7.4 不変多項式
7.4.5 Kauffman 多項式
【定義 7.30 (Kauffman多項式)】 無向絡み目|L|に対する2変数 多項式Λ|L|(a, x)∈Z[a, a−1, z, z−1]で次の性質を満たすものをΛLと する:
(K0) ΛとΛが正則同位ならば,ΛL= ΛL. (K1) Λ(α, z) = 1.
(K2) Λ|L|+(α, z) + Λ|L|−(α, z) =z{Λ|L|0(α, z) + Λ|L|1(α, z)}. (K3) ΛT+ =αΛD, ΛT− =α−1ΛD.
ただし,T±はL内の符号正(負)のねじりを,Dはそのねじりを解 消した絡み目を表す.有向絡み目Lに対して,w(L)をLの捻り数 とするとき,
FL(α, z) := α−w(L)ΛL(α, z)
で定義される2変数多項式FLは,有向絡み目に対する全同位不変量
となりKauffman多項式という.
特殊化
QL(z) =FL(1, z),
VL(t) =FL(−t−3/4, t1/4+t−1/4).
7.5 抽象テンソルと Yang-Baxter 方程式
7.5.1 抽象テンソル表示
【定義7.31 (無向抽象テンソル表示)】 ある一定の次数をもつ各テン
ソルに対して次のような規則でダイアグラムブロックを対応させる:
δji → i|
j
Tki······jl →
i···j
|···|
T
|···|
k···l
この規則により,テンソルの積の各要素にダイアグラムブロックを 対応させ,和を取る(縮約する)添え字の対を曲線で結ぶことによ り,縮約を含むテンソル積とダイアグラムが対応する.このダイア グラムを無向抽象テンソル表示という.この表示では,上添え字と 下添え字を区別するために,テンソルブロックの向きは上(下)添 え字に対応する線が常に上(下)向きに出るように固定する.
【定義7.32 (有向抽象テンソル表示)】 テンソル積に無向テンソル表
示と同様に抽象テンソル図式を対応させる.この図式の各部ロック を結ぶ曲線に下添え字から上添え字に向かうように向きを付けたも のを有向抽象テンソル表示という.この表示では,テンソルブロッ クの向きや各添え字に対応する線の出る向きは任意でよいが,線の
順序は固定する.
【定義 7.33】 有向絡み目Lの各交叉に対して,それが正交叉の時
#
$(+),負交叉の時#$(−)とあらわす.この記法のもとで,Lの各交 叉に次のような抽象テンソルブロックを対応させることにより,有 向絡み目に対する抽象テンソル表示が得られる:
#
$(+) → ab #$•cd=Rabcd,
#
$(−) → ab #$◦cd= ¯Rabcd.
【定理 7.34】 有向絡み目Lに対して,その抽象テンソル表示に対応 する値をT(L)と表すと,T(L)が正則同位の不変量となるための必 要十分条件は,R行列が次の3つの条件を満たすことである:
i) (channel unitarity) ¯RabijRijcd =δcaδdb. ii) (cross-channel unitarity) RiajbR¯jdic =δcaδdb. iii) (Yang-Baxter方程式)
RijabRjckfRdeik =RijbcRaidkRkjef, R¯ijabR¯jckfR¯deik = ¯RijbcR¯aidkR¯kjef.
【例 7.35】 R行列
Rabcd =Aδcaδbd+A−1δabδcd, R¯abcd =A−1δacδbd+Aδabδcd は上の3条件を満たし,テンソルの次元nとAが
n=−A2−A−2
を満たすとき,T(L)はAの特殊値に対するKauffmanブラケット
Kと一致する.
【定義 7.36】 無向絡み目Lの正則表示において,平面に時間とよぶ 単調レベル関数を定義する.この時間に関する極大点と極小点を含 む線分に対して次の抽象テンソルを対応させる:
極大点 → Mab, 極小点 → Mab.
さらに,各交叉に対して,その近傍で時間の向きにそって交叉弧に 向きを与えるとき,抽象テンソルを次のように対応させる:
正交叉 → Rabcd, 負交叉 → R¯abcd.
また,時間に関して単調な鉛直方向の弧にはδbaを対応させる.これ により,無向絡み目に対する抽象テンソル表示が得られる.
【定理 7.37】 無向絡み目|L|に対して,その抽象テンソル表示の値を τ(|L|)と表す.行列Mab, Mab, R,R¯が次の条件を満たすとき,τ(|L|) は正則同位不変量となる:
i) (位相的移動不変性)MaiMib =δba. ii) (捻り不変性)R¯abcd =MciRdjiaMjb.
iv) R,R¯に対するYang-Baxter方程式.
【例 7.38】 行列M = (Mab), Rを M =−Aσ2 =
0 iA
−iA 0
, R =AM−1⊗M +A−1I と選ぶと,
d= TrM(MT)−1 =−A2−A−2 より,τ(L)はKauffmanブラケットに比例する:
τ(L) =dK.
これは,Kauffmanブラケットに対するYang-Baxterモデルと呼ば れる.特に,A =−1(d=−2)のとき,τ(L)は全同位不変量となり,
Penroseのバイノールと一致する.