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第三章 1 細胞ショットガンプロテオミクスに向けた高感度分析システムの開発

3.3. 結果と考察

3.3.4. ISPEC ver. 2 の評価

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3-8.nano-ESIイオンソース条件下における1 ngHeLa細胞消化物 (5細胞 相当) のショットガンプロテオミクス解析結果.

(a) 同定されたペプチド数.(b) 同定されたタンパク質数.

平均値 ± 標準偏差 (n = 3).統計解析はStudent’s t検定により決定した (***p <

0.001).

上記の結果から,条件 3 の活性炭を備えた密閉型 nano-ESI イオンソースを使用す ることにより,nano-ESIに導入されるペプチド試料量の低下に伴い,その効果が顕著 に表れることが示された.

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HeLa 細胞 (1×106個) からチューブベースの従来法で調製した 1 細胞相当のペプチ ド消化物 (ポジティブコントロール) の分析を行った (試行回数 n = 3).その結果,

ポジティブコントロールから266ペプチド,107タンパク質,ISPEC ver. 2で調製した 単一 HeLa 細胞から421 ペプチド,166 タンパク質が同定された.ポジティブコント ロール (1細胞相当消化断片) と比べて,ISPEC ver. 2を用いたシングルセル解析の方 が,ペプチドおよびタンパク質の同定数は約 1.6倍向上した (図3-9. a, b).この理由 としては,ポジティブコントロールは,1 細胞相当のサンプルを調製する際に,低吸 着バイアル内で試料を希釈しているため,バイアル壁面等への試料吸着の影響が考え られた.

3-9. 各サンプル調製法によるショットガンプロテオミクスの結果.

(a) ペプチド同定数.(b) タンパク質同定数.Positive control: 1×106細胞をバルクスケ ールでの試料調製法で処理したペプチド消化物に対して 1 細胞相当量の試料を nano-LC/MS/MSで分析した結果.平均値 ± 標準偏差 (n = 3).統計解析はStudent’s t検定 により決定した (**p < 0.01).

次にISPEC ver. 2を駆使した高感度1細胞プロテオーム解析で取得したデータを用

いて,Feature Mapper nodeによる再解析を行った.これまでのショットガンプロテオ

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ミクスによるペプチドの同定は MS/MS が取得できたプリカーサーイオンに対しての み実施していた.しかし,消化ペプチドの数は10万種を超えるため,nano-LCでの完 全分離は不可能であり,いくつかのペプチドが同時に溶出した場合dd-MS/MSの取り こぼしが必ず生じる.特にイオン強度の低い複数のペプチドピークが同時溶出した場 合,MS/MSが取得できるペプチド種は一定ではなく毎回異なる.つまり,MS/MSス ペクトルが取得できていないこと自体がそのペプチドが存在しないことを示すわけ ではなく,結果的に MS/MS スペクトルが取得できていない場合は欠損値として扱う ことになる.これがdd-MS/MSを用いたショットガンプロテオミクスの最大の欠点で

ある.Feature Mapper node法とは,この問題を解決するためのデータマイニング処理

を指す.例えば,同じサンプル群の n = 3 (A, B, C) のデータの中で,ペプチドX の

MS/MSスペクトルがサンプルAに対してのみ取得できた場合,サンプルBとCのデ

ータは欠損値となる.しかし,実際にはサンプル BとCのペプチド Xのプリカーサ ーイオンが検出されている場合は,プリカーサーイオンの精密質量およびnano-LCの 保持時間の一致度を指標にペプチドXの同定を行う.そのため,Feature Mapper node 法を使用することでペプチド同定の正確性を担保しつつ欠損値が低減することとな る.この解析方法により,HeLa 1細胞から3回の分析で共通で同定されたタンパク質 の数が90タンパク質から108タンパク質に増加した (図3-10. a, b).当該結果から,

以降のデータは Feature Mapper node で解析したデータを使用して議論を進めること にする.

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3-10. Feature Mapper node法の1細胞プロテオミクスカバレージへの影響.

次に,ポジティブコントロールとISPEC ver. 2の酵素消化効率について,第二章の

2.3.2 項で示した手法同様に,同定されたペプチドのうち切断ミスのないペプチドの

割合によって評価した.バルクスケールでの試料調製法およびISPEC ver. 2の消化効 率はそれぞれ,95%および92%であり,サンプル調製法の違いによる消化効率の有意 な差は見られなかった (P = 0.06,Student’s t検定).ISPEC ver. 2は溶液トリプシンを 使用しているにも関わらず,細胞溶解バッファー量を低減することにより,従来法と 同等の消化効率を示した (図3-11).

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3-11. 従来法と ISPEC ver. 2の消化効率の比較.

平均値 ± 標準偏差 (n = 3).統計解析は Student’s t 検定により決定した (N.S., not significant).

またポジティブコントロールの結果で3回の分析で1回以上同定されたタンパク質

の89%がISPEC ver. 2で同定された.すなわち,サンプル調製方法の違いによって同

定されるペプチドの種に大きな差は見られなかった (図 3-12).これらの結果から,

ISPEC ver. 2がISPECと同様に試料損失を低減し,高い消化効率を有していることが

示された.

3-12. 従来法とISPEC ver. 2により同定されたタンパク質の相関関係.

3.3.5. 1細胞由来のタンパク質同定結果に対する妥当性と信頼性評価

同定されたペプチドが細胞に由来する場合,細胞数と同定されたペプチドのプリカ

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ーサーイオンのピーク強度との間に直線性が確認されるはずである.1,3,10 個の HeLa細胞を出発試料としてISPEC ver. 2により調製し,高感度nano-LC/MS/MS分析 システムに供した.各細胞数において,試行回数3回で同定されたペプチド数および タンパク質数の平均値をもとに解析を行った.細胞懸濁液の上清 (ブランク) 分析か ら26ペプチドと18タンパク質が同定された.ブランク分析から同定されたペプチド は各細胞数から得られたプロテオミクスの同定結果から除外した.その結果,1,3,

10細胞で同定されたペプチド数およびタンパク質数の平均値はそれぞれ,773および

284,1114および337,1765および498であった.細胞数の増加とともに,同定され

たペプチド数およびタンパク質数が増加した (図3-13. a, b).また,1および3細胞で 同定されたタンパク質の 97%が 10 細胞で同定されたタンパク質に含まれていた (図 3-14).

3-13. ISPEC ver. 2による少数細胞 (1310) のショットガンプロテオミクス の結果.

(a) 同定されたペプチド数.(b) 同定されたタンパク質数.

平均値 ± 標準偏差 (n = 3).

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3-14. ISPEC ver. 2による少数細胞 (1,3,10) のショットガンプロテオミクス

により同定されたタンパク質の相関関係.

次に 1 細胞での3 回の分析のうち2 回以上の分析で同定された366 ペプチド (164 タンパク質) のピーク強度と細胞数の関係を調査した.その結果,311ペプチド (141 タンパク質) について相関係数 (R2) が 0.94 以上と良好な直線性を示した (図 3-15).

3-15. 1310細胞から共通で同定されたペプチドのプリカーサーイオンのピー

ク強度と細胞数の関係.

平均値 ± 標準偏差 (n = 3).

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