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ICT 活用の中国語教育・学習のメリット・デメリット

第3章 高等教育における中国語教育情報化

3.2 ICT 活用の中国語教育・学習のメリット・デメリット

上記の先行研究からわかるように、中国語教育・学習における ICT活用には、オン ライン学習用の公開コンテンツ(デジタル教材)としてのeラーニングサイト、LMS、 SNS(Social Networking Service)・電子メール・BBSによる非同期型の直接交流活動、

文字チャットやビデオチャット(WindowsメッセンジャーやSkype等)を利用した同 期型の直接交流活動、ビデオ会議システムを利用した比較的大規模な遠隔地間の直接交 流活動等がある。また、教師個人が運営する小規模な外国語学習用のWEBサイトでも、

MoodleやWiki等のCMS(Course/Contents Management System)やLMSの導入 が進められている。

これらICT活用のeラーニングは、大きく2つに分類できる。1つは、学習者の自 主学習支援を目的として、学習コンテンツを公開したり、オンラインテストを実施した りするeラーニングサイトであり、学習コンテンツの公開と学習者管理・成績評価まで を一元化したシステムも増えてきている。もう1つは、遠隔協調学習を目的とした取り 組みであり、高精細映像とクリアな音声を配信できるビデオ会議システム(Polycom 31

やLifesize 32等)を利用して、国内外の複数地点を広帯域ネットワークで接続し、大画

面に相互の教室内の映像を表示して同期型の遠隔授業を行うものである。これには、個

31 Polycom社(http://www.polycom.co.jp/)から販売されているビデオ会議システム。本体にカメラが内

蔵されており、テレビやプロジェクタとインターネットのブロードバンド回線を接続するだけで、世界中 どこからでも映像と音声による相互通話を行うことが可能。

32 日立ハイテクノロジーズ(http://www.hitachi-hitec.com/jyouhou/hitec-vision/product/)で製造されて いるテレビ会議システム。HD画質のビデオ品質でコミュニケーションの活性化を促進するハイエンドモ デルで、最大6拠点に接続可能な内蔵MCU(多地点接続機能)を搭載。PCデータ送信機能を標準搭載し ているため、中規模から大規模でのテレビ会議に適しており、低コストでリアルなコミュニケーション空 間を構築し、海外拠点との遠隔会議、工場との製品会議、商品企画会議、大学での遠隔講義等、国内外で 広く活用されている。

別のパソコン端末ごとにビデオチャットを利用して行なうという小規模なものもある。

自主学習支援タイプの場合は、学習コンテンツ編集上の利便性が高いことや、学習者 の成績管理、理解度や進捗状況、習得レベルの解析等、教師にとっての学習者管理上の メリットが非常に大きいことが挙げられる。学習者にとっては、重い教科書や辞書が不 要となり、いつでもどこでもアクセス可能で時間的・空間的制限がないこと、成績や習 得度の分析も自動的に行われて、自分の学習管理やレベル分析が簡単になること等のメ リットがある。しかし、教科書を電子化しただけのデジタル教材やゲームタイプの練習 問題等のコンテンツを公開して成績を評価するというだけでは、一方向型の情報提供サ イトにとどまり、コミュニケーション能力の育成を重視した外国語教育情報化の目的に は十分な支援ツールとは言えない。

遠隔協調学習タイプの場合、同期型であれ、非同期型であれ、学習者間の直接コミュ ニケーションを実現する舞台として、非常に有効性が高い。しかし、最大の課題はコス トである。ビデオ会議システム本体で最低でも約60万円(PolycomVSX5000の場合)、 教室内を高精細映像で表示するための大型ディスプレイに数十万~100 万円程度必要 である。高品質の映像・音声配信のためには、日本と海外に跨る広帯域ブロードバンド ネットワークを使用するため(永岡, 2008)、専門機関への協力依頼も必要となる。ネ ットワーク及びシステム管理者、機器を操作する技術者等の人件費もかかる。相手国も 同等の人材・設備・技術・資金を備えていなければならない。これを考えると、外国語 教育専門で情報技術力の高い大学・研究機関で大規模な研究費がなければ、ビデオ会議 システムによる協調学習環境は構築できない。一方、Skpe 等を利用した小規模なビデ オチャットシステムは、学内のパソコン端末とインターネット回線、フリーのソフトウ ェアを利用して低コストで導入できるが、通信速度によってはパケットロスによる音 声・映像の乱れが発生すること、画面が小さく臨場感に欠けること、個別のパソコン端 末で孤立してしまい全員がひとつの教室で協調学習するという雰囲気になりづらい等 のデメリットがある。

いずれの手法を採用するにせよ、常に現実的な課題はあるものの、ICT 活用の外国 語授業に対する学習者の反応は概ね肯定的であり、学習効果が実感されている。母語話 者とのインタラクション活動があることで、自分自身の課題に対する気付き、コミュニ ケーションの楽しさ、相手の実力を目の当たりにすることで良い意味での競争心を抱い ている場合が多く(西堀, 2005-2008)。また、クラスメートや親しい先生相手にコミュ ニケーションをとる場合とは異なり、「本当のコミュニケーションの場」という緊張感 も強く意識している(林, 2008)。これらはいずれも、インタラクション活動が外国語 習得のための足場作りとして有効であることを示していると言えよう。

ICT 活用の中国語教育・学習により、学校の教室内という限定的で閉鎖的な学習環 境では難しい、異文化の世界に開放されたコミュニケーションの場、「協調学習場」(西 堀, 2005)を生み出すことが可能となる。写真や映像等の素材や各種マルチメディアツ ールを活用してフレキシブルに編集可能な教材を作成すれば、学習内容の興味を喚起し やすく、理解を助けられる。何よりも、インターネットの向こう側に「本物の」コミュ ニケーションの相手がいるという現実のインタラクションがあるということは、にあら かじめ設定されたコンピュータの問いに答える模擬的なコミュニケーション活動とは 全く異なる。学習者自身が学んだ言語を真に活用し、「生きた」意味のやり取りが達成

できたことによる自信や喜びを実感できる機会となる。

当然のことながら、ICT 活用の学習コンテンツやマルチメディアツールそのものが 外国語教師にはなり得ないし、実際に教室内にいて現実のインタラクションを先導する 教師の存在が必要なことは明らかである。しかし、ブレンディッド・ラーニング

(Blended Learning)のための「使える資料」、新たに情報化に対応しようと試みる教

師にとっての「強力な右腕」を増強していくことには大いに意味がある。開発したコン テンツやシステム構築のノウハウをインターネット上に公開し、情報共有するという積 極的な取り組みを継続することで、コンテンツの内容が更に豊富になり、いずれデータ ベースとして十分な量が蓄積されれば、高校中国語教育に関わる教師全体にとって貴重 な情報資産にも発展し得る。

本章では、ICT 活用の中国語教育・学習に関する先行研究について、国内外の学会 発表の記録に基づき分析した。第4章では、ICT活用の授業を実践するために構築した 高校生向けの中国語学習支援サイトについて、構築の目的と概要、必要システムとソフ トウェア、準備作業、コンテンツと特色、ユーザーと画面デザインについて述べる。