Ⅳ 曝露予防対策
の特徴がある。
日本では現在,危険物質の封じ込めに必要な機械・器具が必ずしも使用できない状 況,すなわちエンジニアリングコントロール(engineeringcontrols)が十分に行えてい ない場合が多く,その次に優先度の高い,作業実践を含む組織管理的コントロール(ad-ministrativecontrolsincludingworkpractice)を徹底することは極めて重要になる。そ れは,仮に必要な機械・器具を使用できる場合であっても同様である。ONSは,OSHA の作業実践を含む組織管理的コントロールを,組織管理的コントロール(administrative
controls)および作業実践のコントロール(workpracticecontrols)の2つの階層に分け て具体的に説明している。そのため,本ガイドラインではその点が強調された ONSの ヒエラルキーコントロールに準じ,説明する。なお,ONSに示された各階層の英語表 記は,本委員会で検討し意訳した。
1)危険物質の除去(elimination of the hazard)
最も効果が高い方法であり,毒性のない,あるいは少ない薬剤に変更すること2)3)を 意味するが,がん薬物療法においては,危険物質の除去や置換は現実的な選択肢ではな い2)3)。
2)機械・器具によるコントロール(engineering controls)
発生源で有害性を消失させるか,職員を有害物から隔離することで曝露を減らす方法 である。具体的には,有害物質を封じ込める,または適切な換気を行うよう設計されて いる機械・器具,すなわち安全キャビネット,アイソレーター,閉鎖式薬物移送システ ム(closedsystemdrugtransferdevices:CSTD)を使用することを指す2)。ただし,安 全キャビネットはキャビネット内での汚染発生を防止するものではなく,その有効性は 使用する調製者の適切な技術に委ねられること4),CSTDは安全キャビネットの代用に はできないこと4)5),安全キャビネットも CSTDの代用にはならないことに留意する必 要がある。
3)組織管理的コントロール(administrative controls)
HDの曝露予防のための安全プログラムの根幹をなすものであり,指針2),手順2)3), スケジューリング業務2)3),職員の教育および訓練2)3),能力の評価2)3)を含む。各組織は,
HDの調製,運搬・保管,投与,廃棄,投与中・投与後の患者の排泄物・体液/排泄物 の取り扱い,HDがこぼれた(スピル)時の安全な取り扱いに関する指針2)および手順2)3)
を設定する必要がある2)3)。また,HDを取り扱う職員は,取り扱う程度にかかわらず,
上記の指針・手順について教育・訓練を受ける必要がある。
4)作業実践のコントロール(work practice controls)
前述の各コントロールに従い,適切に業務を実施することである。HDの調製,運搬・
保管,投与,廃棄,投与中・投与後の患者の排泄物・体液/リネン類の取り扱いに関わ るあらゆる日常業務の際,HD 汚染の発生を最小限にするだけでなく,これらの日常業 務や HD 容器の破損,こぼれ(スピル)が起きた際に発生する不注意な汚染を可能な限 り封じ込めることを含む2)。各組織においては,調製や投与など前述の職員の HD 取り
2)
5)個人防護具(PPE)
個々の医療従事者を職業性曝露から保護するものであり,抗がん薬耐性試験済の手 袋・ガウン,マスク,保護メガネ(フェイスシールド,ゴーグル)2)3),その他の防護 具2)を指す。HDが,安全キャビネットや CSTDを使用して調製・投与準備された場合 でも,その取り扱いの際に PPEを省略することはできない。取り扱いの各場面に適切 な PPEを選択し,適切な方法で装着・除去することが必要である(Ⅳ─2─3)PPE:p43 参照)。
文献
1)CentersforDiseaseControlandPrevention:HierarchyofControls.
http://www.cdc.gov/niosh/topics/hierarchy/(2015.3.19アクセス)
2)ONS,p18─27.
3)ISOPP,p15─6.
4)ASHP,p74─5.
5)NIOSH,p44.