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TEM試料

(TiltX、TiltYの可動 範囲:±30°)

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図3.19~図3.21は、電子線回折の実測結果と電子線回折シミュレー ション結果の比較を示す。各図の(a)が電子線回折の実測結果、(b)電子線 回折シミュレーション結果を示す。図3.19は、実測とtrigonal(三 方晶系)α-Siのシミュレーション結果を比較したものである。実測と シミュレーション結果の回折スポット間の距離および角度が良く一致すること がわかる。図3.20は、実測とhexagonal(六方晶系)β-Si

のシミュレーション結果を比較したものである。実測とシミュレーション結果 の回折スポット間の距離および角度は異なっていることがわかる。この結果よ り、窒素析出物は、hexagonalβ-Si(高温相(> 1400℃)

のSi結晶)とは異なることがわかる。図3.21は、実測とcubic

(立方晶系) γ-Siのシミュレーション結果を比較したものである。実 測とシミュレーション結果の回折スポット間の距離および角度は異なっている ことがわかる。この結果より、窒素析出物は、cubic(立方晶系) γ-S iとは異なることがわかる。

以上の結果より、窒素析出物は、trigonal α-Si(低温相(<

1400℃)のSi結晶) であることが結論付けられた。

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図3.19 電子線回折結果(シミュレーションα-Si

(1) (2) (3)

(a) TiltX

(TiltY=-2°)

-12°

実測

(b) 入射方位

Euler 角

α-Si3N4[1 2 4]

Φ=90.000° Θ=30.882° Ψ=30.000°

α-Si3N4[1 2 3]

Φ=90.000° Θ=38.570° Ψ=30.000°

α-Si3N4[1 2 2]

Φ=90.000° Θ=50.104° Ψ=30.000° シミュレーション

α-Si3N4

8.4mm 6.8mm

36.5° 6.7mm

4.6mm 48.5° 6.1mm

6.2mm 50.0°

8.6mm 6.9mm

36.2° 6.9mm

4.7mm 47.8° 6.3mm

6.3mm 48.8°

図3.20 電子線回折結果(シミュレーションβ-Si

(1) (2) (3)

(a) TiltX (TiltY=-2°) -12°

実測

(b) 入射方位

Euler 角

β-Si3N4[1 2 4]

Φ=90.000° Θ=48.531° Ψ=30.000°

β-Si3N4[1 2 3]

Φ=90.000° Θ=56.463°

Ψ=30.000°

β-Si3N4[1 2 2]

Φ=90.000° Θ=66.161°

Ψ=30.000° シミュレーション

β-Si3N4

8.4mm 6.8mm

36.5° 6.7mm

4.6mm

48.5° 6.1mm

6.2mm 50.0°

10.6mm 9.2mm

29.8° 8.7mm 8.7mm

35.4°

9.2mm 7.5mm

35.1°

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3.4 析出物発生の推定メカニズム

3.4.1 断面X線トポグラフィによる析出物観察

析出物発生の様子と機構を調べるために、図3.7(a)に示した濃いコン トラスト(窒素析出物)が発生した領域の断面X線トポグラフを撮影した。図 3.22は、FZ1ウェハを使用した場合のN(70%)+O(30%)雰 囲気中での長時間熱処理1300℃後の断面X線トポグラフである。(a)は熱 処理時間50h,(b)は同75h,(c)は同100hの結果である。ウェハ の厚さは500μmである。黒い斑点が析出物であり、熱処理時間が長くなる ほど析出物の数が多くなる傾向にあることがわかる。また、その析出物の深さ

図3.21 電子線回折結果(シミュレーションγ-Si

(1) (2) (3)

(a) TiltX (TiltY=-2°) -12°

実測

(b) 入射方位

Euler 角

γ-Si3N4[1 2 4]

Φ=90.000° Θ=29.206° Ψ=26.565°

γ-Si3N4[1 2 3]

Φ=90.000° Θ=36.699° Ψ=26.565°

γ-Si3N4[1 2 2]

Φ=90.000° Θ=48.190° Ψ=26.565° シミュレーション

γ-Si3N4

8.4mm 6.8mm

36.5° 6.7mm

4.6mm 48.5° 6.1mm

6.2mm 50.0°

11.6mm

12.7mm 56.8°

11.2mm

4.5mm

82.7° 7.3mm

11.6mm

71.3°

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方向の分布は、ウェハ中の深い位置の方が浅い位置より多く分布する傾向も認 められた。なお、図内の枠が黒く中が白い斑点はフィルムの気泡である。

図3.23は、図3.22に示した断面X線トポグラフ像の顕微鏡拡大像1 視野あたりの析出物の個数を示した図である。断面X線トポグラフ像は、最も 濃いコントラストの部分を含むように、6インチウェハの中心から半径方向に 約1.9cm~3.8cmの間の領域を撮影したものであり、X線フィルムを 顕微鏡で拡大撮影すると約20視野分になる。析出物の個数は、同じ熱処理時 間でもウェハの位置によってばらつきは大きいが、最大の析出物個数は熱処理 時間に対して、単調に増加している傾向が認められる。各熱処理時間に対する 最大の析出物個数を線形近似した場合の相関係数の二乗(決定係数)は0.9 999と、1に近い値となっており、熱処理時間と最大の析出物個数には強い 相関があると考えられる。熱処理時間を変えた実験は同一インゴットから切り 出したウェハについて行っている。同一インゴットから切り出したウェハにお いては、初期欠陥密度の面内分布は同様になっており、初期欠陥密度の最大値 もほぼ同じであると考えられる。そのため、最大の析出物個数の熱処理時間依 存性は、一定の初期欠陥密度のSi結晶について、初期欠陥を起点として熱処 理時間とともにトポグラフ像で検出可能になる析出物の数が増えていくことを 示唆していると考えられる。

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図3.22 FZ1ウェハの断面X線トポグラフ像

(窒素雰囲気N(70%)+O(30%),1300℃処理(= 一定))

(c)熱処理時間 : 100 h (a) 熱処理時間 : 50 h

(b)熱処理時間 : 75 h

500 μm 500 μm 500 μm

気泡 析出物

表面

裏面 表面

裏面 表面

裏面

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3.4.2 ウェハ最表面の断面TEM像

図3.22のFZ1ウェハの断面X線トポグラフ像では、最表面の状態を把 握しにくい。そこで、窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))による熱処 理で最表面に窒化膜や他の析出物が形成されていないかを調べるために断面T EM観察を実施した。

図3.24は、窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))(図3.9(a)

に同一)で100h熱処理をしたFZ1ウェハのコントラストが濃い領域で観 察された異物の断面TEM像である。TEM観察倍率は5千倍で、総合倍率は 3万倍である。ウェハ最表面の保護用白金(Pt)は2層になっており、電子

図3.23 析出物個数の熱処理時間依存性

(窒素雰囲気N(70%)+O(30%),1300℃処理(= 一定))

熱処理時間 (h)

0 50 100 150

10 20 30 40 50 60 70 80

1 視 野 あた りの 析出物個数 ( 個)

y=1.26x-55.83 R2=0.9999

(最大個数に対して)

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ビーム成膜のPtの上にFIB(Focused Ion Beam;集束イオンビーム)加工用 にPtを成膜している。集束イオンビームによるダメージが試料表面から30 nm程度入ることにより最表面がアモルファス化することを防止するために、

ダメージの無い電子ビーム成膜のPtを最初に成膜している。図3.9の異物 部の断面TEM像とEDX元素分析で示した結果と同じように、特に、窒素析 出物(異物)以外の析出物が形成されていることは無いと考えられる。析出物 以外のところに最表面に層があるようにみえるところ(約50nm)は、最表 面の保護用白金(Pt)層である。

図3.25は、窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))で100h熱処 理をしたFZ1ウェハの内、コントラストが薄い領域の断面TEM像である。

TEM観察倍率は5千倍で、総合倍率は3万倍である。この像からは、最表面 の保護用白金(Pt)層以外の窒化膜や析出物は観察されなかった。

図3.26は、未熱処理品のFZ1ウェハの最表面の断面TEM像である。

TEM観察倍率は5千倍で、総合倍率は3万倍である。未熱処理品の像からも、

最表面の保護用白金(Pt)層以外の窒化膜や析出物は観察されなかった。図 3.25のFZ1ウェハのコントラストが薄い領域の断面TEM像と同様の結 果を示していると考えられる。

この結果より、窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))による100h の熱処理で最表面に窒化膜や他の析出物が形成されていないとわかった。

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図3.24 コントラストの濃い領域の最表面の断面TEM像

窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))/100h熱処理 をしたFZ1ウェハ)

保護用Pt

電子ビーム成膜 のPt

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図3.25 コントラストの薄い領域の最表面の断面TEM像

窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))/100h熱処理を したFZ1ウェハ)

保護用Pt

電子ビーム成膜のPt

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3.4.3 析出物の形状観察

析出物の形状を調べるために、デュアルビームFIBによる3次元画像の構 築を行った。具体的には、窒素雰囲気(N(70%)+O(30%))で10 0h熱処理をしたFZ1ウェハのコントラストの濃い領域の最表面の断面TE M像(図3.24)に認められた析出物形状を調べた。

図3.26 未処理品の最表面の断面TEM像 (熱処理なしのFZ1ウェハ)

保護用Pt

電子ビーム成膜のPt

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デュアルビームFIB(FEI製NOVA200)を用いて、析出物につい て、奥行き50nmステップで断面FIB加工後に断面SEM(Scanning electron microscoe:走査型電子顕微鏡)像を取得することを繰り返し行い、析 出物全体を50nmステップで輪切り(スライス)にした複数枚の断面SEM 像を取得した。そして、取得した複数枚の断面SEM像に対して、3次元解析 ソフト(TGS製Amira(Ver3.1))を用いて立体画像の構築および、

上下方向、左右方向、手前-奥方向の3方向の断面画像構築を行った。結果を 図3.27に示す。図3.27の立体画像および3方向の断面画像から、析出 物は、八面体構造に近い形状になっていることがわかった。

これは、CZ-Si単結晶において観察される空孔型の欠陥(結晶中の点欠 陥の一種でD欠陥[18]と呼ばれる微小ボイド)が、Si{111}面で囲まれ た八面体構造であって、厚さ数nmの内壁酸化膜を有していること[19]と関連 していると考える。図3.9に示した異物部の断面TEM像とEDX元素分析 の(d)図でも、酸素が異物(析出物)の周りを取り囲んでいる。Si析 出物の発生機構を考察するにあたり、高温長時間の熱処理前のウェハに含まれ る結晶育成時の欠陥として、空孔型欠陥の存在が考えられる。

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3.4.4 拡散現象に基づく考察

ここでは、シリコン結晶中の各種原子、分子の拡散現象を基に窒素析出物発 生の機構[20]を考察する。図3.28は、シリコン結晶中の窒素[21]、格子間 シリコン[22]、酸素[23]の拡散係数を示す。表3.3は、1300℃における シリコン結晶中の窒素、格子間シリコン、酸素の拡散長を示す。

これらの拡散長は、熱拡散による拡散係数および拡散時間を用いて以下のよ うに求めることができる。

熱拡散による原子濃度の空間分布は、拡散方程式の解を近似することにより、

Si基板 析出物 保護用Pt

Si基板 析出物 保護用Pt

Si基板 析出物 保護用Pt

保護用Pt

析出物

Si基板

(a) 立体画像

(b)yz断面画像

(c)xy断面画像

(d)xz断面画像 x

y z

x y

z

x y

z

x y

z

図3.27 析出物の断面スライス構築像

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次式のガウス分布関数で与えられる[23]。

𝐶(𝑥,𝑡) = 𝐶𝑠(𝑡)𝑒−𝑥2(4𝐷𝐷)

ここで𝐶(𝑥,𝑡)は位置𝑥、熱拡散時間𝑡 における原子濃度であり、𝐶𝑠(𝑡)は表面の 原子濃度である。𝐷は温度𝑇における拡散係数である。

表面の原子濃度𝐶𝑠(𝑡)に対して濃度が 1/e になる深さは、𝑥2⁄(4𝐷𝑡)= 1を満た す𝑥であり、すなわち、𝑥= 2√𝐷𝑡である。2√𝐷𝑡を、拡散長と定義する。シリコ ン単結晶中の温度𝑇における各原子の拡散係数𝐷は、図3.28に示されている 値を用いる。

拡散長がウェハの 2 分の 1 の厚さになる時間、すなわち、ウェハの両側の表 面からそれぞれウェハの厚さ方向の中央まで原子が充分(濃度 1/e)に到達するの に要する時間𝑡は、

2√𝐷𝑡= 250(𝜇𝑚) = 250 × 10−6(𝑚) = 2.5 × 10−4(𝑚)を満たす𝑡であり、

𝑡= (1.25)2× 10−8⁄𝐷 =1.56 × 10−8⁄𝐷(𝑠)で表される。

シリコン単結晶中の温度𝑇における各原子の拡散係数𝐷は、図3.28に示さ れている値を用いる。

図3.28より、拡散速度は、窒素、格子間シリコン、酸素の順に大きいこ とがわかる。また、表3.3より、熱処理雰囲気中のガス成分である窒素分子 は、シリコン結晶中を素早く拡散することがわかる。熱処理温度が1300℃

の場合、窒素は約 1 分で厚さ500μmのシリコン基板の中央に到達する。そ れに対し、熱処理雰囲気中のガス成分である酸素分子は、熱処理温度1300℃

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