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クラウドコンピューティングと内部統制

 

前章では情報処理開発協会と株式会社情報通信研究所は 2008 年 3 月と 2009 年 7 月 に公表した IT 統制に関する実態調査の結果と 2009 年 3 月期の内部統制報告書の実態 調査の結果による、企業が IT 統制を導入すれば、IT 専門人員の負担や内部統制に要 する費用が膨大になることを明らかにした。これら問題点を改善するために、本章で は、クラウドコンピューティングを利用すれば、如何にこれらの問題点を改善できる のかについて論じる。まずクラウドコンピューティングの基本的枠組みを中心に考察 を行い、クラウドコンピューティングの利用上のメリットとデメリットについて検討 する。そして、内部統制の有効性を向上させるため、いかにしてクラウドコンピュー ティングを活用するのかについて検討していく。しかし、クラウドコンピューティン グを利用すれば、IT 活用に要する費用を減らすことができるとしても、情報漏れなど の問題が生じる恐れがある。最後にこれらの課題について提言を行う。

8.1 クラウドコンピューティングの基本的枠組み

武井(2009)によれば、2007 年末、クラウドコンピューティングと言う言葉がインタ ーネットで議論されている。特に、2006 年から 2009 年にかけてクラウドコンピュー ティングと言う言葉がネットで大量にリサーチされ、2008 年の第 3 四半期には、ピー クに達していた。その理由は、IBM 社が 4 億円ドルの資金を投資し、アメリカと日本 でクラウドコンピューティングのデータセンターを構築する予定であったことである。

2008 年の第 4 四半期には、マイクロ社もクラウドコンピューティングに関連する商品 の開発などを発表した。この二つの大手会社を契機としてクラウドコンピューティン グの発展が重視されてきた。したがって、本節では、クラウドコンピューティングの 基本的枠組み及び情報処理の環境変化について説明する。

8.1.1 クラウド登場の背景

クラウドの評価は極端である。登場してからかなりの時間が経った今も、用いる人 によって定義が異なる言葉である。したがって、クラウドを定義するまえに、情報処 理の環境変化について紹介する。情報処理の環境は時代に伴って変化してきた。

表 8-1に示したように、1970 年から 1980 年までは、コンピュータがまだ高価な時 代であった。企業には諸点にコンピュータを設置することなどは不可能であった。当 時、メインフレームと呼ばれる大型のホストコンピューターを中央センターに設置し、

各端末はそれにアクセスして処理してもらうという形態が一般化していたのである。

その後、1990 年代に入ると、今度はエンドユーザー側で処理を行うのが主流になっ てくる。コンピューターそのものの価格が安くなり、一般のユーザーにも操作できる レベルにまで機能が改善され、企業でも個人用の端末が大量に導入されるようになっ たのである。この結果、従来はホストコンピューターで行っていたような作業でも、

個人の端末で処理できることになった。それ以降、個々の端末の独立性はますます高 まり、高機能化が進んでいった。

さらに、2000 年代に入ると、インターネットの発達によってクラウドコンピューテ ィングは誕生した。八子(2010)では、近年、ネットワークの処理速度が劇的に速くな ったとはいえ、処理したい情報がネットワークの向こう側に膨大に存在する場合には、

ユーザーの端末だけで処理することが難しくなってくる。そこで現れてきたのがイン ターネットを介して、データセンター側で効率的に情報を処理するという技術である。

以上のプロセスを経て、もともと 90 年代のセンター側に集約されていた情報処理能 力は、一度エンドユーザー側の高機能な端末に移行したものの、結果として 2000 年代 後半には再びセンター側に戻っていくことになった。しかし、これはホストコンピュ ーターの時代に逆戻りすることではなく、ユーザーはどんな場所に居ても、インター ネットを介して自分に必要な情報を活用することができるのである。これがクラウド のイメージである。次に、情報処理の流れに基づいてクラウドの定義とサービスの種 類について説明する。

表 8-1 情報処理の環境変化

出所:筆者作成

時代 情報処理の変化 イメージ

1970年-1980年代 メインフレームの時代 センター処理

1990年代 エントユーザコンピューティング ローカル処理

2000年-現代 クラウドコンピューティング センター処理

8.1.2 クラウドの定義と分類

クラウドという言葉はグーグル社の CEO であるエリックシュミットが 2006 年に講演 した際に、初めて使った言葉である。インターネットを表現する時に、雲の絵を描い て表現する。クラウドとはインターネットそのものがコンピュータになるという考え 方である。要するに、クラウドとはこれまで個々のパソコンや社内サーバーで行って いた情報処理をインターネットを通じて外部の巨大サーバーに行わせる方法である。

現在、クラウド・コンピューティングサービスには、2 つの分類法があり、1 つはコン ピュータの階層に合わせて、3 つのタイプに分類することができる。もう 1 つは利用 者に制限があるかないかで分類する。以下ではこの 2 つの分類形態について説明する。

城田(2009)は、クラウドはサービスの分類により、1)SaaS(Software as a Servic)、 2)PaaS(Platform as a Service)、3)IaaS(Infrastructure as a Service)という 3 つ のタイプに分類することができる。SaaS を直訳すれば、サービスとしてのソフトウェ アである。いわゆる、アプリケーション・ソフトウェアをインターネット経由で提供 するサービスである。主なユーザーはエンジニアや開発者ではなく、一般のビジネス マンである。

PaaS はサービスとしてのプラットフォームである。プラットフォームとは、アプリ ケーションの開発環境やソフトウェアのための基本的部品のことである。PaaS の場合、

サーバーやストレージなどのハードウェアと開発・運用のプラットフォーム、開発環 境や開発ツールがセットで用意されている。エンジニアはこれらをネット経由のサー ビスとして利用し、利用分について費用を支払うのである。

IaaS はサーバーやストレージなどのハードウェアをインターネット経由で提供する サービスである。主なユーザーはエンジニアである。企業向けの IaaS を利用すれば、

これまでのように企業が自らハードウェアを購入する必要はないのである。

また、利用者対象について、1)パブリッククラウドと 2)プライベートクラウドに 分類されている48)。前者は広く一般に誰でも利用できる開かれたクラウドコンピュー ティングの環境を指す。後者は企業クループなど特定の利用者向けの環境を指す。

8.1.3 クラウドを支える技術とその影響

       

48) 森洋一『クラウドコンピューティングー技術動向と企業戦略』オーム社、2009年、pp.95-97。 

クラウドでは沢山のユーザーからのリクエストや業務アプリケーションの動作をリ アルタイムで処理しなければならない。武井(2009)は、このような処理は1)仮想化 と 2)分散処理という2つの技術に支えられている。ここではこの2つの技術につい て説明する。

1) 仮想化

仮想化とは、1 台のサーバーで複数台のサーバーのように機能させたり、あるいは 複数のサーバーのリソースを利用したりして、より大規模なサーバーを作成し提供す ることである。この技術を応用すると、パフォーマンスの低下が起こっているサーバ ーに優先して処理能力を割り当てることができる。また、アプリケーションを動かし ていたあるサーバーで障害が起こった場合でも、瞬時に他のサーバーに同一の処理を 移行させることができる。このように、サーバー処理をいとも簡単に他のサーバーに 代替させることができる。

2) 分散処理

データ分散処理技術とは、ネットワークに接続された複数のコンピュータのストレ ージに置かれたファイルを仮想的に統合して利用する技術である。グーグル社が開発 したハドゥープがその代表的な技術である。ハドゥープを利用して、ユーザーの処理 要求を受け取る時に、それを小さな処理ファイルに分解して、サーバーにばらまく。

ばらまかれた先のサーバーは直ちに計算・処理を行い、結果を送り返す。このように、

1 台のサーバーで処理を行うと多くの時間がかかるような大規模な処理でも、多くの サーバーに分散させればすばやく効率的に処理することができる。

仮想化とデータ分散化技術によって、クラウドが促進されようとしている。仮想化 で情報処理能力が高まっていく。このように便利な仮想化を使うとなると、コストも 高くなると思われる。しかし、逆に企業がシステム構築の際に必ずかかっていた費用 は大幅に削減されると考えられる。企業の IT コストも軽減できる。したがって、仮想 化と分散処理の技術は、ネット経由で情報処理を行うクラウドにとって不可欠なもの である。

本節では、クラウド登場の背景、定義及びサービスの種類について説明するととも にクラウドを支える技術などについて述べた。次に、このような技術とサービスなど のメリットとデメリットについて考察を行う。