第 1 節 HV/EV開発・生産と企業間関係
本章では、自動車メーカーによるHV/EVV開発とそのための企業間関係の構築につい ての本稿の議論を総括する。
改めて、HVおよびEVの開発において、自動車メーカーがどのように車載用電池の調達を 行ったかをまとめる。
第1章でみた、HV におけるトヨタ、ホンダや日産などの国内メーカーの取り組みでは、
いずれの自動車メーカーとも電池の調達において次のような開発・生産体制をとっている。
1)サプライヤー・ネットワーク内の企業との関係を重視した取り組みを行っている。
2)合弁により電池メーカーをサプライヤー・ネットワーク内に取り込み、基本的に自社 HV専用の電池生産を進めている。
現在HV市場において優位にたつトヨタがパナソニックとの合弁で設立したPEVEがニッ ケル水素電池では市場を牽引している。PEVEのHV電池開発では、トヨタの技術者とパナ ソニックの技術者が共同して電池制御回路の開発を行っている。また電池制御に必要な半導 体技術にはデンソーの技術が応用されている。トヨタにおけるHV電池パックの開発では、
トヨタのサプライヤー・ネットワークが総力を挙げていることがわかる。
このようなHV電池開発における自動車メーカーと電池企業との関係構築は、日産、ホン ダにおいてもみることができる。いずれもケースも、自動車メーカーと電池メーカーは、資 本関係を含む強固な取引関係を構築していることに特徴がある。
これに対して第2章で示したEV開発では様相が異なる。
代表的なケースであるGMのレンジエクステンダー型EVでは、GMとの関係がそれほど 強固でないLG化学の電池が採用されている。LG化学のEV電池は、GM向けのみではなく フォードやボルボなどの多くのメーカー向けに供給している。このような EV用電池の供給 関係は次第に広がりを見せている。
2013年に「i3シリーズ」としてEVを販売するBMWは、サムスンSDIから電池調達を 行う。サムスンSDIはBMW以外に現代自動車やインドの自動車メーカーなどへの供給も行 う。従来日産のHVやEVでは独占的にAESCが電池供給を行ってきたが、2013年以降には
日産向けで日立製作所がHV電池供給を開始する108。また日産とアライアンス関係にあるル ノーはEV開発において当初予定していたAESCからの調達をLG化学に変更している109。 ホンダは、HV においては GS ユアサとの合弁で設立したブルーエナジーからリチウムイオ ン電池を調達している。しかしEV 開発では東芝が市場展開しているチタン酸リチウムを負 極に採用した新しいタイプのリチウムイオン電池を採用した。東芝はさらに同じタイプの電 池を三菱のアイミーブの業務用モデル向けにも供給を開始している。自動車メーカーとは独 立に開発・市場展開している東芝の電池が複数の自動車メーカーで採用されている。
このようにみてみると、おもにEVにおける電池調達では、国内外の自動車メーカーで自 社の系列下にない独立電池メーカーとの取引が進んでいる。この場合、先に示したHVにお ける電池調達と対比したEV用電池の特徴は次のようになる。
1)EV用電池では自動車メーカーは独立した電池メーカーとの取引を進め、EVモデルの 開発に応じてEV電池メーカーから電池調達を行うケースが増加している。
2)このようなケースでは電池メーカーは単独で電池パック開発に必要な電池制御回路用 技術を獲得し、自動車メーカーに電池パックを提供している。
第2章で示したように、LG化学は自社単独で電池パックを開発し、GMへ供給している。
電池メーカーによって電池の開発が行われていることは、大きな意味がある。
EV 用電池の調達において、さらに特徴的な企業間関係がみられるのは、第3章で示した トヨタとテスラによる協業関係である。トヨタはテスラへの資本参加を行っており、この企 業間関係は、先に示したトヨタとPEVEやパナソニックとの関係と類似したものになってい る。しかし、トヨタとテスラの企業間関係では次に示す特徴がある。
1)トヨタはテスラの電池を承認図方式で採用する。これはテスラの技術をほぼそのまま 利用することを意味するが、トヨタとテスラの関係は長期的な取引関係に基づくもの ではないことが通常の承認図方式とは異なる。
2)トヨタは、テスラのEV開発においてトヨタの車両技術を提供することでテスラとの 協業関係を構築している。新興企業であるテスラはトヨタの車両技術により EVモデ
108 日立オートモーティブシステムズ、ニュースリリース、2013年11月13日。
109 『日本経済新聞』2010年10月1日。
ル展開で一定の成果を上げている。
第3章でみた、トヨタとテスラの企業間関係では、トヨタがHV開発においてパナソニッ クとの協業で設立した電池メーカーであるPEVEの場合と比べて、トヨタとテスラの双方が 技術開発において一定の役割を果たし、必ずしもトヨタのみが主導権をもっているわけでな いことに特徴がある。
以上3つのパターンの自動車メーカーと電池メーカーとの関係をまとめると図表 24 のよ うになる。
図表 24 HV/EVにおける自動車メーカー/電池メーカー関係の3パターン 項目 パターン1 パターン2 パターン3 具体例 トヨタとPEVE GMとLG化学 トヨタとテスラ
主導権
自動車メーカー
(トヨタ)
電池メーカー
(LG化学)
テスラ(電池調達)
トヨタ(量産技術など)
供給関係
PEVEはトヨタの子会 社としてトヨタへの供 給を優先して行ってい る。
LG化学は、GMだけで
なく、他の自動車メーカ ーへの供給を拡大してコ スト競争力を高めてい る。
テスラはトヨタだけ でなく幅広い電池供給 を行い自社でも採用す る。トヨタはテスラに量 産技術や車両技術を提 供する。
電池開発
トヨタとPEVEは共 同で電池開発を行い、長 期的取引を前提とする 承認図方式で電池を調 達する。
GMは電池パックの開 発をLG化学に委託し承 認図方式で電池を調達 し、電池パック内部はブ ラックボックスとなって いる。
トヨタは、承認図方式 で長期的取引の実績の ないテスラから電池パ ックを調達、電池パック 内部はブラックボック スとなっている。
相互関係 垂直的な支配関係
水平的でオープンな 供給関係
水平的な相互補完関係
対象 HV HVおよびEV EV
出所:筆者作成。
パターン1は、自動車メーカーが主導権をもち、従来車で構築されたサプライヤーシステ ムが拡大深化している。この場合、技術開発の中心には自動車メーカーが位置している。
パターン2は、韓国の電池メーカーに代表されるような自動車メーカーと電池メーカーと の関係である。この場合、電池メーカーは自動車メーカーとの特別な関係構築に先立って単 独で電池パックの開発を行う。この場合、電池技術開発の主導権は電池メーカーの側にある。
自動車メーカーと電池メーカーの関係は、パターン1とは逆になり、電池メーカーが相対的 に強い関係となる。このため電池メーカーは複数の自動車メーカーへの電池供給を実現する。
パターン3は、トヨタとテスラに代表される企業間関係である。この開発・生産体制では テスラは独自に開発した電池パックを提供する。電池パックではテスラはトヨタに対して主 導権をもった技術開発を行う。一方でテスラはトヨタから車両技術を導入して自社のEV 展 開を行っている。このケースでは、両者は互いの技術を相手側に提供することで双方が実績 を確保する関係になっている。
このような3つのパターンの企業間関係はとくに珍しいものではなく、様々な業界ですで に実現しているものである。しかし、従来車においては、完成車メーカーがサプライヤー・
ネットワークの中核企業として多くのサプライヤーに対して開発・生産体制を主導してきた。
HV/EVでは、いまだ市場形成が進む初期段階とはいえ、従来とは異なる開発・生産体制が観
察される。
次節では、このような3つのパターンに分類できる企業間関係について、製品アーキテク チャ論による検討を行う。その際、本稿では武石(2003)が示した「部品知識」と「統合知 識」の定義を分析枠組みとして採用する。第3節では本稿の結論を述べる。
第 2 節 HV/EVの製品アーキテクチャと企業間関係 2-1 HVの製品アーキテクチャと組織能力
本節では、HV/EVにおける自動車メーカーとサプライヤーとの企業間関係を、製品アーキ テクチャや知識ベースの企業間関係論の観点で分析する。
日本型サプライヤーシステムでは、藤本(2006)が指摘する「統合型(インテグラル型)
製品開発の組織能力」が働いて、自動車メーカーとサプライヤーとの間の濃密な情報交換に よる擦り合わせが行われる。この結果、欧米自動車メーカーのサプライヤーシステムと比べ て、高い性能・品質をもつ自動車の開発を可能にしている。擦り合わせ型の組織能力の優位 性は、インテグラル型製品においてよく発揮される。
HV は、従来車における内燃機関を駆動力とする自動車技術に、電池や電気モーターを新