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SPEを作ってバランスシート資産から外す 2、粉飾して株価が高くなる

第 2 章 アメリカにおける企業不祥事の原因と比較

粉飾手法 1、 SPEを作ってバランスシート資産から外す 2、粉飾して株価が高くなる

会計操作で破綻 1997年から2001年の収益3.95ドル、負債6.28ドルを修正 報告、自己資本12ドルを失う

破綻後の影響  SOX法制定 金融規制改革法制定

目的 内部統制強化の発端 内部統制の再強化と本格的な動き

影響 コストかかる 経済景気の影響

共通点 内部統制の不備 内部統制の不備

監査法人の関与 SPEの簿外化を支援 レポ105の使用を見逃す レポ105でバランスシート資産から外す

出所:筆者作成

2.3.2 内部統制が機能しなかった原因

内部統制の基本的要素は COSO 報告書では、「統制環境」「リスクの評価」「統制活動」

「情報と伝達」「監視活動」の五つの要素と定義されていた。いずれの条件も満たさな い場合は有効な内部統制とは言えない。エンロンとリーマンとの結果からみると、両 社が倒産した原因は内部統制の不備である。内部統制が機能をしなかった理由は、1)

経営者による戦略ミス、2)リスクの不備、3)外部管理体制の不備などにあると考え られる。以下では、内部統制不備の原因について説明する。

1)経営者による戦略ミス

エンロン社が破綻した原因は、自ら金融商品を開発し、大量に販売するというハイ リスク、ハイリターンの投資戦略を選んだことにあることにある。一方、リーマンの 場合は、銀行などが保有している債権を証券化してこれを投資家に販売して得た資金 をさらに再投資するといった投資戦略をとっていた。しかし、経済、金融環境の変化 が資金調達、資金運用の好循環を遮断してしまったのである。以上のように、エンロ ン、リーマンの経営者が自己利益を最優先した点は共通しているが、エンロンが取扱 った商品が自ら開発したものであるのに対し、リーマンの取扱った商品は自ら開発し

たものではない点で両社は異なっている。

このように確かに両社には、エンロン、リーマンの相違点もあるが、筆者がここで 強調したいことは、両社がたとえハイリスクでもハイリターンを求める経営戦略を展 開したことの共通点である。

2)リスク評価の問題

リスク評価は内部統制が求める 5 つ基本要素の 1 つである。企業が正しくリスク評 価を行っていない場合には、投資家に危険が転嫁される危険性がある。ここで、レバ レッジの大きさをリーマン社のバランスシートにおける資産・負債比率に求め、その 推移を示してみることにする。

2007 年第 3、第 4 四半期、2008 年の第 1、第 2 四半期における資産負債比率は 3%

と異常に低く、また、2007 年、2008 年両年全体の負債比率は 96%と異常に高い数値 を示している12)。これは収益の源泉が主として負債に依存することを意味している。

すなわち、レバレッジの高さを示すものであり、リーマンのレバレッジは当時 24 倍に も達していた。これは、企業の投資戦略がハイリスクの投資に重点を置いたものであ ったことを示している。

3)外部管理体制の不備

監査の役割を果たす監査法人についてエンロンの場合はアーサーアンダーセンであ った。一方、リーマンの場合はエルンスト=ヤングであった。両社の破綻は外部監査 に厳格さを欠いたところにあったと言える。外部監査機能についていえば、エンロン 社とアンダーセンとは 10 年来の取引関係にあった。アンダーセンの前パートナーがエ ンロンに入社していた例もあった。エンロン事件では不正会計、リーマンでは証券化 という問題である。内部統制の法整備が進み監査や会計士によって不正会計が早期に 発見されていれば被害が最小限に留められたと考えられる。リーマンも証券化して住 宅バブルがいつ終わるか分からないリスク商品を隠して販売していることが分かれば、

これまで大量市場に出回ることもなかったのである。こうした観点から、内部統制を 有効に機能させるためには外部監査人の役割が不可欠な要素であったと思われる。

       

12「中證網:防範未然完善上市公司內控機制」(中国証券ネットワーク=予防策としての上場企 業における内部統制の不完全)

(http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/cs.xinhuanet.com/p1/01/200907/t20090728_216383 6.htm)2010,7,27 検索。

2.3.3 内部統制の規制緩和と強化

以上で我々は、内部統制が機能しなかった原因を分析することを通じて「法制度再 整備」の重要性を明らかにした。ここでは、内部統制に関する規制緩和、規制強化に ついて検討する。まず、世界大恐慌以降のアメリカにおける金融規制に関する歴史的 展開について概観することにする(表 2-3)。

アメリカ政府は 1933 年、グラス・スティーガル法を制定し、銀行業務と証券業務の 分離を明確に定めた。すなわち、銀行が受け入れた預金をハイリスク投資することを 禁止したのである。その後、アメリカ経済の発展や新自由主義の台頭、浸透などを背 景として、こうした分離型の金融システムの非効率性が目立つようになった。

アメリカでは、1970 年代「金融革新」と言われる大幅な規制緩和を進めたが、それ をもっとも象徴するのが 1999 年に制定されたグラム・リーチ・ブレイリー法である。

銀行本体による証券業務の禁止を残しこの新法に置き換わり、業態間の壁のほとんど が取り払われたのである。

ところが、2001 年 12 月に生じた当時アメリカ史上最大の経営破たんが株価の急落、

投資家の資本市場に対する不信を招いた。これを契機として 2002 年 7 月には内部統制 の強化を内容とする SOX 法が制定された。これは、1970,80,90 年代を通じて進めら れてきた金融緩和の動きを逆転させるものとなった。

SOX 法では、上場企業に対して内部統制報告書を提出させるだけではなく、外部監 査法人による内部統制監査報告書の提出を義務づけた。こうした規制強化も、サブプ ライムローン問題を発端として生じた金融危機に対して十分には機能しなかったこと を意味している。

景気刺激のためにアメリカ政府が導入した金利引き下げや大幅な貸付といった金融 緩和政策は、サブプライムローンの拡大に繋がっただけではなく、投資銀行には、収 益拡大の機会を提供したのである。投資銀行では資産・負債を裏付けとして発行した 証券化商品を大量に投資家に販売しただけではなく、自らも保有した。当時の大手投 資銀行リーマン社も多額のこうした証券化商品を保有していた。ところが、金利上昇 は不動産価格の下落、景気悪化、金融機関の破たんを含む金融危機を招くこととなっ た。

こうした、金融危機、経済危機の経験を踏まえ、現アメリカ大統領政権では、2010 年 7 月「金融規制改革法」を成立させた。そこに盛り込まれた規制強化策は金融シス

テムの安定化に寄与することが期待されるが、一方金融機関の収益を圧迫し、経済の 活性化を阻む側面もあると考えられる。それでも、金融規制・監督の強化はリスク管 理上有利であり、投資家にも安定的投資という期待を抱かせるものであると考える。

表 2-3 金融規制改革の歴史

出所:筆者作成

以上で、我々はエンロン事件とリーマンショックの両事件において、内部統制が効 かなかった原因について分析した。この二つ事件を契機にアメリカでは SOX 法と金融 規制改革法を成立させた。しかし、内部統制の構築や実行だけで経営者の不正行為が 本当に防止できるのか。エンロン事件の場合では多くの外部取締役がいたにもかかわ らず、絶大な権力を持つ CEO の存在によって内部統制に関するチェック機能を果たす ことができなかった。本節ではこれまでの分析結果を踏まえ、その法制度に対する影 響について示唆を得る。

2.4 企業統治に関する法制度の改定・強化・対策対応

2.4.1 エンロンの企業統制が機能しなかった理由

アメリカの企業統制からみると、従来アメリカでは株主の存在が大きく、株主総会

開始時期 背景となる事象 規制強化・緩和

1933年 グラスースティーガル法成立 銀行業務と証券業務の明確な分離を

定めた。 規制強化

1992年 開放

1999年 金融制度改革法 銀行と証券業の兼業を廃止 規制緩和

2001年 同時多発テロ、エンロン事件

2002年 SOX法制定 内部統制報告書を提出する義務付き 規制強化(不備ある)

2007年 サブプラムローン 2008年 金融危機

2010年 ギリシャ危機

2010年 金融規制改革法案 1、高リスク商品への投資を制限、2、

金融機関が大きくなりすぎるのを防止 規制強化

を通じて経営者に対するチェック機能を発揮することができていた。また、1980 年代 頃から年金基金や投資信託といった機関投資家が大株主となり、株主総会で発言力を 高め、株主提案を行うなど、様々な形で圧力を加えることを通じて経営者に対するチ ェック機能が働くようになった。しかし、エンロンではこうした企業統制の機能が十 分には働いていなかったことが明らかとなった。

さらに、エンロンの場合では CEO の権限が強いであったことは、以下で象徴的に示 すことができる。第一に、株主総会で選出するはずの取締役候補も事実上 CEO が候補 者を決める形になっていたことである。第二に、CEO をチェックするはずの社外取締 役も、CEO 自身がその会社の社外取締役を兼ねて、或は CEO と個人的関係に親しい学 者、政治家、弁護士である場合が多かったことである。第三に、取締役会にある指名 委員会において次の CEO を指名する役割を果たす取締役候補者を決める際にも、CEO が取締役会会長として大きな力を持っていたことである13

こうした組織であったため、企業統制機能は働かず、いわんや内部統制機構を構築 しても骨抜きの形をとらざるをえなかったことがエンロンの破綻を導いたと考えるこ とができる。エンロン事件は、内部統制に限界があることを典型的に示すものと言え よう。

2.4.2 リーマンショックを契機とした金融規制改革

2008 年 9 月に金融危機が勃発する前には SOX 法の法域を拡大する動きについての議 論が起きていた。2007 年からサブプライム問題に端を発し、CDO(債務担保付証券)、

CDS(Credit default swap)、といった新型金融商品が何ら規制を受けずに導入された ことがファイナンス市場で混乱を起こすのではないかと危惧されはじめ、市場の原理 に任すべきか、法の規制を設けるべきかといった議論展開されてきたのである。

2010 年 6 月から 7 月にかけてアメリカ上下両院で可決され、7 月 21 日に成立した「金 融規制改革法」では銀行、証券、保険、商品先物など幅広い分野を網羅し、企業の業 務規制について定められた。その内容として挙げられるのはたとえば、ボルカ-ルー ルの導入、銀行・保険システムの改革、ヘッジファンドと格付機関に対する規制、デ リバティブと証券化商品市場に関する規制、消費者保護に関する規制などである。

       

13奥村宏『エンロン衝撃―株式会社の危機』NTT 出版株式会社、2002 年、pp.60-63。