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第1章 設備管理技術の変遷

1.5 故障物理に基づく設備管理技術

1.5.2 LEAFの方法

(1) LEAF 手法のステップ

LEAF 手法は故障メカニズムに基づく寿命予測である。その手法はつぎの 4 つのステッ プから成り立つ。

①部品と機能の明確化とストレスの把握

②ストレスから故障へのメカニズムの明確化

③劣化予測手法の検討(検査手法、検査時期)

④寿命予測

機器を部品単位まで展開し、部品と機能との関連を整理し役割を明確にする。これによ り部品に対する機能を阻害する要因(即ちストレス)を想定することで劣化モードを検討・

推定することが可能となる。

LEAF シートの作成はストレスから出発し、劣化モードの推定、故障に至までの過程を 整理することで故障発生のメカニズムを時系列に考えることができる。このため、知見の共 有、保全技術の体系化に効果がある。故障メカニズムを明確にすることで、ストレス毎の劣 化モードを理解し、管理すべき項目の決定が可能となる。

(2) データベースの全体構造

LEAF の実行にはあらかじめデータベースを用意しておく必要がある。このデータベー スは、①機器機能展開データベース、②ストレス系データベース、③劣化モードデータベ ースから構成される。これらは、それぞれ独立なデータベースとして存在する。機器機能 展開データベースは機種毎に準備するものであり、このデータベースを充実しておけばそ の後の作成の手間を大きく省くことができる。劣化モードデータベースも同様に予め準備 するデータベースである。ストレス系データベースは設備ユーザ側の特有の機器設計条件 や使用条件・環境条件によるものであり、設備ユーザで準備する必要がある。このデータ ベースは詳細なデータを必要とするので、このためにデータを集める、あるいは測定する などの設備ユーザ側の手間を最小限にする工夫が必要である。LEAF シートを完成するた めのステップとこれらのデータベースの関係を図1.5.1に示す。

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「設備管理技術支援センター」 USER 機器機能展開

DB       

(プロトタイプ)

機器機能展開 DB(固有)

提供

修正

提供

作成 ストレス系DB

(プロトタイプ) ストレス系

DB(固有)

機器機能展開 DB(固有)

劣化モードDB

(含、寿命計算)

マッチング マッチング

ストレス系 DB(固有)

機器機能展開 DB(固有)

測定値 DB

保全計画、検査計画への反映 寿命計算

追加 該当

項目抽出

計算結果

図 1.5.1 LEAF シート作成手順とデータベース関連図25)

(3) LEAFの具体的な手順

①機器機能展開図の作成

機器機能展開図は、機器が要求される機能の集合体と捉え、機器を構成する部品の機能 が阻害された状態(故障)を想定するために、機器・部品に対して要求される機能をもれ なく抽出・識別する。具体的には図1.5.2の例のように機器の機能と部品の関係を整理し、

機能毎に機器を構成する部品を分類・整理することが行われる。また、部品の他に部位に ついても機能展開することが必要である。配管の例を図1.5.3に示す。

遠心ポンプ

ロータ組立 動力伝達

システム

軸支持 システム

エネルギ変換 システム

送液機能 封液機能 冷却機能 固定機能

耐圧 システム

シール システム

軸受冷却 システム

シールクーラ 冷却システム

機器固定 システム

ケーシング 組立品 ケーシング 吸込ヘッド ボルト ナット ガスケット

ケーシング 吸込ヘッド ボルト ナット 主軸

メカニカル シール シールカバー フランジカバー ブッシュ ボルト ナット

フラッシング 配管組立

カップリング ハブ ボルト

シャフト

ロータ組立 ケーシング組立 負荷側

軸受組立

スラスト側 軸受組立

図 1.5.2 部品機能展開図23)

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配  管配  管

封 液 機 能封 液 機 能 送 液 機 能送 液 機 能

耐 圧 シ ス テ ム 耐 圧 シ ス テ ム ル シ ス テ ム

ル シ ス テ ム

配 管 組 立 品 直 管 部

エ ル ボ 部 チ ー ズ 部 レ ジ ュ ー サ 部

フ ラ ン ジ 部 枝 配 管 部 バ ル ブ 部 シ ー ル 組 立 品

フ ラ ン ジ 部 ボ ル トナ ッ ト部

断 熱 シ ス テ ム 断 熱 シ ス テ ム

断 熱 組 立 品

外 装 部 断 熱 部 塗 装 部 ガ ス ケ ット部

断 熱 機 能断 熱 機 能

水 平 部 垂 直 部 溶 接 部 シ ュ - 部 サ ポ - ト部 梁 接 触 部 貫 通 部 組 立 品 部 位

図 1.5.3 機器機能展開の例23)

②劣化モードの抽出

機器機能展開では、機能によって部品・部位レベルまで機器が分解されたが、このレベ ルにおける劣化モードを抽出することが必要である。劣化モードは部品・部位が置かれた流 体や温度などの環境条件との関係できまるが、一般には複数の劣化モードが存在する。

劣化モード

部位

条件

SCCチューブ バッフル

流速 温度

応力 イオン溶接 劣化モード対条件

部位対劣化モード

部位対条件 劣化モード

部位

条件

SCCチューブ バッフル

流速 温度

応力 イオン溶接 劣化モード対条件

部位対劣化モード

部位対条件

図 1.5.4 劣化モード、部位、条件の関係26)

この関係を図1.5.4に示す。予め作成された劣化モードデータベースから、対象となる劣 化モードを抽出する。

対象機器について故障メカニズム図を作成することができる。この故障メカニズム図は LEAFシートに記載される故障モードとストレス要因の記載を補完する役割を持っている。

一般的に故障メカニズムを整理する場合には、部品の故障モードから故障に至るプロセスを 作成するが、LEAF の場合には部品・部位の持つ機能を阻害するストレスから故障に至る メカニズムを整理することが特徴である。部品のストレスから故障を時系列に並べ、その因 果関係を把握することができる。

③寿命予測とLEAFシートの作成

機器機能展開図を基に各部品・部位について、ストレスから故障の関係を整理し、故障 モード、劣化モード及びストレスから「対象モード」(寿命予測の際に着目するモード)

を選択する。この対象アイテム毎に現状において可能な寿命予測手法の絞込みを行い、寿 命予測に必要なパラメータ、測定方法と時期について検討する。LEAFシートは部品・機 能・ストレスなどの要因を整理し、対象モード・寿命予測方法・パラメータ・測定法を整 理できる。

表 1.5.2 LEAF シートの例23)

劣化モード 対象モード 寿命予測法 パラメータ 測定法

回転機械 機能 システム 機能故障 現象(症状) 運転中 分解点検時 製作時 運転時 定

異常摩耗 ドライ潤滑 潤滑不良 圧力低下 摩耗 摩耗速度 摩耗量 マイクロメータ

温度上昇

摩耗 接触 接触 振動(変位) 組立不良 摩耗 摩耗速度 摩耗量 マイクロメータ

振動(変位)

異物 漏洩 シールボック

ス圧低下 摩耗 摩耗 摩耗 摩耗速度 摩耗量 マイクロメータ

ガスケット 漏洩 面圧低下 材質劣化 温度 材質劣化 温度 温度計

ボルトナット ボルト緩み クリープ 締付不良 ゆるみ 締付トルク トルク測定

振動(変位)

ボルト破断 ボルト破断

ボルト破断 亀裂 疲労亀裂 繰返し応力 き裂 き裂進展解析 き裂深さ 非破壊検査

応力集中 点検交換

応力集中 疲労 発生可能性の

想定

応力振幅

周波数 軸振動計

SCC 温度 SCC 発生可能性の

想定 液質 液質測定

液質 材質 き裂 き裂深さ 非破壊検査

応力 残留応力 き裂進展解析 応力 残留応力測定+FEM

延性亀裂 過大応力 き裂 き裂深さ 非破壊検査

強度低下 き裂進展解析 応力 残留応力測定+FEM

脆性亀裂 衝撃応力 き裂 き裂深さ 非破壊検査

脆化 き裂進展解析 応力 残留応力測定+FEM

試験データか ら推定 トレンドから

推定

測定

補助シール 漏洩 隙間拡大 摩耗 摺動摩擦 組立不良 摩耗 摩耗速度 摩耗量 マイクロメータ

メカニカ ルシール 組立品

スロートブッ シュ

機能展開 部 品 名 故障モード ストレス因子

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