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リチウムイオン電池セル

GM におけるリチウムイオン電池開発の特徴は、これら複数の電池メーカーとの関係から みると、3社を競わせ、もっとも優れたリチウムイオン電池を開発した企業1社から調達す るという姿勢にある。また、重要なことは、このリチウムイオン電池開発において、GM 自 身はほとんど関与せず、指定したスペックを満足する電池パック開発を電池メーカーに任せ ているという点である47

GMはLG化学からの電池調達によって、2012年には、初のPHVモデルとしてシボレー・

ボルトを発売する。このPHVモデルは、トヨタのHVモデルであるプリウスとは構造が大き く異なり、ほとんどの走行を電気モーターのみで行うことに大きな特徴がある。このためシ ボレー・ボルトは EVとみることも可能で、GMとLG化学との関係は、本稿第2章でさら に詳細に検討する。

第 3 節 異質な技術の統合とサプライヤーシステム

本節では、本章のまとめとして、HV 開発のおける自動車メーカーとサプライヤーとの間 の企業間関係と特徴を明らかにする。

自動車メーカーは、HV開発のプロセスにおいて、HVの基幹技術において従来保有してい ない異質な技術を外部から導入している。この異質な技術の取り込みにおいては、自動車メ ーカーと車載用電池メーカー、自動車メーカーと電気モーターメーカー、さらに自動車メー カーとエレクトロニクスメーカーといった企業間関係が構築されている。しかし、前節で示 した各メーカーのHV開発とその市場展開をみると、日本のメーカーと米国メーカーとでは、

異質な技術を取り入れるための企業間関係に大きな違いがあることがわかる。

3-1 企業間関係の日米比較

トヨタの HV 開発では、HV の基幹技術となるニッケル水素電池において外部の企業と共 同開発を行い、トヨタ自身も開発にかかわり、外部の新しい技術を自社固有のHV技術にま とめ上げている。

47 GMがそれぞれリチウムイオンバッテリー開発契約を結んでいるコバシス、A123システ ムズ及びコンパクトパワーは、同じリチウムイオンバッテリーの開発といっても電極材料、

バッテリー構造などがそれぞれ異なっている。GMは異なる技術の開発をそれぞれ別々の メーカーに委託して、どの技術が実用化に適しているかを判断し、いずれが成功してもそ れを採用することが可能となる姿勢をとっていることになる。

図表 11 トヨタ(日本)とGM(米国)のHV開発にみる企業間関係 トヨタ (日本) GM (米国)

企業数 要素技術毎に特定の 1 社を重視 同じ要素技術を複数の企業に依頼 技術情報 双方の技術情報の流通が活発。 GMからの技術情報の提示はない。

関係性

トヨタが開発に関与し、固有の技術 開発が可能

単なる開発契約でGMは開発に関 与しない

取引

開発段階から製品投入時の取引が ある程度保証されている。

開発と調達は別であり、開発契約が 必ずしも採用に繋がるわけでない。

出所:聞き取り調査などを元に筆者作成。

この外部からの異質な技術の取り込みにおいては、日本型サプライヤーシステムとして知 られるサプライヤーとの強い関係がみられる。外部からの異質な技術の吸収においても、ト ヨタは特定の外部企業との間で長期的取引を前提とする濃密な関係を築いている。

これに対して、GMのHV開発の姿勢は、外部からの異質な技術の取り込みにおいて、外 部の企業にその開発を委託し、開発がうまくいきコストの点で満足できるものが開発された 場合に採用を決めるという方式をとっている。フォードの調達においても、外部の技術をそ のまま調達する関係となっている。この関係は、米国自動車メーカーが、サプライヤーとの 関係において、短期的取引を基調とし、複数企業のコスト競争を促し、もっとも価格の低い ものを調達するという、従来から指摘されてきた米国型サプライヤーシステムに整合的とな っている。

3-2 異質な技術の内部化

HV開発における日米の自動車メーカーの企業間関係における相違は、HVの研究開発の違 いにも現れている。

欧米の自動車メーカーと比較して、日本の自動車生産システムにおいては、中核企業とサ プライヤーとの関係において特徴的な関係性が保持されている(序章第2節)。日本型サプ ライヤーシステムでは、サプライヤーの研究開発への参画が大きな特徴になっている。

西口(2000)は、サプライヤーの技術者が自動車メーカーの開発研究機関に常駐して、共

に研究開発を行うゲスト・エンジニアの制度があることを明らかにし、この制度を通じて、

常に関連企業以外のエンジニアとの開発研究現場における技術知識の共有がおこなわれ、イ ノベーションを生み出しているという。

HV開発においても、トヨタでは自社の技術者とPEVEの技術者が共同して電池管理シス テムや電池パックの開発に取り組んでいることを第2節で示した。

藤本(1998)は、日本型サプライヤーシステムでは、自動車メーカーがサプライヤーに研 究開発と量産を「まとめてまかせる」ことで、サプライヤーの能力構築が行われていること を明らかにしている。この方式は HV においても行われており、HV 開発では、サプライヤ ーに技術開発を「まとめてまかせる」とともに、トヨタ自身が異質な技術に関与している。

一方、同じHV開発において欧米メーカーの取り組みは、日本企業とは異なるアプローチ をとっている。

第2節で述べたように、韓国のリチウムイオン電池メーカーLG化学とGMとのHV用電 池開発においては、①LG化学単独でGMが指定するスペックの電池パックを開発すること、

②開発契約はあくまで一定期間に限定的であること、③LG 化学と他の電池メーカーとの共 同開発としての取り組みは想定されていないこと、などの特徴があった。

このことからいえることは、GMは、HVで使用する電池パックの開発には直接に介入する ことはなく、専門業者の開発に任せていることである。さらに、GM は、同じリチウムイオ ン電池の開発を複数のメーカーに依頼し、もっとも優れたもののみを採用するという方針で あることが窺える。

このようにみると日本の自動車メーカーと米国とくにGMとのHV開発における違いは明 らかである。HV 開発において、自動車メーカーが異質な技術を吸収し、新しい技術を自ら 蓄積してさらなる技術開発を進める方式は、国内自動車メーカーに特有な方式である。この ような方式にはどのような意味があるのか。

自動車メーカー自身が異質な技術に関与し、それを吸収することにより、単一の主体のも とで双方の技術を統合すること、およびが蓄積した技術を新しいコア技術として育成するこ とが可能になる。これが、HV のような統合技術を必要とする技術開発にとっては重要なプ ロセスになる。

この日本の方式を「技術の蓄積」、単に外部の技術を使用する米国型の方式を「技術の利 用」と呼ぶことにする。

トヨタは、HV 開発の段階で吸収して蓄積した車載用電池技術を自ら磨き上げ、その後、

リチウムイオン電池を自社開発し、限定的な生産を行っている。日産、ホンダにおいてもHV 用電池の開発では、電池メーカーに対する主導的な役割を果たし、電池技術の蓄積を行って いる。この例から、自動車メーカーがサプライヤーとの間で構築した企業間関係をもとに技 術を蓄積する方式が、自動車イノベーションにおける競争優位をもたらしていることがわか る。

図表 12 技術の「蓄積」と「利用」

項目 技術の蓄積(トヨタ) 技術の利用(GM)

開発参加 開発への参画 開発に関与しない

技術者の交流 交流有り 交流なし

技術情報 開発情報の共有 要求スペック提示のみ

開発品 詳細設計の共有 ブラックボックス化

技術的ノウハウ 蓄積が可能 蓄積されない

出所:筆者作成。

日本の自動車メーカーは、構築した企業間関係をもとに技術を吸収しそれを蓄積すること でさらなる技術開発を進めている。これに対して欧米の自動車メーカーでは、異質な技術の 外部からの利用にとどまり、それを進化発展させるプロセスが存在していない。

3-3 サプライヤーシステムの拡大深化

異質な技術を取り込み、その技術を自社に蓄積する国内の自動車メーカーの取り組みを詳 しくみると、そこには2つのプロセスが存在する。それは、自動車メーカーが外部から取り 込んで内部蓄積した技術を既存のサプライヤーに配分するプロセス、および新たにネットワ ークに参画した企業を組織化するプロセスである。

「技術の配分プロセス」とは、自動車メーカーが外部から取り込んで蓄積した技術を既存 サプライヤーに対して横展開し、新しい製品を開発・生産させることを指す。具体的には、

トヨタとPEVEが共同で開発した電池管理システムの生産を、デンソーが新たにバッテリー ECUのような半導体チップに集積化し生産することなどの例がある。

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