第5章 今後の設備管理技術と新しい設備産業の展開
5.2 各設備管理技術の特徴
RCM、RBI/RBM、LEAFの比較を以下に示す。
① 目的
RCM ・アイテムの機能故障の結果に根拠を置いて、系統的に保全計画の意思 決定を行う。
RBI/RBM ・機器の機能故障のみでなく、故障したときの影響をも加味して、重点
配備をしながら保全計画を策定する。
LEAF ・機器を構成する部品・部位の機能を阻害する要因を抽出し、部品・部
位の寿命を予測し、管理すべきクリテイカルコンポーネントを抽出する。
② 機器・部品・部位の網羅性
RCM ・故障影響が波及する範囲を見極めるため、その関連性を網羅的に抽出 し重要な機能を識別する(FSI)。
・系を構成する重要な項目に対して、それを構成するアイテムの故障の 可能性を故障モードとして抽出するために下位アイテムを分類する
(SWBS)。
RBI/RBM ・保全計画を作成するときには、網羅的にリスク評価を行う。実行時に
は、優先順位を付けるので、リスクの小さいものは全く保全を行わない など、ランク付けされる。
LEAF ・機器の機能を分類し、機能を構成する部品・部位に展開する(機器機
能展開)。
③ 管理すべき部品・部位故障の抽出
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RCM ・故障の影響を明確にするため機能やインターフェースを考慮して他の 系にまたがるような故障を網羅的に抽出する(FFA)。
RBI/RBM ・リスクの大きいものから重要度で優先順位を付け、管理すべき項目を
決定する。
LEAF ・機器機能展開された部品・部位と流体や環境条件から、関係する劣化
モードを選び、寿命予測によって管理すべき部品・部位を抽出する。
④ 故障影響の明確化
RCM ・アイテムの機能故障を整理し、故障モードと故障影響を明確にする (FMEA)。
RBI/RBM ・故障影響に大きなウェイトを置いている。化学プラントの場合は、爆
発、火災などが重要な影響と規定されている。
LEAF ・影響評価はしない。
⑤ 故障メカニズムの明確化
RCM ・故障影響・確率を基に保全意思決定をするため故障メカニズムを解明 する必要はない。
RBI/RBM ・故障メカニズムを追求する方法論は規定されていない。
LEAF ・ストレスから故障に至るメカニズムを整理し、想定された故障がどの
ような劣化モードによって構成されるかを明らかにする。
⑥ 検査項目の決定
RCM ・過去の保全情報(故障確率)から検査項目を設定する。
RBI/RBM ・リスク評価から、検査を行う部位と、検査項目が決定される。
LEAF ・故障モード及びストレスから、劣化モードを選択し、部品・部位レベ
ルの寿命予測方法と検査項目を設定する。
⑦ 検査周期の決定
RCM ・時間計画予防保全の適用時に、故障確率の発生パターンとの整合性を 評価する。
RBI/RBM ・余寿命を評価して検査周期を決定するのではなく、リスクによる優先
順位を決定している。
LEAF ・寿命予測の結果によって、検査周期を設定する。
⑧ 保全方式の選択
RCM ・影響の大きさから優先順位を付け、適用可能で有効な保全方式の選択 をする(LTA)。
RBI/RBM ・影響の大きいものから、優先的に保全の時期、方法が選択される。
LEAF ・保全方式を選択するステップはない。
RCMは、機器を構成する要素が故障した場合に、それが全体にどのような影響を与える かを評価し、その大きさから管理すべき部位と故障モードを決め、それに対する有効な保 全方式を決定する解析手法である。この中で、FMEAは部品毎に故障モード解析を行い故 障の影響を明確にする手法である。また、RCMは過去の保全情報を基に検査周期を設定す るが、保全データの蓄積が少ない場合は、故障確率から保全周期を設定できない。この場 合は、LTAによって、許容されない故障に対して保全方式の選択判断を行うことが考えら れている。
RBI/RBMは、故障の発生確率とそれによって生じる損害額の積をリスクと定義し、リス
クの大きい劣化モードを優先的に管理する方法である。リスク評価は、安全に関する評価 と、経済性にかかわる評価を行う。故障の発生確率は、化学プラント、機械設備など過去 のデータからの蓄積があって、標準的な手法が示されている。影響度も、標準的な手法が 示されている。適用分野が異なる場合は、独自の影響度評価手法が必要なことになる。リ スクを受容範囲内に納めることを目的として優先順位を付けて保全を行うことにより、保 全にかかわる資源を重点配分することができる。
LEAFは機器を構成する機能を部品・部位レベルに分解してその機能を阻害する要因(ス トレス)から、劣化モードの推定、故障に至までの過程を整理することで故障発生のメカ ニズムを論理的に把握し、部品・部位の寿命を予測する手法である。
機器機能展開することで部品・部位の故障を網羅的に抽出することができる。これは、
機器を構成する全部品を抽出するために膨大な作業となるために、予めITを活用したシス テム化が必要である。また、機器機能展開と環境条件によって劣化モードの網羅的抽出を 行うため、故障メカニズムを解明し、部品故障の関連性を把握することができ、2 次故障 に至る故障を整理できる。さらに、部品・部位の寿命を把握することから、従来の年次計 画から新たに故障メカニズムに基づく技術的根拠が明確な保全計画の策定やストレスの排 除・低減を行うことができる可能性がある。但し、LEAF には部品・部位故障時の影響評 価を行って、保全方式を設定する方法ではない。
RCM、RBI/RBM、LEAFの特徴をまとめて表5.2.1に示す。網羅性とは、全ての劣化モ ードに対応することであるが、量が膨大であるために実行には課題がある。さらに、管理 すべき重要な部品・部位の抽出も同様である。ここに各要素技術の特徴が表れている。① LEAF は、機器機能展開と故障物理によるクリテイカルコンポーネントの抽出、②
RBI/RBMは、網羅性はないものの、リスク(発生確率×影響度)による重要設備の抽出、
③RCMは、FMEAなどによる方法による抽出である。
寿命予測については、表5.2.2に示す方法がある。故障物理に基づく寿命予測は、劣化モ デルがないために解答が得られないものもあり、劣化モデルの精度から誤差が大きいもの もある。また、運転条件の変更への対応が可能であることや改善対策が導出されるなどの 利点がある。
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表 5.2.1 RCM、RBI/RBM、LEAF の特徴
項 目 RCM RBI/RBM LEAF
網羅性 ○ △ ○
管理すべき部品・部位の抽出 ○ ○ ○
寿命予測性 △ △ ○
故障影響の明確化 ○ ○ ×
論理性/故障メカニズム明確化 × × ○
検査項目の決定 ○ ○ ○
検査周期の決定 ○ ○ ○
保全方式の選択 ○ ○ ×
過去の実績による予測では確率論的な取扱いが必要であるが、前提条件が一致しないた めにゆらぎが大きくなることや得られた結果から改善方策が明らかにならない場合がある。
また、答が得られやすい利点がある。
以上を総合すれば、LEAF は網羅性の確保、原因に遡った故障メカニズム、寿命予測に 特徴があり、RCM、RBI/RBM は故障影響の把握や保全方式の選択などの経営管理上の利 用に特徴があると言える。
表 5.2.2 予測の方法と特徴
1)故障物理に基づく寿命予測 ①劣化モデル(現状では劣化モデルが限定的)
②シミュレーションの進歩
2)検査・状態監視 ①属性の計測のために適用範囲が限定的
②コスト高
③単体機器・部品からプロセス全体に拡大可能か
④センサーの進歩
3)過去の実績による予測 ①未経験分野は適用できない
②実績データが多い場合は精度が高い