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第 4 章 IPv6 導入時の課題 30

4.2. プロトコル・社会システム移行事例と移行に関する要件

4.2.1 インターネットプロトコル関連の移行事例

CIDR (Classless Inter Domain Routing)

の導入

2.2.2

節で述べたように,現在,

IPv4

アドレスのネットワーク部は可変長であ

るが,

IPv4

の導入当初は,ネットワーク部は固定長であった.当初,

IPv4

アドレ スは,ネットワークの規模に応じて,クラス

A

(約

2

24

= 16 , 777 , 216

個のアドレ スが含まれる)

,

クラス

B (

2

16

= 65 , 536

個のアドレスが含まれる

)

,クラス

C (

2

8

= 256

個のアドレスが含まれる

)

3

種類に分類され,接続組織の大きさに より,各クラスのアドレスブロックが割り振らていれた.インターネットが普及 し,接続される組織やノード数が増えてきたことにより,以下の課題が発生した.

1.

アドレスクラスに基づく割り振りは,クラス

C

では不足する組織に対して,

クラス

B

を割り当てており,このような固定長でのアドレス割り振りではア ドレスの使用効率が悪いことが問題になった.

2.

アドレス割り当てが,ネットワークのトポロジを考慮せずに実施されたため,

経路情報の増大が問題となった.

これらの問題を解決するため,

IPv4

アドレスのネットワーク部を可変長とする 可変長サブネットマスク(

Variable Length Subnet Mask: VLSM

)が導入され,

CIDR

が用いられることとなった.これにより,組織の必要数に応じたアドレス 割り当て,階層的なアドレス割り当てが可能となった.

CIDR

の導入には,従来,

IPv4

のアドレスクラスをベースにしていた経路制御

どのエンドノードの改変が必要であった.しかしながら,既存の機器では

VLSM

の導入をしなければ,他のノードとの通信を含め,引き続き動作可能であり,ま た,後方互換性を確保するための技術を導入することで,すべての機器を同時に 変更するのではなく,段階的な移行が可能であった.

CIDR

への移行は

1990

年中盤から始まり,

1990

年代末に完了しており,移行に 成功した事例であると考えられる.

移行の成否

現在の

IPv4

インターネットは

CIDR

ベースとなっており,移行は 成功した.

移行実施の主体と,権限に関する強制性の有無

インターネット管理・運用組織が移行を主導.強制性はなかった.

後方互換性

VLSM

に対応していない機器のために,

proxy ARP[16]

といった 移行のためのプロトコルが導入された.これにより,既設機器は ほぼそのまま利用可能となったが,セキュリティ等,導入に伴う あらたな課題は発生した.

導入期日

特に,

flag day

は規定されておらず,可能な組織・機器より,段階

的に移行した.

1990

年中頃から移行が始まったが,移行しない機 器等も引き続き動作可能であったため,対応終了時は明確でない が,今日では移行は完了している.

影響範囲

インターネットを利用している機器すべてに影響があった.しか しながら,今日に比べインターネット利用が限定的であり,イン ターネット利用組織も研究組織等が中心で,変更に柔軟に対応で きた.

導入の効果

CIDR

の導入は,

VLSM

を利用してアドレス割り振りに階層構造 を導入することで,当時問題となっていたグローバル経路表の肥 大化への対策となり,一時期,グローバル経路表のアドレス数は かなり減少した.

AS

番号の

32

ビット化

インターネットの組織間経路制御で利用されている

AS(Autonomous System)

番 号は当初,

16

ビット幅であったが,インターネットの発展により,

AS

番号の不足 が予測され,

32

ビット幅に拡張された.この移行にあたり,

AS

番号を利用するプ ロトコルの改変として,

BGP4

への機能追加

[17]

32

ビット

AS

番号の配布機構 の整備,

32

ビット

AS

番号の使用促進等が実施された.

16

ビット

AS

番号から

32

ビット

AS

番号への移行は,ネットワーク間を接続する主要なサービスプロバイダ の接続ルータにおいて対応が必須であるが,インターネット上の全ての組織が対 応する必要はない.

2014

5

月現在,

IANA

における

16

ビット

AS

番号の在庫が なくなりつつあり,

32

ビット

AS

番号未対応組織への対応,残された

16

ビット

AS

番号の配布方法の検討が進んでいる.

移行の成否

16

ビット

AS

番号の在庫はなくなりつつあるが,

32

ビット

AS

番 号の配布,利用は進んでいる.現在も移行途中であるが,成功し つつあると考えられる.

移行実施の主体と,権限に関する強制性の有無

インターネット管理・運用組織が移行を推奨している.移行につ いて強制性はないが,

16

ビット

AS

番号の在庫はなくなりつつあ り,また,

32

ビット

AS

番号の利用もすすんでいることから,

ISP

での対応はある程度必須であった.

後方互換性

BGP4

への機能追加の際,

32

ビット

AS

番号未対応の

BGP

ソフト ウェアでも問題が発生しないよう,後方互換性をもったプロトコ

ルの制定が実施された.これにより,既設機器は一部機能に制約 はあるものの,そのまま利用可能であった.

導入期日

特に

flag day

は規定されておらず,対応可能な組織・機器より,段

階的に移行がすすんでいる.一部の未対応な

Transit ISP

では,顧 客確保のために,対応が必要になっている.

影響範囲

新規に

AS

番号を取得してインターネットに接続する組織,及び,そ のような組織に対してインターネットへの接続性を提供する

Transit ISP

での対応が必要とされた.また,

BGP

機能を持つルータ等の 機器ベンダでの対応も必要であった.機器ベンダでの対応は比較 的早く実施され,また,新規の組織は比較的新しい機器を使用す ることもあり,これらの組織での

32

ビット

AS

への対応はスムー スであった.しかしながら,

Transit ISP

の一部では現在でも

32

ビット

AS

番号を持つ組織の接続を提供しておらず,今後の対応が 必要である.

導入の効果

AS

番号空間が拡張され,インターネットに接続される組織は順調 に増えている.特に,新興国では,

32

ビット

AS

番号の利用が進 んでいる.