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2-1 中国

2-1-1 原子力協定・協定交渉動向

(1)協定の主な内容

米中原子力協力協定は、1985年に発効した旧協定を2015年に改定し、米国議会の承認を得て10月29日に発 効した。有効期間は30年間。米国議会は承認に際し、中国はWestinghouse社技術に基づく原子炉の輸出を計 画していること、またWestinghouse社によるAP1000技術の移転協定は、同技術を中国内で使用する包括的な 許可を与えているが、Westinghouse社はAP1000の拡大版、CAP1400の輸出権を与えており、その初号機が 着工の予定であることを指摘した。また、中国への技術移転は現時点では平和利用目的に限定されているが、将 来的に中国がこの制限を無視すると決めた場合、商業炉の通常運転で生産されたプルトニウムが核兵器に転用さ れる可能性がある点に懸念を示した。

最終的に新協定は従来通り、原子力発電や研究のための技術、情報、原子炉を含む資機材の中国への移転を容 認するが、制約データ、機微な技術や施設、それら施設用の重要機器は両国の合意がない限り移転されないとし て承認された。米国産業界は、同協定によって国際的な核セキュリティ、核不拡散等に対し米国が継続的にリー ダーシップを行使でき、また米国から相当規模の資機材やサービスの輸出が可能となると期待している。また中 国は今後の開発計画から世界最大の市場となると予想されるが、米国が輸出する機器や技術により中国における 原子力の安全性の大幅な進展に繋がると歓迎している。

新協定のポイントは以下のとおり。

プルトニウム、ウラン233、高濃縮ウランの貯蔵は、両国が同意した施設でのみ貯蔵が可能。

再処理、形状・内容の変更は事前同意を前提とし、IAEAの査察が適用される施設、またはIAEA保障措 置が適用となる施設でのみ可能。

転換、濃縮、低濃縮ウラン製造等は事前同意を前提とする。

協定に従い移転された資材、設備、技術情報、及び生産された特殊核分裂物質は、両国が同意しない限り 両当事国の領域的管轄外の認められていない者に移転されない。協定に従って再移転を行う場合は、非移 転国に対し書面での同意を要求し、両国は移転条件につき合意が必要。

協定で規定される特定の技術や情報や、両国の合意に従い特定される技術や情報の移転に必要な政府保証 を得るため、これらの技術、情報は両国の適切な所轄官庁によって共同で特定される。

(2)注目される交渉過程

交渉過程では、中国による米国由来の核物質や原子力関連技術の軍事転用の防止が、連邦議会でも注目された。

2015年7月、米中原子力協力協定の見直しに関する共同公聴会が下院外交問題委員会で開催されている。3名の 証人について、それぞれの証言を以下にまとめる。

ヘンリー・ソコルスキー氏(核不拡散政策研究センター、エグゼクティブディレクター)は、将来的な軍事転 用を避けるために米中原子力協定をどのようにすべきかと題し、核不拡散上の観点から、議会は条件を設けるべ きと主張した46

 政府は中国の核物質兵器転用、核物質拡散を防ぐために目を光らせながら政策の実行に当たるべきだ。現 在すでに中国はAP1000の冷却ポンプ技術を原子力潜水艦に転用した疑いがあり、さらなる転用を防ぐ必 要がある。

 そのような目標に向かって、議会はこの協定に、履行を妨げないような2つ方法で条件を設けるべきであ る。

46 http://docs.house.gov/meetings/FA/FA05/20150716/103718/HHRG-114-FA05-Wstate-SokolskiH-20150716.pdf

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 米国製の原子炉の使用済燃料から核兵器に利用可能なプルトニウムを取り出すサイクルが許可され る前に、現在ロシアに求めているような、米国によるケース・バイ・ケースの再処理に関する許可権 が確保されると大統領は保証すべきである。そのためには何をもって“米国製”原子炉とするのか、

米国が輸出し、管理する原子炉とは何なのか連邦官報において定義する必要がある。

 大統領は中国の核に関する活動、技術、海外の組織に対する再移転リストに関する事前許可制を設け ることは原子力法第57条bに定められている現行のケース・バイ・ケースの審査手続きに取って代 わるものでも妨げるものでもないと明確にすべきである。行政府は国家情報長官を核の技術移転に関 する許可に関する調整に加え、その結果は議会の適切な委員会に共有されるべきである。

 これらの条件は協定が発効するか、取り決めが実行され法律ができる前に、合意の内容に含まれるべきで ある。加えて、議会はインテリジェンス・コミュニティに、どのように中国政府が民生用の核施設やアメ リカの核関連技術を軍事目的に利用しようとしているか、何が中国にとって核を将来的に軍事的な観点で 必要とさせるのか、定期的な検証をさせるべきである。

 2007年5月に中国の軍事転用の疑いは指摘されていたが、行政府と産業側はこれを否定した。しかし、

実際には中国は AP1000 炉のキャンド冷却ポンプを原子力潜水艦原子炉の改良のために転用した疑いが もたれており、現行の原子力協定に違反したとの指摘もなされている。

 しかし、(米国)政府の中で訓練された人間はおらず、産業からの原子力技術移転許可に関する政府の調 査や審査に関していかなる変更もなされていない。むしろ提示された協定内容はこれらの許可を効率化す るものであり、産業界はこうした効率化に長らく関わってきた。しかし、米国議会が米国の原子力技術の 軍事転用を行ったかその疑いがある国との協定を承認すれば、産業界が最悪の事態に陥る可能性もある。

 また、協定は原子力技術や部品の移転を効率化するだけでなく、中国が米国製原子炉から発生する使用済 燃料から彼らがほしいだけ兵器級プルトニウムを取り出すことへのさらなる合意を与えることにもなる。

 中国が再処理を始めるには、まず米国と物理的なセキュリティと保障措置の取り決めについて話し合い合 意しなければならない。中国との合意は、米国は緊密な同盟国しか承認しないという包括的な進んだ合意 を与えるものであり、これは米国起源の使用済燃料を再処理するたびに米国の許可を必要とするロシアと 比べれば、容易であろう。

シャロン・スクアーソニー氏(戦略国際問題研究所、不拡散プログラムディレクター・シニアフェロー)は、

米中の不拡散における協力をより強固なものとし、拡散のリスクを減らす条件として次のように指摘した47

 1985 年にみられたように承認の決議に条件を課すことは、協定の発効にもかかわらず輸出を停止させて しまう。ゆえにこうしたアプローチは非常に非生産的なだけでなく、商業的にも政治的にも深刻な結果を もたらすこととなる。しかしながら、中国の軍事と民生の原子力活動分離に関する透明性の向上や、中国 がパキスタンとの原子力民生利用協力に関してより多く対話することあるいは関与するようにすること、

中国の輸出管理実施をすすめるために基準を提供することは議会も検討したいところだろう。議会は特に 下記のような点を考慮すべきである。以下のような方法で、中国との協力においてあらゆる分野で問題と なる透明性を向上させ、重要で懸念のある分野において継続的な民生原子力協力を過度に妨げることなく、

行政府と議会をより重要な位置に立たせることができる。

 中国政府に管理上あるいは物理的に民生と軍事の原子力施設や職員を分離するステップを報告させ ること

 パキスタンとの民生原子力協力において中国に制限をかけることに関し、中国とNSGの中において それぞれ求め、そのステップを行政府に報告するよう要請すること

 中国が自身の輸出管理システムを改善し、大量破壊兵器に関連する物質、機器、技術を北朝鮮、イラ ンやその他拡散の懸念がある国に移転することをやめるために適切で効果的なステップを踏んでい ることを5年ごとに確認すること

 国家情報長官に年1回、中国からの大量破壊兵器関連の獲得や移転に関する機密もしくは機密ではな

47 https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/legacy_files/files/attachments/ts150708_Squassoni.pdf

37 い報告をさせること

 技術移転に関する運営の取り決めの実施に関して、その効果を判断するために、行政府に年1回か2 回報告をさせること

 拡大された輸出管理協力に許可を与えること

 管理を強化し、新しい現実を反映させ、長期的な政策を支えるために、議会は原子力法の改正を検討する べきである。議会は次のような法を検討するべきである。

 期限のない、あるいは自動的に延長される協力協定の下で行われる協力に関して、議会にレビューを 求めること

 協力協定が承認される前に、これから協力協定を締結する相手国(と改定する協力協定)にIAEAの 保障措置協定に追加議定書を加えさせ、効力を持たせること

 協力協定を締結している他国に対し、使用済燃料の再処理に関して中間貯蔵を採用するような、より 好ましいオプションや動機を与えること

 核拡散評価報告書(Nuclear Proliferation. Assessment Statement: NPAS)または個別の調査書に 関して、それらが書かれる前、あるいはNPASへのさらなる要求が指定される前に、議会の助言を 求めることを行政府へ要請すること

2-1-2 二国間関係における核不拡散政策

(1)米中原子力協定改定後の動向

(a)連邦議会における議論

2016年3月、2016年核セキュリティサミットを前にオバマ政権の核不拡散に関するこれまでの取組みを評価 する公聴会が上院外交問題委員会にて開かれた。公聴会では、上院外交問題委員会委員長であるコーカー上院議 員(共和党、テネシー州選出)が、核紛争の脅威が世界中で拡大していることに対してオバマ政権が十分にその 脅威を認識していないことを指摘している。コーカー上院議員は、核セキュリティサミット参加者間での進捗を 認識する一方で、核に関する約束や核燃料開発の制限を破った国に対する政権のアプローチにおける欠陥に言及 している。また、コーカー上院議員は、中国と韓国との関係において、原子力協力協定が使用済燃料の再処理を 禁止していないことへの懸念を強調した48

(b)2016年対中原子力協力及び核不拡散法案49

2016 年5月、マーキー上院議員とルビオ上院議員が提出したもので、中国による米国の原子力技術に関する 機密事項の窃取や、北朝鮮の核実験強行に対する中国の姿勢を非難している。法案の主なポイントは、以下のと おり。

中国が米国起源の技術を他の国に再輸出する前に米国の認可を要求、このカテゴリーに分類されるアイテ ムについてはDOE長官が設定

米中原子力協力協定への違反、懸念のある国への核拡散上機微なアイテムの移転防止失敗、そして北朝鮮 に対する制裁実施の失敗など、様々な核拡散に係る不正行為に中国が従事したかどうかを大統領が決定す るよう要求

そのような違反があった場合、これらの振る舞いに対処するための行動計画が作成、実行されるまで、大 統領が原子力協力を停止するよう要求

核分裂性物質が適切に護送され防護されると大統領に認められない限り、米国の使用済核燃料を中国で再 処理することへの同意を禁止

東アジア諸国が使用済燃料を新たに再処理しようとする活動を始めることに米国は反対するという議会

48 http://www.foreign.senate.gov/press/chair/release/corker-many-argue-threat-of-nuclear-conflict-is-greater-than-ever

49 http://www.markey.senate.gov/news/press-releases/senators-markey-and-rubio-introduce-legislation-to-hold-china-accountabl e-for-nuclear-agreement-violations

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