日本では 2011 年 10 月末に大王製紙、オリンパスなど一連の企業不祥事が生起した。
オリンパスや大王製紙の不祥事によって日本の企業経営の透明性に対する国際的不信 感が高まってきた。特に、両事件にはいずれも金額が大きく、経営者が関与した不正 行為という共通点があった。例えば、オリンパスの場合には 20 年にわたる損失を隠す ため飛ばしや巨額買収費で損失を穴埋めしたことが明らかになった。また、大王製紙 の場合は、創業者一族の井川前会長による子会社からの 106 億円超の借り入れを許し ていた。これらの不法行為は日本企業の統治のあり方を再考する好機となった。した がって、本章では両事件から見て日本の企業統治に関する問題点を分析していく。具 体的には、2011 年に生じた大王製紙とオリンパスのケースについて検討していく。そ して、日本の企業統治の仕組みについて、特に組織面及び法律面を中心に考察してい く。さらに、企業経営を規律づけるさまざまな方策、例えば、社外監査法人導入の義 務化などについて考察していく。最後に、両事件を中心に企業統治のあり方について 再検討したうえで、組織の有り方、法的有り方に対する提言を行う。
3.1 日本における企業不祥事のメカニズム
日本ではオリンパスと大王製紙など一連の不祥事が生じた。オリンパスの内視鏡事 業は高い技術力と専門性をもち、シェアも 7 割と突出している。また、外国の株主も 結構多い。しかし、今度のような事件が起きた結果、外国の株主は日本の企業統治に 対する不信感が高まっている。なぜ、企業経営トップを牽制する機能が働かないのか。
また大王製紙の場合では、なぜ、子会社が会長の私人口座へ送金できるのか。本節で はオリンパスと大王製紙のケースを中心にこれらの不祥事が発生するメカニズムにつ いて検討していく。
3.1.1 オリンパスにける粉飾の手口
2011 年 11 月 8 日に、オリンパスは過去の企業買収をめぐる巨額支出について、損 失計上を先送りしてきた有価証券の含み損を隠すために利用していたと発表した。こ うした、オリンパスは不適切な決算を出していたことが明らかになった。
この事件の発端は 1990 年代のバブル崩壊に伴う経済環境の激変により日本の多く の企業は苦境に陥っていたことである。オリンパスも例外ではなく、有価証券におい て数百億円規模の含み損が出ていた。当時の企業会計においては一部例外があるもの の含み損を表面化させる必要ではなかったが、2000 年から時価会計基準が導入された。
時価で計上すれば、隠し続けてきた含み損を一括計上して公表しなればならなくなっ た。しかし、オリンパスは含み損を公表すれば、会社の決算や株価に影響を与えると 判断し、損失を含めて一時的に有価証券を他社に買い取ってもらう手法で隠蔽した。
この手法はいわゆる「飛ばし」である。
オリンパスは図3-1 の示すように、まず、オリンパスが預金や国債を担保に、外 国銀行から融資を引き出した。そして、伊藤・桑原(2011)によれば、融資された金 額を信託銀行やファンドを介して匿名化させ、出資金という形で受皿ファンドに注入 する。担保にいれただけなので、オリンパスから資金は流出しない一方で、受皿ファ ンドには金が流れる。これを用いてファンドはオリンパスが保有し、含み損を抱えた 金融商品を買い取るのである。オリンパスは含み損を抱えた有価証券などを手放し、
代わりに簿価相当の現金を受け取ることで、一時的に健全な状態を装うことができる。
しかし、受皿ファンドの資金は銀行からの貸し付けであるから、返済が必要である。
したがって、オリンパスはこの含み損の解消に向けた新たな計画に着手する。2008 年 に行われたのは、二つのルートの巨額買収を利用した損失穴埋め資金の捻出であった。
図 3-1 損失飛ばしの手法-オリンパスの場合
出所:伊藤崇浩、桑原幸作共著「瀬戸際オリンパス」『東洋経済』東洋経済新報社、第 6366 号、2011 年 12 月 17 日、p.20 を参考して筆者作成。
伊藤・桑原(2011)によれば、一つのルートは英国の医療器械メーカ、ジャイラス を買収するときに、M&A の助言会社に報酬として優先株を発行したケースである。そ
オリンパス 有価証券
外国銀行 SPC
特別目的会社 含み損の受け皿
ファンド
して、2010 年 3 月に優先株を約 3.5 倍の高値で買い戻した。報酬として 600 億超を支 払った。また、もう一つルートは 2006 年から 2008 年までに、約 732 億円でアルティ ス、ヒューマラ、NEWS CHEF 三つのベンチャー企業を買収したケースである。オリン パスは買収関連費用を装って流した資金で損失の穴埋めに充当した。こうして、2011 年 3 月にすべての含み損が解消したと見られている。しかし、オリンパスの事件から みると隠蔽行為は必ず破綻する方向に動く可能性が高いことが証明できる。
3.1.2 大王製紙における不正行為の要因分析
今回の事件が発覚する契機となったのは、大王製紙に関連するティッシュやキッチ ンタオルの製造子会社、赤平製紙の部長から届いた一本の電子メールであった。特別 調査委員会の調査結果により、創業者の 3 代目である井川意高前会長が 2010 年 5 月か ら 2011 年 9 月までの間に計 26 回にわたり、約 106 億円を連結対象子会社から借り入 れたことが分かった(大杉、2011)。さらに、貸付金は前会長の個人的使途に充てられ ていたのである。
大王製紙では、国内連結子会社 35 社のうち本体が 50%超の株式を持つのはわずか 3 社であった。残りの 32 社は創業者個人やそのファミリー企業が過半を握る。また、連 結子会社の株式保有比率を 15%前後にとどめているため、創業者一族が子会社の主た る株主であると言える15)。それ故、創業者がグルーブ全体を支配する構造になり、グ ルーブ会社の社員は会社に対してではなく創業家に対して帰属意識を有していたと言 っても言い過ぎではない。
しかし、今回の事件は電話 1 本で子会社役員に送金を指示することができ、創業者 一族の絶対的支配が前会長の暴走を許す背景にあったと指摘することができる。事件 発覚後に設置した第三者委員会は、前会長父子が非常に強い支配権を握る特別の存在 であり、グルーブ内ではトップの指示には当然従うという体質が出来上がっていたと 指摘している。
大王製紙は 2011 年 12 月 14 日に、井川前会長の巨額借入事件を受け、再発防止策を 発表した。今回の件では、前会長や前顧問など創業者が強い影響力を持つことが事件 の原因であると認識された。創業者が持つ子会社株式を買い取り、影響力を弱めるこ
15) 「大王製紙が発表 4~9 月赤字 28 億円、不祥事の再発防止策」『日本経済新聞』2011 年 12 月 15 日、朝刊、p.9。
とを目指す。さらに、社外取締役の選任や内部通報窓口の外部移管、監査役機能の強 化などは最大の焦点と考えられる。
3.1.3 日本企業統治形態の問題点
上記 3.1.2 では日本企業の企業統治の実態について説明している。これらの実態か らみると日本企業の企業統治形態は企業内部のメンバーが中心となっていると考えら れる。また、これらの実態は日本の企業に対して大きな影響を与えている。次に、企 業統治に関する問題点について説明する。
1) 経営者の独裁経営
上述したように、会社法では、企業の所有者である株主の権利が現実に制限されて きた。それ故、経営者は株主から牽制されることがなくなり、自由に企業を経営して きた。また、仲本(2009)が考察したような、「企業が株式発行に代表される直接金融 へ資金調達を次第にシフトさせていくにつれ、メインバンクのけん制力は弱まってき た。」さらに、労働組合に対する労働者のニーズの多様化、組織率の低下などによって 労働組合のパワーは低下していく。こうした現状において企業では、経営者に権力が 集中し、経営者の暴走に歯止めがかけられなくなり、企業の崩壊に至るまでの問題が 起きるようになってきた。
2) 取締役の独立性の欠乏
日本企業の取締役は、同じ人物が取締役でありながら社内の役職を兼務することが 慣例である。しかし、この場合には取締役が日常の経営を厳密にチェックすることが できなくなっている。また、取締役は代表取締役である経営者を監督する役割も担っ ているが、現実には経営者に対して上司との意識を強く持っており、経営者の意思決 定や行動をチェックしたり牽制したりすることは殆ど不可能である。取締役は課長や 部長の上にある出世の上級地位という位置づけられたため、従業員の期待に応えるた めに、企業側は取締役の人数を増やすことになり、取締役の肥大化という問題が生じ ることとなった。さらに、取締役そのものの形骸化につながるようになる。
本節では、日本企業の企業統治の実態や問題点などについて説明してきた。今回、
オリンパスと大王製紙の事件が起きることは、日本の企業統治に対して問題点が存在 していることを証明している。次に、今回起きた事件の経緯や背景につて説明してい く。