今回OCT1標的遺伝子として同定した5遺伝子はいずれも細胞周期・細胞分 裂に関わることや腫瘍の増殖・促進に関わることが報告されている(図19)。
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KIF15 はキネシンスーパーファミリーに属する細胞分裂に働くモーター蛋白
である(67)。KIF15は細胞分裂においては微小管上を動くことで染色体の分裂に
働く(68)。前立腺癌に関する報告はないが、膵癌でMEK-ERK経路を介して腫瘍 の増殖に働くことや、膵癌や乳癌ではKIF15の高発現が予後増悪と相関するこ とが報告されている(69,70)。
NUF2はNDC80、spindle pole body component 24 (SPC24)、spindle pole body component 25 (SPC25)とNDC80複合体を形成し動原体蛋白として機能 する(71)。前立腺癌で発現が上昇するcancer testis antigenの一つとして報告が
ある (64)。Cancer testis antigenは正常では精巣から分泌され、癌により異所性
に分泌されるという性質を利用して予後予測因子や治療標的として研究されて いる(72)。CRPC に対するペプチドワクチンを用いた癌免疫療法の標的として臨 床試験が進められている(73)。
NCAPGはstructural maintenance of chromosomes protein 2 (SMC2)、
structural maintenance of chromosomes protein 4 (SMC4) 、 chromosome-associated protein D2 (CAP-D2) 、 chromosome-associated protein H (CAP-H)とともに5量体を形成し、condensin Ⅰ complexとして機 能する(74)。Condensin complexには condensin Ⅰ complexおよびcondensin
Ⅱ complex があるが、いずれも細胞分裂においては染色体の凝集に働く(75,76)。
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DLGAP5はチューブリンを重合しシート状にすることで微小管の形成を促進
することや(77)、微小管と動原体の結合を行う動原体蛋白として機能する(78)。細 胞周期に関わる遺伝子の発現量が前立腺癌の予後予測因子となり得ることにつ いては、cell cycle progression (CCP)スコアを用いた報告がある(79)。CCPスコ
アは 31 個の細胞周期に関わる遺伝子の発現量の平均値をもとに算出する値で、
CCPが高値であることが前立腺癌の再発率と相関することが報告されている。
今回同定した遺伝子のうちDLGAP5はCCPスコアで利用されていた。
ANLN はアクチンやミオシンの結合タンパクである anillin を転写している
(80)。細胞分裂の終期に細胞を二つに分ける収縮環はanillinがアクチンやミオシ ンと相互作用して形成される(81)。
細胞周期・細胞分裂を制御する遺伝子の発現量が増加することで細胞の増殖
能の亢進に働き得ると考えMTS assayを行い評価したが、22Rv1細胞で腫瘍の 増殖に働いているのは NUF2 のみであった。ANLN についてはこれまでに
22Rv1細胞を用いてsiRNAにより発現を抑制することで増殖能が抑制されるこ
とが報告されていた(63)。また、KIF15、NUF2、DLGAP5は22Rv1細胞の遊走 能の亢進に働いていたが、これらの遺伝子が細胞の遊走に働く機序の解明につ いてはこれからの課題である。これらの遺伝子は細胞分裂においてはモーター タンパクや動原体蛋白として微小管を制御することで働くことが報告されてお
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り(67,71,77,78)、細胞の遊走に関しても微小管の運動を介して作用している可能性
も考えられる。今回の検討ではNCAPGがCRPCモデル細胞の遊走能ならびに 増殖能へ与える影響は明らかとならなかった。一方で NCAPG の発現増加が前 立腺癌の予後増悪に働く報告があることから(65)、抗アポトーシス作用や薬剤抵
抗性の獲得、微小環境との相互作用など、別の機序によりCRPC の進行に関与 する可能性が考えられた。
一方で、興味深いことに、AR と細胞分裂については transforming acidic coiled-coil-containing protein 2 (TACC2)やubiquitin-conjugating enzyme E2
C (UBE2C)などのAR下流遺伝子が報告されており、CRPCにおけるARの標
的遺伝子群として細胞分裂に関する遺伝子が重要であると考えられている(82,83)。
以上より、OCT1はARと協調作用をすることで、細胞分裂に関わる遺伝子の 転写を促進している可能性が示された。本研究は、CRPCにおいてOCT1 およ び AR がこれらの遺伝子発現を制御することを初めて見出しており、OCT1 の CRPCにおける新たな知見を得たものといえる。
臨床的には、細胞周期や細胞分裂を標的とする前立腺癌の治療法としては、
ドセタキセルやカバジタキセルによる化学療法がCRPCに対して有効であるこ とが知られている。これらはタキサン系の抗癌剤で微小管を阻害し、有糸核分 裂や輸送などの機能を障害することでアポトーシスを誘導している(84)。今回同
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定した5 遺伝子のうち、NUF2 と ANLN はCRPCでの細胞増殖を促進してお り、前立腺癌細胞、特にCRPC細胞内における細胞周期及び細胞分裂における 機能の解析からCRPCの新たな治療法開発や治療標的となり得ることが考えら れた。前立腺癌における報告はないが、繊維芽細胞を用いた報告では OCT1 の 発現により抗癌剤のドキソルビシンに対する感受性が低下することが報告され ている(52)。この報告では、phosphatase buffered saline (PBS)を加えた場合に 対するドキソルビシンを加えた場合の細胞数を用いてドキソルビシンによる細 胞増殖の抑制を評価しており、OCT1 が欠損した細胞ではコントロールの細胞
に比較し増殖能が抑制されることから OCT1 がドキソルビシンに対する感受性 低下に働くとしている。前立腺癌においても OCT1 が化学療法に対する抵抗性 に働く場合には、OCT1 の発現が増加した前立腺癌に対しては化学療法よりも
OCT1 あるいは今回同定した遺伝子を標的とする治療が有効になる可能性が考 えられた。
限局性前立腺癌に対しては根治的な治療として前立腺全摘除術や放射線治療 が適応になり、低リスクの限局性前立腺癌に対しては過剰治療を避けるために 監視療法も適応となっている(85)。一方で、進行性前立腺癌に対してはホルモン 療法が有効な治療法ではあるが、多くの症例で 2 年から 3 年でホルモン療法に 対する抵抗性を獲得しCRPCとなってしまう(86)。CRPCに対しては、本邦では
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ドセタキセルやカバジタキセルといったタキサン系の抗癌剤を用いた化学療法 や新規抗アンドロゲン薬エンザルタミド、CYP17阻害薬アビラテロンを用いて 加療を行っているが(85)、次第にそれらに対しても抵抗性を獲得してしまうこと が問題となっている。本邦の前立腺癌診療ガイドラインにおいて、これらの薬
物のCRPCに対する使用はいずれも推奨グレードの高い治療とされているが、
薬物の選択に関する明確な基準はない(85)。最近、個々の症例に対し最適な治療
を分析・選択するprecision medicineが世界的に注目されており(87)、前立腺癌 治療においてもその導入が望まれる。今後、OCT1 や今回同定した遺伝子が高 発現の症例に対しては、それらの遺伝子を標的とする新規治療薬を選択する precision medicineの可能性が期待される。