IV. バージャー病
経反応の変化によって血中カテコールアミン濃度が低下し ている.交感神経遮断により是正されるが,喫煙によって 再び低下する288).加えて,末梢血管で内皮依存性弛緩反 応が障害されており,アセチルコリンの動脈内注入による 血流増加率は低下している.また,内皮依存性血管弛緩反 応は血行障害のない上肢でも低下しており289),
ICAM-1
,VCAM-1
やE-selectin
は内皮細胞や炎症細胞で発現が亢 進している290).また,全血中のセロトニンは低下している が,血漿中の遊離セロトニンは上昇している.このことか ら,血小板でのセロトニン取込みの低下と,血小板近傍で のセロトニン濃度の上昇によって,セロトニン受容体を介 して血小板が活性化されていると推測されている291).3.
病理所見
バージャー病では,下肢あるいは上肢の中型血管が侵さ れ,血栓が区域性の動脈閉塞をもたらし,その末梢の壊疽 が認められる282, 292).
1908
年にBuerger
が詳細な臨床病理 学的記述を行ったためにバージャー病と呼ばれるように なった276).しかし,バージャー病にみられる閉塞血管の変 化は,血栓塞栓症あるいは若年発症の動脈硬化と区別が つかないとして,独立した疾患概念としてのバージャー病について
20
世紀中葉に疑問が提出された293).近年では,バージャー病に特徴的な組織像について動脈硬化や血栓 症と比較した再検討から,表11に示すような知見が報告 されている276, 294-297).
図26にバージャー病の病理像を,図27に特徴像の模式 図を示す.バージャー病の急性期では,好中球の集合した 微小膿瘍と多核巨細胞が血管壁,とくに内膜に見出される ことがあるが276, 292),これら急性期の所見はまれにしか観 察されないため,亜急性期あるいは慢性期でも残存してい る像がより意義がある.以前から指摘されていたように,
バージャー病では内弾性板が圧排されずに保たれており,
逆に,閉塞性動脈硬化症や血栓症では,粥腫や血栓によっ て肥厚した内膜が内弾性板を圧排する所見が目立って認め られる.さらには,バージャー病では内弾性板の二重化,
過屈曲,亀裂などの所見も伴うことがある296).バージャー 病に特徴的な病理組織の一つに,動脈外膜の線維化があ げられるが276),この所見は
Wessler
らによって,閉塞性動 脈硬化症でも認められるものとして,非特異的所見とされ た293).しかしながら,この所見はバージャー病に特異的と いえないまでも特徴的で,閉塞性動脈硬化症で外膜に線維 化が認められる場合には内膜や中膜にも線維化がみられる 一方,バージャー病では中膜の線維化を欠く外膜の線維化 が認められ,加えて外弾性板直下の浮腫が特徴的との見 解もある294).また,再疎通血管の内皮細胞の玉ねぎ様の 図25 特定疾患医療受給証交付件数からみた難治性血管炎患者の年次推移(難病情報センター 30)より)
悪性関節リウマチ
顕微鏡的多発血管炎
(+ 結節性多発動脈炎)
多発血管炎性肉芽腫症 高安動脈炎 バージャー病
受給者証交付件数
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2,000
0
表11 バージャー病の病理組織学的特徴
組織学的部位 所見 特記事項 文献
主に内膜 微小膿瘍 & 多核巨細胞 急性期の所見 276, 294
再疎通血管 内皮細胞の肥厚と玉ねぎ様の重層化 294
内弾性板 内弾性板の屈曲の保持 過屈曲・二重化なども 276, 294, 296 内弾性板 マクロファージ・リンパ球の密着 免疫グロブリンや補体の沈着も 295, 297 vasa
vasorum 内皮細胞の肥厚 294
中膜 外弾性板直下の浮腫 294
中膜・外膜 中膜線維化を欠く外膜の線維化 276, 294
外膜 CD4陽性Tリンパ球主体の浸潤 vasa vasorum周囲 295
A B
C D
A:血管内膜に認められる,急性期のバージャー病に特徴的とされる多核巨細胞(矢印)を含む微小膿 瘍(矢頭).(HE染色)
B:内弾性板の屈曲は保たれ(矢頭),一部では過屈曲も認める(矢印).外膜の線維化が著明である.
(EVG染色)
C:内膜再疎通血管は,内皮細胞および周皮細胞が玉ねぎ様に重層化する(上向き矢印).外膜および
中膜のvasa vasorum内皮細胞の肥厚がみられる(下向き矢印).外弾性板直下に浮腫が認められ
る(左向き矢印).矢頭は内弾性板を示す.(Azan染色)
D: CD4陽性Tリンパ球が,vasa vasorum周囲に浸潤し(矢印),内弾性板に密着して配列する(矢頭).
抗CD4抗体による免疫組織化学的検索.
図26 バージャー病の病理像
IV. バージャー病
重層化と,血管栄養血管(
vasa vasorum
)の内皮細胞の肥 厚も特徴的とされる294).免疫組織化学的検索において,内弾性板に密着したマクロファージ・リンパ球の浸潤は,
他の疾患には認められないバージャー病に特異的所見とい われるが,バージャー病のすべての患者で認められるわけ ではない295).
病理組織学的所見から考えられる経過としては,原因と なる因子が,血液の過凝固状態と相まってあるいは単独で,
血管の内膜,とくに内皮細胞を障害するという説が提示さ
れている297, 298).一方では,血管壁内のおもに
vasa
vaso-rum
の障害が最初に起きて,血管内膜の障害は二次的との 意見もある279, 294, 295).どちらの説においても,内膜の障害 に引き続いて内腔の血栓性閉塞が起こると考えられてい る.また,バージャー病では抗エラスチン抗体や抗血管内 皮抗体が上昇し280, 299),また動脈内弾性板にリンパ球,補 体,免疫グロブリン等の集積が認められることが報告され たが297),これらは病変が進行した際に認められる二次的な 所見の可能性もある295).4.
症状
4.1