それでは、実際に変形S=1 BLBQ鎖に、スピン波の解析を利用してみる。
5.4.1 ハミルトニアン
解析するのは、変形S=1 BLBQ鎖にβをパラメタにもつ項β∑
iSi·Si+1を加えた1次元スピン模型 Hp,β=∑
i
Si·Si+1+1−4p
3 (Si·Si+1)2+p[Si·Si+2−(Si·Si+2)2] +β Si·Si+1
=∑
i
(1 +β)Si·Si+1+1−4p
3 (Si·Si+1)2+p[Si·Si+2−(Si·Si+2)2]
(5.30) についてである。
*6詳細は付録C C.4.2小節を参照
*7これによって出てくるエネルギー(k)の素励起をマグノンという。詳細は[49]p93以降参照
*8この強磁性状態からスピンが一つ真上を向いていない固有状態Φ(k)がJ >0の領域では、励起状態となっている。
なぜなら、強磁性状態Φ0と固有状態Φ(k)の固有値の差をとると (E0+(k))−E0=(k)
= 2s X
x0
J(|x00|)(1−eik·x) (5.29)
J >0の領域では、常に(k)>0となるので、固有状態Φ(k)の方が強磁性状態Φ0よりエネルギーが高くなり、強磁性状態 が最低固有値となり、固有状態Φ(k)が励起状態となっている
5.4 変形S=1 Bilinear-Biquadratic鎖の強磁性安定解析 45
5.4.2 強磁性状態とスピンが 1 つだけ真上を向いていない固有状態の固有値
表記法の変換
実際に解析をする前に、スピンの位置に関しての表記の仕方をこれまでと少し変える。
これまでのスピン波の解析では、格子点xに置けるスピンをS(x)とし、格子ベクトルaiを用いて、
x=nxax+nyay+nzaz (nx, ny, nz:整数) (5.31) と表記していたが、これからの解析では、格子ベクトルに単位ベクトルeiを用いて、
x=nxex
とし*9、nx=iの時のスピンが
S(x=i) =Si (5.32)
(i≡iex)
に対応するとする。そのように考えると、すべてのスピンがまっすぐ上を向いている状態(強磁性状態)は、
Φ0= Πi|i, s, si (5.33) である。そして、スピンが1つだけ真上を向いていない固有状態は、
Φ(k) = 1
√2N s
∑
i
eik·iΦi= 1
√2N s
∑
i
eik·iSi−Φ0 (5.34) Φ(km) = 1
√2N s
∑
i
ei kmiΦi= 1
√2N s
∑
i
ei kmiSi−Φ0 (5.35) となる。ここで、Φ(x=i) =Φiであり、2行目はk=m/N bx(m:整数)とi=iexとの内積
k·i=m/N bx·iex= 2π i×m/N
= 2πm
N ×i=km×i (5.36)
である。
ハミルトニアン 式(5.30) 第1項
この表記を用いて、まずは、実際に式(5.30)の第1項の計算をしてみよう。ただ、その前に、交換関係 [∑N
i=1Si·Si+1 , Sj−] [N
∑
i=1
Si·Si+1 , Sj− ]
=SjzSj+1− +Sj−−1Sjz−Sj−Sj+1z −Sjz−1Sj− (5.37)
*9扱うスピン模型が1次元なので、格子ベクトルも1つである
を計算しておく*10。∑N
i=1Si·Si+1Φ(km)を求めると、
∑N i=1
Si·Si+1Φ(km) =
∑N i=1
Si·Si+1
1
√2N s
∑
j
ei kmjSj−Φ0
= 1
√2N s
∑
j
ei kmj (N
∑
i=1
Si·Si+1 )
Sj− Φ0
= 1
√2N s
∑
j
ei kmj Sj− ( N
∑
i=1
Si·Si+1
) Φ0
+ 1
√2N s
∑
j
ei kmj [N
∑
i=1
Si·Si+1, Sj− ]
Φ0
強磁性状態Φ0での固有値をE0とすると、
( (
∑N i=1
Si·Si+1)Φ0=E0Φ0
)
=E0
√1 2N s
∑
j
ei kmj Sj− Φ0+ 1
√2N s
∑
j
ei kmj [N
∑
i=1
Si·Si+1 , S−j ]
Φ0
=E0Φ(km) + 2 [cos(km)−1]Φ(km)
= (E0+ 2 [cos(km)−1])Φ(km) (5.38)
となる*11。
ハミルトニアン 式(5.30) 第3項
同様に、第3項の計算をしてみる。前と同じく、交換関係[∑N
i=1Si·Si+2 , Sj−] [N
∑
i=1
Si·Si+2 , Sj− ]
=SjzSj+2− +Sj−−2Sjz−Sj−Sj+2z −Sjz−2Sj− (5.39) を計算しておく*12、∑N
i=1Si·Si+2Φ(km)を求めると、
∑N i=1
Si·Si+2Φ(km) =
∑N i=1
Si·Si+2
1
√2N s
∑
j
ei kmjSj−Φ0
= 1
√2N s
∑
j
ei kmj (N
∑
i=1
Si·Si+2 )
Sj− Φ0
= 1
√2N s
∑
j
ei kmj Sj− (N
∑
i=1
Si·Si+2
) Φ0
+ 1
√2N s
∑
j
ei kmj [N
∑
i=1
Si·Si+2 , Sj− ]
Φ0
強磁性状態Φ0での固有値をE0とすると、
( (
∑N i=1
Si·Si+2)Φ0=E0Φ0
)
=E0Φ(km) + 1
√2N s
∑
j
ei kmj [N
∑
i=1
Si·Si+2 , S−j ]
Φ0
=E0Φ(km) + 2 [cos(2km)−1]Φ(km)
= (E0+ 2 [cos(2km)−1])Φ(km) (5.40)
*10詳細は付録C C.4.3小節を参照
*11 √1 2N s
P
jei kmjhPN
i=1Si·Si+1, Sj−i
Φ0= 2 [cos(km)−1]Φ(km)については、付録C C.4.4小節を参照
*12付録C C.4.3小節と同様に解けば求められる
5.4 変形S=1 Bilinear-Biquadratic鎖の強磁性安定解析 47 となる*13。
ハミルトニアン 式(5.30) 第2、4項
これで、式(5.30)の第1項と第3項については、すべてのスピンがまっすぐ上を向いている状態(強磁性 状態)Φ0 から、スピンが1つだけ真上を向いていない固有状態Φ(km)になったときどれだけ固有値が変化 するかが分かった。
後は、第2項と第4項についてだが、これについては、付録B 式(B.11)から分かるように、(Si·Si+1)2 や、(Si·Si+2)2は、強磁性状態Φ0やスピンが一つだけが真上を向いてない状態Φ(km)に作用しても、作 用の前後で値が変わらない。実際に、(Si·Si+1)2で考えてみると
(Si·Si+1)2Φ0= (Si·Si+1)2Πj|j, s, si
ここで、スピンの大きさはs= 1であるので
= (Si·Si+1)2Πj|j,1,1i
= (Si·Si+1)2|i,1,1i|i+1,1,1iΠj6=i,i+1|j,1,1i 付録B 式(B.11)を参照すれば*14、
=|i,1,1i|i+1,1,1iΠj6=i,i+1|j,1,1i
=Φ0 (5.41)
(Si·Si+1)2Φ(km) = (Si·Si+1)2 1
√2N s
∑
l
ei kmiSl−Πj|j,1,1i
= 1
√2N s
∑
l
ei kmi(Si·Si+1)2Sl−Πj|j,1,1i
= 1
√2N s (∑
l
ei kmi(Si·Si+1)2S−l |i,1,1i|i+1,1,1i )
Πj6=i,i+1|j,1,1i
∑
l
がl6=i, i+ 1の時は、式(5.41)の議論と同じ,よって
= 1
√2N s (
ei kmi(Si·Si+1)2S−i +ei km(i+1)(Si·Si+1)2Si+1−
)|i,1,1i|i+1,1,1iΠj6=i,i+1|j,1,1i
+ 1
√2N s
∑
l6=ı,i+1
ei kmiSl−Πj|j,1,1i
= 1
√2N s
(ei kmi(Si·Si+1)2|i,1,0i|i+1,1,1iΠj6=i,i+1|j,1,1i
+ei km(i+1)(Si·Si+1)2|i,1,1i|i+1,1,0iΠj6=i,i+1|j,1,1i)
+ 1
√2N s
∑
l6=ı,i+1
ei kmiΠj|j,1,1i 付録B 式(B.11)を参照すれば*15、
= 1
√2N s
∑
l
ei kmiSl−Πj|j,1,1i
=Φ(km) (5.42)
*13 √1 2N s
P
jei kmjhPN
i=1Si·Si+2, Sj−i
Φ0= 2 [cos(2km)−1]Φ(km)については、C.4.5参照
*14
(Si·Si+1)2|i,1,1i|i+1,1,1i=|i,1,1i|i+1,1,1i 付録B B.2節との対応をいえば
|i,1,1i|i+1,1,1i=|1ii|1ii+1
となっている
よって、強磁性状態Φ0とスピンが1つだけ真上を向いていない固有状態Φ(km)の固有値の違いを考察 する必要があるのは第1項と第3項ということになる。
5.4.3 解析結果
強磁性状態が安定なパラメタ領域
第1項と第3項について、Φ(km)の固有値を導出すると、
(∑
i
(1 +β)Si·Si+1+pSi·Si+2 )
Φ(km)
= ((1 +β) (E0+ 2 [cos(km)−1]) +p(E0+ 2 [cos(km)−1]))Φ(km)
= (
(1 +β+p)E0+ 2(1 +β) [cos(km)−1] + 2p[cos(km)−1]
) Φ(km)
(5.44) 強磁性状態Φ0のときなら、
(∑
i
(1 +β)Si·Si+1+pSi·Si+2
)
Φ0= (1 +β+p)E0Φ0 (5.45) となるので、強磁性状態Φ0と励起状態Φ(km)の固有値の違いは2(1 +β) [cos(km)−1] + 2p[cos(2km)−1]
ということになる。
それでは、どのようなときに強磁性状態が安定といえるのだろうか?
それは、スピンが1つだけ真上を向いていない固有状態Φ(km)が強磁性状態Φ0よりエネルギーが低く ならないとき、すなわち、
2(1 +β) [cos(km)−1] + 2p[cos(2km)−1]≥0 (5.46) がいえればよい。計算の結果、式(5.46)が満たされる条件は、
(1 +β)≤0かつ p
(1 +β) ≤ −1
4 (5.47)
の時である*16。
強磁性状態が不安定化する波数
強磁性状態が安定な領域から、不安定になる領域に移動する際、どの波数で不安定化が起きるだろうか?
それには、β, pのパラメタを強磁性状態が安定な領域(式(5.47))から不安定な領域へと変化させたとき E(k) = 2(1 +β) [cos(km)−1] + 2p[cos(2km)−1] (5.48) がE(k)<0となる波数kを求めればよい。計算の結果、
*15
(Si·Si+1)2|i,1,0i|i+1,1,1i=|i,1,0i|i+1,1,1i (Si·Si+1)2|i,1,1i|i+1,1,0i=|i,1,1i|i+1,1,0i
(5.43) 付録B B.2節との対応をいえば
|i,1,0i|i+1,1,1i=|0ii|1ii+1 |i,1,1i|i+1,1,0i=|1ii|0ii+1
となっている
*16詳細は付録C C.4.6小節を参照