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フェルミ統計加速

  銀河系内起源であるはずの1015 eVまでの宇宙線の加速機構としてフェルミ加速というも のが考えられている。この加速機構は、衝撃波面において粒子を効率的に加速することができる こと、またこの加速後に得られる粒子のエネルギースペクトルの冪が2.0程度となり、直接観測さ れる宇宙線の冪2.2 と近いことなどから有力視されている。以下では、その加速機構について概 観する。

Section A.1

フェルミのオリジナルな理論

 フェルミは宇宙線の加速理論を 1949 年に唱えた[72]。星間空間中の分子雲は銀河の回転に 沿った運動のほかに∼15km/s のランダムな速度を持っている。宇宙線はこれら分子雲中で、イ オン化された物質と結びついた磁場の中で不規則に散乱されてエネルギーを得て抜け出してくる。

 分子雲の座標ではエネルギー的に変化があるわけではない。なぜなら散乱は巨大分子雲と粒子 の衝突と考えられ、質量の相違から弾性散乱であると考えられるからである。宇宙線は分子雲中 で散乱されて、入射して来た方向を失いランダムな方向に外部に放射される。

図A.1: エネルギーE1 を持った宇宙線と速度Vを持った星間分子雲との相互作用

 今、相対論的な宇宙線がエネルギー E1 運動量 pE1/c で分子雲の運動方向に対して θ1

の方向に入射したとしよう。分子雲内でいろいろに散乱された後、粒子はエネルギー E2 運動量 pE2/c で分子雲の運動方向に対して θ2 の方向に放出されるする(図A.1)。粒子が分子雲中に 入射するので、運動を記述するため分子雲での系にローレンツ変換すると、実験室系をプライム なしで、分子雲でのフレームをプライム付きであらわすと

ここで、β =V /candγ= 1/√

1−β2 となる。

 同様に、分子雲を抜け出すときは実験室系でのエネルギーを知るためには、

E2 =γE2(1 +βcosθ1) (A.2)

と変換しなければならない。

 散乱は衝突を含まず、磁場により引き起こされると考える。磁場は分子雲中に広がっており、分 子雲自体は非常に重いと考える。それゆえ、分子雲の静止系ではエネルギー E1 =E2 と考えるこ とができてエネルギーに変化は見られないよう感じられる。一方で実験室系でのエネルギーの変 化(E1−E2)/E1を考えることができてそれは、

∆E

E = 1−βcosθ1+βcosθ2−β2cosθ1cosθ2

1−β2 1 (A.3)

で得られる。

 今、この式の中で得られていないのはcosθ1と、cosθ2 であり、それらの平均値を得るができれ ば入射前後での粒子の平均的なエネルギーの変化を追う事が可能である。分子雲中では、宇宙線 は磁場により様々な方向に散乱されその方向はランダムかされる(< cosθ2>= 0)。cosθ1 の平均 的な値は宇宙線が分子雲とどの方向から衝突するかによっている。衝突を受ける割合は粒子と分 子雲のお互いの速度に深く関係しており、単位立体角あたり、角度θ1で粒子の散乱される確率は

(v−βcosθ1) に比例している。ゆえに、相対論的な粒子(v=c)では

dP

dΩ1 ∝γE2(1 +βcosθ1) (A.4)

であり、これより

< cosθ1 >=

cosθ1 dP dΩ1dΩ1/

dP

dΩ1dΩ1 =−β

3 (A.5)

を得ることができる。これらから

<∆E >

E = 1 +β2/3

1−β2 1 4

3β2 (A.6)

 となる。<∆E > /E∝β2は正であることがわかる。しかし、βの2次効果であるためにβ≪1 の場合は平均で増加するエネルギーはとても小さいものとなる。

Section A.2

拡散ショック加速

  宇宙線をフェルミの加速機構で効率的に加速することはできない。それゆえ、この理論は 1970 年代に超新星の衝撃波においてより効率的に加速されるようなモデルに変更された[?][73]。 その後この加速機構は超新星残骸以外の天体でも、強い衝撃波を引き起こす系では応用されるよ うになってきている。

 それでは、宇宙線が加速される機構について、最も有力である衝撃波中でのフェルミの一次加 速について述べる。

図A.2: フェルミ加速の模式図。真中の直線で示してある衝撃波前面を境に、左側が上流、右側が 下流を表している。ここで、vu, vdはそれぞれ上流、下流における流れの速度を表している。

非相対論的な衝撃波の上流および下流での速度をvu, vdとし、エネルギーE0の相対論的な粒子 が上流から下流へ通過すると考える(図A.2)。下流側へ弾性的に散乱された粒子のエネルギーは、

E0 ≃γd2(1−βd)2E0 (A.7) と変化する(ここでβd=vd/c, γd=

1−βd2)。粒子が続いて上流側に散乱されるとエネルギーは、

E1≃γu2(1 +βu)2E0 (1 + 2βu)(1d)E0 (A.8) となる(betau =vu/c, γu =√

1−βu2)。ただし、非相対論的粒子を仮定して、γu1, γd1, βu 1, βd1としてある。衝撃波ではβu > βdであるから、粒子は総撃破の前後の領域を往復するこ とにより、エネルギーを得ることが可能である。三次元での場合、散乱された粒子の速度は様々な 方向を向くため、平均的なエネルギー増幅の効率は低くなる。n回の往復後に得られる平均のエネ ルギーは

En=E0·exp(4

3n(βu−βd)) (A.9)

と計算される[?]。ここで、衝撃波中での散乱過程によって粒子の分布は等方になるよう緩和され ると仮定する。下流では粒子の脱出確率ηが以下のように計算されている[?]。

η = 4vd

vp (A.10)

ここでvpは粒子の速度である。この時、粒子がn回以上の往復を繰り返す確率は、相対論的な場 合で、

Pn= (1d)n (A.11)

となる。式A.10,A.11を用いて、加速された粒子のエネルギースペクトルを以下のように得るこ とが出来る。

N(E) dPn dEn ∝E

βu+2βd

βu−βd (A.12)

単原子分子理想気体での強い衝撃波では、βud = 4であるので、加速された粒子のエネルギー スペクトルは

となる。このように、フェルミ加速は冪関数でのエネルギー分布を持つように粒子を加速するこ とが可能である。これは前述した宇宙線のスペクトルが冪で観測されていることをよく説明する。

さらにフェルミ加速においてはその機構上、電子とイオンの間に区別がないので宇宙線の起源と して超新星残骸を考える際に重要な役割を果たしている。