第 7 章 アドレス管理コミュニティにおけるポリシプロセスの在り方 88
7.3. 返却された IPv4 アドレスの再配布に関する提案議論
論もない形でコンセンサスを得た.
この提案における著名人の意見の影響は極端な例かと想像される.しかしなが
ら,
APNIC
地域では,著名人の意見に議論が影響を受けることが多いため,提案内容を吟味し,反対意見を持ちそうな個人,組織等への事前ネゴシエーションが 効果的であると考えられる.
7.3. 返却された IPv4 アドレスの再配布に関する提案議 論
7.3.1 提案の背景
第
6.2.6
節で述べたように,APNIC
地域では,2011
年に成立したポリシにより,「最後の
/8
割り振りポリシ」によるIPv4
アドレス割り振りが開始された後に,ISP
等のLIR
から返却されたアドレス等,新たに発生したIPv4
アドレス在庫は,「最 後の/8
割り振りポリシ」用にプールされることとなっていた.このポリシ制定当時は,
IPv4
アドレスの返却が発生しても,その総量は少数で あると想定されていた.しかしながら,返却アドレス等新たに発生するIPv4
アドレス在庫は,相当量となり,「最後の
/8
割り振りポリシ」用IPv4
アドレスプールの 利用状況から,新たに発生する在庫をプールすることは無駄になりそうなことが 予想された.また,RIR
間アドレス移転の議論の際に,ARIN
コミュニティ等から,
APNIC
地域において,返却アドレスが利用されないことに対する懸念も表明された.
これらの状況から,返却
IPv4
アドレスの有効利用方法について,検討を開始 した.7.3.2 返却 IPv4 アドレス再配布ポリシ提案までの経緯と結果
国内における
IPv4
アドレスニーズを把握するため,2012
年6
月に,JPNIC
が 開催する国内ポリシフォーラムJPOPM22 (22nd JPNIC Open Policy Meeting)
に おいて,返却されたIPv4
アドレスの再配布ポリシを提案した.この提案の骨子を 以下に示す.•
「最後の/8
」以外の空間にて,返却があったアドレス,及び,IANA
返却アド レスの再配布グローバルポリシ[89]
にて配布されたアドレスについては,「最 後の/8
」ポリシの範囲外とし,「IPv4
アドレス配布プール」にストックする.• IPv4
アドレスが必要な組織は,「最後の/8
」ポリシと同様の基準で,以下の 大きさまで,アドレスを取得可能とする(配布の最小値は,/24
とする).「
IPv4
アドレス配布プール」の最大値 ÷ (その時点のAPNIC
会員数)•
サイズの計算は,年二回(1/1
と6/1)
とする(初回のみ,ポリシ成立直後と する).JPOPM22
では,アドレスサイズの計算方法が複雑であること,日本国内の状況が
APNIC
地域の他国に受け入れられるか等の意見が出,提案は合意には到らなかったが,返却
IPv4
アドレスの配布に賛同する人も多く,国内で検討チームを作り,
APNIC
への提案の是非を議論することとなった.検討チームでの議論の結果,以下のような対応をとることとなった.
•
国内でのニーズを見極めるためのサーベイを実施•
結果を,ポリシ提案でなく議論としてAPOPM
にて報告• APOPM
での議論状況により,
ポリシ提案を実施するかどうかを判断 この際に実施したサーべイの概要を以下に示す.•
期間:2012
年7
月30
日〜8
月10
日•
対象:JPNIC
からIPv4
アドレスの割り振りを受けている事業者(7/30
時点 で,411)
•
結果:61
事業者より返答有り(15%)
•
質問内容1.
「最後の/8
ブロック」からの割り振りとは別に,IPv4
アドレスの分配 が受けられるとしたら,御社/
貴団体はIPv4
アドレスの割り振りを申請 しますか?2.
申請するアドレスの利用目的をお聞かせください3.
最低でもどの程度まとまったサイズの分配が受けられないと,実際に割 り振りを受けても御社/
貴団体での利用が難しいでしょうか.4. IPv4
アドレスの追加割り振りが受けられたらとしたら,IPv6
移行計画の変更や
IPv6
対応の延期/
停止など,御社/
貴団体のIPv6
対応に影響 はありますか?
5.
「最後の/8
ブロック」とは別に分配方法を定義するなど,IPv4
アドレ ス分配ポリシを見直すことについては,『長期的な問題解決にはならな いのでこれ以上変更すべきではない.それよりもIPv6
導入等,在庫枯 渇後の対応検討に注力すべき.』との意見もAPNIC
フォーラム等では 確認されています.このような意見についてどう考えますか.サーベイの結果は,以下のようになった.
1.
「最後の/8
」以外からの割り振りについて:申請する67%,
申請しない33%
参考情報:「申請する」とした人の方が
IPv6
割り振りを受けている率が高い.
• IPv6
アドレス保有の割合:申請すると回答した組織59%,
申請しない と回答した組織47%
2.
新規顧客への割り当て,IPv6
移行に利用等の用途.3. 84%の事業者が IPv6
導入計画には影響無しと回答4.
必要な割り振りサイズ: /22
が最も多い5. 71%
が最後の/8
ポリシの改訂に賛成この結果に基づき,
2012
年8
月に開催された,APNIC34
でのAPOPM
にて,APNIC
コミュニティの意見を収集するためのプレゼンテーションを実施した.ミーティングにおいては,賛否両論であり,反対が優勢であった.意見としては,ポリ シの必要性,必要なアドレスサイズに関する疑問などが提起された.反対意見と して,ベトナムからの参加者からは,「最後の
/8
ポリシ」で配布している/22
で十 分であり,追加の割り振りは必要ない,といった意見も聞かれた.APNIC
での議論の結果を鑑み,国外での当該ポリシの必要性を調べるために,APNIC
コミュニティに対し,同様のサーベイを実施することとした.APNIC
コミュニティに実施したサーベイと,日本で実施したサーベイの比較を表
7.2
に示す.表
7.2
返却アドレス配布に関するサーベイAPNIC
コミュニティ 日本コミュニティサーベイ期間
2012
年11
月26
日〜12
月10
日2012
年7
月30
日〜8
月10
日 サーベイ対象APNIC
配下のLIR,
アジア太平洋地域のコミュニティ
JPNIC
下のLIR
返答数
89
組織(56 LIR) 61 LIR
APNIC
コミュニティ,日本コミュニティをあわせたサーベイ結果は以下の通りであった.
1.
「最後の/8
」以外からの割り振りについて:申請する70%,
申請しない30%
参考情報:「申請する」とした人の方が
IPv6
割り振りを受けている率が高い.
• IPv6
アドレス保有の割合:申請すると回答した組織75%,
申請しない と回答した組織53%
2.
新規顧客への割り当て,IPv6
移行に利用等の用途.3. 86 %
の事業者がIPv6
導入計画には影響無しと回答4.
必要な割り振りサイズ: /22
が最も多い(
図7.1) 5. 69 %
が最後の/8
ポリシの改訂に賛成図
7.1
必要な割り振りサイズの分布このサーベイ結果をもとに,
2013
年2
月に開催されたAPNIC38
にて,提案を 実施した.前回の反対意見に対し,実際の必要性,必要なアドレスサイズのデー タを提示したため,賛成意見は多かったが,返却アドレス全体のプールサイズ,及 びプールサイズから導出される実際の割り振りサイズについてより詳細な検討を 実施することとなった.APNIC
事務局より得た,会員数の伸びのデータ,及びより詳細な割り振りサイズのデータから,プールサイズの割り振りについて検討を実施した.図
7.2
に,/22
で割り振った際のアドレスプールの消費予測を示す.当初得られる返却プールからでも,
2015
年から2018
年までの間,割り振りが可 能と想定されたため,/22
のサイズにて,返却アドレス空間の割り振りを実施す図
7.2 /22
割り振りにおけるプールの消費予測また,
2014
年にこのポリシが有効となり,APNIC
地域で割り振りが行われてい るが,ベトナム地域からも多くの割り振りが申請されている.このように,反対意見に対し,実際のニーズ,実データを示すことで,コミュニ ティの合意を得ることが容易になる.また,複雑な提案は避け,できるだけ簡素 にすること,日本国内の意見,他国の意見の調整,他国の状況を考慮に入れた提 案を実施することが,提案に対し,コンセンサス得るために重要である.
ドキュメント内
インターネットにおけるIPv6の導入に関する考察 : IPv4からのプロトコルマイグレーションの実現(本文)
(ページ 106-111)