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2-5-1 原子力協定・協定交渉動向

(1)協定の主な内容

2008年4月、UAEは安全性、セキュリティ、核不拡散および透明性の高い基準に基づく原子力平和利用政策 を公表した。その中で自前の濃縮、再処理能力の開発を放棄し、他国からの燃料供給に依存することを表明して いる。この声明を受けて、米国、UAE の両国は原子力協定の前段階と位置付けられる原子力平和利用協力に関 するMOUを締結した。2008年8月、UAEはIAEAの国際ウラン燃料バンク構想に1,000万ドルの支援を約束 して、原子力発電プラント建設に向けた道筋をつけている。そして、2009年1月、両国は原子力協定に署名し、

77 https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2016/06/17-us-turkey-nuclear-partnership-cooperation-varnum.pdf

78同上

79 Mark Dubowitz, “Negotiations on Iran’s Nuclear Program”, Hearing before the Senate Foreign Relations Committee, February 4, 2014.

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協定は同年12月に発効した。(2039年12月17日まで30年間の有効期間)。2009年3月、UAE政府は米国原 子力規制委員会を経てIAEA上席技術顧問となったウィリアム・トラバース氏をUAE原子力規制庁の初代長官 に任命した。同年5月、UAEによる濃縮、再処理の放棄を規定する第7条を追加した原子力協定に再署名して いる。

(2)注目される交渉過程

米国・UAE間における原子力協力協定は、2009年1月に署名された後、2009年5月に再度、UAEによる濃 縮、再処理の放棄を規定した第7条80を追加する変更を加えた上で署名された。第7条のように、協定の一方の 当事国による機微な施設及び技術の放棄が法的拘束力のある義務として協定の中で規定されることは、米国と他 国との原子力協力協定の中で初めてであった。

米国・UAE間の協定は、濃縮、再処理の放棄を法的義務として位置付けるとともに、その代替として長期間 にわたり核燃料の安定供給を保証し、使用済燃料の英国やフランスでの再処理もしくは貯蔵のための再移転に包 括同意を与えることによって使用済燃料のUAEからの移転を保証しており、その点において機微技術の拡散防 止を前提とした原子力新興国への協力という、米国の政策を二国間協定の形で具現したものになっている。

協定の主な特徴として、以下が挙げられる。

UAEは国内に機微な原子力施設(濃縮、再処理、重水製造、プルトニウムを含む燃料製造)を保有せず、

当該活動を行わない(濃縮・再処理を放棄することを法的拘束力のある制約として規定)。

UAEが上記に違反した場合、米国は協定に基づく協力を終了し、協定対象品目の変換を要求し、90日前 の書面通告で協定を終結させる権利を有する。

米国起源の使用済燃料の再処理は、両国が認めるUAE以外の国で実施する。米国は協定対象の使用済燃 料の英国・フランス両国への再移転に対し、長期にわたる事前の包括同意を付与(英国・フランスにおけ る再処理によって回収されるプルトニウムや他の核分裂性物質のUAEへの返還は想定されていない)。

UAE は、米国が協定に従って核物質や技術等の輸出許可を発給する前に、IAEA 追加議定書を発効させ なければならない(UAEは追加議定書に2009年4月8日署名、2010年12月20日発行)。

2-5-2 二国間関係における核不拡散政策

(1)連邦議会における議論

連邦議会では、UAEとの原子力協定の交渉の中で、UAEが明確にE&Rを放棄する内容を協定に盛り込むこ とになったことから、UAEとの原子力協定を中東諸国における今後の原子力協定交渉のモデルにしようとする 動きが強まった。2010年には、オバマ大統領がUAEとの原子力協定が中東地域の他の諸国とのモデルとして役 立つ可能性があると言及し、国務省報道官も記者会見の場でUAEとの原子力協定を中東地域の「ゴールドスタ ンダード」とコメント、そして多数の核不拡散専門家がオバマ政権に対して将来の原子力協定ではゴールドスタ ンダードを適用すべきだと主張するようになった。

こうした動きを受けて、第112議会(2011~2012年)、第113議会(2013~2014年)では、1954年米国原 子力法を改正してゴールドスタンダードを盛り込むという内容の法案の審議が行われた。具体的には、核爆発装 置の開発中あるいは開発のために用いられる機器や物質、製品材料の使用禁止や、第三国の国民による施設や機 器、物質へのアクセスの制限、濃縮や再処理、施設の建設の禁止、輸出管理システムの実施等の条項を原子力協 定に盛り込むという提案であった。2つの法案はともに成立しなかったが、大規模なロビイング活動を始め、議 論を呼び起こしたという点では影響が大きかった81

しかし、2012年1月、ポネマンDOE副長官とタウシャー国務省次官は、それぞれの原子力協定の中で濃縮と 再処理をどのように扱うかは、相手国の国内政治や法律、核拡散上の懸念、交渉能力といった観点から判断され

807条の中では、UAEは自国の領土内において機微な核施設(ウラン濃縮または核燃料の再処理、重水の生産またはプルトニウ

ムを含む核燃料製造施設)を所有することなく、この他にも物質の濃縮または再処理を目的とする活動やその他の関連活動(プルト ニウム、ウラン233、高濃縮ウラン、あるいは照射済または核分裂性物質の改良等)を行わないと明記された。

81 http://www.nti.org/analysis/articles/us-nuclear-cooperation-nonproliferation-reforms-or-devil-you-know/; https://www.congress.

gov/bill/112th-congress/house-bill/1280; https://www.congress.gov/bill/113th-congress/house-bill/3766

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るべきである、と議会向けの書簡の中で指摘した。また、2013年12月に、オバマ政権は相手国に対して濃縮や 再処理を控えるよう説得するものの、今後は確定的なコミットメントを求めるのではなく、個別のケースごとに 交渉で行う方針であると発表している。

実際のところ、原子力協定はその内容に照らしても、米国が責任を負うべき核物質を濃縮または再処理する権 利ともなう最も機微な移転では、原子力協定の付属書となる事後の取り決めが不可欠である。実際、民生用原子 力輸出事業者ガイドでは、原子力協定は米国による特殊な核物質の移転をコミットメントするものではなく、む しろ事後の商取引を規定した協定の枠組みを構築するためのものと記載している。連邦規則第10条第810章で は、特殊な核物質の生産に関連する技術とサービスは、原子力法57 (b)節に基づいて、エネルギー省長官の許認 可に基づき移転することができると規定している。いずれにせよ、米国企業は核物質や原子力関連資機材の輸出 に際しては、核不拡散の懸念を監視する輸出ライセンスの取得が不可欠となる。

原子力協定では、特定の要件に関して相手国に応じて異なることも多い。その結果、政権によって、相手国に よるE&Rの権利放棄をゴールドスタンダードとするべきかについても見解が異なることもある。原子力法第123 条で規定する9つの核不拡散基準の適用除外であるのか、それとも適用除外のない非適用除外協定であるのか、

という2つの区分である。しかながら、原子力協定は、上院の承認を必要する国際条約と異なり、国際条約に代 替する連邦議会行政協定である。原子力法によると、両院で不承認決議が成立すれば、非適用除外協定の発効を 食い止めることができ、他方、非適用除外協定は連邦議会承認の共同決議が必要とされている。

(2)協定締結前後の議会における議論のポイント

UAE との協定締結前後における、米国連邦議会での議論は、輸出管理への懸念、核不拡散、人権問題、外交 的成果に関するもので、概要は以下のとおりである82

(a)輸出管理への懸念

2001年以来、UAEはイランへの軍事およびデュアル・ユーズの輸出国として監視の対象となっている。イラ ンは兵器の蔓延、テロリストや資金洗浄の中心地とみられている。米国の懸念は、UAE 政府による軍事的に機 微な技術の移転を阻止する意欲と能力に向けられている。一部の連邦議会議員は、UAE が軍事技術の移転を阻 止する行動をしていないと主張し、UAE がイランの調達活動に追加的な対策をとるまでは、米国との原子力協 定に結論は出せないとしている。

米国政府は、UAE に拠点を置く企業のいくつかが、イランの兵器、核、弾道ミサイルに係る活動に関与した と明らかにしている。米国財務省は大統領令13382に基づいて、2つの企業について大量破壊兵器の拡散に関与 したとして、米国およびその他関係国での資産を凍結している。また、同様の大統領令に基づき、核拡散活動に 関わったイランの銀行とつながりがあるとして、UAEの企業を特定している。UAEはイラン向け不審物の唯一 のルートでなく、デュアル・ユーズの調達にはマレーシアに拠点を置くネットワークも使用されている。

UAE は最近、輸出管理を強化し、イランをはじめ不法な拡散の疑いがある企業に対して、対応を開始してい ると強調する。イランへの不審な移転が契機となって、米国は2007年にUAEに対して国家の輸出管理を改善 するよう要請した。2007年2月、米国商務省は諸外国に事前通知を発出し、「国別グループC」という新たな輸 出管理の規制策定を提案した。これは、米国輸出規則に則った物品の転用や輸送リスクに鑑みて、輸出および再 輸出に関するライセンス要件を明記するものである。具体的な国名はこの通知書に記載されていないものの、

UAE向けと広く考えられている。

2007年8月、UAEはより強力な国家輸出管理法を採択したが、2010年7月時点で、政府はまだ法律履行を 行っておらず、執行に必要な輸出管理機関のスタッフの雇用も行っていない。それまでの間、輸出管理の執行機 能は依然として、UAEの個々の連邦に委ねられている。

核拡散に関するUAEと米国の協力関係は強固で、二国間の不拡散ワーキンググループが毎年会合を行い、核 拡散の懸念は共有されている。2008年9月、DOC長官宛ての書簡では、2008年6月以降、イランを経由する 船舶について6件の共同もしくは単独の禁止措置が行われた。2009年には、オーストラリアの関係者によると、

82 https://fas.org/sgp/crs/nuke/R40344.pdf

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