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第三章 1 細胞ショットガンプロテオミクスに向けた高感度分析システムの開発

3.1. 緒言

第二章では,単一細胞の単離,試料調製 (ISPEC),nano-LC/MS/MS分析をインライ ンで連動させ,1 細胞ショットガンプロテオミクスに向けた新たな分析システムの開 発を行った.しかしながら,現時点でのシングルセル解析システムを用いて1細胞か ら同定されたタンパク質はわずか 60 種であった.細胞の個性および異種性を理解す るためには,より多くの1細胞試料から網羅的な細胞内タンパク質情報を取得する必 要がる59.そのため,細胞単離,試料調製,nano-LC/MS/MS分析の各工程の精度とス ループットを向上させ,システム全体の感度を上げる必要がある.

蛍光活性化セルソーティング (fluorescence activated cell sorting, FACS),およびマイ クロマニピュレーションは,1 細胞の単離方法として広く利用されている 60.第二章 で開発した細胞サンプリングシステムは,マイクロマニピュレーションを基盤として いる.FACS はハイスループットで大量の細胞の処理が可能であるが,細胞の形や大 きさなどを詳細に観測しながら細胞を単離することはできない.一方,マイクロマニ ピュレーション法は,FACS と比べてスループットは劣るものの,顕微鏡観察により 細胞の形状およびサイズ,さらには核の形状やサイズといった詳細な形態学的情報を 取得しながら,注目すべき単一細胞の迅速なサンプリングが可能である.また,細胞 単離の際にフューズドシリカキャピラリーを使用することでキャピラリー内でのサ ンプル調製 (ISPEC) が可能となる.マイクロマニピュレーションを基盤とした全自 動1細胞回収装置 (ASONE Cell Picking System)61は既に市販されており,個々の細胞 を全自動でマルチウェルプレートに回収しNGS等による1細胞RNA-Seq解析が報告 されている 62.しかし,1 細胞ショットガンプロテオミクスの場合,第二章の結果で 示したようにチューブあるいはプレート表面のポリエチレンにタンパク質が吸着す

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ることで試料損失が起こる.さらに,既製品の場合はISPECと連動させるために改良 することは現実的に難しい.そこで,本章では第二章で開発した装置を改変し,半自 動で操作が可能なスループットと精度の高い新たな細胞サンプリングシステム (半 自動細胞サンプリングシステム) の開発を実施した (図3-1).

3-1. 1細胞回収システムの比較.

第二章で開発したプロテオーム解析システムを用いて,単一 HeLa細胞から同定さ れたタンパク質は発現量の高い 60 種類であり,細胞の個性を理解する上では不十分 である.1 細胞ショットガンプロテオミクスのさらなる網羅性向上のためには,分析 システム全体の感度向上が必要である.そのためには,第一章でも述べたとおり,使

用するnano-LCカラム内径のダウンサイジングによる高感度化26があり,いくつかの

グループにおいて1細胞分析への有効性が示されている40-42.また,クロマト分離後 から質量分析計へ導入されるまでのイオン化の工程も感度向上に重要な項目である.

しかし,1細胞解析を対象としたnano-LC/MS/MSにおいて,イオン化部の改良はこれ まで詳細に検討されていない.第二章で用いてきた高分解能タンデム質量分析計に標 準的に付属しているnano-ESIイオンソースはオープンソースタイプの装置であった.

そのため,実験室中に存在するシロキサン等が,サンプルと一緒にMSへ導入されて しまい,バックグラウンドのイオンが高くなるというデメリットがあった 63.1 細胞

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ショットガンプロテオミクスで検出される各ペプチドのピーク強度はバルク試料の 解析時と比べて低いため,バックグラウンドイオンの影響を顕著に受けていることが 示唆された.そのため,密閉型nano-ESIイオンソースに変更しバックグラウンドのイ オンを低減することでS/N比が改善され,結果的に細胞由来のペプチドピークの検出 感度向上および検出可能なペプチド数の増加が期待できる (図 3-2).さらに,質量分 析計のイオン導入口であるオリフィス以降は高真空状態であるため,密閉型nano-ESI イオンソースを使用し,外部からの空気の流入を一定方向からに制御してやることで 気流が形成され,イオン導入効率も向上すると考えらえる64

本章では操作性とスループットを向上させた細胞サンプリングシステムの開発お よびクロマトグラフィーのダウンサイジングと nano-ESI イオンソースの改良による

nano-LC/MS/MS分析システムの高感度化を図り,1細胞プロテオミクスに向けた高感

度分析システムを開発することを研究目的とした.

3-2. Nano-LC/MS/MS分析システムの高感度化の戦略.

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