことを端的に表しているのが結晶グラフである.従って,v= 0において は上記の問題の答となるような基底が存在することになるのである.詳細には触れないが,結晶基底の持つこの ような性質のお陰で,既約表現のテンソル積表現の分解といった表現論的な性質が,v= 0での組合せ論の問題 に帰着され記述できることになる.

48

このとき,Glow(µ)∈L(Λ0)⊂F だから,

Glow(µ) =*

λ

dλµ(v)|λ. なるdλµ(v)∈Q[v, v1]が取れる.

注意 6.17. 大域基底とは,v → 0 で結晶基底に一致するような表現全体の基底を基底を与える( 結晶

基底をmeltingする )ものだが,bar不変性という強い不変性を課している.これは,注意 5.4で触れた

Kazhdan-Lusztig基底の持つHecke環の対合に関する不変性の類似物になっている.

例 6.18(lower大域基底の具体的な計算例). ,= 2とする.

|φ.=|φ.fi=fiに注意すれば,

f0|φ.=| .,

f1| .=| .+v| ., f0(| .+v| .) =| .+v| .

f1(| .+v| .) =| .+v| .+v| .+v2| .

はいずれもbar involutionで不変.modvL0(”v→0”)で|µ.(µ: 2-regular)の形をしているから,

Glow(φ) =|φ., Glow( ) =| .

Glow( ) =| .+v| . Glow( ) =| .+v| .

Glow( ) =| .+v| .+v| .+v2| . と求まる.さらに,

f1(2)(| .=| .

f0(| .) =| .+v| .+v2| ., f0(2)(| .) =| .+v| .+v2| ., f1(2)(| .+v| .) =| .+v| .

であり,これらもbar involutionで不変で,modvL0(”v→0”)で|µ.(µ: 2-regular)の形をしているから,

Glow( ) =| .

Glow( ) =| .+v| .+v2| ., Glow( ) =| .+v| .+v2| . Glow( ) =| .+v| .

と求められる.

他方,

f0(| .+v| .+v| .+v2| .) =| .+| .+ 2v| .+v2| .+v2| .

Hecke 49 はbar involutionで不変だが,modvL0(”v→0”)で| .+| .となっているので条件(i)を満たし ていない.Glow( ) =| .+v| .+v2| .というbar involution不変な元を引いた

| .+v| .+v2| .

もbar involution不変で,modvL0(”v→0”)で|µ.(µ: 2-regular)の形をしているから,

Glow(| .) =| .+v| .+v2| . である.

この結果をもとに,例えばn= 5の場合の

Glow(µ) =*

λ

dλµ(v)|λ. なるdλµ(v)を書き出すと次のようになる:

dλµ Glow( ) Glow( ) Glow( )

|(5). 1

|(4,1). 1

|(3,2). 1

|(3,1,1). v v

|(2,2,1). v2

|(2,1,1,1). v

|(1,1,1,1,1). v2

v= 1と特殊化すると,H5(−1)における[Sλ1:D−1µ ]という組成重複度一致することが見て取れる.

50

7 Lascoux-Leclerc-Thibon- 有木理論

7.1 A Hecke 環版

上で見たように,lower大域基底の展開

Glow(µ) =*

λ

dλµ(v)|λ. に現れる展開係数は,AHecke環のパラメータがq=√#

1の場合の組成重複度[Sλ1:D−1µ ]を記述している.

このことは,Lascoux-Leclerc-Thibonによって1996年に予想され,その後直ちに有木進によって解決された.

定理7.1 (有木進1996). dλµ(v)∈N[v]であって,dλµ(1) = [Sλ#

1:Dµ#

1]が成り立つ.

この定理の証明には,Kazhdan-LusztigGinzburgらによる「affine Hecke環と同変K-群を用いた幾何 学的表現論」およびLusztigによる「箙と偏屈層を用いた大域基底の幾何学的構成」という2つの幾何的表現論 の結果が使われた.

他方,1996年の有木による証明の段階では,K自身への量子展開環の作用はわかっていなかった.量子展開 環にはvというパラメータがあり,この作用の実現の仕方がわかっていなかったためである.それでもK上に は量子展開環の表現L(Λ0)の大域基底のv = 1への特殊化で得られる基底が存在する.これを用いて定理7.1 が示された.

その後,Grojnowski-Vaziraniによって柏原作用素のK群サイドにおける類似物を >

n≥0

Irr7 Hn(√#

1)8 上に 表現論的に実現する方法が開発された.ここでは詳しくは述べないが,有木の証明では,Hecke環における Jucy-Murphy元の類似物が導入され,その固有値を用いて誘導・制限函手を精密化したEi, FiというK上の 作用素が用いられていた.Grojnowski-Vaziraniは,この函手とsocle,cosocleという加群論的な概念を組み合 わせることで,E=i,F=iという柏原作用素の類似物を定義したのである.

この作用素と既約表現のモジュラー分岐則や分岐則そのものを大域基底と結びつけるためには,L(Λ0)

上のupper 大域基底と呼ばれる基底を導入する必要がある.これも詳細は述べないが,uuper大域基底

{Gup(λ) | λ,-regular} は,lower 大域基底のある内積に関する双対基底である.そこで,L(Λ0) 上への Uv(sl!!)の作用に関する展開係数を

EiGup(λ) =*

µ

Ei,λµ(v)Gup(µ), FiGup(λ) =*

µ

Fi,λµ(v)Gup(µ)

と定義する.このとき,展開係数のv= 1への特殊化Ei,λµ(1), Fi,λµ(1)はいずれも非負整数であり,しかも K-群サイドで定義されている精密化された制限函手・誘導函手に関する組成重複度を記述している.これらを足し あげれば分岐則が得られる.すなわち次が成立する.

定理7.2 (upper大域基底の展開係数と分岐則).

4ResHHnn−17 Dλ#

1

8:Dµ#

1

5=

*! i=0

Ei,λµ(1), 4

IndHHnn17 Dλ#

1

8:Dµ#

1

5=

*! i=0

Fi,λµ(1).

この結果は,既約表現類[D!λ]upper大域基底をv = 1と特殊化したものと対応させることで,K L(Λ0)|v→1との間に 同型 が存在することも主張している.

この定理によってHecke環のモジュラー表現における既約表現の分岐則が記述できたことになる.λ, µで具

体的にupper大域基底の展開係数(の特殊化)を計算するアルゴリズムはあるが,それらが例えばλ, µの組合

せ論的なデータから記述できるわけではない.この展開係数は,Kazhdan-Lusztig多項式とも深い関わりがあ

Hecke 51 り,その値は複雑である.

柏原作用素とGrojnowski-Vaziraniの導入した類似物との関係を述べると次のようになる. Grojnowski-Vaziraniの導入したE=i,F=iは,既約表現Dλ#

1に作用させると,再び既約表現となるかまたは零になる.この作 用の様子と{λ| λ,-regular上にMisra-三輪の定理によって導入される結晶構造に関する柏原作用素とが整 合的となる.すなわち次が成り立つ.

定理7.3 (柏原作用素の整合性).

E=iDλ#

1=DE!#iλ

1,F=iDλ#

1=DF!#iλ

1. これによって,>

n0

Irr7 Hn(√#

1)8

が結晶基底の言葉で理解できることになる.

実は,upper大域基底の展開係数は,結晶基底に付随して導入されるあるεという量に関して上三角性を持っ

ていることが柏原により示されている.特にL(λ0)の場合,

EiGup(λ) =Gup(E=iλ) + higher term, FiGup(λ) =Gup(F=iλ) + higher term

となっている.上の結晶基底との整合性に注意すれば,Hecke環のモジュラー表現におけるモジュラー分岐則

は,upper大域基底に関する展開の先導項を見ていることに相当する,という解釈になっている.

量子展開環の作用については長らく未解決であったが,categorificationなどの理解の進展に伴い,2008年ご ろに急激な進展が見られた.Khovanov-LaudaRouquierらによるgraded reresentation theoryをもと に,Brundan-KleshchevAHecke環にも次数環の構造が入るという(驚愕の)事実を導き,vの作用を 次数加群における次数のシフトと考えることで量子展開環の作用やcategorificationの直接的実現を得た.こ れによってv= 1の特殊化を行わなくても,次数加群の圏を考えることにより,そのK群とL(Λ0)が量子展開 環Uv(!sl!)の表現として同型であることまで言い切ることが出来るようになった.

注意 7.4. 先に述べたように有木による証明には幾何学的表現論が用いられていたが,graded representation

theoryによって理解が進んだ現在でも,こうした幾何学的表現論を用いずに代数的な議論のみによって組成重

複度の記述を得る方法は見つかっていない.

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