7.1.1 ステロイド
巨細胞性動脈炎には
GC
が奏功し,第一選択薬である(推奨クラス
I
,エビデンスレベルB
).治療が遅れると,失 明や不可逆的な神経障害の危険性が高まるので,疑った場 合,早期に高用量のGC
で治療を開始する.a. 初期投与
以下にあげた
GC
の初期投与が推奨される7,212, 230-232).1
)眼症状,神経症状がない症例では,プレドニゾロン(
PSL
)0.5
〜1 mg/kg/
日(最大60 mg/
日)が推奨され る(推奨クラスI
,エビデンスレベルB
).2
)急激に眼症状,神経症状が出現した症例では,ステロ イドパルス療法(mPSL 0.5
〜1 g/
日,3
日間)を先行さ せ,その後PSL 1 mg/kg/
日(最大60 mg/
日)の投与が 推奨される(推奨クラスI
,エビデンスレベルB
).初期投与量を
2
〜4
週間継続後,臨床症状が軽快し,巨 細胞性動脈炎によるESR
やCRP
の上昇が正常化すれば,PSL
を減量できる.PSL
投与量20 mg/
日までは2
週ごとに10 mg
ずつ,10 mg/
日までは2
〜4
週ごとに2.5 mg
ずつ,それ以降は
1
ヵ月ごとに1 mg
のペースで減量できる.状況 に応じては減量のペースを増減してもよい.1
〜2
年間で多 くの症例でGC
投与の中止が可能になる.b. 再発時
しかしながら,巨細胞性動脈炎は約半数が再燃する233, 234). 再発時期は,治療開始
1
年以内でPSL
漸減期間中もしくは 治療終了後1
年以内が多く,再発症状としては,頭痛とリ ウマチ性多発筋痛症が8
割を占める223-238).1
)再発を疑わせる症状が出現し,この症状が眼症状や神 経症状ではない場合には,PSL
を5
〜10 mg/
日程度増 量するだけでよい.2
)眼症状や神経症状で再発した場合は,初期投与量に 戻し,治療を再開する.表10 巨細胞性動脈炎の治療に関する推奨とエビデンスレ ベル
推奨
クラス エビデンス レベル
ステロイド
I B
ステロイドパルス療法
I B
メトトレキサート(MTX)★
Ⅱa A
シクロホスファミド(CY)
Ⅱb B
アザチオプリン(AZA)
Ⅱb B
シクロスポリン(CyA)★
Ⅲ B
トシリズマブ(TCZ)
I A
インフリキシマブ(IFX)★
Ⅲ B
アダリムマブ(ADA)★
Ⅲ B
エタネルセプト(ETN)★
Ⅱb B
抗血小板薬
Ⅱa B
★保険適用外
III. 巨細胞性動脈炎
3
)ただし,ESR
やCRP
などの炎症反応の変化だけでは再 発とみなさず,注意深く観察し,他の原因も探索する.高齢者に高用量の
GC
を投与するので,8
割以上の患者 に副作用が出現する233).ビスホスホネート製剤などの骨粗 鬆症治療薬やプロトンポンプ阻害薬などの抗潰瘍薬は,GC
に併用(予防投与)すべきである(推奨クラスI
,エビデ ンスレベルA
).また,ニューモシスチス肺炎が,巨細胞性 動脈炎患者において,高用量(30 mg/
日以上)のPSL
投与 例,メトトレキサート(MTX
)併用例,末梢リンパ球数400/
μL
以下の症例に出現したという報告があるため,この ような状況下では,ST
合剤0.5
〜1 g/
日(連日)もしくは2 g/
日(週
2
回)の予防投与を考慮したほうがよい239, 240).その ほか,糖尿病や高血圧などの副作用が出現したら対応する.7.1.2 免疫抑制薬
免疫抑制薬は,
GC
治療抵抗症例,GC
漸減に伴い再発 する症例,副作用のためGC
を早期に減量したい症例などに,
GC
と併用投与される.免疫抑制薬単独で巨細胞性動 脈炎の治療は行わない.しかしながら,免疫抑制薬併用群 は,GC
単独投与群と比較して,有効性や安全性に関して 有意差はなかったという報告があり,免疫抑制薬の巨細胞 性動脈炎に対する治療効果は限定的と考えられる241).MTX
併用の有効性と安全性を比較した3
つのRCT
がある242-244).これら
3
つの試験をメタ解析した結果,MTX
(10
〜
15 mg/
週)併用群では,非併用群と比較して,程度は大 きくないが,巨細胞性動脈炎の再発の低下とGC
薬総投与 量の抑制効果が認められた191).このことから,GC
治療抵 抗例,副作用などのために十分量のGC
が投与しにくい,あるいは早期の減量が必要な症例には,
MTX
(保険適用 外)の併用は試みるべき治療法と考えられる(推奨クラスIIa
,エビデンスレベルA
).シクロホスファミド(
CY
)については,GC
治療抵抗例,GC
の減量がしにくい症例,MTX
など他の免疫抑制薬併 用で効果不十分例などにGC
と併用投与され,一定の効果 があったという報告がある245-248).しかしながら,感染症な ど副作用の頻度が高く,注意を要し,高齢者が多い巨細胞 性動脈炎に対する第一選択薬ではない(推奨クラスIIb
, エビデンスレベルB
).アザチオプリン(
AZA
)の併用については,1つの小規 模コホート研究で巨細胞性動脈炎に対してGC
単独投与群 より有効であり,1
年後のGC
量を有意に減量できたと報告 されている249).また,最近の小規模後ろ向き観察研究で も,同様の効果が報告されている250)(推奨クラスIIb
,エ ビデンスレベルB
).シクロスポリン(
CyA
)は巨細胞性動脈炎に対して効果 がないと報告されている251, 252)(推奨クラスIII
,エビデン スレベルB
).7.2
生物学的製剤・抗血小板薬など
7.2.1
生物学的製剤
巨細胞性動脈炎は
GC
に対する治療反応性は良好である が,GC
減量中の再発の頻度が高い.再発のリスクを減ら すためにGC
の減量速度を遅くすると高率にGC
関連の副 作用を合併する.GC
の副作用を軽減するためには早期にGC
を減量する必要があり,生物学的製剤を治療初期から 併用することでGC
の早期減量が可能となるかを検討する 目的で,欧米でトシリズマブ(TCZ
),アダリムマブ(ADA
) あるいはインフリキシマブ(IFX
)併用の有効性に関する★保険適用外
※急激な眼症状,神経症状の出現の場合は1 mg/kg/日 図24 巨細胞性動脈炎の治療フローチャート
急激な眼症状,神経症状の出現
眼症状・神経症状
なし あり
なし あり
mPSLパルス療法を開始 0.5~1 g/日,3日間 PSL 0.5~1 mg/kg/日 ※
2~4週間
・治療抵抗症例
・副作用のため,
PSLを減量したい 症例
いずれかを併用 TCZ s.c. 162 mg/週
寛解したらPSLを漸減 再発
MTX 6~16 mg/週★
(葉酸を併用)
AZA 1~2 mg/kg/日
PSL 5~10 mg/日増量 治療終了 CY 1~2 mg/kg/日
(3ヵ月で他剤に変更)
またはIVCY(500 mg/回 2~4週ごと,6回まで)
or or or
RCT
が行われている190, 253, 254). 7.2.2TCZ
IL-6
受容体阻害薬であるTCZ
の有効性に関しては,巨 細胞性動脈炎のGC
治療の初期からTCZ
を開始する治療 プロトコールの有効性が2
つのRCT
で評価された.1
つめ のRCT
は単施設での第2
相試験として2016
年にスイスか ら 報 告 され た.TCZ +GC
(TCZ
群,20
例)とプ ラセ ボ+GC
(プラセボ群,10
例)について,PSL
を12
週までに0.1
mg/kg
に減量するというプロトコールで,主要評価項目として
12
週での寛解率(症状なし+炎症反応正常化+PSL 0.1 mg/kg
の達成率),副次評価項目として52
週での再発 率,GC
の投与量が比較された.TCZ
は関節リウマチの保 険適用量である8 mg/kg/
月が点滴静注で投与され,寛解 率はTCZ
群85
%,プラセボ群40
%とTCZ
群で有意に高い ことが示された.52
週までの再発率はTCZ
群で有意に低 く,GC
の累積投与量はTCZ
群で少なく,GC
を中止でき る頻度がTCZ
群で有意に高いことが示された254).2
つめのGiACTA
試験は多施設RCT
で,4
つのアーム(1
群:TCZ 162 mg
週1回皮下注射+26
週GC
,2
群:TCZ 162 mg 2
週に1回皮下注射+26
週GC
,3
群:プラセボ+26
週GC
,4
群:プラセボ+52
週GC
)からなり,主要評価 項目は12
〜52
週の寛解継続率(12
週以降症状なし,炎症 反応正常化の達成率)であった255).本ガイドライン作成の 時点では2016
年のACR
でその成績が発表されており,1
群,2
群の寛解継続率はそれぞれ56
%, 53.1
%であり,3
群 の14
%,4
群の17.6
%と比較して有意に高かった.GC
の 累積投与量に関してもTCZ
の皮下注射を併用したほうが プラセボ+52
週GC
群と比較して半分以下であった.以上 の2
つのRCT
からTCZ
を治療初期から使用することで,寛解率が有意に高くなり,
GC
の使用を6
ヵ月程度に抑え ることが可能となることが期待される.GC
投与中の再発例あるいは免疫抑制薬とGC
の併用療 法中の再発例に対するTCZ
の有効性を評価したRCT
はな いが,症例報告や小規模ケースシリーズで,GC
と免疫抑 制剤の併用やTNF
阻害薬の投与歴がある難治例に対して,TCZ
投与後にPSL
を低用量に減量あるいは中止できたこ とが報告されている100, 102, 256, 257).TCZ
は,免疫抑制薬やTNF
阻害薬と比較してエビデンスレベルは高く,図24に 示すように,GC
抵抗例やGC
の早期減量を必要とする症 例において,安全性に留意しながらリスクベネフィットを 勘案したうえでTCZ
を投与する(推奨クラスI
,エビデン スレベルA
,保険適用あり).7.2.3
TNF
阻害薬TNF
阻害薬(保険適用なし)に関してもGC
と併用する ことで寛解率を高めてGC
を早期に減量できるかが,RCT
によりADA
とIFX
で検討されているが,有効性は証明さ れていない.ADA
の有効性を評価した試験では,治療開 始2
週以内の患者を無作為にADA
群(34
例)とプラセボ群(
36
例)に割付けし,両群ともPSL
は0.7 mg/
時で開始され,4
週後から0.5 mg/kg
,12
週後から0.2 mg/kg
,24
週から0.1 mg/kg
に減量された.主要評価項目は26
週で寛解(PSL 0.1 mg/kg
以下かつ巨細胞性動脈炎の活動性に関連する症 状の消失かつCRP 1.5 mg/dL
以下)を達成した患者の頻度 で,両群とも50
〜60
%の寛解達成率で差を認めなかった.再発率は両群ともに
70
%程度で,再発例の半数は再発時 の所見がCRP
増加のみで巨細胞性動脈炎の活動性に関連 する症状の悪化を認めなかった.ADA
群で感染症を含め た有害事象の増加は認められなかった190).IFX
に関する試験では,40
〜60 mg
のPSL
で症状が消 失し血液検査でESR 40 mm/
時未満の患者を対象に,IFX
群(28
例)とプラセボ群(16
例)に2
対1
でランダムに割付 けし,PSL
は12
週で10 mg
前後に減量され22
週で中止さ れた.主要評価項目は22
週までの再発(ESR 40 mm/
時 以上かつ巨細胞性動脈炎の活動性に関連する症状1
つ 以上)の頻度で,プラセボ群50
%,IFX
群43
%で両群に有 意差を認めなかった.感染症の頻度はIFX
群で多い傾向を 示した253).以上の
ADA
とIFX
の2
つの臨床試験の結果からは,TNF
阻害薬を治療開始初期からGC
に併用することは推奨 されない(推奨クラスIII
,エビデンスレベルB
).ただし,この