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126 いる. 2015 年7 月時点で世界の主要企業11,634 社をカバーし,ESG に関する800 以上 のデータポイントについて企業情報を収集している.社外取締役数を選択したのは近年 設置についての速度があがっている項目であると考えるからである.いくつかの先行研 究でも社外取締役の設置と株式パフォーマンスの影響は調査されており,西川,羽瀨(2015)

では,業績,株価パフォーマンスがプラスに影響していることを報告している.また,

社外取締役の設置は東京証券取引所の公表データによると,東証一部上場企業1,814 社に おいて2014 年7 月までに社外取締役を導入した企業は1,347 社と比率は74.3%であった.

一貫して上昇しているが,直近では前年比12.0%増と,ここ10 年で一番の伸びを見せて いる.昨今のガバナンスに関する意識の高まりが表れていると考えられる.

統合報告書ポートフォリオ,および環境報告書ポートフォリオの構成企業の企業価値 と他のESG情報との相関を確かめるべく重回帰モデルを設定する.

被説明変数としてトービンのqを使用することとした.トービンのqとは,企業価値 を表す指標の1つであり,「 (株式時価総額+負債総額)÷(総資産)」で算出される.トー ビンのqは事業活動により生み出した価値と保有している資産の価値を比較するもので,

企業がどれだけの価値を創造したかを表す指標として適切であると考える.

分析モデルは,共通の説明変数として企業規模を表すものとして時価総額を自然対数 化した指数(Size),業種ダミー変数を設定する(東証33業種を想定している).

ガバナンスの観点からの説明変数をこの場合では,Bloombeg 社が開示している社外

取締役数Numbersとした.

Typejは業種ダミーを示す(ただし,j=1,・・・,33である).

環境の観点からの説明変数EnvScoreとし,Bloombeg社が開示している環境開示スコ アを用いる事とした.

ESG 情報を開示している企業のスコアとして,これも Bloomberg 社が開示している ESGスコアを説明変数ESGScoreとした.

これらの説明変数を,トービンのqを被説明変数とする重回帰モデルに組み込み分析 する.

i i

i

Size Numbers

q s

Tobin ' _ = α

0

+ α

1

+ α

2

i i

i ESGScore Type Type

EnvScore

α β β ε

α

+ + + + +

+ 5 6 1 1 ・・・ 33 33 (7-1-7)

上式では,企業iの数値を示しており,

Tobin’s_q:企業iの企業価値を捉える変数((時価総額+負債)/純資産))

Sizeは,企業iの時価総額の自然対数,

Numbersは,企業iの社外取締役数,

EnvScoreは,環境開示スコア

ESGScoreは,ESG開示スコア

Typejは業種ダミーを示す(ただし,j=1,・・・,33である).

127 分析に必要なデータは,日経NEEDS,およびBloomberg社端末より全上場企業分を 取得し,トービンのqを計算できなかった等の欠損値の存在するデータを除いた2,745 件である.

図表7-5 記述統計量 (全上場企業N=2745)

第7節 検証結果

1. 分析モデルを用いての検証結果

分析モデルを用いての重回帰分析の結果を下図表に記す.これをもとに検証を行う.

図表7-6-1 推計結果(全上場企業N=2745)

全上場企業をサンプルとし,重回帰分析を行ったが,結果として有意となる項目が検 出されず,自由度調整済決定係数も説明力を持つレベルには達しなかった.

次に社外取締役が存在する企業のみ,環境開示スコアが存在する企業のみをそれぞれ 抽出し重回帰分析を行った.

図表7-6-2 推計結果(社外取締役数企業N=1149)

度数 範囲 最小値 最大値 合計 平均値 標準偏差 分散 Size 2745 15.6927 14.5087 30.2014 65386.0871 23.8201 5.3291 28.3994 Numbers 2745 10.0000 0 10.0000 2143.0000 0.7807 2.4077 5.7970 EnvScore 2745 68.2171 0 68.2171 13963.5165 5.0869 1.9407 3.7663 ESGScore 2745 58.6777 0 58.6777 19682.6959 7.1704 6.5011 42.2642

0.0038

推計値 標準誤差 t-value P-Value

α 9.6046 - - -

Size -0.2514 0.0779 -3.2256 0.0013

Numbers 0.1472 0.2182 0.6749 0.4998

EnvScore 0.0671 0.0467 1.4384 0.1504 ESGScore -0.0983 0.0604 -1.6282 0.1036

自由度調整済決定

128

図表7-6-3 推計結果 (環境開示スコア企業数N=610)

社外取締役が存在する企業のみを抽出しての重回帰分析は,社外取締役数が有意な結 果を得た.また,ESGスコア開示企業のみを抽出しての重回帰分析では,環境開示スコ アは有意とならず,ESG開示スコアが有意となった.

ここまでの分析では,社外取締役数では有意な結果を得たが,他の項目では,有意な 結果は得られず,ESG情報の重要性は社会的に高まってきているものの,まだ,決定的 な結果を得られるまでには至っていないものと考えられる.

今回,Bloomberg社のデータをはじめ,ESG情報の開示が進んできており,ESG情報 の重要性が高まっていることが考えられるが,検証の結果としては,決定的なデータと して,有意となることを証明できてはいないと考える.

第8節 まとめ

本章では,ESG情報のうちガバナンス(企業統治)と環境の2つの情報が企業価値に 与える影響について分析を行った.

本章の分析で着目した点は,宮井(2008c)におけるESGファクターのパフォーマンスに 関する分析のうち,第二とされているファクターモデル等の分析モデルを用いてESG情 報が及ぼす効果を分析する方法を用いた.具体的には,伊藤(2012)で,Fama-French3 フ ァクターモデルを用いてESG情報の効果を分析している手法を使い,ESG情報の環境,

ガバナンスについてのポートフォリオを構築して比較する方法を用いて分析を行った.

まず,環境報告書ポートフォリオと各ファクターの数値との推計結果を確認する.モ デルの説明力を表す自由度調整済決定係数は0.8176となっており,当モデルで環境報告書

0.2487

推計値 標準誤差 t-value P-Value

α -1.6452 2.2887 -0.7188 0.4724

Size 0.0465 0.1002 0.4641 0.6427

Numbers 0.5920 0.1119 5.2884 0.0000

EnvScore -0.0129 0.0107 -1.2076 0.2275

自由度調整済決定係数

0.5685

推計値 標準誤差 t-value P-Value

α -1.2932 0.8113 -1.5941 0.1114

Size 0.0959 0.0349 -0.6071 0.5440

Numbers 0.3750 0.0992 3.7807 0.0003

ESGScore 0.0001 0.0128 0.0104 0.9917

EnvScore -0.0066 0.0089 -0.7493 0.4540

ESGScore 0.0001 0.0128 0.0104 0.9917

自由度調整済決定係数

129 ポートフォリオのリターン変動のかなりの部分を説明できていることがわかる.次に,

各ファクターの係数であるが,3つとも有意であるとの結果を得た.リスク調整後の超 過リターン(α)は月次ベースで-0.120となりマイナスの超過リターンとなった.

統合報告書ポートフォリオは,自由度調整済決定係数は0.6827であり,説明力はある程 度あることを確認した.市場ポートフォリオの係数は1.0132で,1%水準で有意との結果 を得た.サイズ効果と規模効果(バリュー・グロース)の係数は,それぞれ0.0106と0.1162 と小さく双方とも有意ではない.リスク調整後の超過リターン(α)は月次ベースで0.0105 となりプラスではあるが小さい値となった.結果として,環境報告書ポートフォリオは,

3ファクターモデルでの3つのファクターとの相関が高く,モデル自体の説明力も高い 結果となった.統合報告書ポートフォリオでは,3ファクターモデルでのマーケット部 分の相関は高いものの,SMBファクターとHMLファクターとの相関があるとは言えない 結果を得た.

しかしながら,これだけではESG情報の影響について検証が十分であるとは考えにく い.統合報告書や環境報告書を任意開示している企業は,ほぼ,平均近くに集まってい るものであり,データのばらつきとしては適切なデータであるかは,現状では疑問が残 る.これは,統合報告書を開示している企業のうち,127社が東証一部上場企業であり,

売上高1,000億円以上の企業が8割を占めていることからも同様のことが言えると思料

する.そのため,追加の分析として全上場企業を対象として.他のESG情報との相関を 確かめるべく重回帰モデルを設定した.ここでは,トービンのQを被説明変数とし,説 明変数として,社外取締役数,ESG 開示スコア(Bloomberg 社),環境開示スコア

(Bloomberg社)をESG情報の変数として使用した.

全上場企業をサンプルとし,重回帰分析を行ったが,結果として有意となる項目が検 出されず,自由度調整済決定係数も説明力を持つレベルには達しなかった.これは,全 上場企業を対象とした分析ではESG情報の相関は証明できなかった.

次に社外取締役が存在する企業のみ,環境開示スコアが存在する企業のみをそれぞれ 抽出し重回帰分析を行った.

社外取締役が存在する企業のみを抽出しての重回帰分析は,社外取締役数が有意な結 果を得た.また,ESGスコア開示企業のみを抽出しての重回帰分析では,環境開示スコ アは有意とならず,ESG開示スコアが有意となった.

ここまでの分析では,社外取締役数では有意な結果を得たが,他の項目では,有意な 結果は得られず,ESG情報の重要性は社会的に高まってきているものの,まだ,決定的 な結果を得られるまでには至っていないものと考えられる.

今回,ESG情報ソースの調達に及んでBloomberg社のデータをはじめ,ESG情報の開 示が進んできていることを実感した.しかしながら,本研究ではESG情報の重要性が高 まっていることは考えられるが,検証の結果としては,社外取締役数やESGスコア,環 境開示スコアなどが.企業価値(Tobin’s Q を使用した重回帰モデルによる分析)に 影響することは証明できなかった.

参考までに2016年度CSR企業ランキング(東洋経済新報社作成)を付録図表として 添付した.

130 以上

131 APPENDIX

付録図表7-1 CSRランキング上位3社の推移77

付録図表7-2 CSRランキング業種別トップ企業(2016年版)78

77 東洋経済新報社 http://toyokeizai.net/articles/-/113426 から引用.社名は2016年時点の最新,

2008年,2016年は,3位が2

78 東洋経済新報社 http://toyokeizai.net/articles/-/113426 から引用.CSR企業ランキング2016年版.

各業種のトップ企業を掲載.総合ポイントは600点満点

1位 2位 3位

第1回 (2007年) 東芝 日立製作所 キャノン

第2回 (2008年) デンソー 東芝 ソニー、シャープ

第3回 (2009年) シャープ トヨタ自動車 パナソニック

第4回 (2010年) パナソニック トヨタ自動車 シャープ

第5回 (2011年) トヨタ自動車 ソニー パナソニック

第6回 (2012年) 富士フイルムHD トヨタ自動車 ソニー

第7回 (2013年) トヨタ自動車 富士フィルムHD NTTドコモ

第8回 (2014年) NTTドコモ 富士フィルムHD 日産自動車

第9回 (2015年) 富士フイルムHD NTTドコモ デンソー

第10回(2016年) 富士フイルムHD 富士ゼロックス コマツ、ブリヂストン

順位 社名 総合ポイント (600) 水産・農林業/鉱業/建設業 21国際石油開発帝石 545.7

食料品 15JT 549.1

繊維製品 29東レ 543.2

パルプ・紙/化学 1富士フイルムホールディングス 573.6 医薬品 28アステラス製薬 543.4 石油/ゴム/ガラス・土石 3ブリヂストン 565.5 鉄鋼/非鉄金属/金属製品 43 LIXILグループ 532.7

機械 3コマツ 565.5

電気機器/精密機器 2富士ゼロックス 569.9

輸送用機器 6デンソー 562.4

その他製品 51大日本印刷 529.7 電気・ガス業 23東京ガス 544.5 陸・海・空運/倉庫 36日本郵船 537.9 情報・通信業 5NTTドコモ 564.9

卸売業 38伊藤忠商事 537.3

小売業 44セブン&アイ・ホールディング 532.6 不動産業 116三井不動産 504.4

サービス業 81セコム 515.5

業種トップ企業 業種