3.2.1 導出過程の確認
中野の論文[43]は、(AKLT模型の一般化として)VBS状態を 固有状態 にもつ長距離相互作用を有する
S=1 1次元スピン模型(S=1長距離スピン鎖)を求めることを目的としている。(その結果出てくるS=1長
距離スピン鎖の一部が変形S=1 BLBQ鎖である)
そのために、中野の論文[43]では、まず、すべての長距離相互作用を有する1次元スピン模型を用意し (手順・1)、そこから、VBS状態が 固有状態 になるように長距離相互作用の結合定数の条件を求め、徐々 に結合定数の数を減らすということを行っている(手順・2)。そして、求まった長距離スピン鎖の中でも次 近接相互作用までに絞った1次元スピン模型を詳細に考察し、VBS状態を基底状態とする領域を報告して いる(手順・3)。
3.2.2 結合定数の導出 [ 手順・ 1 、 2]
手順・1 まず、等方性ですべての長距離相互作用を有するS=1 1次元スピン模型HJ1,···,JN,K1,···,KN
を考える。
HJ1,···,JN,K1,···,KN =1 2
∑N i=1
N∑−1 k=1
[JkSi·Si+k+Kk(Si·Si+k)2] (3.4) (ここで、Siは、サイトiにおけるS=1スピン演算子を表し、Nはサイト数である)
今、周期境界条件を与えるために結合定数にJN−m=JmKN−m=Kmを課す。
手順・2 次に、周期境界条件を有したこのS=1 1次元スピン模型HJk,Kk が、VBS状態を固有状態と して持つような結合定数の条件を導出する。
VBS状態を定義するため、各サイトに2つのS= 12スピンを置き、サイトiにおいて、S =12 スピンを 2i-1、2iに割り当てる。そうすると、VBS状態は
|Gi= Sym[⊗m|ν2m,2m+1i] (3.5)
となる。(ここで、Symは各サイトの対称化(3重項状態)を表し、⊗mはサイト数すべての直積を表す)ま た、|νi,jiは、(↑i↓j− ↓i↑j)/√
2*1で定義され、i番目とj番目のS=12スピンの1重項状態である*2。 今後の便宜のため、以下をあらかじめ定義しておく。
|αi,ji= Sym[|ν2i−2,2ji ⊗ |ν2i−1,2j+1i ⊗m6=i−1,j |ν2m,2m+1i] (3.6)
|βi,ji= Sym[|ν2i−4,2j+3i ⊗ |ν2i−3,2j+2i ⊗ |ν2j+1,2i−2i ⊗ |ν2j,2i−1i
⊗m6=i−2,i−1,j,j+1|ν2m,2m+1i] (3.7)
(ここで、i < jである)次に、以下の状態を考察しよう。
|i1, M1;i2, M2iα=|M1ii1−1⊗ |M1ii1⊗ |M2ii2⊗ |M2ii2+1
⊗m6=i1−1,i1,i2,i2+1|0im, (3.8)
|i1, M1;i2, M2iβ=|M1ii1−2⊗ |M1ii1−1⊗ |M1ii1⊗ |M2ii2
⊗|M2ii2+1⊗ |M2ii2+2
⊗m6=i1−2,i1−1,i1,i2,i2+1,i2+2|0im (3.9) (i1< i2である)ここで、|Miiはサイトiにおける(S=1の)1スピン状態を表し、Siz|Mii=M|Miiであ る。すると、αhi1,+1;i2,−1|Gi,βhi1,+1;i2,−1|Gi,αhi1,+1;i2,−1|βi,ji ,βhi1,+1;i2,−1|αi,ji の内積は
*1厳密には、(| ↑ii⊗ | ↓ij− | ↓ii⊗ | ↑ij)/√ 2
*2詳細は2章2.3.2小節を参照。上記の記述は論文[43]に載っているもので、この章ではこの記述に従う
3.2 VBS状態を固有状態とするS=1長距離スピン鎖 21 消えることが分かる*3。また、αhi1,+1;i2,−1|αi,ji,βhi1,+1;i2,−1|βi,jiは、i=i1、j=i2の時はゼロで はないが、それ以外はゼロになることも分かる*4。
もし、VBS状態がS=1 1次元スピン模型HJk,Kk の固有状態であるなら、
βh1,+1; 1 +m,−1|HJk,Kk|Gi= 0 (3.10) αh1,+1; 1 +m,−1|HJk,Kk|Gi= 0 (3.11) となる*5。
計算により、
Si·Si+1|Gi=−3
2|Gi+1
2|αi,i+1i, (3.13)
(Si·Si+1)2|Gi= 5
2|Gi −3
2|αi,i+1i, (3.14)
Si·Si+2|Gi= 1
2[|Gi − |αi+1,i+2i − |αi,i+1i+|αi,i+2i], (3.15) (Si·Si+2)2|Gi= 1
2[|Gi+|αi+1,i+2i+|αi,i+1i+|αi,i+2i], (3.16) Si·Si+l|Gi= 1
2[|αi+1,i+l−1i − |αi+1,i+li − |αi,i+l−1i+|αi,i+li],
(3.17) (Si·Si+l)2|Gi= 1
2[|αi+1,i+l−1i+|αi+1,i+li+|αi,i+l−1i+|αi,i+li] +|βi+1,i+l−1i,
(3.18) (l ≥ 3である)となることがわかる。すると、式(3.11)、(3.18)からl ≥3でKl = 0となる。よって、
VBS状態が固有状態であるためには、双線形(bilinear)項のすべて結合定数(J1、J2、· · · , JN)と双2次 (biquadratic)項の最近接と次近接相互作用の結合定数(K1、K2)が残ることとなる。
(こうして残った結合定数(J1、J2、· · ·, JN、K1、K2)をもつS=1 1次元スピン模型こそVBS状態を固有 状態とするS=1長距離スピン鎖HJ1,···,JN,K1,K2 である)
次に残った相互作用について考えてみると、m≥3という条件下での式(3.11)を考えることで、結合定 数が、
Jl+Jl+2=Jl+1 (l≥3) (3.19)
となることがわかる。この系は周期境界条件を有しているので、式(3.19)は、J3 = J4 = · · · となる。
m= 1、m= 2において、式(3.11)から同様にして、
K2=−J2+J3, (3.20)
K1= (J1−4J2+ 3J3)/3 (3.21)
がそれぞれ得られる。
このようにして、J1、J2、J3を任意のパラメタとして、そして、K1、K2とJl (l ≥4)がJ1、J2、J3に 依存するパラメタとして求まった。
(すなわち、VBS状態を固有状態とするS=1長距離スピン鎖HJ1,···,JN,K1,K2は3つのパラメタJ1、J2、J3 を決めることで残りのパラメタも(一意的に)決まるので、HJ1,···,JN,K1,K2 −→ HJ1,J2,J3となる)
*3詳細は付録C C.2.1小節を参照
*4付録C C.2.2小節を参照
*5|Giがハミルトニアン(式(3.4))の固有状態であれば、H|Gi=EG|Giとなるので、
βh1,+1; 1 +m,−1|H|Gi=EG βh1,+1; 1 +m,−1|Gi= 0 (3.12)
3.2.3 ハミルトニアンの分割
このようにして求まった結合定数の条件から、VBS状態を固有状態とするS=1長距離スピン鎖HJ1,J2,J3
を2つの部分に分けることが可能となる。
HJ1,J2,J3 =J3H˜0+ (J1−J3) ˜Hp (3.22) H˜0=∑
(i,j)
Si·Sj (3.23)
H˜p=∑
i
hi,i+1,i+2 (3.24)
hi,i+1,i+2=1
2(Si·Si+1+Si+1·Si+2) +1−4p
6 [(Si·Si+1)2+ (Si+1·Si+2)2]
+p[Si·Si+2−(Si·Si+2)2] (3.25) (ここで、p= (J2−J3))/(J1−J3)である。そして、∑
(i,j)は、サイトiとj(6=i)のすべてのペアをとった ものである)この1次元スピン模型H˜0は、同じ結合定数を有する無限範囲の相互作用であり、VBS状態が この1次元スピン模型の固有状態であることは、自明である。
1次元スピン模型H˜pは、VBS状態を固有状態に持ち、また、その固有値が−[(2+10p)3 ]Nになることが 知られている。
次の小節では、この次近接相互作用までを有するハミルトニアンH˜p について、VBS状態を基底状態に もつパラメタの範囲を考察する。
3.2.4 ハミルトニアン H ˜
pと VBS 状態 [ 手順・ 3]
手順・31次元スピン模型H˜pがVBS状態を基底状態とするパラメタ領域を考察する。
論文[43]では、16個までの有限のサイト数までで数値計算プログラムKOBEPACKを用いて*6数値対角 化を行い、VBS状態が基底状態となる領域を導出している(図3.1、3.2参照)。その結果、熱力学極限にお いては
pdown' −0.34 pup'0.32 (3.26)
となることが分かった。
これは、かつてLangeとその共同研究者が研究した結果−14 ≤p≤ 14 [44]よりもより大きい領域である ことが分かった。(図3.1、図3.2の横線はLangeが計算した安定な領域|p|=14 を表している)
3.2.5 変形 S=1 Bilinear-Biquadratic 鎖の導出
ここまでで、中野の論文[43]の内容を述べてきた。変形S=1 BLBQ鎖は、本章3.2.3小節でVBS状態 を固有状態とするS=1長距離スピン鎖HJ1,J2,J3 を2つの部分に分けた時の1次元スピン模型H˜pのこと である。
ここまでの内容を見直せば、変形S=1 BLBQ鎖(1次元スピン模型H˜p)が前節で述べた3つの特徴を有 していることがわかるだろう。
次章では、いよいよ本論文の研究目的である変形S=1 BLBQ鎖における波数の振る舞いを解析する。
*6KOBEPACKのついての詳細は付録Aを参照
3.2 VBS状態を固有状態とするS=1長距離スピン鎖 23
|-pdown|
|pup|
図3.1 [43]より引用 各サイトNごとのVBS状態が基底状態となるパラメタpの上限pupと下限 pdownを絶対値で表示
0.2 0.3 0.4
0 0.1 0.2
-Pdown,Pup
1/N
|-Pdown|
|Pup|
図3.2 確認のためにKOBEPACKを用いて図3.1と同様の計算を行った数値解析結果
25
第 4 章
整合・非整合遷移
これまで、第2章でHaldaneの予想した基底状態の性質を有する1次元スピン模型(AKLT模型)と基底 状態(VBS状態)について述べ、第3 章でその基底状態(VBS状態)を固有状態に持つ、変形S=1 BLBQ 鎖(式(3.1)、(3.2))について導出した。
本章では、第2章で説明したS=1 Bilinear-Biquadratic鎖(以後、S=1 BLBQ鎖)内のHaldane相内 の整合・非整合遷移について着目し、非整合領域での波数の導出法を変形S=1 BlBQ鎖に適用した解析結 果と考察を述べる。