• 検索結果がありません。

米国の各種ガイドラインでは,表7のように HDの調製作業や運搬,投与,HDを投 与された患者のケアや廃棄物の運搬などさまざまな場面での曝露機会が指摘され,医療 従事者だけではなく,清掃業者や廃棄物処理業者,洗濯業者などにも職業性曝露の危険  が及んでいると考えられている。

特に HD 注射薬の調製時や HD 錠剤・カプセルの分割・破砕時など,高濃度の HDを 取り扱う作業では,曝露量も曝露機会も多いと考えられる。このため,HD 注射薬の調 製作業は必ず安全キャビネット内で行い,HD 錠剤・カプセルの破砕は原則行わずに密 封容器を用いた簡易懸濁法を採用するなど,曝露機会の低減に向けた対策が重要である。

HDへの曝露は,目で見たり臭いを感じたりすることが困難な場合が多いため,本人 が気づかないうちに起こることが多く,この点は放射性物質による被曝とよく似た特徴 を持っている。一方,放射性物質による被曝は,フィルムバッジや線量計などによるモ ニタリングが可能で,安全性を加味した被曝許容線量も定められているのに対し,HD については曝露量をモニタリングするための有効な手段は開発されておらず3),安全の 目安となる被曝許容量も存在しない‌3)4)という点で大きく異なっている。遺伝毒性を有 する HDに関しては,安全な曝露限度は存在するものではなく,汚染をゼロにすること を目標にしなければならない‌4),と指摘されている。このため,HDの取り扱いに関わ

表7 HD 曝露の機会1)3)4)11)

1.HDバイアルの粉末や溶解液,HDアンプル液,経口 HDなどへの接触や吸入時

・製造の過程でバイアルの外側やパッケージに付着した HDへの接触

・HDアンプルのカットや HDバイアルの開封操作時

・経口 HDをパッケージから取り出す時

・‌‌HD 錠剤を破砕,粉砕,または溶解する時,HDカプセル薬の中身をカプセルから取り出す時

(本来,破砕や粉砕および脱カプセルは行ってはならず,密閉容器を用いた簡易懸濁法を採用 する)

2.調製や投与の際に生じるエアロゾルやこぼれて気化した HDの吸入時

・HDを充填した注射器から排出された空気の吸入

・HD入りの輸液バッグに輸液チューブのビン針を刺入する時(図2),および輸液チューブ内を薬液 で満たすプライミング作業時(本来,HD入りの輸液によるプライミングは行ってはならない)

・HD入りの輸液ボトルへのエア針の刺入(HD入りの輸液投与の際はエア針を用いてはならない)

3.HD 汚染された環境表面との接触時

・HDを置くテーブルやワゴン,輸液スタンド,治療室のカウンターや椅子,治療室や調製室 の床,電話台や電話機

・輸液バッグやシリンジの表面に付着した薬剤との接触

4.HDを充填した輸液バッグやシリンジ,輸液チューブから薬液がこぼれた時

・輸液チューブの接続や取り外し時にこぼれた薬液との接触

・輸液チューブ接続部のゆるみやスパイクした部位からの薬液のこぼれ

・こぼれて気化した HDの吸入

・汚染エリアが乾燥した後に空中を浮遊している HDの吸入

5.HDを投与された患者の排泄物や体液,使用後のリネン類の取り扱い時

・HDを投与された患者の尿や便,唾液,汗,血液,乳汁など,すべての排泄物や体液の取り 扱い時

・排泄物や体液によって汚染された衣類やリネンの取り扱い時

6.調製や投与の過程で生じる HD 汚染された廃棄物の取り扱いや運搬廃棄作業時 7.腔内投与や局所注入投与など,手術室や造影室内での専門的な手技の実施時

8.HDの取り扱いや HD 汚染された廃棄物などを処理したあとに個人防護具(PPE)を取り外す時 9.HD 取り扱いエリア内での飲食

・HDの調製や投与作業を行うエリア内での飲食物の準備や保管および摂取時

・同エリア内でのガムの摂取や化粧,喫煙など HD 汚染食品

吸入

粘膜吸収

針刺しによる注入 皮膚接触

経口摂取

皮膚吸収

ビン針

図1 HD 曝露の経路 図2 ビン針の刺入

切な PPEの使用(Ⅳ─2─3)PPE:p43 参照)などにより,HD 曝露を限りなくゼロに近 づけるよう取り組む必要がある。

文献

‌ 1)‌NIOSH,‌p3─4.

‌ 2)‌ASHP,‌p34.

‌ 3)‌ONS,‌p11,‌p26─7,‌p33─4.

‌ 4)‌ISOPP,‌p3─4.

‌ 5)‌OSHA,‌p1196.

‌ 6)‌Connor‌TH,‌Anderson‌RW,‌Sessink‌PJ,‌et‌al.‌Surface‌contamination‌with‌antineoplastic‌

agents‌in‌six‌cancer‌treatment‌centers‌in‌Canada‌and‌the‌United‌States.‌Am‌J‌Health‌

Syst‌Pharm.‌1999;56(14):1427─32.

‌ 7)‌Bussières‌JF,‌Tanguay‌C,‌Touzin‌K,‌et‌al.‌Environmental‌contamination‌with‌hazardous‌

drugs‌in‌quebec‌hospitals.‌Can‌J‌Hosp‌Pharm.‌2012;65(6):428─35.

‌ 8)‌Odraska‌P,‌Dolezalova‌L,‌Kuta‌J,‌et‌al.‌Evaluation‌of‌the‌efficacy‌of‌additional‌measures‌

introduced‌for‌the‌protection‌of‌healthcare‌personnel‌handling‌antineoplastic‌drugs.‌Ann‌

Occup‌Hyg.‌2013;57(2):240─50.

‌ 9)‌Sugiura‌S,‌Asano‌M,‌Kinoshita‌K,‌et‌al.‌Risks‌to‌health‌professionals‌from‌hazardous‌

drugs‌in‌Japan:a‌pilot‌study‌of‌environmental‌and‌biological‌monitoring‌of‌occupational‌

exposure‌to‌cyclophosphamide.‌J‌Oncol‌Pharm‌Pract.‌2011;17(1):14─9.

10)‌Yoshida‌J,‌Koda‌S,‌Nishida‌S,‌et‌al.‌Association‌between‌occupational‌exposure‌levels‌of‌

antineoplastic‌drugs‌and‌work‌environment‌in‌five‌hospitals‌in‌Japan.‌J‌Oncol‌Pharm‌

Pract,‌2011;17(1):29─38.

11)‌濱 宏仁,平畠正樹,中西真也,他.調製から投与までの総合的な抗がん薬曝露対策の導 入とその評価.医療薬.2013;39(12):700─10.

曝露予防対策