VI. ANSI/ANSの基準
1) SA時に起こりうる事故の特徴
本検討においては、BWR-5/Mark-II型格納容器をもつ110万kWe級BWRプラントを対象とした。まず、
BWR-5/Mark-IIプラントの特徴について説明し、本プラントのSA時に起こりうる事故の特徴について 述べる。
BWR-5/Mark-IIプラントの特徴
BWR5/Mark-IIプラントにおける主要な安全設備の構成の概要を参考資料Iに示す。以下、対象プラン トの事故時に作動する工学的安全設備について述べる。このプラントに備わる非常用炉心冷却設備は、
高圧炉心スプレイ系(HPCS)、低圧炉心スプレイ系(LPCS)、低圧注水系(LPCI)、自動減圧系(ADS)
で構成されている。また炉心冷却に利用できるその他の設備としては、原子炉隔離時冷却系(RCIC)
及び給復水系がある。また、原子炉停止時の崩壊熱を除去するための残留熱除去系は、3ループで構成 され、このうち2ループは熱交換器を有している。残留熱除去系の主要な運転モードとして原子炉内の 崩壊熱を除去する原子炉停止時冷却モード、格納容器内の崩壊熱を除去する圧力抑制プール冷却モー ド及び格納容器スプレイモードなどがある。また非常用ディーゼル発電設備は、非常用ディーゼル発 電機2基とHPCS専用のディーゼル発電機1基で構成される。原子炉内の過度の圧力上昇を防止するた め、主蒸気管には逃がし弁と逃し安全弁がそれぞれ18個あり、一定の設定圧を超えると炉内の蒸気を 格納容器内の圧力抑制プールへ放出する。格納容器は、上部のドライウェル(D/W)と下部のウェッ トウェル(W/W)に区分され、W/Wには圧力抑制プールがある。D/WとW/Wは鉛直のベント管で連結 され、配管破断等によりD/Wに蒸気が放出されるような事故時には、蒸気はベント管を通って圧力抑 制プールで凝縮される仕組みとなっている。格納容器は、全体が原子炉建屋で囲まれており、事故時 には格納容器が健全であれば微小な漏洩があっても、原子炉建屋内の空気は非常用ガス処理系のフィ ルタを経てスタックから環境へ放出される。ただし、格納容器が過圧破損する場合には、原子炉建屋 内の圧力が急上昇するので原子炉建屋のブローアウトパネルが開き、そこからFPが環境へ放出される ことになる。
事故の特徴
事故の特徴については、(財)原子力発電技術機構(以下、NUPEC)で実施され公開されているこ とから、以下では、これら公開文献(INS, 2003)に基づき説明する。
BWRプラントのシビアアクシデント時に発生しうる事故のシナリオは、炉心損傷を防止するための システムや運転操作の成功/失敗の組み合わせを表す炉心損傷事故シーケンスと格納容器がどのよう な物理現象で破損するかを表す格納容器破損モードの組み合わせで決定される。例えば、日本原子力 研究開発機構(以下、原子力機構)の評価では、炉心損傷事故シーケンスが52個、格納容器破損モー ドが10個程度を想定しており、事故シナリオの数は、多数存在する。そのため事故進展など事故シー ケンスの類似性に基づいて分類し、グループ化することによりプラント評価を効率化させている。グ ループ化したものは、プラント損傷状態(PDS)と呼ばれ、それに属する代表的な事故シーケンスに 対し、ソースターム解析を実施している。炉心損傷事故シーケンスの分類で用いられる記号一覧を付 表II.1、PDSを代表する事故シーケンスとその概要を付表II.2に示す。また、格納容器破損モードの概 要を付表II.3に示す。
BWR5/Mark-IIプラントで発生する事故の特徴については、全格納容器破損頻度(アクシデントマネ ージメント策整備後)5.6×10-8 [/炉年]に対する事故の内訳を参考資料IIに示す。プラント損傷状態別に みると、崩壊熱除去失敗のTWが、全体の91%であり、続いてLOCA時注水失敗のAE、格納容器バイ パスであるインターフェースLOCA(ISLOCA)のVの順番となる。また、格納容器破損モード別にみ ると、全体の67%を水蒸気による過圧破損(θ)が占め、続いて格納容器ベント(υ)、漏洩のみ(事 故終息:ψ)、水蒸気・非凝縮性ガスによる過圧破損(δ)と続く。また、環境への放出量が多く、放 出開始時刻も早い水蒸気爆発等のエナジェティック現象については、全体の0.06%程度である。
2) ソースターム情報
ソースターム(環境へのヨウ素の放出割合と放出開始時刻)の特徴について説明する。SA解析コー ドMELCORによるBWR5/Mark-IIプラントを対象としたソースターム評価結果を付図II.3に示す。この 図は、初期炉内内蔵量に対する環境へのヨウ素の放出割合、環境への放出開始時刻、発生頻度を事故 のシナリオ毎に示している。また、同図にはTHALES2コードによる原子力機構の解析結果についても 記載した。ここで、発生頻度については、全格納容器破損頻度に対する割合で示した。これより環境 へのヨウ素の放出割合は、以下の3つの放出パターンに分類できる。
大規模放出
エナジェティック現象、過圧破損、ISLOCAの事故シナリオがこの分類に属し、初期炉内内蔵量の10%
程度のヨウ素が環境へ放出されるものである。これらの事故は、炉心全体が溶融し、溶融した炉心が 圧力容器外に放出された上で格納容器が大規模に破損する場合の結果である。
エナジェティック現象による格納容器破損については、図において水蒸気爆発(TQUV-α他)、高圧 溶融物噴出(TQUX-μ他)、DCH(TQUX-σ他)が該当し、これらは早期大規模放出シナリオと呼ば れている。環境への放出開始時刻も早いが、発生確率はかなり低い。過圧破損については、非凝縮性 ガス及び水蒸気による格納容器の過圧破損と水蒸気による格納容器の過圧破損の2つが存在する。非凝 縮性ガス及び水蒸気による格納容器の過圧破損(TQUV-δ他)については、環境への放出開始時刻に はある程度(10時間以上)猶予があることから、後期大規模放出シナリオと呼ばれている。また、水 蒸気による格納容器の過圧破損(TW-θ及びTC-θ)は、炉心溶融前に格納容器が破損することから、
格納容器先行破損シナリオと呼ばれている。TW-θは、環境への放射性物質の放出量は比較的多い部 類に属し、発生頻度もBWR5/Mark-IIプラントにおいては最も高いが、環境への放出開始時刻が40時間 以上と極端に遅いことから、個人リスクの観点からは重要ではない。ISLOCAについては、低圧系配管 の隔離弁故障による格納容器バイパス事象であるので、放出開始時刻も比較的早いが、高圧炉心スプ レイ系の作動により、12時間程度まで放出開始時刻を遅らせることが可能との知見もある。
中規模放出
格納容器ベントは、格納容器の過圧破損を防止するため、格納容器内雰囲気を圧力抑制プールを経 由させ雰囲気中の放射性物質を低減させた後に排気筒から環境へ放出させるものである。格納容器ベ ントは運転員の管理の下において実施されることから管理放出とも呼ばれている。付図II.3においては、
TQUV-υ-l他が該当し、10-5~10-4程度の放出であるが、この放出量は格納容器ベントを実施するタイミ
ング(ベントの作動時期)に影響する。格納容器ベント実施は運転員の判断に委ねられているが、格 納容器の圧力が最高使用圧の2倍程度となり、他に事故復旧操作がない場合にのみ実施されるものであ る。実施のタイミングは、事故のシナリオやそれまで実施した事故復旧操作によって異なるが、10数 時間程度の時間的猶予は存在する。また、原子力機構の結果に比べNUPECの結果が一桁小さいのは、
格納容器ベント実施前に格納容器スプレイを作動させたことによるものである。
微小な漏洩
格納容器スプレイの作動等の事故復旧操作により格納容器内の圧力を低く抑えることで事故終息に 至る。格納容器は破損しないことから環境への放射性物質の放出は、設計漏洩のみとなる。付図II.3 においては、TQUV-ψ-l他が該当し、10-8~10-7程度の放出であるが、事故復旧操作の内容によって放 出量は異なり、格納容器スプレイの作動を作動させれば雰囲気中に浮遊する放射性物質を低減させる ことが可能であるので、設計漏洩による環境への放出量は減少する。放出開始時刻は、比較的早いが 長時間(この結果は24時間)にわたり放出されるので、放出率としては微小である。また、原子力機 構の結果に比べNUPECの結果が二桁小さいのは、格納容器スプレイ作動のタイミングの違いが影響し ている。原子力機構では、WASH-1400のポンプ復旧時間19時間に基づき20時間で格納容器スプレイが 復旧するとしたのに対し、NUPECでは圧力容器破損直後(3時間程度)から格納容器スプレイを作動 させたものである。
ここで、環境への放射性物質の放出割合及び環境への放出開始時刻については、公開文献より抽出 可能であるが、事故のシナリオ数が多いことから発生頻度については、PDS別、格納容器破損モード 別に積算された情報のみが記載されている(付表II.4及び付表II.5参照)。そのため付図II.3記載の個別 シナリオの発生頻度については、限定された情報をもとに推定した値を使用している。発生頻度は、
以下のように推定した。まず、文献に基づき全てのシナリオを特定させ、そして炉心損傷頻度にPDS に応じた破損モード毎の重み付け量を乗じ、全ての事故シナリオの発生頻度を算出するが、PDS別及 び破損モード別に積算した値との整合性を保つように調整を行っている。ここで、PDSに応じた破損 モード毎の重み付け量は、格納容器イベントツリーの分岐確率の情報(付表II.6参照)から決定してい る。
3) 環境影響評価用に選定した事故シナリオ
上記の結果から、防護措置検討のために環境影響評価用に選定した事故シナリオは、ソースターム