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第1節 はじめに

本章では,本論文での結論をまとめる.まず,研究手順を振り返り総括する.次に問 題意識としているサステナビリティ情報の影響についての検証を,財務情報で分析した 手法を可能な限り用いて行う.

結論として,本論文のメインテーマであるサステナビリティ情報がどのような影響を 及ぼすのか,という点については,その重要性は先行研究や現在の世界やわが国の情勢 から高くなっていることは明らかであると考える.ただし,財務情報や株価などの先行 研究に比べると,まだ,研究をすすめていくことで新たに判明する事象が存在する可能 性がある.このことは,未だ,既存の研究を応用しての尺度の設定,計測手法から決定 的といえるものが存在してはいないが,今後,データの蓄積が進み,研究の観点も今ま で以上に広がることからも有益な課題であると認識している.

本章の構成は以下の通りである.第2節では,財務情報と非財務情報が企業価値に 与える影響の分析結果を整理する.第3節では,本論文の結論と今後の課題を述べる.

第2節 分析結果の整理

1. 研究手順の総括

本論文での問題意識は,序論で述べた通りであり,再掲し,研究手順を振り返り,総 括する.

第一の問題意識:

サステナビリティ情報が企業価値(株価等)に影響を与える重要な要素であり,

どのような影響があるのか.

第二の問題意識:

サステナビリティ情報の重要性・影響について検証する上で,どのような尺度,

計測方法を用いたら良いか.

まず,財務情報,非財務情報であるサステナビリティ情報とリスクに関する情報と合 わせて俯瞰し,企業が保持するIR情報全体を体系的に理解することにより,2つの問 題意識を明らかにするため準備を整える.(第2章,第3章)

次に,俯瞰した財務情報,リスク情報など既に明らかにされている情報効果をそれぞ れの実証分析,事例研究をもとに検証し,第二の問題意識を解決するために応用できる

133 ものがないかを検討する.すなわち,既存の尺度,計測手法を用いて分析することによ り,サステナビリティ情報への応用が可能かを検討する.(第4章,第5章)

最後に,サステナビリティ情報がどのような影響を与えるのか,それぞれの実証分析,

事例研究をもとにサステナビリティ情報の重要性を検証することにより,その影響を明 らかにする.(第6章,第7章)

本論文での問題意識,すなわち,メインテーマは,サステナビリティ情報が及ぼす影 響を明らかにすることである.そのため,多くの先行研究が存在する財務情報の情報効 果から重要性に鑑み,対象を絞って分析し,サステナビリティ情報の分析に依拠できる ように努めている.本論文での研究の手順では,財務情報,サステナビリティ情報,リ スクがもたらすリスク情報の俯瞰は,事例研究を行った.研究対象は,重要性に鑑み範 囲を一定に絞っているが,決算情報と資本構成変化を選択したのは,多くの先行研究が あり,財務情報を俯瞰し,サステナビリティ情報に応用することができると考えたから である.計測手法の観点についても多くの事例を網羅することで,これもサステナビリ ティ情報へ応用することが可能となるのではないかと考えたからである.

分析した対象と手法について簡単に振り返る

最初に,財務情報については,代表的な決算発表から,その発表タイミングの差が存 在する際の情報効果をイベントスタディの手法で検証した,すなわち,財務情報である 決算発表の情報効果が企業価値(株価)へ与える影響について分析を行っている.本論 文で参考にした情報効果に関する先行研究は次節でサマリーする.

第二は,ある特定の企業のイベントにおいて財務情報である企業の資本構成の変化や 企業価値(株価)へ与える影響について事例分析を行い,これを検証している.

第三は,サステナビリティ情報のトリプルボトムラインである ESG 情報の社会 (Social)に対する企業の取り組みが企業価値(株価)へ与える影響についてイベントス タディの手法を用いて分析を行った.また,重回帰モデルを作成し検証を深めることと した.

最後に,サステナビリティ情報のトリプルボトムラインである ESG 情報の環境 (Environment)とガバナンス(Governance)に対する企業の取り組みが企業価値(株価)へ 与える影響について分析する.

分析結果の詳細は次節で述べるが,サステナビリティ情報の重要性は,高くなってき ていることは,先行研究や事例により理解した.しかしながら,計測手法やデータの蓄 積において未だ,決定的な材料を揃えることができてはいないことが判明している.本 節では,上記の2点につき,本論文での分析結果の整理と今後の課題を簡潔にまとめ,

これを記すものである.

2. 財務情報が企業価値に与える影響の分析と今後の課題

まず,財務情報が与える影響については,決算発表をイベントとした分析を行った.

ここでは,同じ決算発表でも発表のタイミング差がどのように影響を及ぼすのかを,米 国会計基準で決算発表を行っている企業をBad News企業群とGood News企業群に 分類し経営者予測(決算短信)による情報効果がイベント日において反映されているか

134 の検証を行った.

結果として,開示日におけるCAR=0である帰無仮説を積極的に棄却できなかった.

これは,正しい方向にCARが動くことを検証した.すなわち,Abnormal Returnは存 在しないということになる.さらに,米国会計基準と日本会計基準における決算発表で の株価への影響,すなわち企業価値は,今回抽出したイベントにおいては有意な差異は 発見できなかった.また,今後の課題として決算年度が進むにつれて,経営者予測の内 容や開示内容の精度が向上し,情報効果が反映されやすくなっているかと言う観点が提 起される.さらに,米国会計基準と日本会計基準における決算発表での株価への影響,

すなわち企業価値は,今回抽出したイベントにおいては有意な差異は発見できなかった.

これは,決算発表という財務情報のイベントにおいては,決算発表の内容に会計基準の 差があったとしても株価には織り込み済みであると想定される.

資本構成については,ある企業の特定のイベントを抽出(企業買収戦略,事業整理戦 略,決算発表のイベント)し,資本構成の変化を検証した,結果としてこれらのイベン トについては,資本構成に影響を与えていなかったといえる.これは,抽出した特定の イベントには,重要な情報コンテンツが多少は混在しているものの,必ずしも重要な情 報が含まれておらず,特定のイベントが資本構成を調整していないことが明らかになっ た.また,企業価値,すなわち株価への影響については,今回抽出した,企業買収戦略

,事業整理戦略,決算発表のイベントにより影響を与えていないといえる.ただし,株 価への影響が,イベント前の水準に戻るには,今回の分析では,収束に至るプロセスを 検出できなかった.とりわけ,ARとCARの差の検定において異なる結果を得ており,

本事象の究明は,今後の課題としたい.最後に,Elsas,Flannery,Garfinkel(2011)による最 適資本構成の最新の実証研究によれば,大規模な設備投資や買収を行った場合の最適資 本構成について調査している.これは,通常,大規模な投資は,外部資金による資金調 達を伴っており,企業が行う資金調達イベントに着目し,大規模投資に関するパラメー タを設定し,多変量回帰分析を行っている.その結果は,トレードオフと資本構成の市 場タイミング理論の両方を示唆しており,企業の資金調達の意思決定は,目標に向かっ て,その実際のレバレッジを移動する傾向がある.また,株価が高く大きくなる場合は

,大規模な投資の資金調達には,外部資本をより多く使用するため,結果は,ペッキン グオーダー理論とは矛盾すると結論づけている.したがって,本章における今後の課題 としては,投資規模が資本構成に与える影響の分析やそれに伴う倒産確率の分析に発展 させることが必要であると考える.

3. 非財務情報が与える影響の分析と今後の課題

非財務情報が与える影響については,まず,Socialの観点から分析の対象としたイベ ントについては,金(2007)で検証された個人情報漏えい事案と本稿で追加したサイバー 攻撃を受けた企業群について,有価証券報告書のリスク情報の事前開示を実施している 企業と実施していない企業をリスク情報事前開示企業群(イベント有)とリスク情報事