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3 各場面における曝露対策

CQ 7 … HDの投与管理の際は個人防護具(PPE)の着用が 推奨されるか

推 奨

強い推奨

要 約

がん薬物療法において HDの投与管理の際には,HDを取り扱う前から廃 棄まで PPEの装着を強く推奨する。

解説

HDの投与管理において調製および投与管理における PPEの有用性に関する報告はあ るが,投与管理のみの PPEの有用性の報告はない。

HD 投与管理における曝露の機会について,照井ら1)は,調製・投与管理の一連のプロ セスにおける薬液の漏れについて調査した。その結果,調製時の周囲への飛散や調製に 使用した針の汚染,HDでプライミングすることによる周囲への汚染,HD 投与終了後の 輸液バッグ交換時,輸液チューブ抜去時に生理食塩水で管内洗浄(フラッシュ)しなかっ た場合に漏出反応があったことを報告している。

Villariniら2)は,52 名の抗がん薬曝露群(フルオロウラシルおよびシタラビンの調製,

運搬,投与,廃棄に関わる就労者)と52 名の対照群(抗がん薬曝露のない就労者)を対象 に,調製および投与管理における環境汚染や PPE 着用(手袋/マスク)の有無による遺伝 子変異について調査を実施した。その結果,曝露群が有意に遺伝子損傷が高かった(p<

0.0001)ことを示した。しかし,曝露群の中でも PPEの着用群は primary‌DNA 損傷が有 意に低下していた(p=0.045)ことから PPEの有用性を報告した。

また,Undegerら3)は,30 名の抗がん薬曝露群の看護師(シクロホスファミド水和物,

メトトレキサート,フルオロウラシル,ドキソルビシン塩酸塩,ブレオマイシン塩酸塩,

シスプラチン,ビンブラスチン硫酸塩,ビンクリスチン硫酸塩,イホスファミド,エト ポシドの調製と投与)と30 名の対照群の看護師等(抗がん薬に曝露したことのない)とを 比較し,曝露群の方が有意に遺伝子損傷が高かった(p<0.001)ことを報告している。ま た,PPEを着用していない看護師に遺伝子損傷が有意に高かった(p<0.001)ことを示し,

PPEの有用性を報告した。

このように,静脈内投与により HDを投与する場合に,汚染しやすい業務,場面があ ることが確認され,投与管理する医療従事者は適切な手技の実施とともに,PPEにより 曝露予防を行う重要性が示された。

文献

‌ 1)‌照井健太郎,岡嶋弘子,中島保明.抗がん剤投与管理システムの安全性の評価 蛍光眼底 造影剤による可視化を利用して.癌と化療.2011;38(9):1483─7.(エビデンスレベル C)

‌ 2)‌Villarini‌M,‌Dominici‌L,‌Piccinini‌R,‌et‌al.‌Assessment‌of‌primary,‌oxidative‌and‌excision‌

repaired‌DNA‌damage‌in‌hospital‌personnel‌handling‌antineoplastic‌drugs.‌Mutagenesis.‌

2011;26(3):359─69.(エビデンスレベル C)

‌ 3)‌Undeger‌U,‌Basaran‌N,‌Kars‌A,‌et‌al.‌Assessment‌of‌DNA‌damage‌in‌nurses‌handling‌anti-neoplastic‌drugs‌by‌the‌alkaline‌COMET‌assay.‌Mutat‌Res.‌1999;439(2):277─85.(エビ デンスレベル C)

1)‌ NIOSH,‌p18.

2)‌ ASHP,‌p63,‌80.

3)‌ ISOPP,‌p53─4.

4)‌ ONS,‌p53─7.

5)‌ OSHA,‌p1197─200.

4)廃棄時の曝露対策

現在,我が国では HDの調製・投与過程で発生する廃棄物(以下,HD 廃棄物)の保管 や運搬・廃棄処理に関する特別な法規制は存在しない。環境省大臣官房,廃棄物・リサ イクル対策部による『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』1)に従えば,

HDの調製・投与過程で発生するアンプルやバイアル,注射器や注射針,点滴ルートな どの HD 廃棄物は他の薬剤の投与に使用したものと分別されることはなく,感染性廃棄 物と同等の取り扱いをすることになっている。このため,多量の HDを含む未使用バイ アルなどが,感染性廃棄物として医療施設内などで高圧蒸気滅菌やマイクロ波滅菌によ り処理される可能性もあり,周辺環境への HD 成分の大量放出や作業員への大量曝露も 危惧される状況である。

一方,米国では環境汚染の防止や廃棄物処理に関わる人たちの曝露防止を確実にする ため,HD 廃棄物と感染性廃棄物などの他の医療廃棄物は明確に分別され,耐貫通性と 密閉性を有する HD 廃棄物のラベルが表示されている専用の容器を使用するよう法令に より定められている‌2〜6)。また,HD 廃棄物の取り扱いは,訓練を受けて防護策を身に つけた作業員が手順通りに実施することとされている‌2〜6)。HD 汚染された物品は感染 性廃棄物などとは明確に区別し,黄色の化学療法用廃棄容器に入れて焼却処分するよう 定められている‌1)。一方,危険性が高いことを示す Pコード(急性有害性),Uコード(毒 性)が付与されたシクロホスファミド水和物,ダウノルビシン塩酸塩,メルファラン,

マイトマイシン Cなどの薬品は量にかかわらず,また他の HDでは大量廃棄となる未使 用アンプル,注射器や輸液バッグの中の溶液などについては,黄色の HD 専用容器では なく危険性廃棄物として特別の容器に入れて廃棄することが定められている‌2)

HD 廃棄物の取り扱いに対して厳格な法規制を行っている米国と比較すると,我が国 の現状では偶発的な大量曝露や,日常的な微量曝露の危険性が高いことが否めない。こ

表14 推奨される HD 廃棄物の取り扱い方法

1)‌‌現在日本では HD 専用の廃棄容器が整備されていないため,現行の法令に基づく処理マニュア 1)に従い,感染性廃棄物容器を HD 専用として使用する。

2)‌‌HDの調製・投与過程で発生するアンプルやバイアル,注射器や注射針,点滴チューブなどの廃 棄物,患者の身の回りのごみを含む HD 汚染されたすべての HD 廃棄物の取り扱いや廃棄方法,

掃除や汚染除去方法の手順を明記した文書を各施設で作成する‌4)

3)‌‌HD 汚染された物品や使用済み物品の廃棄作業をするときは,個人防護具(PPE)としてマスク と手袋を着用する。

4)‌‌HDの封じ込めのため,HD 専用の廃棄容器(日本では感染性廃棄物容器)は投入時以外蓋をして おく‌3)

5)‌‌HDの調製・投与過程で発生したアンプルやバイアル,注射器や注射針,使用済みの輸液バッグ や点滴チューブ,安全キャビネット内で使用した手袋など,高濃度の HDを含む可能性のある 廃棄物は,封じ込めのためにジッパー付きプラスチックバッグに入れてから,HD 専用の廃棄容 器に廃棄する‌3)

6)‌‌HD 残薬の廃棄については,バイアルの場合はバイアルに戻して廃棄し,アンプルの場合はディ スポーザブルシリンジに入れルアーロックチップキャップを装着して廃棄する‌7)

7)‌‌周辺環境への大量放出や作業員への大量曝露を防止するため,HD 廃棄物は高圧蒸気滅菌やマイ クロ波滅菌による中間処理は行わず,焼却または溶融処理を行う‌2)4)

8)HD 廃棄物の取り扱いに使用した手袋は慎重に脱ぎ,しっかり手洗いを行う‌2)

策を採用することにより,曝露機会の低減に取り組む必要がある。

文献

‌ 1)‌廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル,環境省大臣官房廃棄物・リサイクル 対策部,2012,p5.https://www.env.go.jp/recycle/misc/kansen─manual.pdf(2015.1.5 アクセス)

‌ 2)‌NIOSH,‌p17─8.

‌ 3)‌ASHP,‌P43─4,‌50.

‌ 4)‌ONS,‌p26,‌51─3.

‌ 5)‌ISOPP,‌p66─9.

‌ 6)‌OSHA,‌p5.

‌ 7)‌日本病院薬剤師会監修.抗がん薬調製マニュアル 第3 版,じほう,2014,p8.

5)投与中・投与後の患者の排泄物・体液/リネン類の取り扱い時の曝露対策 1.前提

HD 投与後の患者の排泄物・体液には,投与後一定期間,HDの残留物と,薬剤の活 性代謝物が含まれる‌1)2)。便・尿中への HD 排泄率1)を表15に示す。ただし,HD 排泄 率は,投与量・投与経路,患者の肝・腎機能等の影響を受けるため,個人差を考慮する 必要がある。一般に,薬剤の大半は投与後48 時間以内に排泄されるため,HD 投与後最 低限48 時間は患者の便・尿・吐物,胸水や腹水,血液,乳汁,大量の発汗等およびそ れらにより汚染したリネン類への接触は曝露の危険性があるものとし,取り扱いの際 は,一重手袋,ガウン,保護メガネ(フェイスシールド,ゴーグル),サージカルマス クを装着する。ガウンは液体物質の浸透を防げる素材のものであればよい。特に飛散の 可能性がある場合,保護メガネはフェイスシールドを選択する‌1)〜3)

なお,経口 HDの排泄率については,巻末の資料3(p94 参照)に示す。

2.HD 投与後最低限48 時間の患者の排泄物・体液の取り扱い

1)‌‌排泄時の周囲への飛散を最小限にするように注意を促す。例えば,可能なら男女 とも洋式便器を使い,排尿時は男性も座位で行う‌1)2)。水洗便器の蓋を閉めてから フラッシュする。可能なら HD 投与患者専用のトイレを区別する‌1)

2)‌‌蓄尿や尿量測定は可能な限り避け,体液モニタリングは体重測定など他の方法で 行う‌2)

3)‌‌体液ドレナージの際は,閉鎖式の製品を使用し,使用後はそのまま廃棄する‌1)2)。 4)‌‌ストマパウチは再利用しない2)

5)‌‌失禁がある場合,排泄物との接触から皮膚を保護するため,石鹸を用いて洗浄し,

会陰部や肛門部に保護クリームを塗布する‌1)‌2)3.HD 投与後最低限48 時間の患者のリネン類の取り扱い

HD 投与後48 時間以内であっても,排泄物等による明らかな汚染のないリネン類は,

施設における通常の方法(手袋・マスクなど)で取り扱い,洗濯の際も区別する必要は ない。

HD 投与を受けた患者の便・尿・吐物,胸水や腹水,血液,乳汁,大量の発汗等で汚 染した衣服,リネンは他の洗濯物と区別してビニール袋に入れ‌2)‌3),HD 汚染物であるこ とがわかるようにラベルをつけて保管する‌1)‌3)‌4)。洗濯は2 度洗いし‌1)‌3)‌4),1 回目は患者 のリネン類だけ分けて予洗い,2 回目に通常の洗浄を行う‌4)‌5)。可能なら使い捨てのリネ ン‌1)‌2),非浸透性の寝具‌2)を使用する。

文献

‌ 1)‌ISOPP,‌p67─70.

‌ 2)‌ONS,‌p47─50.

‌ 3)‌OSHA,‌p1200.

‌ 4)‌OSHA:Technical‌Manual(OTM)─Section‌ Ⅵ:Chaptar2─Controlling‌Occupational‌Ex-posure‌To‌Hazardous‌Drugs.‌January‌20,‌1999.(Ⅶ.Hazard‌Communication‌C.‌Work‌

Equipment‌3.‌Caring‌for‌Patients‌Receiving‌HDs‌b.‌Linen)

‌ 5)‌NIOSH,‌p17.