7.2
寛解維持療法
CY
やRTX
など の 新 たな 治 療 薬 が 登 場し,多くのANCA
関連血管炎症例で寛解導入が可能となり,寛解維 持療法が重要となってきた.長期の漫然としたGC
投与に よる感染症や動脈硬化性疾患リスクや寛解導入療法で用 いたCY
の尿路系を中心とする悪性腫瘍リスクの増加など を十分に考慮した維持療法が望まれる.限局型の一部ではGC
単剤で寛解を維持できる症例もあるが,多くの症例は 免疫抑制薬の併用が必要となる.標準療法として用いられ ている薬剤は低用量のGC
とアザチオプリン(AZA
)ない しはメトトレキサート(MTX
)である.AZA
は維持療法に おけるCY
との比較試験であるCYCAZAREM
試験376)で 同等の有効性が証明されており,維持療法にGC
+AZA
を推奨するエビデンスとなっている.またPagnoux
らは2008
年に,オープンラベル試験ではあるが,維持療法にお けるMTX
の望ましい効果は大きくなく,重症合併症,重 症感染症のリスクは高い傾向を示した377).わが国ではMTX
は保険適用外であることとあわせて,維持療法ではAZA
がMTX
に優先される.RTX
については医療コスト や安全性の問題が存在し,現在オープンラベルによるRTX
とAZA
の維持療法の比較試験(RITAZAREM
試験)が行われているが,維持療法では十分なエビデンスがない ため,
AZA
に優先されない.そのほかにMMF
なども十分 な推奨をできるエビデンスは少なく医療費コストも増大するため推奨度は低い.前述の
ANCA
関連血管炎診療ガイ ドライン2017
9)は,寛解導入後の維持療法について以下の 推奨となっている.CQ 3
ANCA
関連血管炎の寛解維持治療では,どのよう なレジメンが有用かANCA
関連血管炎の寛解維持治療では,GC
に加え,AZA
を併用することを提案する 推奨の強さ:弱いエビデンスの確実性:非常に低
寛解維持治療に用いる他の薬剤として,
RTX
,MTX
★,MMF
★が選択肢となりうる.★は保険適用外の薬剤・治療であるため,一般には奨励できない.
8.
予後
GPA
はGC
+CY
療法により多くの症例が寛解に導入で きるようになった.しかしながら維持療法中の再燃も多い.加えて,主たる死因は敗血症や呼吸器などの重症感染症で ある.感染症を含めた合併症対策を十分に行うことと寛解 導入後の新たな維持療法の開発が
GPA
の予後を改善する と思われる.症候群(
Churg-Strauss Syndrome; CSS
)またはアレルギー 性 肉 芽 腫 性 血 管 炎(allergic granulomatous angiitis;
AGA
)とよばれていたが,チャペルヒルコンセンサス会議(
CHCC
)2012
で名称が変更され,わが国でもそれに伴い 日本語病名が定められた8).本疾患は
1951
年にJakob Churg
とLotte Strauss
の2
人 の病理学者によって,①気管支喘息,②末梢血の好酸球1.
疾患概念・疫学
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(
eosinophilic granulo-matosis with polyangiitis; EGPA
)は,従来Churg-Strauss
VIII . 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
平均±SD:54.9±25.5歳,中央値:56歳
図37 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症患者の発症年齢の分布
(人)
(年齢)
140 120 100 80 60 40 20
10~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70~79 80~ 不明 0
増加,③組織学的に中・小血管(おもに細動脈)の血管周 囲への好酸球浸潤と,壊死性および壊死性肉芽腫性血管 炎または血管外肉芽腫の存在,という3つの特徴によって,
結節性多発動脈炎(従来の結節性動脈周囲炎)から分離独 立した原発性全身性血管炎(
primary systemic vasculitis
) の1
つである378).CHCC2012
でEGPA
の定義として「好酸球が豊富に存 在する壊死性肉芽腫性炎症がしばしば呼吸器系を障害し,壊死性血管炎が主として小〜中型血管にみられ,臨床的に 喘息と末梢血好酸球増多を伴う疾患である.抗好中球細胞 質抗体(
ANCA
)は糸球体腎炎を合併する場合にしばしば 認められる」と記載されており8),顕微鏡的多発血管炎や 多発血管炎性肉芽腫症とともにANCA
関連血管炎の1
つ である.EGPA
で出現するANCA
は,プロテイナーゼ3
(
PR3
)ではなく,ミエロペルオキシダーゼ(MPO
)に対す るANCA
であり,その頻度は2009
年に厚生労働省の疫学 班と難治性血管炎研究班が共同で行った全国疫学調査に よると約50
%であった379).疫学的には,前述の全国疫学調査で受療者数は約
1,900
人と推定され,発症年齢は40
〜69
歳で66
%を占め(図 37),平均年齢55
歳,男女比は1
:1.7
とやや女性に多いこ とがわかっている.欧州では,人口100
万人あたり1年に0.5
〜6.8
人の新規患者発生があり,有病率は100
万人あた り10.7
〜13
人といわれている380).2.
発症機序
病因は不明であるが,何らかの抗原に対するアレルギー 反応が関わっていることは間違いなく,抗原の候補として スーパー抗原(
B
型肝炎ワクチンなど),アスペルギルスな どが報告されているが不明である.以前関連が指摘されて きたロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA
)との関連は懐疑 的であり381),前述の全国疫学調査でもLTRA
の使用は約35
%にすぎなかった379).現時点では,LTRA
併用で喘息症 状が改善したことにより,併用していた糖質コルチコイド(
GC
)を減量したことがきっかけでEGPA
が発症した可能 性が考えられている382).遺伝的背景として,
HLA-DRB1*04
と*07
,HLA-DRB4
がEGPA
発症リスクと関連するという報告があり382),この ような背景の患者に,前述のなんらかの抗原刺激が加わっ て発症する可能性が示唆されている.病態としては好酸球の各組織への直接浸潤による組織 障害がもっとも重要であるが,それ以外にも多くの免疫学 的機序が関わっている(図38)382).好酸球の増殖や活性化 において
Th2
細胞からのIL-4
,IL-5
やIL-13
などのサイト カインが病態の形成,進行に関わっている382).一方,Th1
,Th17
細胞由来のIL-2
,インターフェロンγ(IFN
γ),IL-17
の関与を示す成績や,制御性T
細胞の低下なども報 告されている.さらに,活動期のEGPA
患者では血清中のVIII. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
IgG4
の増加が指摘され,近年注目されているIgG4
関連疾 患との関係も示唆される383).3.
病理所見
EGPA
の主要な病理組織学的所見は,中・小血管の周囲 の好酸球を主体とした細胞浸潤(図39A)とフィブリノイ ド壊死(図39B),血管外肉芽腫の存在である378, 382).肉芽 腫の周囲は,好酸球の著明な浸潤と,しばしば巨細胞を伴 う単核球の浸潤がみられる.4.
症状
気管支喘息,アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患 が先行し(
prodromic phase
),これらの治療薬であるGC
の減量による再燃を繰り返すうちに,末梢血の著明な好酸 球増加を伴って(eosinophilic phase
),発熱,体重減少な どの全身症状,多発性単神経炎による手袋・靴下型の知 覚障害,運動障害,虚血性腸炎による腹痛や下血,皮膚血 管炎による紫斑などの血管炎症状が出現する(vasculitic phase
)というのが典型的経過である(図40)382, 384, 385).気 管支喘息から血管炎発症までは3
年以内が多い.血管炎症 状のなかでは,前述の全国疫学調査379)でも,多発性単神 図38 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の病態(Greco A, et al. 2015 382)より)
Allergens
APC
TCR
Th2
Th1/Th17 IL-2, lFNγ, lL-17
IL-4, IL-5, IL-13
B cell
lgE,lgG4,ANCA IL-17RB
IL-25
CCR3
Eotaxin-3
Eosinophils Granuloma Vasculitis
図39 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の病理組織所見
(Greco A, et al. 2015 382)より)
A:細胞浸潤,B:フィブリノイド壊死 A
B
経炎が最も高率で
90
%以上の症例にみられる.そのほかに 皮膚症状(紫斑,紅斑,潰瘍など)が約60
%にみられ,呼 吸器症状(肺胞出血,間質性肺炎,胸膜炎など),巣状壊 死性腎炎,循環器症状(虚血性心疾患,心外膜炎,心筋炎など),消化器症状(消化管出血,腹膜炎など),脳血管障 害,関節痛や筋痛など多彩な症状・所見がみられる.
5.
検査・画像所見
検査所見では,末梢血好酸球増加は末梢血白血球の
10
%以上(通常1,500/
μL
以上)と著明である.また,IgE
, リウマトイド因子の陽性率が約70
%と高い.ANCA
陽性 はANCA
関連血管炎の診断において感度,特異度も高く,そ の 診 断 に は 必 須 で あ る.し か し,
EGPA
に お け るMPO-ANCA
の陽性率は文献的に40
%前後,前述の全国 疫学調査でも50
%程度であった379).したがって,ANCA
陰性であってもEGPA
の診断は十分にありうることも認識 すべきである.また,EGPA
でもPR3-ANCA
(c-ANCA
) が陽性となることはありうるが,まれで非典型的である ので,この場合はEGPA
の診断を慎重に判断する必要が ある386).EGPA
に特異的な画像所見はないが,肺は高頻度に侵さ れる臓器であり,胸部X
線またはCT
画像の評価は重要で ある.一般に多くみられる所見は,両側性の浸潤陰影で,一 過 性(
transient
),移 動 性(migrant
),か つ 非 区 域 性(
non-segmental
)の分布を示す.CT
ではすりガラス様陰 影を呈することも多い.好酸球の浸潤によると思われる気 管支壁や小葉間隔壁の肥厚もしばしばみられる387).6.
診断・診断基準
最近,
Watts
らにより提唱された全身性血管炎の分類ア ルゴリズム356)では,Lanham
の基準(表23)388)または米国 リウマチ学会の基準(表24)389)を満たす場合にEGPA
と分類される.
わが国では
1998
年の厚生省(現,厚生労働省)の診断基 準を用い,臨床経過で診断したものをCSS
,病理所見を用 いて診断したものをAGA
としてきた(表25)390).鑑別診断として,他の
ANCA
関連血管炎である顕微鏡 的多発血管炎(MPA
),多発血管炎性肉芽腫症(GPA
)は 臨床的には共通点が多いが,EGPA
では気管支喘息などア レルギー性疾患の既往と著明な好酸球増加によって比較的 容易に鑑別可能である.むしろ,とくにANCA
が陰性の 場合は,特発性好酸球増多症との鑑別に苦慮する場合が ある.2015
年1
月に施行された「難病の患者に対する医療等に 関する法律」(難病法)において,指定各疾患それぞれに重 症度分類を記載することが求められる.EGPA
でも表26 のような重症度分類が設定されている.7.
治療方針
表27に
EGPA
の治療に関する推奨を示す.ANCA
関連 血管炎の治療は個々の症例の重症度や病型により異なる.図40 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の典型的臨床経過
(厚生省特定疾患系統的脈管障害調査研究班.1988 385)より作図)
1987年の厚生省脈管障害調査研究班による74例の解析に基づく.
ステロイド治療
①好酸球増加
②気管支喘息発作
③血管炎症候群
表23 Lanhamの好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の分類 基準
1. 気管支喘息
2. 好酸球増加(>1,500/μL)
3. 血管炎に起因する2臓器以上の臓器障害
(Lanham JG, et al. 1984 388)より)
表24 米国リウマチ学会の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 の分類基準
1. 気管支喘息:喘鳴または,呼気時にみられるびまん性の高音 のラ音
2. 好酸球増加:白血球分画の10%超
3. 単神経障害あるいは多発神経炎:全身性血管炎に起因する単 神経障害,多発性単神経障害,あるいは多発神経障害(手袋・
靴下型の分布)
4. 肺浸潤:全身性血管炎に起因する移動性あるいは一過性の肺 浸潤影を示すX線像(固定性浸潤は含まない)
5. 副鼻腔異常:急性あるいは慢性の副鼻腔痛または圧痛の既往,
あるいは副鼻腔のX線像にみられる混濁化所見
6. 血管外組織への好酸球浸潤:動脈,細動脈あるいは細静脈の 生検において血管外組織への好酸球浸潤
………
判定:上記6項目中4項目以上を満たす場合Churg-Strauss症候 群(現EGPA)とする
(Masi AT, et al. 1990 389)より)